103.え…来てくれませんの?
サリン一行はスタンが予約したという温泉旅館に到着していた。
「おお…これは…また立派な旅館ですね」
木材を中心的に使用して建てられたであろう旅館はロビーから既に高級旅館らしい内装になっており、凝った装飾が主張しすぎず落ち着きのある素晴らしい旅館だ。
おそらく合成石材や支柱が見えないように十分注意した作りになっているのか、視覚的に木材の温かみを感じられる上等な旅館だ。
「ふふふ…ラマルラで一番上等な旅館だからねぇ!サリン様にはやはり一番良いところに泊まっていただかないとねえ!!」
「それは同意ですが…(宿泊代は…?」
カロンはこれだけ上等な旅館なのだから相当値が張るだろうと思い、小声でスタンに尋ねる。
こそこそとスタンだけに聞こえるように話したのはサリンにいらぬ心配をさせない為である。
「(1部屋1泊10万リンで姫様とワタシ達で2部屋だから20万リンだねぇ」
「(に…にじゅうまんですか…」
20万リン…それは一般男性が1ヶ月働いて、貰える収入の平均値に近い。
…高い、高すぎるのである。
「(だが姫様にひもじい思いをさせたくはない…な)」
カロンは考える。
そろそろ一度資金の調達をしようとは思っていたが、まさかこんな急に必要になるとは。
「…どうかいたしましたの?」
「…いいえなんでもありません、チェックインしましょう」
サリン一行は受付でチェックインを済ませてスタッフに案内され部屋へ向かう。
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「ごゆっくりどうぞ」
女性スタッフが部屋から退出する。
部屋はとても広く落ち着きのある内装で窓からは夜の帳がおりつつあるラマルラを一望できる。
「…少々早いですが、今後の事を相談しましょう」
「ええ、良くってよ」
「えぇ?お風呂行かないのぉ…」
スタンはもう楽な格好に着替えようとしていたがその手を止めて集合する。
「まず滞在期間ですが、姫様もお疲れだと思いますので2日ほど滞在しようと思いますがよろしいでしょうか?」
「ええ。カロンにもゆっくりと休んで欲しいもの、自由行動で良くってよ」
「わぁ~い」
スタンは自由行動と聞いて万歳する。
「お気使いに感謝いたします。では次ですが、ラマルラを出る際に馬車か魔動車を調達しようと思います
がよろしいでしょうか」
魔動車…魔力を燃料として走行する車両だ。
馬車より早く、積載量が多い為王国では人気があるが定期的なメンテナンスが必要となる。
この旅の場合、メンテナンスできる場所は限られているので馬車の方が現実的だろう。
「良くってよ。そろそろ入手しておかないと王国にたどり着くのがいつになるかわかりませんもの」
「わぁ~い。楽になるぅ」
スタンは歩かなくて良いと思いまたもや万歳して喜ぶ。
「御許可いただきありがとうございます。私からの相談は以上になります、他になにかありますか?」
「いいえ」
「なぁい」
サリンもスタンも特にないようでとりあえず相談タイムは終わった。
「…では、20時に部屋に3人分の夕食が運ばれてくるはずなので、また集まって3人で夕食にしましょう」
「まずは大浴場だぁ!」
スタンが着替えを手にもって洗面所へと行くとすぐにガサガサと着替える音が聞こえてくる。
「…姫様、先程チェックインした時に貸し切り風呂を予約致しましたのでそちらへ向かいましょう」
カロンは忘れずに貸し切り風呂を予約していた。
話によると屋上にある貸し切り露天風呂らしい。
「ありがとうカロン。貴方は?」
「私も姫様を送り届けた後、大浴場へいこうと思っております」
サリンが少し不安げにしているのにカロンは気がついた。
ちなみに表情はいつも通りの微笑んだ表情であり、全く不安そうな表情はしていないのに気がついたのはカロンならではだろう。
「…姫様が入浴している間は外に待機しておりますのでご安心下さい」
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その後二人はスタンと別れて屋上貸し切り露天風呂に来ていた。
先程大浴場を通り過ぎたときはそれなりに人が居たが、この貸し切り風呂があるエリアには人が誰もいなかった。
「では、待機しておりますので何かあればお知らせ下さい」
「え、ええ。その…呼んだら本当にすぐ来てくださいましね…」
…サリンは不安だった。
ただ入浴するだけ。
本当にそれだけなのに"もしもの事"を考えてしまう。
「(なぜ貸し切り風呂は全て露天しかないんですの……)」
だって…外から丸見えだなんて…
「(遠距離狙撃魔術で即死ですわっ…!)」
不安。
非常に不安だ。
…そうだ、カロンも中に入ってもらえばいいではないか。
カロンならば狙撃魔術だろうが旅館ごと吹き飛ばされようが守ってくれるだろう。
「…カロン、一緒に入って頂けないかしら…?」
「え。いや…それは流石に不味いのでは」
カロンは心臓を落っことしそうになる。
勿論比喩表現だが、それほどまでに驚いたのだ。
だってそれは流石に不味いだろう。
「カロン……」
「………………わかりました」
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なぜこうなった。
「…」
カギを閉めた脱衣所で姫様が服を脱ぎ始める。
…なぜ背を向けないのか?
それは勿論…姫様にそうするように言われたからだ。
緊急時に背を向けていてはとっさに対応出来ないと論破された。
「お、思っていたより恥ずかしいですわ…」
「も…申し訳ございません」
なにも悪い事はしていないが謝ってしまう。
「謝らないでくださいまし…寧ろ、わたくしのわがままに付き合わせてしまってごめんなさいね…」
「いえ…そんな事は…」
そうこうしている内に姫様はシミひとつ無い真っ白な下着だけのお姿になってしまわれた。
下着に小さなリボンが付いているところがなんとも可愛らしい。
…胸が非常に慎ましいのを除けば頭のてっぺんからつま先までやせ過ぎず、太り過ぎずの理想的な身体をしていらっしゃ…いや!こんなことを考えるのは不敬なのでこれ以上は止めておこう。
「それが噂の魔術装備ですか…?」
下着の下から黒い包帯のようにも見えるスパッツのような物が見える。
これが噂に聞いたことのある不貞を決して許さぬ貞操帯…なんだろうか?
「…ええ。そうですわ」
姫様はそう答えると恥ずかしそうにきゅっと内股になられる。
両手でドレスをたたんでいる為股を隠せないのがなんとも可愛らしい。
…いや…落ち着け…俺は騎士だ…俺は騎士…騎士…
「…確か、生涯を誓った者の前でのみ拘束が解かれる…でしたか」
姫様は丁寧にドレスをたたみ終わり、下着を脱がれ始める。
…先にパンツから脱がれるのか……いやダメだ、不敬が過ぎるぞ…俺は騎士だ…騎士…
勿論、貞操帯があるので丸見えにはならない。
一安心だ……それにしてもだいぶ身体にピッタリ張り付いているのだな…
「ええ。でも…わたくしが愛した所で相手も私を愛してくれるとは限りませんわ」
姫様はブラのホックを外しながら話を続けられる。
「コレが拘束を解くのは誓った相手だけ…2人目、3人目なんて事は許してくれませんの」
姫様はブラを外して畳んだドレスの上に重ねられる。
右手で胸を隠して左手で股を隠すようにしている仕草が何とも可愛らしい。
「…流石に恥ずかしいですわ」
「それでは…此処でお待ちしていますのでごゆっくりどうぞ…」
姫様は若干驚いたような表情をなさっている…気がする。
「え…来てくれませんの?」