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騎士と狂姫は歩く  作者: 御味 九図男
第4章:金級冒険者
102/226

102.不思議な食感


 カロンはサリンを抱えたまま長い時間歩いていた。


 だが金級冒険者のおかげか道中は全くモンスターに襲われなかった、流石である。



「…姫様、街が見えてきました」



「アレがラマルラ…ですのね、なんだか煙が凄いことになっていますけれど」



 サリンが言っている通り、ラマルラの街は所々白い煙のようなものが上がっている。



「あれは湯気ですね。ラマルラには多数温泉旅館がありますのでそこから上がっているのでしょう」



「それは凄いですわね。そういえば…わたくしは大きなお風呂に入った事がありませんの」



 サリンは実際、自室のバスルームでしか入浴をしていなかった。


 それには様々な理由がある。


 もし大浴場で電撃魔術でも使われたら? 回避が難しい、死ぬだろう。


 もし道具が無い状態で襲われたら? 抵抗が難しい、死ぬだろう。


 もし湯自体が遅効性の猛毒だったら? 気がついたときにはもう遅い、死ぬだろう。


 そう…サリンにとって入浴とは非常に危険な行為であるのだ。


 もっとも王国内で王族が嫌いな人間は一人もいない、それこそ完全に全くいない。


 つまり本当は一切の危険はないといえる、権力争いですら王族には無関係に等しいのだ。


 …だがサリンは他人を一切信用していなかったので一人でしか湯に浸かる事はなかった。


 しかも服をきたまま湯に入るのだ。


 本当ならサリンだって普通に入浴したいのだが、性格上渋々着衣入浴をしていた。


 そもそも服を脱いだ所で特殊な貞操帯により全裸にはなれない。


 身体に絡みついて離れない貞操帯は代々続く王族の不貞を許さないという強い信念を感じさせる魔術道具だ。


 この貞操帯は装着している者が生涯をささげると誓った者にしか解除する事は出来なくなっている、ちなみに対象の人物と一定距離離れるとまた閉じられるようになっている。


 不便だと思われるが、実際装着している者は必ず装着前に全身を洗浄する魔術をマスターし、さらに一生排泄が一切不要になるという強力な魔術をかけられるので意外と問題は少ないのだ。


 それこそ装着して初めのころは違和感を感じたりだとか、大浴場で恥ずかしい(個人差あり)だけである。


 ………とにかくその他にも色々な理由があり、今までは大浴場には自ら行かなかったのである。


 決して胸が無いからでは……無い。



「…貸し切り風呂を予約しておきます」


「…助かりますわ」



 カロンは9割サリンの事情を察していた。


 察したカロンは余計な事は言わずにサリンの為に到着後の予定を組んでいた。


 

 …ちなみにカロンが察していない1割は…胸の事である。


--------------------------------



「あれは…」



 その後しばらく歩いて無事サリンとカロンはラマルラに到着した。



「スタンですわね」



 温泉街ラマルラの正門から街の中心までつながる広い1本道は様々な出店が多数出ておりとてもにぎわっている。


 そんな道の真ん中で両手に綿のような物が棒に刺さったものを装備したスタンが仁王立ちしている。



「お待ちしてましたぁよぉ!姫様ぁ!とカロンくぅん!!ハイコレッ!」



 スタンが両手に持った何かを突き出してくる。


 …がしかし現在カロンはサリンをお姫様だっこしており手が離せない。


 …仕方ないのでサリンが二つ受け取った。



「これは…?」



「飴ですぅ」



「あめ…?」



 どうもカロンの記憶にある飴と形状が違う。



「これ本当に飴なんですよぉ。飴をぉ…回転する魔術道具にいれて熱して溶かしながらぁ、回転する遠心力で少しずつ溶けた飴が糸状になって出てぇ来るんですよぉ。それを集めたのがぁ…これですぅ」



「はぁ…?なるほど…面白いですね」



 カロンは馬鹿ではなくむしろ賢い方なのでなんとなくだが現物を見なくても原理を理解していた。



「少しずつ溶かして…遠心力で…糸状…なるほど…点で攻撃するより線で攻撃したほうが…より多数を同時に…」



 サリンは早速新しい攻撃魔術を発想していた。

 


 …メチル・サリン・アトロの三姉妹はそれぞれ違う分野で活躍している。


 メチルは参謀・開拓・改善・外交等を得意としている。

 まぁそれ以外もやれば確実に"出来る"だろう。


 アトロは国民への対応の全般だ、そのため人望が厚く国民からの信頼が強かった。

 アトロが設立した国民相談所は沢山の国民を救った。


 サリンは戦争・兵器開発だ。

 サリンの開発した兵器や戦争はより多く殺す事・戦争に勝つことだけを考えられたような物ばかりで非人道的であったため国民からはあまり評判が良くなかった。


 そう、仕事が仕事だから仕方ないのだ。


 わたあめから大量殺戮魔術を生み出してしまうのは…仕方ない。



「あのぉ…食べてみないんですかぁ?」



 カロンは自分の両手に抱かれながら両手に綿あめを持っている姫様を一目見る。



「折角ですが、またの機会に頂きます。とりあえず姫様を宿屋へご案内しましょう」



「…そおぉですね、お二人共お疲れでしょうしぃ!驚きますよぉ結局ぅ温泉旅館の予約取ったんでぇぇぇ!」



 スタンはずかずかと先導する、その後ろをカロンはついていく。



「カロン」



 スタンを追いかけ道を歩いているとサリンがカロンに声を掛ける。



「…一人で食べるのは寂しいですわ」



 サリンは片方の綿あめをカロンの口元に差し出す。



「そこまで気が回らず申し訳ございません。ありがたく頂戴します」



 カロンのゴツいフルフェイスの兜は口元だけ開いた。


 そして一口。



「…これは不思議な食感ですね」



 サリンも自分の方を一口食べてみる。



「…ふふっ…たしかに不思議ですわね」



 正直ドキドキしてあまり味がわかっていないカロンとサリンであった。


////////////////////////////



 スタンは後ろからついてくる二人をチラリとみる。



「……いつも一人だったサリン様が他人と笑ってるぅ…良かったぁ…いつもどこか寂しそうだったしなぁ…」



 騎士と楽しそうにしているサリンを見てスタンは素直に喜んでいた。



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