100.相当頼りになるネイラちゃん
ついに100話に突入しました。
一つ一つ短めに作っているのでまだまだ物語は序盤ですが、今回は100話記念で長めに作りました。
朝食を取ったのち天幕を片付け、一行は次の目的地へと出発していた。
しばらく見晴らしは良いがあまり整備されていない道を歩いているといくつかの道が合流している場所にたどり着いた。
「この一番太い道を進んで行けばラマルラに行けるはずです」
「えぇっと…なんでわかるのぉ?」
確かに周辺を見渡しても看板や分かり易い道しるべは無い。
そんな状況でこっちに行けば着くなんて言われても信用できないだろう。
「覚えているからです、さぁこちらへ」
「こんな辺境の道ですらぁ…騎士は全部覚えないとダメなのかぁ…」
「騎士ですから」
カロンは偉ぶる事もなく、さぞ当たり前のように答える。
それに対してスタンは騎士にだけはなれないなぁ…と思っていたのだった。
「(スタン」
そんなやり取りをしているとサリンがこっそりとスタンの近くに寄って小声で話す。
「(普通の騎士はそこまで覚えていませんわ、カロンが優秀なだけですの」
…と騎士になりたくないスタンにフォローを入れたが…
「(アッアッ!!サリン様!?近い!超いい香りする!?ああああああふぁぁぁぁ!!)」
当人はあまり聞ける状況ではなかった。
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一行は川沿いを歩いていた。
一番深いところでもひざ下程度の浅い川で、今は日差しもあってか透明度の高い川はきらきらと光を反射しておりとても美しい。
木々のざわめきと川の流れる音が聞こえるなか、突如としてスタンが限界を訴えた。
「ばあぁぁぁぁぁぁ…!!づがれだぁぁぁ!!ぎゅうげいじまじょうよぉぉぉぉ…!」
空気は少し冷たく、風は涼しいのにもかかわらず汗をだらだら流しながら抗議するスタンはまさに迫真であった。
「ええ、良くってよ」
サリンは全く汗を流しておらず、特に疲れている様子もない。
「はぁ"ッ…はぁ"ッ…サリン様ぁ…疲れないんですかぁ…」
「ええ、全く」
それもそのはず、そもそもまだそんなに歩いていないのだ。
「では少し休憩致しましょう、あそこにちょうど良い木陰があります」
近くにある比較的大きな木は若干川の方へ傾いて生えており、大きな影となっている。
「わぁ~い日陰だぁ」
スタンは木陰へ走って行き、影に入るやいなやぐてっと寝転んで動かなくなった。
「…」
「わたくし達も休憩致しましょう?」
「はい…」
カロンはもしかして王国の研究者は全員こんな感じなのか?と一瞬疑うが、王国の研究所には幼馴染も在籍しているのでそんなことは無いはずだと自分に言い聞かせた。
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ガララララ…
「…馬車の音ですね」
一行が木陰で休憩していると遠くから馬車の音が聞こえる。
音の方向からしておそらく通って来た道と同じ道を通っているのだろう。
「馬車!?ラマルラに向かってますよねぇ!のののせてもらいましょうぅ!?」
スタンはガバッと起き上がり馬車に載せてもらうことを提案する。
確かにスタンを連れたままだと休憩が多くなり日暮れまでにラマルラに着けないかも知れないとカロンは考える。
「いい案ですね、その方が早く着きそ
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおいいいいいぃぃぃぃ!!!」
…うです…ね…」
カロンの会話をぶっちぎって大声で馬車に呼びかけるスタン。
……
…………
……………
一行の前に馬車が止まり御者が降車せずに話しかけてくる。
「こんにちは、旅の方。どうなされました?」
「こんにちはぁ、ワタシ達はグラムレインから命からがら逃げてきた者ですぅ。もしラマルラに行かれるのでしたら乗せて頂けませんかぁ?」
突然まともになったスタンに少しだけカロンは驚いていた。
「なんと!?グラムレインから!?昨夜大爆発があったのは私達も聞こえていたので知っていますが、一体何があったのですか…?あ、それと乗せるのは構いませんが、そちらの方はちょっと…」
御者はカロンの方へ視線をやる。
「ええ、勿論わかっています。私が乗ると馬車の馬が一歩も進めなくなるでしょうから」
軽量化の魔術を使えば乗れない事もないだろうが、そこまでして無理やり乗せてもらうのも情けないのできっぱり乗らないという意思を示す。
「申し訳ない、鎧のお方。そちらの二人がお乗りになるという事でよろしいでしょうか?」
何とかうまく話がまとまり、姫様も楽出来るだろうと安心したカロンだったが…
「いいえ、わたくしは乗りませんわ」
あっさりとサリンの一言によってカロンの安心は砕かれた。
「ええと…別にお金を取ったりはしませんよ?ちゃんと護衛もいますし安全です」
御者が「ネイラさーん!」と声を掛けると、馬車の積荷から若く可愛らしい女性がひょっこり現れた。
「はいはーい。ネイラさんだよー!どうしたおっさん!盗賊かー?」
オレンジ色の髪を後ろで束ねている活発な女性がカチャカチャと装着している防具のこすれる音を鳴らしながらこちらへやって来た。
「(サリン様の方が美しいな…」
となりからなにやら非常に失礼だが同感な言葉が聞こえたがカロンは聞こえていないふりをしておいた。
「ご存知かもしれませんが、こちらは金級冒険者のネイラさんです」
「金級…!?ですか?それは相当頼りになりますね」
さすがのカロンも金級冒険者と聞けば驚く、それほどまでに金級冒険者は珍しい存在だ。
「はいどうもー相当頼りになるネイラちゃんですよ!」
金級冒険者は戦闘力は勿論だが、人格も優れていなければなる事が出来ない存在だ。
なので間違いなくこの馬車の御者は危険な存在ではないだろうとカロンは察する。
「サリン様…やはりここは馬車の方が…
「いいえ、馬車には乗りませんわ」
…承知いたしました」
カロンはきっと馬車に乗った方がサリンにとって良いと思った為進言したが、当の本人が乗らないといっているのに無理やり乗せるような事は出来なかった。
「えー何ー?ネイラちゃんが護衛してるのに安心できないのー?ドラゴンぐらいなら私一人でも何とかなるんだけどなぁー」
「ドラゴンを一人で…ですか、流石金級冒険者といった感じですね」
ドラゴンと聞いてカロンは少しぎょっとした、別にドラゴンと戦ったことが無いわけではないがあれはもう何年も前の…それこそまだ10代だった頃の話である。
(今戦えば勝てるかどうか…いやいけるか?姫様の為ならば…命と引き換えにでも)
「ここまで言っても乗らないなんて臆病な子だねぇー…むしろなんで乗らないの?」
「勿論、信用できないからですわ」
サリンは柔らかく微笑む。
「ネイラちゃんより、そっちの鎧のおっさんの方がいいってか!?うぅーん…!分かった、もう好きにしな!でもラマルラまでの道に出てくるモンスターは減らしといてあげるっ!はぁ結構プライド傷つくなぁ…まぁネイラもまだまだってことかな」
それだけ言うとネイラは積荷の方へ行ってしまった。
「えーと、そちらの白衣の方だけという事でよろしいですか?」
「はい、お願いします」
「わぁ~い馬車だぁ~!あ、先に着いたら宿屋予約しておきますからぁ」
「ええ、よろしく」
馬車はスタンが乗り込むとすぐにラマルラの方へと出発した。
「まぁ~たぁあとでぇ~……!!」
手を振っているスタンが見えなくなるまでそれほど時間はかからなかった。
馬車が去った広い道に2人が残される。
「…では、私達も出発致しましょう。早ければ陽が落ちる前には着きます」
「ええ」
2人は歩き始める。
「…姫様、お答えしたくなければお答えしていただかなくて結構なのですが…」
「なんですの?」
「…なぜ馬車に乗られなかったのですか?やはり安全性としては金級冒険者が同行しているあちらの方が…」
「…"アレ"より貴方の方が頼りになるから…ですわ。いつだって貴方はわたくしを必ず守って下さるでしょう?」
素直にカロンと離れるのが不安だったから…とは言えなかった。
ブックマーク・評価等ありがとうございます。
思ったより上記2つをされるとやる気でるんですね、知りませんでした。
まだまだこの物語は続きますので今後ともよろしくお願い致します。