プロローグ
「ごめんなさい、わたし付き合ってる彼氏がいるの」
私の初恋はこうして終わった。勇気を出した先輩へ告白は、あっさり撃沈した。
「女子校だし、勘違いしちゃう子多いんだよね。わたしの事慕ってくれる後輩で木崎さんみたいに恋愛感情だと思って告白する子も多いんだ。
大丈夫、木崎さん可愛いし、きっとすぐ彼氏が出来るよ。ごめん、この後用事があるから。明日からは普通の先輩後輩で対応しようね」
先輩は笑顔で手を振って去って行ってしまった。勘違い?一生懸命勇気を振り絞った私の告白は勘違いだったの?そんなこと先輩に分かるの?怒りも沸いてきたけど、それ以上にまだ先輩の事が好きで、胸が痛かった。
今年の春に高校に入って、同じ中学の友人に誘われて入部したバドミントン部。別にバドミントンが好きな訳でも無かったけど、他にやりたい事も無かったので、誘われて断るほどでも無かった。そんな当の友人は真っ先に部活をやめてしまい、部活で浮いていた私に親切にしてくれたのが先輩だった。先輩はバドミントン部のエースで、背も高く、スタイルも頭も良くて、みんなに人気があった。
次第に私は先輩の事しか考えられなくなり、夏休みの部活の帰りに校舎裏に先輩をなんとか呼び出したのだ。ドキドキして心臓が張り裂けそうだった。でも、結果は見ての通り。私の高校生活の半年は何だったのだろう。胸にぽっかりと穴が開いていた。
中学時代の親友は別の高校へ行き、次第に疎遠になった。クラスに会話をするぐらいの友達は出来たが、わざわざ夏休みに連絡を取り合うような子はいない。近所に住んでいる同級生とも遊ばなくなった。そんな私の拠り所だった部活も暗闇に覆われてしまった。もう何もしたくない。こんな世界に居てもしょうがない。消えて無くなりたい。でも、死ぬほどでは無い。私はどうすればいいんだろう。
いつ学校を出てどこをどう歩いたかも覚えていない。気が付いたら日が暮れていて、私は見知らぬ道を歩いていた。早く帰らないと親に怒られる。スマホのマップを確認しようとしたら、目の前を何か光るものが通り過ぎていった。
(蛍かな?)
なんとなく興味を惹かれ、それについていく。光は路地を曲がり、私は見失わないように小走りでそれを追った。
(綺麗……)
光は七色に輝き、上下左右にフラフラと動いていた。スマホで動画を撮ろうと構えるとその姿は視界から消えてしまう。どこかと探すと、路地の横の雑木林の脇に鳥居があり、その先の階段の上を光は飛んでいた。普段の私なら夜に明りの少ない神社に足を踏み入れようなんて思わなかっただろう。でも、今の私はやけっぱちで、別にどうなってもいいと思っていた。
私は行った事の無い神社の鳥居をくぐり、急な坂になっている階段を足早に登っていく。部活の疲れもあった筈だけど、なぜか身体は軽く、すいすいと登れてしまった。そして階段を登り切ったと思ったら……。
「何、これ……」
世界は一変していた。私は小高い丘の上に立っていて、周りには見た事無い植物らしきものが生い茂っている。色も赤かったり青かったりと目が痛くなりそうだ。そして何より違うのは空の色だ。日が沈み、今は夜空になっている筈が、空は赤紫色で、鮮烈だった。空には月も太陽も無く、代わりに真っ赤な色の大きな星が2つ、3つと浮かんでいる。その中でも一段と大きく、血のような色の大きな星が不気味に光を放っていた。夢でも見ているのだろうか。振り返ると登ってきた階段は無くなり、丘の斜面があるだけだった。