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第四話:二人の少女

 

 当時の西地区(バーン)悪華組(デモゴルゴン)が牛耳っていた。

 一大勢力の悪党集団と言われていたが、それを一晩で俺が叩き潰した。


 翌日には街中に知れ渡ったが、俺はニブルの街に来たばかりで名前を知られていなかったため、噂に尾ひれが付き極悪非道人のように伝わっていた。

 俺の姿や名前を知っているのは西地区の者でも一部の者だけだ。

 この東地区(スラッツ)では、ほとんど噂も忘れらているはずだ。

 目の前の男たちも、俺のことは知らないのだろう。知っていたら襲って来ていないはずだ。


 俺を襲った六人の男たちは肩を落とし、これから自分がどうなるのか不安な面持ちで落ち着きがなかった。頭数が多ければ勝てると思っていたのに、あっさりと負けてしまい今の状況が信じられないでいた。


 『おい、俺たちどうなるんだろう?』

 『知らねぇよ。殺されるか、ひどい目に合わされるんじゃ……』

 『ヒェッ! やっぱやめといたほうがよかったんじゃね?』

 『仕方ねぇだろ、やれって言われたんだから』


 男たちはすくみあがって、小さくなっている。

 俺は、彼らがヒソヒソと話をしているのを黙って聞いていたが、最後の言葉に引っかかった。


「誰かに命じられたのだな? 誰にだ?」


 慌ててうつむく男たち。だが、沈黙に耐えられなくなったのか一人が答えた。


「あっ、いえ。なんでもないです」

「そうか。わかった。言いたくなるようにしてやろう」


 俺はズボンのポケットから(ハサミ)を取り出し、これは何か知ってるか? 見せてやる。


「んなっ! それで何をしようってんだよ!」

「これは鍛冶屋が熱した刃を掴む道具なんだが、これで舌を引きちぎることができる」

「ヒェ! や、やめてくれよ。そんなことしたら死んでしまうよ。わかったよ、わかったから」


 まさか本当にそんなことはしないのだが、これはいい脅しになった。

 誰だって、無抵抗な状態で拷問されるなんて想像するだけで耐えられないだろう。

 ただの街のゴロツキ風情では、道具をちょっと見せただけで震え上がらせることができる。


「じゃぁ、ひとつ教えてくれ。お前たちは誰かに命じらえて俺を襲ったのか?」


 要領を得ない話だったが、いくつか質問を繰り返し彼らから聞き出した。

 男たちの話を要約するとこういうことだ。


 自分の女の前で俺にぶちのめされ、逃げ出した男が東地区に戻って来たところ見知らぬ男に声をかけられたらしい。

 その男に、俺を叩きのめして欲しいと言われ、前金で10ガメル金貨を六枚くれたと言う。ずいぶん、気前のいい野郎がいたもんだ。

 この男も、女の前で恥をかかされ俺に恨みを持っていたため、二つ返事で請け負ったとか。そして、知り合いの男たちを集め、俺を追って来たらしい。


「その男というのは、誰だ?」

「知らねぇ。帽子を目深にかぶっていたので顔も良く見えなかった。だが、この辺りでは見たことない奴だ」


 見たこともない、顔をよく見えない相手から金貨をもらうとは浅はかすぎる。

 どうやらこいつらは少々思慮が足りないらしい。


 他の男たちにも、心当たりがあるか聞いてみたが首を振って答えた。


「俺たちは、こいつから誘われただけで依頼主がいたことさえ知らなかった」


「そうか。だがお前たちもこいつと同罪だ。この場で頭を胴体から切り離してやろう」

「わあああ、堪忍してくれ! お願いだ!」


 恐怖に顔をゆがめた男たちは、何度も頭を下げて勘弁してくれと懇願する。

 弱い者には強いが、強い奴には尻尾を巻く情けない奴らだ。

 だが、こいつらは何かをまだ隠している。


「何も知らないんじゃ、役立たずもいいところだ。死んで詫びろ」


 必要以上に強く鋏を閉じると、バチンと大きな音がした。

 男たちは、目を剥いて驚くと必死に逃げようとした。だが、六人は縛り上げている。

 逃げ出すことなどできない。


「やめてくれ、わかった、わかったから」


 一人の男が口走ると、他の五人が慌ててそいつを見る。

 隠していた情報を言う気になったのだろう。


「ほ、本当は知ってるんだ。そいつのことを。でも、俺から聞いたって言わないでくれよ。その人もおっかない人なんだ」

「わかった。お前から聞いたとは言わないでおこう」


 約束したことを守る義理はないが、こいつらが襲って来たことなど俺にとってはたいしたことではない。言わないでおくくらいは守ってやろう。

 

「そ、そいつはジョーってやつだ」


 やっと手がかりに当たった。やはり東地区(スラッツ)にいたのか。


「やはりジョーか。そいつはどんな野郎だ」


 男はジョーが悪党で、女を騙しては奴隷商人に売り飛ばしたり娼婦にして金を巻き上げていること、この界隈では無茶をする野郎で鼻つまみ者になっていると語った。


「ジョーは今どこにいるんだ?」

「ジョーは、いつもビズリーの潰れた農園にある小屋にいる」


 ビズリーとは、この場所から北側にある一帯の集落のことだ。

 東地区全体をスラッツと呼ぶが、地名は東地区の北側ビズリー、南がスラッツとなっている。ビズリーは農園地帯でスラッツは貧民街と東西の道を挟んで明確にくわ腐れている。

 そのビズリーの潰れた農園にジョーがいると言う。


「今後、俺の前に姿を見せるな。それと女を大切にしろ、女を泣かせる奴には容赦しない」

「や、約束する。本当だ」


「今日のところは、お前たちのやったことは見逃してやる」

「すまない。本当に悪かった。もう二度とあんたには逆らわない。誓う」


 俺は、ポケットから10ガメル金貨を1枚ずつ男たちに手渡した。


「こ、これは? ……もらえるのか?」


 キョトンとした男たちは、手のひらの金貨と俺の顔を交互に見比べている。

 なぜ金がもらえたのか理解できないのだろう。


「それで新しい服を買え。それで上等な服が1着買えるだろう。残った金は女に何か買ってやれ」

「いいのか……? 俺たちはあんたを襲ったってのに」

「襲われたうちには入らない。お前たちは弱すぎる。いいんだ、持っていけ」



 男たちは、金貨を受け取ると俺に深々と会釈をし、そして逃げるようにして走っていった。


 もう明け方近くになっていた。これからビズリーに行ってもジョーがいるかわからない。

 とりあえず今日は帰って、明日ナミに聞いてみるか。



 ◇ ◇ ◇


 翌朝、俺は自分の事務所に出ていた。事務所と言っても、机と椅子がある程度だ。

 看板も出していないので、事務仕事をするだけの場所だ。

 この街では「店」という言い方が一般的だ。表向きは不動産業としている。


 ここかなぁ、と女の声がドアの外から聞こえてきた。

 この声はサリーだろう。


 俺は、ドアを開けてやった。女たちは、ドアの前で花屋の親父からもらった地図らしき紙を見ながら辺りを見回しているところだった。


「あっ、セイヤさん! おはよう。ここで合ってたんだ、よかった!」


 サリーは、俺の事務所に無事にたどり着いて笑顔になった。

 その後ろで、背の高い女がぺこりと頭を下げる。昨日の女だ。


「どうだ、昨日はよく眠れたか?」

「いやー、それが二人で意気投合しちゃってさ。話していたら朝が来たって感じで……」


 えへへ、と頭をぽりぽり掻きながらサリーが言った。もう一人の女もはにかんでいる。

 どうやら昨夜の一件で落ち込んだりはしていないようだ。

落ち着いた様子が見て取れる。やはり、サリーと一緒にいさせて正解だった。


「あのー、申し遅れました。私はララと言います」

「俺はセイヤだ。二人とも、とりあえず入れ」

「はーい、おじゃましまーす!」


 サリーは事務所に入るなり、何もないねーって驚きの声をあげた。


 悪かったな、ここは契約書を交わしたり、借用書を交わすための机があればそれでいい。必要なものは俺のズボンのポケットに全て入っている。

 魔法袋を加工してズボンのポケットにしているので、ほぼ無限に収納できるので物を置いておく必要がないというのもある。

 それに、俺は部屋にあれこれ物を置くことが好きではなかった。


 とりあえず、サリーの借家と店の契約をすることにした。家賃は一般的な金額だ。

 駆け出しの武器商人のサリーでも払えない額ではないだろう。

 ただ、店がうまく行くかどうかだ。


「サリー、店のほうはいつから開店だ?」

「道具はほぼ揃っているんだけど、鉄を溶かす炉が欲しいのとその他諸々。それに、一から材料を仕入れなきゃならないから、数日かかるかも……」


「仕入れの当てはあるのか?」

「当てはある。あたいがこの街で修行していた頃からの知り合いがいるんだ」


「そうか。何か困ったことがあったら、いつでも言え」


ありがとうと答えたサリーとは対照的に、ララは不安な面持ちで机の上に取り出した契約書に目を落としていた。


「ところで、ララ。昨日蹴られた腹はどうだ、痛むか?」


 平気だと答えたララは、少し緊張しているようだった。


「ララはこれからどうするのだ? 娼婦を続けるのか?」

「いえ、身体を売るのはもうやめます。好きでやっていたわけじゃなかったので。それに、あの男と一緒にいた部屋には戻りたくありません」


 そうだろうな、男に無理やり娼婦をさせられていたんだ。何か良い仕事先を紹介してやってもいい。


「仕事も家も何もないのか。ララは何か得意なことはあるのか?」


 この女は元は裕福な家庭で育った娘ではないかと思っている。丁寧な話し方もできるし、厳しく躾けられたことがわかる所作が垣間見えた。

 それに、人当たりも悪くないと思っていた。


「これといって得意なことがなくって……ごめんなさい。何も思い浮かばないわ」

「そうか。じゃぁ質問を変える。ララの好きなことは…… 」

「あたいは武器作りだ!」


 サリーが話の途中で割り込んできた。


「お前には聞いてない!」

「ごめーん、つい会話に入りたくなっちゃって」


 ペロリと舌を出したサリーを見て緊張が解けたのか、ララは言葉を続けた。


「えっと、好きなのはおしゃべりかな。人と話をするのが好きです」

「そうか、酒は飲めるか?」

「お酒は、あまり得意なほうじゃなくて、すぐ酔ってしまって」

「どれくらい飲めるんだ?」

「エールなら大ジョッキで30杯くらいしか……」


 おいおい、それは得意じゃないって言わないだろうと俺はツッコミを入れたくなったが言葉を飲み込む。


「俺の知り合いに酒の強いダークエルフがいる。そいつより飲めるんじゃないのか?」

「ダークエルフって、もしかしてリーファさん?」

「知ってるのか?」

「はい、お酒の飲み比べをしたことがあります。あの時は互角で、勝負がつきませんでした」


 この女、かなり酒が強いぞ。リーファは俺の知る限り大酒豪だ。酒樽ごと飲むんじゃないかと言うほど飲むんだ。それと互角とは、ララも胃袋がドラゴン並みということか。


 その時、扉が勢いよく開いてナミが姿を現した。


<登場人物>

主人公セイヤ・・・西地区に店や宿泊、借家を貸している。

ジョー・・・・・・ミオン殺しの鍵を握る男。

サリー・・・・・・ドワーフの武器職人でセイヤから部屋と店を借りた。

ララ・・・・・・・ヒモ男に無理やり働かせられていたところをセイヤに助けてもらった。

ナミ・・・・・・・兎人族の女。セイヤの相棒で情報収集を得意としている。


ちょっとでも面白いと感じてもらえればうれしいです。

評価の方もよろしくお願いします。


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