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第三話 魔剣ガーリアン

3話は少し長くなってしまいました。


 ニブルの街は中央にメインの通りがあり、東西に分断されている。

 メイン通りの西にはダンジョンがあるため武器屋など冒険者が集まる西地区(バーン)と呼ばれている。

 メイン通りの東側には貧民街が広がっているスラッツがある。

 東地区を縦に分断するように川が流れていて、その両側には娼婦が住んでいる建物がある。

 娼婦は自分の部屋に客を招いて仕事をするため、ヒモは女が仕事中は外で酒を飲んでいることが多い。


 ジョーも、東地区にいる可能性が高いが、今は何も手がかりがない。

 明日、ナミが何か情報を持ってくるだろうから、早めに切り上げるつもりことにした。

 ミオンの仇は必ず取らなければならない。

 なぜ殺されなければならなかったのか、誰が殺したのか……


 東地区の娼婦が立つ一帯を「スラッツ地区」と呼ばれている。

 スラッツとは、「だらしのない女たち」を意味する言葉だ。

 俺はこの呼び方は好きでない。

 確かにだらしのない女もいるが、そこに住んでいる女は全員だらしがないと思うのは、女に失礼だろう。


 スラッツ地区は暗い。街灯というものがないため、立ち並ぶ建物の窓から漏れる光のみ通路を照らしている。

 建物と建物の間に女たちが立っているのが見えた。立ちんぼと呼ばれ、娼婦が客から声をかけてくるのを待っているのだ。


 どの女も、胸元を大きく広げ、足も付け根まで見える程度の腰巻をしている。

 下着さえつけていない物も多い。


 

「うわっ、おととととっと!」


 男がつまずいて、持っていた果物を通路にぶちまけた。

 俺の足元に果物が転がってきたので、拾い上げる。


「あちゃー、やっちゃった。あ、お兄さん拾ってくれてありがとう」


 派手にひっ転んだ男は、すぐさま地面に転がった果物の回収を始めた。

 何につまずいたのか知らないが、この暗さなら石があっても転ぶのは仕方がない。


「こんな夜更けに、買い出しか?」

「ええ、もう少しで彼女の仕事が終わるんです。甘いものでも食べてもらおうって思って」


 この地区は特に治安が悪い。自警団も常駐していないため、もっぱら街の揉め事は裏社会の者がしているだろう。

 このな夜更けに買い物に出るとは、この男はよっぽど能天気か、それとも襲われても対抗できるだけの腕に自信があるのか……見たところ、前者の方か。


「そうか。暗いから足元に気をつけろよ」

「ありがとうございます!」


 元気な声がこの街に似つかわしくない。明るい青年だ。

 白い上着に茶色のズボンを履いていて、見た目は薄汚れていない。それほど貧しくはないのだろう。

 この男に少し話を聞かせてくれないかと言うと、男は困ったような顔をして言った。


「はい、なんでしょう。でも、マリンが。あっ、僕の彼女はマリンって言います。そろそろ仕事が終わるんで時間があまりないんですが……」

「いや、時間はかからない。少し聞きたいことがあってな」


 俺は、ジョーを知っているかと単刀直入に聞いた。


「ジョーですか?ジョー.....聞かない名前ですね」

「そうか。呼び止めて悪かったな。ところで君の名前は?」

「レオンって言います! あっ、マリンが終わったようです。じゃあまた」


 男は俺に頭を下げると、女の元へ駆け出して行った。

 走ったらコケるのではないかと、心配になって俺はレオンを目で追った。


「マリン、おつかれさまー」

「レオン、待った?」

「ぜんぜんさ!ちょっとこれ買いに行ってたんだ」


 レオンが果物をマリンに見せて帰ったら食べようねって言っている声が聞こえる。

 仲が良いようだ。

 女を大切にする男ならマリンも幸せを感じているだろう。マリンをみると満面の笑顔でレオンを見ている。


「レオン、これどうぞ」


 マリンが、金をレオンに手渡そうとしている。


「いいよ、それはマリンのお金だ。僕はまだこの前もらった金が残ってるから平気だよ

「いいの、もちろん全部じゃないよ。私が必要な分は残しているし、これでまた私に甘いもの買ってきてね」

「ああ、いいとも。じゃあもらっておくよ」


 女から金を巻き上げるヒモもいれば、こうやって女から進んで金を渡してもらえるヒモもいる。男は女を幸せにすれば、自然と女も男のために何か役立ちたいと思うものだ。


 二人を見ていると、背後から声をかけられた。先ほどから人の気配は感じていたが、何の用だ?


「おい、そこのお前! さっきはよくもやってくれたな」


 振り返ると、サリーの家の前で女と揉めていた男が立っていた。

 どうやら仲間を引き連れている。五人か。

 こんなクズでも仲間が五人もいるんだな、と俺は感心する。

 クズの仲間ならクズだろうが、徒党を組むのは悪党の基本だ。

 ヘラヘラした男が暗い道を塞ぐように横並びになった。


「ほぉ。あれだけやられてやり返しにきたのか。お前も少しは骨がありそうだな」

「うるせぇ、今度はやられねえよ」


 そう言うと、男たちは俺の方に走った。

 手には武器を持っている。冒険者とは違い防具は身につけていない。こいつらはただの荒くれ者の集まりだ。


 道には明かりがほとんどないため、暗い。暗いが見えないことはない。

 五人は、全員両手剣を持って走ってきている。一気に俺に襲いかかるつもりか。


 先頭を走っていた男が大きく飛び上がり、俺の頭をかち割ろうと剣を振り下ろす。

 それを左に体を回し、剣を躱す。空を切った剣は、速度をゆるめずに下から上に向かって振り上げられた。なかなか反射神経がいい。


「お前ら一人ずつ行くんじゃねえ。一気にかかるぞ」

「おう、こいつがお前が言ってた強い男ってやつか?」

「ああ、丸腰だが気をつけろ。侮るな!」


 こいつら一人ずつ順番に話すのか、こう言うときだけ行儀がいいんだな。

 おそらく、話した順番で飛びかかってくるはずだ。

 同時といっても若干の差があるのだ。俺はそれを見逃さない。


 一人が低い体勢から足元を狙って剣を払う。それを当たる直前に足を上げて躱す。

 同時に、頭上から飛びかかってくるヤツの剣を一歩飛び下がってやりすごすと、右から、左からと同時に剣が俺を襲ってくる。

 避けるのが面倒だ。俺は、ズボンのポケットから剣柄(つか)を取り出した。


「おい、こいつ何か持ってるぞ」


 暗いのに、目が慣れているのか俺がポケットから出した者をめざとく見つけた男が叫ぶ。それを聞いた男たちも、俺の握った剣柄を見て驚く。


「なんだ、いつの間に!」


 男たちが攻撃をやめ、五メルチほど距離をとって俺を囲む。


「俺が丸腰だと思ったようだが、残念だな」


 剣柄を上段に構えて言った。


「なんじゃそりゃ、剣の柄だけじゃねーか。ハッタリかよ! そんな物で俺たちに勝てると思っているんじゃないだろうな?」


 男たちは馬鹿にするように大声で笑った。


「これが俺の剣だ。それがわからないようでは、お前たちは痛い目をみる」

「なんだと!かまわん、この偉そうなヤツを殺してしまえ!」


 俺が取り出した剣は見た目は剣の柄部分だけで剣の刃がない。

 刃がないように見えるが、実は目に見えないだけで実は刃は存在している。魔法で剣部分が見えないだけだ。

 今までも、刃が見えない剣で多くの敵が俺の前に消えていった。

 剣先が見えないのだから避けようがないということを、この男たちは気づかないようだ。


 再び男たちは距離を取った。無鉄砲に突っ込んでくると思ったが意外と慎重なのだろう。俺を囲むようにして距離をとって剣を構えている。そして、一気に詰めてきた。


 一人目の剣をギリギリでやり過ごす。

 二人目は頭を横から切りつけてきたのを、少し前かがみになって頭上すれすれで躱してやった。


「このやろう!」


 背後に回った男が、後ろから剣を突いてくる。

 振り向きざま、カンと金属のぶつかる音が鳴る。俺の剣が相手の剣を叩き折った音だ。


 剣を折られた男は、何が起こったのかわからず驚いた。何しろあの男には俺の剣は見えていない。

 なぜ折れたのかさえわからないだろう。


 剣柄だけをただ振っているだけのように見えるが、刃はあるし俺には見えている。


「なんでだ。どうなってる、その剣は」

「びっくりしたか?」


 俺は、男たちの攻撃を全て受けた。見えない剣でだ。


「剣がないのに、剣が止められるぞ!」


 

「おい、てめえら、あいつは俺たちの剣を受けるだけで精一杯だ」

「一気にカタつけようぜ!」


 男たちは、一斉に飛びかかってくる。

 一人は、足元を払い、一人は胴を払いにきた。頭を狙う者、俺の剣柄を狙って来る者、次々と攻撃してくる。

 それを、瞬間に判断して剣を跳ね返す。


「あのやろうは防戦一方だ。このまま攻め続けろ」

「わかった。行くぞ!」


 俺はこいつらの無鉄砲さがおかしくなってきた。

 そろそろ、こちらもカタをつけよう、遊んでやるのも飽きてきた。


 俺は一気に六メルチほどの距離を後ろに飛んだ。着地した瞬間に、剣を横払いする。

 俺には剣が見える。剣先が六メルチと超長剣となって男たちの胸元を一気に払って行くのを。


「わぁ、な、なんだ!?」

「あわっ!」


 男たちの剣は全て俺の剣に叩き折られ、そして男たちの胸を横一線に切った。

 皮一枚だけ切ったのだ。


 服が切断され、皮膚が切れた。

 男たちは、自分の胸元を見て悟ったようだ。そう、俺の剣は見えないし伸びる。


 剣のリーチが見えないのなら避けようがない。この程度の男たちなら俺と互角にすら戦えない。


「そろそろやめないか。お前たちに勝ち目はないぞ」

「わ、わかった、降参だ」


 男たちは肩を落として、折れた剣を見つめた。


「俺の剣は見えない剣だ」

「ま、魔剣? ……あんたいったい誰だよ!」


 一人の男が、惚けた顔で俺を見たが、何かを思い出したのか慌て始めた。


「聞いたことがある。二年前にこの街で悪華組(デモゴルゴン)を壊滅に追い詰めた野郎だ」


 二年前、俺がこの街にきてすぐ、西地区を縄張りにしていた悪華組(デモゴルゴン)という裏稼業の組に絡まれて全員ぶち殺してやった。

 俺が見つけた女が悪華組(デモゴルゴン)の組長の娘だとかで、ちょっかいを出すなと脅しをかけてきたのだ。

 確かに手練れの連中だったが、俺には止まって見えるほどだ。

 とてもではないが相手にならなかった。


 その悪華組(デモゴルゴン)を壊滅させて西地区は俺の物とした。

 だから、サリーに貸した建物だけでなく、アンの娼館もカトリーナの酒場も俺の所有物になったのだ。

 もちろん、タダで手に入れたわけではない。正当な商取引だ。

 アンには娼館を作って経営を任せているし、カトリーナには金を貸して店を大きくさせた。

 双方が得するようになっている。俺は女を泣かせる男が嫌いなのだ。



 さて、男たちにはジョーについて知ってることを聞くとしようか。

 素直に答えてくれたらいいのだが。


<登場人物>

主人公・・・・・セイヤ・サルバトーレ

サリー・・・・・武器職人

レオン・・・・・娼婦マリンの彼氏ヒモ

マリン・・・・娼婦

カトリーナ・・西地区バースにある巨大酒場「アンダルシア」の女主人

アン・・・・・西地区バースにある娼館のハーフエルフ。セイヤの愛人。



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