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第一話:エヴァンス伯爵とロシズ伯爵

 


 カールトン国の中央政府は王都エルグモルトにある。

 王都エルグモントは、高い城壁に都市が囲まれた城郭都市であり、城壁の幅は馬車が横に四台ほど並ぶだけの広さがあった。

 城壁の上には、王都を外敵から守るために、等間隔に張り出し(やぐら)が配置されていた。

 いつもは、この櫓に交代で兵士が待機し、見張り番をしていたがなぜか今は姿が見えない。

 ここ数十年、王都に攻め入るものがいないため、夜間に外を見張る兵士の数は減っていることは知っていたが、姿が見えないのはおかしい。


「こんな所にまで呼び出してどういうことだ、ロシズ卿」


 わざわざ、人目を避けるような場所に呼び出され、苛立ちを隠せない壮年の男は、相手の男を睨みつける。

 男は、ロシズが不正を働いていたことを糾弾した件で、自分を呼び出したのだろうと見当をつけていた・

 しかし、思いがけない言葉が返ってきた。


「エヴァンス卿。残念ですが、あなたが行った不正の数々、王国への背任行為を私は全て知っています」

「何を言っているのだ? 不正? 背任行為だと? いったい何の話だ」


 エヴァンスは、外套に入れた手を袖から出すとロシズ卿に掴みかかろうと一歩前に踏みだした。

 言うに事欠いて不正だの、背任行為だの言われる筋合いはないと断固抗議しようとエヴァンスが口を開けた時、ロシズは身を引きながら言った。


「おっと、乱暴はいけません。なんともはや、おとぼけになるのですね。文官筆頭のエヴァンス卿ともあろう方が、不正を働き私腹を肥やしてきたことは、すでに周知のことなのですよ」


 このロシズは、エヴァンス卿と同じ王都の重役で、伯爵を位を持っている。まだ若いが、目端の利く男で周囲に取り入るのがうまかった。口のうまさで出世も早く、エヴァンスよりも親子ほど年は離れているが、役職の上では同格だった。


「とぼけるも何も、不正をしているのはお前の方ではないか。商会に手を回し、税として物納されたもの横流しにしていることを、この私が知らないとでも思ったか!」


「ほぉ、ご自分がされている不正を私のせいにするとは、エヴァンス卿も地に落ちたものですな」

「ふざけるなっ!」


 エヴァンスが、再びロシズへと近づいた時、物見櫓の中から兵士が駆け寄ってきた。

 数にして十名程だが、全員が鎧を着込み、腰に剣を付けている。


「何の真似だ! 貴様、この私をどうするつもりだ!」


 エヴァンスは、帯剣していないことを悔やんだ。どうやら、この男に嵌められたようだ。

 昼間にロシズに不正の事実を突きつけたときは、素直に認め涙まで浮かべていた。もう不正はしないと誓ったため、エヴァンスはこれ以上の追求はしないから自首するように言ったのが裏目に出た。


「エヴァンス卿。あなたが昼間、私に伝えてくれた不正の数々、証拠も揃っていますので素直に自首してください」


 ロシズは、兵士の後ろへと下がりながら言うと、兵士たちがエヴァンスを取り囲んだ。

 すでに兵士は、ロシズの指示にしか従わないだろう。エヴァンスは、心を決めた。

 ここで捕らえられたとしても、王の前で真摯に話せばわかってもらえる。その場で、逆にロシズ卿の不正を公にして逆にロシズを捕らえさせることもできるだろう。


 エヴァンスは、ゆっくりと周囲から距離を詰めてくる兵士に逆らわないことを表すように、その場で膝をついた。


「お前の魂胆は、俺に自分の罪を被せようということなのだろう。浅はかな奴だ」

「はぁ? いったい何を言っているのかわからんな……おい、取り押さえろ!」


 ロシズが命令すると、兵士たちはエヴァンスの両側から腕を取り立たせた。


「こんな事をして、自分の罪を人に擦りつけられると思うな。王の前でお前の不正を朗々と語ってやるわ!」


 エヴァンスは、そう言うとロシズを睨み付けた。鋭い眼光に一瞬怯んだロシズは、腰の剣を抜くと剣の刃を横に向けエヴァンスの胸に深々と突き立てた。

 一瞬の出来事に、兵士たちも困惑し抱きかかえるように取り押さえていた手を離すと、エヴァンスはその場に膝から崩れ落ちる。


 ロシズは、刺した剣を抜くと一振りし、血を飛ばした後、兵士に向かって言った。


「エヴァンス卿は最後は俺に罪を被せようと画策したため、この場で切った。こいつは罪を認めたがお前たちに囲まれると俺に向かって暴言を吐いたのだ。抵抗こそしなかったが、こいつはこんなものを持っている」


 ロシズは、そう言うと倒れたエヴァンスの外套のポケットに手を入れ、中から小さな黒い球を取り出した。


「炸裂弾だ。この玉一つでこの場にいる我々は木っ端微塵に吹き飛ぶだけの力がある」


 兵士は、顔を見合わせ唾を飲む。


「一歩遅かったら、この男なら我々を道連れにしていただろう」


 ロシズが、炸裂弾を高く差し上げながら、そう言うとポケットにしまった。


「しかし、ロシズ卿。我々が身柄を抑えていたのです。炸裂弾を使うことなどできなかったのではないでしょうか?」

「はぁ? お前は私に意見する気か? 気は確かか?」


 兵士の一人が、ロシズの言葉に恐縮するように下を向き、それ以上の言葉を飲んだ。


「お……お前……、娘には……手を出すな……。た……たのむ……」


 エヴァンスは、口から血を吐きながらも最後の力を振り絞るかのようにそれだけ言った。

 そして、そのまま動くことはなかった。


「お前たち、エヴァンス卿を治安府へ持っていけ」


 兵士たちに指示を出すと、四人の兵士が遺体の両手両足を持つとゆっくりと城壁から地上につながる階段へと進んだ。


「他の者は、そのまま櫓に戻って警備に当たれ。今夜の出来事は、他言無用。いいかっ!」

「「はいっ!」」


 兵士たちの言葉を確認すると、ロシズも階段を降りた。


<娘に手を出すなとは、片腹痛い。キャサリンは誰にも渡さぬ。あの女についたダニも早めに駆除しなくてはな>


 ロシズはそう独り言ちると、ほくそ笑んだ。

 ポケットの中から炸裂弾を取り出すと、手のひらで包むように持つ。


「こんな子供騙しの方法で、あいつらが信じるとは……笑いがとまらん」


 さて、明日の作戦でも練るとするか、と呟くとロシズは王宮へと急いだ。



 ◇



「元老院にお集まりの皆様。急にお集まりいただき、誠にお詫び申し上げます」


 ロシズは、そう言うと周りを取り囲むように座る侯爵、伯爵を見回して言葉を続けた。


「すでにご存知とは思いますが、改めてご説明いたします。先ほど、西門城廓におきましてエヴァンス伯爵を粛清いたしました」


 場内が一気にざわつく。粛清とは、不正を働くものを取り除く時に使われる言葉だからだ。


「では、エヴァンス卿がなぜ粛清されなければならなかったのか! あの者は、私の調査で王国への背任行為が著しくあったことがわかっていました。一例ですが、商会に手を回し物納された税を横流し、私服を肥やしていたのです。さらに、山賊により搬送中の物資や金品が奪われる事件が最近増えてきていますが、それらもエバンス卿が情報提供していました。商会に脅しをかけていたことも、商会の関係者からすでに言質が取れています」


「だが、なぜロシズ卿が粛清しなければならなかったんだ?」


 一人の伯爵が、疑問を口にすると、再び場がざわつき、ロシズへさらに説明を求める声が高まった。


「実は、私が彼の不正を調査していたことを知り、エヴァンス卿は昨日の昼間、私に接触してきました。証拠は破棄しろと脅してきましたが、破棄しなかったためか、昨夜未明に私は城廓上に呼び出されたのです」


 ロシズ卿の説明に、皆がしんと静まり返って聞いているのを確認すると、さらに続けた。


「そこで、問い詰めたところエヴァンス卿は、罪を認め膝をついて観念したようでしたが、実はポケットにこのような物を持っていたのです」


 ポケットから取り出した黒い玉を指先でつまむと、高々と差し上げて皆に見えるようにする。


「なんなのだね、それは」

「あまり馴染みがないかもしれませんが、これは炸裂弾と言って、冒険者が穴に入った魔物を吹き飛ばす玉です。これ一つで、その場にいた兵士や私を吹き飛ばすことが可能な物なのです。彼は、不正が明るみになったことで我々を道連れにこれで自殺を図ろうとしたため、やむなく殺しました」


 大きなため息が聞こえてきた。落胆している伯爵も多い。

 なにしろ、エヴァンス伯爵は品行方正な男だと思われていたのだ。


「ここに、商会へと指示したことが克明に記録した資料が、商会会長から提供されています。商会も不正に加担した罪はありますが、我々から指示されたら防いだと思っても逆らえないことでしょう。だから、私は商会が全面的に協力するのなら罪は問わないことを約束し、エヴァンス卿の不正の数々を知ることになったのです」


「確かに……これだけの証拠が揃っているのならば、間違い無いのでしょうな」


 元老院の最長老である侯爵がそう言うと、皆は肩を落とし残念がったが、胃を唱える者はいなかった。


<ふっ、こいつら自分に火の粉が飛ばなければ、深く追求してこないことは知っているんだ>


 ロシズが、壇上から降り、自分の席に戻ると再びざわつき始めた。


「エヴァンス卿が亡くなったことは残念ですが、王国への背任行為が明るみになったことで国王もカールトン国も安泰でしょう」

「何も殺さなくても……」

「殺さなかったら、ロシズ卿も兵士たちも殺されていたわけですから」

「まぁそうなのですが……」


 元老院に集まった者たちが話を始めた。中には、ロシズは立派だとか、賛辞を送る者もいる。


「静粛に!」


 最長老の伯爵が、机を手のひらで叩くと場が水を打つかのように静まる。


「さて、エヴァンス家は跡取りはいないことから、伯爵の爵位は返上することになる。死をもって罪を償ったとはいえ、私服を肥やしていたことについては財産没収、ということでどうだろうか?」


 過半数のものが、手を上げて賛意を伝えると、エヴァンスの爵位剥奪と財産募集が決定された。


<あっさり決まりやがった。さて、無一文になったキャサリンに優しい言葉でもかけてやるとするか>


 閉会した元老院を後にしたロシズは、あまりにも事が上手く運びすぎて笑いが止まらなかった。

 この後、騎士たちがニブルの街にあるエヴァンス卿の財産を没収するだろう。

 ロシズは、その場に立ち会う事で泣き叫ぶキャサリンを抱きしめる姿を想像し、晴れ晴れしい気持ちになった。


<今度こそキャサリンが手に入る>


 ニブルの街へ一日でも早く向かいたいと、(はや)る気持ちを落ち着けるのに苦労した。


<つづく>


<登場人物紹介>


エヴァンス伯爵・・・王都で働いている。キャサリンの父親。

ロシズ伯爵・・・・・武官。キャサリンに何度か求婚し断られている。


キャサリン・エヴァンス・・ニブルの街で暮らす十七歳の女性。セイヤの愛人。


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