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第十三話:圧倒的な力

 


 レベッカたちは、重力魔法が解けたことで立ち上がっていた。

 モーガン家の五男レックソン、ヴァンパイア王の妃レベッカとメイド服のメリーの三人だ。

 俺は、屋根の上からレベッカを見ると、こちらを向いて小さく手を振っている。

 メリーは、レベッカに背を預けて後方を警戒していた。


 レックソンというのは、あの長髪の男だろう。

 長身で細身の男だが、力強さを感じる。手を貸す必要はなさそうだ。

 むしろ、足手まといになる可能性がある。


「姉さん、あそこの男は誰なんだ?」


 レックソンは、屋根の上を見るとレベッカに尋ねた。


「彼ね、アキラのお孫さん」

「そうなのか……黒髮だから珍しいとは思ったが。そう言われると面影もあるな」


 レックソンは、周囲を取り囲むダンピールたちを見た。

 それぞれ細身の片手剣を持ち、今にも飛びかかろうと重心を落として構えている。


「たくさんいるけど、あなたなら一人で蹴散らせたんじゃない?」

「奥様、私がレックソン様のところに辿り着いた時は、この十倍はいました」

「殺しても、殺しても湧いて出てきやがる」


 レックソンは、忌々しい目で一人のダンピールを見た。

 新しくリーダー格になったと思われる男は、何やら手で合図を送っている。


「三人で、ぱっぱと片付けましょう」

「あの、リーダー格の男は殺さずに生け捕ろう。目的を聞きだす」


「かしこまりました、レックソン様、奥様、私から行かせていただきます」


 そう言うと、メリーは一気に跳躍し距離を詰めた。


 一人のダンピールが剣を振りかぶる瞬間、下から顎を蹴り上げる。

 男は、大きく後方に飛ばされて、回転しながら倒れた。

 その横の男が、薙ぎ払う剣を足で止めると、そのまま回転し後ろ回し蹴りで頭を吹き飛ばす。

 メイド服のスカートが花開くように翻ると、男は血しぶきが音と吹き出す。

 それと同時に、首のない体は転がりながらバラック小屋の壁に当たって止まった。


 さらに、次の男、その次の男、その次の次と素早く頭をもぎ、胴に穴を開け、手をもぎった。

 円になって囲んでいたダンピールたちも、怯むことなく二人掛かりでメリーに食らいつく。

 だが、速さと言う点で雲泥の差があった。


 剣を振り上げた瞬間には、間合いを詰め、振り下ろそうとした瞬間には攻撃を食らっている。

 さすがに、七人ほどが一瞬にやられるのを見てたじろぐダンピールが出てきた。


 新しいリーダーは、素早く指示を出し、メリーを囲む。

 メリーは、メイド服のスカートの裾を手で払うと、重心を落として低い体勢になった。


 その時、一斉に小袋がメリーに投擲される。

 メリーは、それを手で払うと袋は破裂し、そして粉が空中にまき散らした。


「うぁああああ!」


 メリーは、悲鳴をあげるとのたうちまわった。焼けるような匂いが立ち上っている。


「メリーっ!」


 レックソンは、ダンピールの脇腹を蹴り吹き飛ばすと、メリーに向かって走った。

 さらに、袋が投げられるのを避けて走る。


「なぜ、こいつらがディートを!」


 レックソンは、素早くメリーを抱き上げた。

 メリーは、顔と腕が火傷して(ただ)れ、血が吹き出ている。

 袋同士が空中で衝突して、破裂し、粉を撒き散らされると、レックソンもメリーをかばうように地面に伏せた。

 レックソンの体からも煙がたちのぼる。


 ダンピールたちが、そのレックソンの姿から好機と見て跳躍した。

 それを、レベッカが空中で蹴り飛ばすと、蹴られたダンピールは隣の男に当たって頭から落ちていく。

 レベッカも、地上に音もなく着地し、後方に飛んで距離をとった。


「あなたたち、始祖(オリジナル)に手を挙げたこと、後悔するわよ」


 レベッカが、そう言うとダンピールたちの動きが止まった。

 明らかに動揺しているように見える。始祖ということを知らなかったのか?



「手を焼いているようだな。手を貸そうか」


 俺は、メリーが何かの粉をかけられたのを目撃し、ゆっくりと近づいていた。

 ダンピールは、人間とヴァンパイアの混血。

 人間よりも強く、ダンピール一人を倒すにはダンジョンの二層を攻略できるクラスの冒険者が三人必要だと言われている。

 俺でも、簡単には倒せないだろう。


「ありがとう。レックソンたちをお願い」

「わかった」


 俺は、ゆっくりとダンピールたちの前に進む。


「お前、人間だな。邪魔をすると死ぬぞ」


 静かに俺を威嚇するリーダー格の男は、一歩俺に近づく剣を構えた。

 俺は、剣をズボンから出していない。


「邪魔はしない。こいつらをもらっていくだけだ」


 俺は、レックソンの肩を叩く。意識はあるようだ。

 顔の肉が爛れているのが見える。その下にうずくまったメリーが見えた。


「おい、人間! 勝手なことをするな」


 そう言うと、ダンピールの一人が俺に飛びかかってきた。

 素早くズボンのポケットから刀を取り出す。慈愛刀(セイレーン)を抜くと月明かりで淡く光る。

 一閃し、金属音とともに火花が散った。

 かなり重いが、受けられなくはない。それに、レベッカたちの戦いを見ていたため、速さにも目が慣れている。


 俺は、足で相手の腹を蹴ると一気に突き刺す。

 そこを、横からレベッカが飛び蹴りし、ベシッと音がすると同時に体と頭が離れて、頭が後方に転がっていった。


「私が相手してあげましょう。全員、首なしになっちゃうけど、もう覚悟はできてるわよね」


 赤い唇を舌なめずりすると、レベッカは後方から飛びかかってきたダンピールの剣を躱し頭を鷲掴みにする。

 そのまま、振り回すようにバラック小屋の壁に放り投げた。

 大の大人を片手で投げる腕力と、振り下ろす剣を一瞬で見切って躱す技量に俺は舌を巻いた。

 敵にしたら、おっかない女だ。夜の相手も嫌だが、戦闘はもっと嫌だと身震いした。

 ヴァンパイアの始祖とは、ここまで強いものなのか。

 魔族マーリンも、とんでもない強さを持っているが、それに匹敵する力だった。


 俺は、ポケットからハイポーションを取り出し、レックソンに飲ませる。

 体が少しは動くようになるだろう。レックソンを、転がしてどけるとメリーを抱き上げる。


 メリーを抱きかかえて、立ち上がると敵が一人向かって来るのを刀で切る。


「人間もわりとやるじゃないか。いったい何者だ!」

「俺は、竜牙会(ドラゴンファング)のセイヤだ」


「その名前、覚えておくからな!」

「覚えなくていいぞ。どうせすぐ死ぬんだ」


 俺は、声かけてきた男には振り向かずに答えると、その場を離れた。

 レベッカが、ダンピールたちと対峙している。任せていいだろう。



 メリーを離れた馬小屋まで行き藁の上に寝かせた。

 あまり衛生的ではないが、藁は比較的新しく張りがあり、程よい弾力があった。


 メリーの肌はかなり損傷は激しい。だが、ヴァンパイアは傷を修復する力がある。

 放置していれば火傷跡はなくなるだろう。

 気絶しているが、胸はかすかに動いている。死んではいないのであれば、問題ない。


 メリーの上体を抱き起こすと、ハイポーションを口に含み、メリーの口に押し当てる。

 口移しでポーションを飲ませた。


「おい、俺と扱いがずいぶん違うじゃないか!」


 振り返るとレックソンが、俺のそばに立っていた。音もなく背後に立つとはさすがだ。


「そう言うな。メリーは女だ」

「ヴァンパイアを女扱いとは、さすがアキラの孫だな」


 レックソンは、入り口の柱にもたれ掛かる。

 まだ回復には時間がかかるようだ。

 それにしても、今日はやたらに爺さんの名を聞く。随分会ってない上に、興味もなかった。


「お前も、俺の爺さんを知っているのか?」

「ああ、昔はよく女を取り合って喧嘩したものだ」


 聞く必要のない情報だな、俺は無視してメリーにハイポーションを飲ませた。

 弱った生命力が力を戻りつつあるのが、呼吸の大きさで確認できた。


「レベッカを助けに行かなくていいのか?」


 俺は、壁にもたれて目を閉じているレックソンに声をかける。


「ああ、姉さんならダンピールに負けることはない。ディートだけ気をつけておけばいい」

「ディートとは、なんだ? あの粉のことのようだが……」


 ダンピールたちが投げた小袋をメリーは手で弾いた時、粉が吹きかかってメリーは大火傷をおった。さらに、レックソンも粉をかけられ、瀕死の状態になっていた。


「あまり教えたくないな。あんたがアキラの孫だから、答えてやるがな」

「言いたくなければ言わなくてもいい」

「おい、尋ねたのなら最後まで聞け。あれは、ディートの実から作った粉だ」


 レックソンは、小声になってディートの実はヴァンパイアを溶かすのだと教えてくれた。

 なるほど、いざというときのためにディートの実を集めておこう。


「間違っても、ディートの実を集めようとするなよ」


 レックソンは、そう言うと笑った。憎めない奴だ。

 鼻持ちならないヤツなら手を貸すまいと思っていたが、悪いやつではなさそうだ。

 なにしろ、メリーをかばった男だ。そんな男気のあるヤツは信頼に足る男だと俺は信頼することにした。


「俺はセイヤ・サルバトーレだ。あんたがレックソンなんだな」

「ああ」


 長身で足もながく、細身だが筋肉はほどよく隆起し、顔立ちも精悍で整っている。

 さらに、長い金髪はそよ風でもなびくほどのしなやかさで、王子のようにも見える。

 なぜ、こんな田舎町にいるのか、俺には想像ができなかった。


「俺はレベッカの助太刀をしにいく。レックソンはメリーを見ていてくれ」


 そう言うと、戦っているレベッカに目をやる。

 すでにダンピールたちは、散り散りとなって逃げ出し残っているのはリーダー格の者だけのようだ。

 そのリーダーも、レベッカはあっさりと鳩尾を殴って気絶させたところだった。

 圧倒的な力の差を見せつけられた。


 やはり、あの女とは仲良くしておかないと、俺でも勝てるかどうか自信がない。

 あの、ヴァンパイアハンターのダンピール数十人を一人で素手で叩きのめす力に、人間では到底勝てるわけがない。

 ディートの実は、どこで買えるのか帰ったらナミに聞いておかなければ……



 レベッカは、リーダー格の男の足を持ちズルズルとひきずりながら、こっちに向かって歩いてきた。

 赤いドレスにヒールの高い靴を履いている。髪はゆるくウェーブのかかったロングで風になびいていた。

 絶世の美女といっても間違いではない美しい女。

 あれだけの戦闘の後なのに、ドレスには返り血ひとつなかった。


「メリーの様子はどう?」


 ダンピールを馬小屋の前に放り投げると、レベッカは言った。

 それと同時に、メリーが目を開ける。


「お、奥様……」


 メリーは、体を起こそうとしたが、力尽きたように藁に背をつけた。

 まだ回復するほど時間は経ってはいない。


「油断したわね、メリー」

「申し訳……ありません」


 レベッカは、いいのよと答えるとメリーの肩に手を置いた。


「セイヤ、メリーを宿へ連れて行ってくれる?」

「わかった」


 俺は、メリーを抱き上げると、メリーは、俺の首にしがみつくように手を回し、小さな声でありがとうと呟いた。


「私は、レックソンと話があるから、二人は先に帰っていいわ。セイヤ……襲っちゃダメよ」

「知らん。ところで、そいつはどうするのだ?」


 俺は、馬小屋の入り口で失神している黒装束のダンピールを見て言った。


「後で、聞きたいことがあるから、そのままでいいわ」

「わかった。気をつけろよ。粉をかけられないようにな」


 レベッカは、微笑を浮かべ首を傾げると言った。


「心配してくれてありがとう、セイヤ」


 レベッカに見送られて、俺とメリーは宿へ戻った。


<つづく>


(用語の説明)

ダンピール・・・人間とヴァンパイアとの混血。

ディート・・・・ディートの実の成分で、ヴァンパイアは溶けて死ぬ。



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