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第二話:武器職人サリー

 

「セイヤ、いらっしゃい。そっちの奥があいてるよ」

「いや、カウンターでいい。ところでカトリーナに聞きたいことがある」

「あら、珍しいわね。今夜は口説かれちゃうのかな……なんてね。あっ、聞いたよ。セイヤの知り合いが殺されちゃったんだってね。もしかして、その件?」

「ああ、その件だ」

「犯人に目星はついてるの?」


 カトリーナは、素早くエールをグラスに注ぐとカウンターに置いた。

 それを一気に飲む。よく冷えて、気持ちがいくらか和らぐのを感じた。熱くなっては、冷静さを欠く。

 飲み過ぎなければ問題ないだろう。俺は、カトリーナの目を見据えて言う。


「まだだ。ただ手がかりが見つかった」

「手がかり?」

「ヒモをしてるジョーって男を知らないか?」


 この酒場の女主人カトリーナは、少し考え込んでいたが首を横に降った。


「知らないわ。ジョーってヒモは聞いたことがない」

「そうか。もし、ジョーって奴のことがわかったら教えてくれ」

「ええ、わかったわ。でも、ヒモのことなら、向こうの奥で騒いている奴らに聞いたらわかるかも」


 俺は、カトリーナが指差した方を見た。

 3人掛けの席で、エールを飲みながら大きな声で何やら話している。

 痩せて頬のこけた男に、でっぷりと太った男。もう一人は男前だが笑い方に品がなかった。


「あっちで飲んでくるがいいか?」

「どうぞ、どうぞ。この店はあなたの物みたいなものよ」



 この店はこの街で一番の広さを誇る。座席数は300席。

 冒険者が多いため、装備品を付けたままでも歩けるように、通路も広めにとってある。

 また、街の人たちも飲みにくる。ここは街で一番の酒場になった。

 元々は、小さな店をカトリーヌがしていたのを、俺が金を出してやって両隣と裏の土地も手に入れて店を広げた。


 店は大きい方がいい。賑やかで活気のある酒場には客が途絶えない。

 今夜も、ほとんどの席には客が入っている。この店は利益が出なくても毎日の見に来てもらうことで利益をあげているのだ。


 奥の3人組の近くのテーブルに座る。店の女がエールを持って来てくれたので、それを飲む。

 男たちの会話をしばらく聞いていたが、ジョーという名前は出てこなかった。

 この街のヒモ男たちは、働きたくないが金が欲しいどうしようもないクズばかりだ。

 おそらくこの男どもの女たちは、酒を飲んでいるいまでも客を取らされているだろう。


 俺が男たちを見ていたことに、痩せた男が気づいたようだ。隣の男をつついて俺の方を指差している。


「おい、お前、さっきから何見てんだよ」


 酔っ払って足取りがおぼつかない男が、こっちに向かって来る。

 その後を、太った男がやめとけ、と言いながら引き止めた。どうやらこいつは俺のことを知ってるらしい。


「うるせぇ、気に食わねーんだよ。なんか用があるのか!」

「おい、やめとけって言ってるだろうが!」


 太った男が、ツバを飛ばしながら俺に向かって来た男の正面に立ち、肩を掴んで引き戻そうとする。

 俺は立ち上がると、太った男の肩をポンと叩く。


「いや、悪かった。兄さんたちが楽しそうに話をしていたから見てたんだ。気を悪くさせたな」


 痩せた男は、フンッと怒りを押し込めるようにしてそっぽを向いた。

 太った男も、こちらに会釈をして痩せた男を連れて席に戻る。


「兄さんたち、もしよかったらいっぱい奢らせてくれ。お詫びだ」

「え、いいのか?ありがてえ。遠慮なくいただく」

「いいんですか?こいつが絡んだのに、すまない」


 若い男前が笑顔、太った男は頭を下げて言った。痩せた男は、渋々という感じだったが、もう怒りはおさまったようだ。

 俺は、店の女を呼ぼうと周りを見回すと、カトリーナがエールを3つ持って来ていた。


「よくわかったな」


 頼む前に、俺がどうするのかこの女にはわかっているのだろう。よくできた女だ。


「ケンカなんかされちゃ店が壊れちゃうからね。これ飲んで仲直りしなさいよ」


 男たちはカトリーナに目が釘付けだ。


 この店で働く女たちは若くて美人も多いが、服装はズボンだ。

 酔っ払いが多い上に、ダンジョンに数日こもって女っ気のない冒険者が色眼鏡で店の女を物色することも多い。

 だから、あまり色気を出さないような格好をしている。


 しかし、女主人のカトリーナだけは違う。豊満な胸のほとんど布からはみ出し、布で隠された部分の面積が少ない。腰布も大きくスリットが入り細くて長い足が露わとなっている。

 しかも、腰布はぴったりと体に合わせているため、尻の形、筋肉の動きまで服の上からでもわかるのだ。

 背も高く、栗色の長い髪はカールされていて華やかだ。

 この店が繁盛しているのは、カトリーナ目当ての客も多いのが理由の一つだろう。



 男たちは、エールを受け取ると俺に軽く杯を上げて、礼をした。

 想像していたよりは、素直なところがあるな。


「ところで、お前たちは何をしているんだ。冒険者ではないし職人でもなさそうだ」

「あ、俺たちっすか?こいつらみんな何もしてないっす」

「そう、遊んで飲んで、寝てるだけ」


 そういって、ガハハハと下品に笑った。どうやらヒモというのは本当らしい。


「働いていないのに酒が飲めるって、よっぽど金を持ってるんだな」

「いや、金は持ってないっす。俺の女が金をくれるからそれで」


 太った男がそう言うと、男前の男がウンウンと頷いた。


「で、女たちからおこずかいを貰って酒を飲んでいるのか、それは楽しそうだな」

「楽しいっす。と言うか、楽です」

「女どもは今頃スケべなおっさん相手に楽しいことしてんだし、俺らは楽しく酒が飲めるってこと」


 こいつら、女がすすんで客に抱かれてると思っていやがる。

 お前たちが働いて女に楽させてやるのが男ってもんだが、こいつらは男でもない。


「なるほどな。ところで、お前たちのように女を働かせて金をもらってる男ってヒモって言うんだろ」

「そうそう、ヒモ。いい女を口説き落とせたら街に立たせて体を売らせて金はもらう。超簡単な仕事」


 俺が何も知らないと思って、レクチャーしてくれるらしい。いかに女を働かせて金を巻き上げるか、嫌がる女を無理やり働かせる方法などを話し始めた。胸糞悪いが、とりあえず聞いてやる。


「お前は知らないと思うが、この街にはすげぇヒモがいるらしい」

「ほお、どんなやつだ」

「聞いた話じゃ、その人は女を何人も掛け持ちで自分の女にしてて、働かせてるって。しかも上玉ばかりらしい」

「おっ、俺知ってるぜ、あそこのジェラスって娼館ってあるだろ。そうだ、あのハーフエルフの高級娼婦がいる店。あそこもその人の店らしい」

「マジか!どんだけ稼いでるんだろうな。俺たちもあそこに遊びにいけるくらい稼ぎたいもんだ」

「ていうか、あんな上玉を自分の女にできたらいいだろうなぁ」



 こいつら、本人を目の前にして言ってる。それにしても、俺のことを誤解しすぎだろう。

 女から金を巻き上げたことはない。女は幸せにしてやることが男の勤めだ。それがわかってない。


「お前たちのようなヒモは多いのか?」

「最近増えてるよな。やっぱり、ヒモって楽じゃん。でも、ヒモをしたい男が増えすぎて女を調達するのが難しくなってるんだよなぁ」

「どう難しくなってるのだ?」

「近頃そういう奴らが増えたからか、街の女どもは警戒心強くなって街で声をかけても立ち止まってもくれねぇ」


 そりゃそうだろう。そのでっぷり太った腹で声をかける勇気は褒めてやるが、女がかわいそうだ。


「そんなに多いのか。お前たち以外のヒモも同士で集まったりするのか?」

「いや、俺たちも実は今日が初めて会ったんだ。みんな徒党を組んだりしないな。ヒモなんてしてるヤツって人づきあいが面倒だってのもあるからな。人づきあいが上手にできるのなら、ちゃんと仕事してるだろうよ」


 そりゃそうだな。痩せた男もいうことはもっともだ。

 やはりジョーを探すのは、ヒモからたどるのは難しいか。



 ◇◇◇◇


 酒場を出た。あの後、もう1杯ずつおごってやった。

 いろいろと話を聞いたが、あいつらは自分の女に暴力を使ったり、餓死するまで飢えさせたりするような悪党とは言えなかった。痩せた男は怒りっぽいと思ったが、どうやら酒癖が悪いだけのようだ。

 女を粗末に扱う奴は、いつか痛い目に合うだろう。その時に反省すればいい。



 カトリーナの酒場「アンダルシア」はこの街のメイン通りから西に2つ目の通りにある。

 ダンジョンがニブルの西にあるため、武器と防具の店や薬屋などもメイン通りの西側に集中している。

 この街には酒場は小さい店や露店など数多くあるが、西側エリアにある酒場はそれほど多くない。

 冒険者が多いと争いやトラブルも多いからだ。

 裏稼業の、組と呼ばれる荒くれ者たちの集団がそんな店のトラブルを引き受けているが、トラブルを起こすのもこいつらだから始末が悪い。

 自分でトラブルを起こして、それを解決したと言っては金を要求する。

 だが、酒場アンダルシアにはトラブルを解決してやろうという裏稼業の奴らは誰もいない。

 俺の店だからだ。今まで何度となく戦ってきた。



 冒険者たちが止まる宿舎が立ち並ぶ通りの角に差し掛かった時、横からドンと誰かにぶつかった。


「いてててぇ、あぁごめんなさい!」


 ドワーフの娘が石畳の上に尻餅をついている。


「お嬢さん、だいじょうぶか?」

「大丈夫。ちょっとよそ見してた。ごめーん」



 緑の帽子に鳥の羽を1つつけていて、肩に大きな袋を担いでいる。プワールの者か。


「俺は大丈夫だ。何をそんなによそ見をして歩いてたんだ?」

「ちょっと探し物してて......」

「見たところ、プワールのようだが、この街に来たばかりか?」

「違うよ、今日戻ったところなんだ」


 遍歴職人(プワール)帰りのドワーフの娘か。

 ドワーフの遍歴職人(プワール)は珍しくないが、女は珍しい。


 遍歴職人(プワール)というのは、職人になりたい者たちが、自らの技術を磨き上げるために、各国を旅しながら他の国の技術をさらに学ぶというものだ。

 もちろん、プワールをせずに独立して店を持つ職人も多いが、上級職人を目指す者にとってはプワールに出るのは自己研鑽と名誉のためでもある。

 職人ギルドから命じられてプワールに出るものいるが、自ら進んで修行の旅に出る職人も多い。


 プワールは羽根のついた緑色の帽子をかぶる決まりで、見た目でわかるようになっている。

 そのため、プワールはどこの国に行っても好意的に対応してもらえる。


 このドワーフの娘は帰ったばかりということは、この大陸の国々を数年かけて回ったのだろう。


「戻ったばかりか、それはおめでとう」

「ありがとう」


 えへへ、とはにかんだ笑顔が可愛らしい。

 たくましい腕をしているところを見ると、鍛冶屋だろうか。筋肉のつき方でわかる。


「お前は何屋を始めるんだ?」

「武器屋だ。防具も得意だが、やっぱり武器作りは得意中の得意だ!」


 胸をそらして、右手の拳を胸に打ち付けて言った。


「ねぇお兄さん、武器がいるときはこのサリーに作らせておくれよ」

「ああ、是非お願いしよう。ただ俺は冒険者じゃないから武器はいらない」

「そうなんだ。でも、必要になったら言ってね」


 地面に落ちたずた袋を持ち上げ、肩に担ぐ女に気になったことを聞く。


「ところでこんな夜更けに何をしてる。それにその荷物……」

「今やっと戻って来たところなんだ。でも、まだ住む家も決めてなくてさ。だから宿舎を探してて」

「宿舎というと、ギルドの宿泊所か……でも、もう空いていないだろう」

「そう。それで困っちゃって……今から探そうかと思ってたところ」

「よかったら、俺が家を紹介してやるが、どうだ?」


 サリーと名乗るドワーフの娘は、俺の顔をジーと見ながら、わかったと答えた。

 信じていいのかどうか考えたのだろう。


「お兄さんが紹介してくれるって、何か当てがあるの?」

「あるさ。この辺りにも俺の所有している建物がいくつかある」

「わぁ、お金持ちなんだね。でも高いんでしょ?」 

「適正価格だ。駆け出しの職人から金を巻き上げたりはしない。それに職人は国の宝だ」


 サリーは、立ち上がると俺の手を握りブンブンと振った。

 よろしくってことなのだろう。


「店はどうするんだ?プワールに出ていたということは自分で店をするんだろう?」

「店もまだ考えてなくて…… 。どこかいい場所があったらお兄さん教えてよ」

「では、家と店、どっちも案内しよう」




 サリーは、俺の後をついて歩いてくる。こんな夜中に見知らぬ男について行くのを怖がらないあたり、プワール中はかなり苦労したはずだ。

 職人の技を磨くだけでなく人の見る目も養われる。


 特に女は、どこでも騙そうとしたり誘ってくる輩も多い。

 この娘のように若くて胸も大きくて筋肉質な女も人気が高い。

 奴隷にして売ると慰み者にも、労働力にもできるからだ。

 それをかいくぐって戻って来たわけだから、危険が迫っても自分で対処できるだけのスキルが身につけてあるということだろう。


 大きな道沿いではないが、周りに薬屋や魔法道具屋などが立ち並んでいる通りにある俺の所有する物件へ案内した。

 それほど広くはないが、この娘にはこれくらいでちょうどいいだろう。

 3階建ての2階の一部屋だ。

 階段を上がってドアを開けて、サリーを招き入れる。


 家具は必要最低限のみ置いてある。


「わあ、ベッドもあるし、テーブルもある。これ全部あなたの?」

「そうだ、俺がこの建物を所有してて、ちょうど今この部屋が空き家になっている」

「そうなんだー。わぁ、こんな幸運ってあるんだ!」

「部屋はここでいいな」

「はい、ここで大丈夫です。むしろ、ここがいいです!」


 かなりテンションが上がっているサリーに、店にも案内しようと言う。

 この建物の1階だ。ちょうど、先月店じまいをされて空き家になっていた。


「家と同じ建物のお店って、あたいすごい憧れていたんだ。死ぬほど働いて、疲れたらすぐに寝れるもん」

「そうか、じゃぁここで決まりってことでいいか」

「はい、喜んで!」

「今日から使っていい。明日俺の家に来い。契約は明日でいい」

「ありがとう。兄さん、親切だね」


 まっすぐな目で見て言われると照れる。


「美人と可愛い女にはやさしくしろが俺の信条だ」

「わ、わ、あたいは美人でも可愛くもないのに、いいんですか」

「プワールから戻った女職人なんて滅多にいない。その努力への敬意もある」

「うううう、なんだか感動して泣いてしまいそう」


 サリーは、涙を拭うふりをして笑顔で言った。

 茶目っ気もある娘だ。きっと人気の店になるだろう。


 ちょうど空き部屋があったので、俺も借りてくれる人がいると助かる。

 それに、この娘の自信あふれる姿に底知れぬ才能があるような気がした。


 その時、通りの方から悲鳴が聞こえて来た。

<登場人物>

主人公・・・・・セイヤ・サルバトーレ

酒場の女主人・・カトリーナ

武器職人・・・・サリー プワールから戻ったばかりのドワーフの女


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