表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/56

第十一話:踊り子レイラ②

<前回の続きです>

 


 レイラは、恐怖に引きつった顔で俺を見た。

 おそらく、やって欲しいことを()()()()()()だと勘違いしたのだろう。


「返せないのなら、働いてもらうしかないからな」

「や、いやよ。知ってるでしょ! 知らない男たちに触られるのも、男に奉仕するのも、そんなのできない!」


 その時、控え室のドアが勢いよく開き、部屋に入るなり、俺の襟元をつかんだ。

 ……先ほどの男だ。


「お兄さん、勝手にうちの踊り子を引き抜かれても困りますな」


 外に出ていた店員は、ドアの外で俺たちのやりとりを聞いていたのだろう。

 客と店員の会話を盗み聞きとは、癖が悪いやつだ。


「引き抜きではない。こいつは、もともと俺の元で働いていたんだ」

「そんなこと知ったこっちゃねえんだ。こっちは、踊り子がいなくなったら商売にならねぇ」


 俺は、襟を掴んだまま離さない男の手をねじりあげる。男は、悲鳴をあげ苦悶の表情となった。

 手首が骨が軋む。それでも、男の膝が俺の腹を狙う。それを躱すと、男の軸足を払った。

 もんどりうって倒れる男に、とどめの一撃をみぞおちに一発入れた。

 呼吸ができなくて、空気を求めて口をパクパクさせているだけの男がうずくまる。

 さらに、追い討ちで踏みつける。

 腹を抱えて、のたうちまわる男の尻を蹴り飛ばすと、男は頭から壁に突っ込み、呻き声をあげた。

 小さく丸まった男の背に俺は腰をおろした。


「俺に掴みかかるとは、いい度胸しているな」


 ここまで俺は一切声を発しない。

 何も言わず、淡々と相手を潰していくだけだ。

 俺は、男の側頭部に一発殴りつける。

 なす術もなく、丸まることしかできない男の背に座り、煙管を取り出すと一服吸った。

 肩を上下させながら息をするだけの男をすでに戦意喪失している。


 レイラは、控え室の隅でおそるおそる顔を上げた。俺と目が合うと慌ててそらした。

 俺は立ち上がり言った。


「お前も、こんな風になりたいのか」


 その言葉を聞いたレイラは、頭を大きく振る。

 そして、後ずさりし、壁に背中が当たりしゃがみこんだ。


「いや、やめて。乱暴はしないで……」


 ダークエルフの褐色の頬に涙が流れ、濃い紫の口紅を塗った唇が小刻みに震えているのが見えた。


「お前次第だ」


 俺は、小さく、だがよく響く声で言うとレイラの方に一歩近ずく。

 レイラは、逃げようと後ずさりしようとするが壁に阻まれると、ヒッと小さく悲鳴をあげて頭を抱えた。

 さらに俺が一歩進む。レイラは震えながら身を固くする。殴れるか蹴られると思ったのだろう。


 俺は女には手を挙げた事がないが、レイラはそんなことは知らない。

 やりかねないと思っているのなら、そう思わせておけばいい。

 横を見ると、他の踊り子たちも、立ち上がると身を寄せ合って怯えていた。


 《そろそろ、脅すのはやめてやるか……》


 十分に反省したかわからないが、いつまでもお仕置きしても、逆効果だ。


「レイラ、俺と一緒に来るんだ。なに、悪い話ではない」


 レイラからは返事がなかったが、俺は続けた。


「頼みたいと言うのは、西地区(バーン)のアンダルシアで踊り子を募集している。お前なら、やっていけるだろう。それに、金も返せるし、待遇もいい。どうだ」


 レイラは、俺の話を聞いて、おずおずと顔を上げる。俺の顔を見て、恐る恐る言った。


「そ、それなら……」


 やっとの事で声を絞り出すと、俺が殴りかかってこないとわかり、安堵の色を浮かべ胸をなでおろす。

 さらに、レイラは恐る恐る、消え入る声で言った。


「この子たちも一緒なら……」


 俺は、身を寄せ合って壁を向いている女たちを見た。この女たちは、厄介ごとに巻き込まれたくないと、見ないように壁の方を向いていた。

 自分たちは何も見ていませんということで、とばっちりを食わないようにしているのだろう。


 背を向けているが、踊っていた時の彼女たちは、美しかった。連れて帰ればそれなりに金を生むだろう。

 だが、五人は多い。アンダルシアにそんなに雇う余裕はない。せいぜい、三人が限度だ。


「ダメだ。五人もいらん。だいいち、この店が困るだろう」


 俺は、うずくまっていた男を見やると、怯えた男は何度も首を縦に振った。

 すると、突然壁の方を向いていた女が二人、俺の前に飛び出して来た。


「あの、あの、すみません…… あの、あの、私もレイラと一緒に行きたい!」


 猫人族の女が二人だった。目にうっすら涙を溜めている。

 この二人は、双子なのか、同じ顔、同じスタイル、同じ背格好をしている。二人ともショートボブが似合っていた。


「この子たちの面倒は私が見ます。だから、せめてこの二人だけでも一緒に……お願いします」


 俺が欲しいのはレイラだけだが、レイラはすぐに逃げ出すことも考えると、人質としてこの二人を連れて行くのもいいだろう。


「レイラ、条件がある。この猫人族の女は、連れて帰っても踊り子にはしない。それでいいか」

「えっ? この子達には酷いことはやめて! この子たちに体を売らせないで!」


 えらい剣幕だ。。

 だが、なぜ俺が女に体を売らせると思ったのだろう。レイラの前でそんな話はした事がないのだが……


「誰も娼婦にするとは言っていない」


 レイラはホッとした表情を見せた。それほど心配なのか。


「踊り子として雇うには、店主の意向もある。場合によっては、踊り子ではなく給仕になることもあると言うことだ」

「わかったわ…… 」

「この二人は、しばらく俺が預かる。お前が逃げ出さなければ、すぐに一緒に住まわせてやろう」


「はい、それでいいわ。でも、この子たちを酷いことをしたら絶対に許さないから!」

「わかった、約束しよう」



 その時、レベッカが控え室に入って来た。


「あのー、まだかしら。そろそろ話はついた?」


 痺れを切らしたのか、レベッカは煙管を吸いながらドア枠に手をかけて言った。

 ゆっくり煙を吐くと色気が撒き散らされるかのようだ。

 踊り子たちは、皆レベッカを見て、惚けている。

 レベッカは、今はベールを脱いでいる。

 もし、店内でベールを脱いでいたら、今頃は踊り子よりもレベッカの方に客が殺到していたはずだ。


「話はまとまったところだ。悪かった、次はお前の弟探しだな」

「やっと、本題ね」

「俺にとっては、こっちが本題なんだがな」


 レベッカは、ニッコリと笑うと踊り子たちの嬌声が響いた。なんだ、こいつらレイラと同類か?

 ゆっくり、レイラの方を見るとすでに立ち上がって、レベッカに熱い視線を送っている。

 変わってないな……


 帰りは、レイラにレベッカの相手をさせてやろう。俺は、やっと奥様の絶叫から解放されることに安堵した。


<つづく>



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき有難うございます
気に入ってくれた方はブックマーク評価感想をいただけると嬉しいです

ツイッターをされている方は、ぜひつながってください
読者の方と交流できるとうれしいです。
桜空大佐のツイッター
小説家になろう 勝手にランキング cont_access.php?citi_cont_id=779224652&s 小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ