プロローグ:紹隆
勇者ベルの死からひと月が過ぎた。
国中が悲しみに暮れている時、竜牙会は東地区の再建に大忙しだった。
まず、壊れた家は取り壊し、建築職人、石工職人たち総出で建て替えを始めた。石工ギルドも建築ギルドも、報酬を先払いし、足らずは都度払いということで、俺の依頼を快く引き受けてくれた。
「ほぉ、娼婦街も整備しているのか」
デイモンは腕を組み、職人が忙しそうに内装を修理している光景を見て言った。この男は、右足を戦闘で失ったが、俺の倍は腕が太く、全身が筋骨隆々な巨漢だ。デイモンの存在感は、ここに現れただけで、働く職人たちから注目された。
「この街を、カールトンで一番の歓楽街にするつもりだ」
「ほう、それはいいな。って、歓楽街ってなんだ?」
「眠らない街のことだ。男が朝まで楽しめる街だ。そして夜の女が輝ける場所……」
「男の楽しめる街か! それはいいな」
デイモンは、辺りを見回してこの街が人で賑わう光景を思い浮かべているのか、ニヤついている。
金の匂いがするだろう、と俺が言うと頷いて言った。
「俺にもいっちょかませてもらえるのか?」
「ああ。それより、ジョーの仕上がり具合はどうだ?」
「飲み込みは早い。……だが、短気なところがあるのが難点だ」
ジョーは、俺の舎弟の一人だ。俺がこの街にきて最初に愛した女の弟だ。
今は、このデイモンのところで修行させている。
「それにしても、セイヤは大したもんだな。これだけのことを私財で賄うとはな」
デイモンは、俺の肩に手を回して肩を組んできた。
昔から馴れ馴れしい奴だが、嫌いではない。この男のいいところは、金勘定が早いところだ。
それに約束は必ず守る義理堅いところも、信頼に足る。
「大したことはない。この街が復興したときは、大きく儲かるからな」
「それで、俺にどうしろと?」
「デイモンには、銀行商をしてほしい。この街の住人は金を持ち歩くか、家に置いている。だから強盗や盗みに入られると途端に路頭に迷うことになる。真っ当に働いて金を貯めても、それを掠め取る奴がいればまともに働こうと言う奴がいなくなる」
「確かに…… で銀行商か。お前が以前に話をしていたな。確か金貸し業のようなものだったような……」
「そうだ、金を安全を保証して預かる。預かった金を使って、金を借りたい奴に貸して利息を取る」
「つまり、貸した金を色をつけて返してもらうと言うことか」
腕組みをほどき、顎に手をかけて思案しているデイモンに、さらに俺は続けた。
「しかも、金を預けた客に金を返すときは、少し色をつけてやると客はこぞって預けに来るだろう」
「商売がうまくいくかどうかは、どれくらい上乗せするかってことだな。おもしろい」
デイモンは、計算力がずば抜けている。おそらく、すでに損せずに経営する計算はできているはずだ。
ジョーをこの男のところで修行させたのも、この男の計算力と人を見る目を学ばせるためだ。
「ところで、金を貸してほしいと言う客がどっと押し寄せたら、どうしたらいいんだ? 俺もそんなに手持ちの金はないぞ」
「それは、問題ない。初めに俺が金を預けてやるから、それを使え」
「なるほどな! セイヤのポケットの中にどれくらい入っているのかわからんが、金の融通はセイヤがしてくれるのなら心配はなさそうだな」
デイモンの豪快な笑い声が、東地区中に響き渡った。
◇
◇
デイモンと会った後、俺とカトリーナは、しばらくぶりに会っていた。
店ではもちろん毎日でも会っているが、こうやってカトリーナの部屋に上がり、そして裸で向き合うのは久しぶりだ。
酒場で会うカトリーナも魅力的だが、こうやって一人の女として俺と会う時のカトリーナは、さらに色気が立っている。
「近頃ちっとも来てくれないから、嫌われちゃったのかと思ったわ」
そう言うと、カトリーナは、大きく張りのある胸を惜しげもなく、俺に押し付けてきた。弾力があり、きめの細かい肌は手触りがいい。
カトリーナは足を俺の足に絡ませ、胸の上に頭を乗せ俺を見た。
いつ見ても美しい女だ。猫やヒョウのような目をしていて、鋭いがクリっとした愛嬌のある目だ。目を瞑ると、長いまつ毛がよくわかる。
カトリーナは唇を合わせ、俺の舌を探すかのように彼女の舌が唇を割って入ってきた。
お互いに舌を絡め、唇を吸い合う。静かに、何度も、何度も愛を確認し合うように……
普段は、美しく着飾り、妖艶な肢体で客の目を楽しませる酒場の女主人は、俺との情事で満足したようだった。
俺はタバコに火をつける。
「それで、俺に何を頼みたいんだ」
カトリーナは、肩で息をし、しばらく余韻を楽しんでいたが、俺の問いかけに息を弾ませて答えた。
「踊り子を紹介してほしいの。うちの店の女の子ではダメ。……あの子たちは踊れないから。セイヤならいろんな女の子を知ってるかと思って……」
「うちの店のカウンターって広いじゃない。だから、カウンターの上でセクシーな女の子が踊ってくれると、客も喜ぶだろうし、店の売りになるだろうと思って……」
「ダークエルフの女だが、一人知っている女がいる。だが、そいつはフリーの踊り子だ。交渉してみるといい。今度、アンダルシアに連れていく」
「ダークエルフかぁ。どんな子なの? この街の子?」
「この街の女ではない。 一筋縄ではいかない女だが、踊りは申し分ない」
「一筋縄ではいかないって、面倒なことを起こしたりしない?」
「大丈夫だ。会えばすぐにわかる……」
カトリーナは、訝しげに俺の顔を見て来る。その女が俺の女かどうか気にしているのだろう。
俺は、その女とは知り合いなだけだと言って、抱き寄せ口づけをした。
ほんのりと甘い花の香りが、カトリーナの髪から発せられ、鼻腔をくすぐる。
いい匂いだ。
「ダンジョンに入るかもしれないから、しばらく来れない。出て来たらアンダルシアに寄るようにする。それまで待っていてくれ」
「セイヤがダンジョンに入るって久しぶりじゃない」
「ああ、ちょっと冒険者に育てたい子供たちがいる。そろそろ実践に行かせようと思ってな」
「面倒見がいいのね……」
カトリーナは、ニッコリと微笑むとベッドから出て、身支度を始めた。
さぁ、俺も騒がしいオーガスト家に行くとするか。
<つづく>
第三章の幕開けです。
応援をよろしくお願いします。





