第四話:オーガスト三姉妹
元冒険者でこの国の英雄である勇者ベルの邸宅は、ダンジョンのすぐそばに建てられている。勇者ベル・オーガストの屋敷にしては、貴族の屋敷のような煌びやかさはない。
勇者は、炎竜を倒して財宝を持ち帰ったため、貴族たちよりも大きな財産を作っているが、虚栄心を張ったり、体裁を気にするような男ではないということだ。
勇者ベルの活躍は、冒険者だけでなく街の少年たちの間で多少脚色された物語として語られていた。
冒険者たちは、いつか俺たちも竜を倒して、ひと財産を築いてやろうと毎日のようにダンジョンに狩りに入り切磋琢磨している。
ベル・オーガストの邸宅は二階建ての石造りで無骨な見た目だが、それはこの邸宅の一階が冒険者ギルドになっているからだ。
ドアを開けて入ると、そこはギルドの受付と談話室となっていて、冒険者が狩りの前にパーティを探したり、待ち合わせに使ったりしていた。
また、受付のカウンターには三人の男が受付役でいる。
元冒険者のため、やたらモンスターの急所やドロップアイテムに詳しい受付の男たちは、皆ヒゲを生やした老人だ。
老いてはいるが、服の上からでもわかる筋肉の付き具合から只者ではないということが見て取れる。
勇者ベルと一緒にダンジョンを攻略した元パーティーのメンバーだった男たち。そのため、受付をしている男たちに無礼な言葉遣いをする冒険者は一人もいなかった。
受付の裏には扉があり、奥に二階に通じる階段がある。
二階がオーガスト一家が住む住居となっている。
「おねえちゃ〜ん! セイヤさんが来たよ〜!」
受付にいたアナベルが扉を開けると、大声で二階に向かって叫ぶ。
勇者ベルには三人の娘がいる。どの娘も母親似の美人と評判だ。
そのため、美人三姉妹と会うこともダンジョン攻略と同じくらい、冒険者の楽しみの一つにもなっていた。
毎日、夕方になると談話室で、目が合ったとか、挨拶をしたとか、狩りの成果より娘たちについての自慢合戦が始まることもしばしばだ。
「セイヤさん…… おお、おはよう……ございま……す」
アナベルはまだ十二歳の少女だ。大きな瞳と長いまつげ、栗色の長い髪を後ろに一つ束ねている。
この髪型は、馬の尻尾に似ていることから、ポニーテールと呼ぶそうだ。
人見知りで内向的な性格のため、受付にいることはめったにいない。
「おはよう、アナベル。今日は珍しいな。お手伝いか?」」
「ち、ち、違い……ます」
モジモジしながら、受付のおっさんの後ろに隠れた。
姉を呼ぶ声と、俺と会話するときの声のトーンが数段違う。
姉を呼ぶときは、元気の良い少女の声なのに、今はか細く声を絞り出しているようだった。
受付の男たちは赤ん坊の頃からアナベルと接しているため、慣れているのだろう。
後ろに隠れたアナベルの肩に手を回すと、アナベルを前に連れ戻した。
「アナベル、マーガレットはいるかい?」
「いま……す。たぶんお着替えしてると……思うんだけどぉ……」
俺の問いかけに、ぽつぽつと言葉を返す少女は頬を赤らめている。
ギルドの中に育ったアナベルは、冒険者の悪い言葉遣いが移って、ときどき友達口調で話す。
そこが可愛いと冒険者の男たちは、アナベルをまるで愛玩動物のようにアナベルを愛でた。
こんなに人見知りで大丈夫かと心配になるが、この娘は俺と二人きりになると途端に普通になついてくるから不思議だ。
もしかしたら内向的な性格は演技なのではないかと思うことがある。
前回来たときは、初めは人見知り全開で避けているが徐々に慣れてくると俺の膝の上に乗って来て、離れようとしなかった。
しばらく待っていると、階段を駆け下りるドタバタとした音が聞こえてきた。
「セイヤ〜! 会いたかったのぉー!」
ドアから駆け下りてきた少女は、赤髪を振り乱しながら俺に駆け寄りジャンプして俺に飛びついてきた。
それを受け止めて、抱きしめると柔らかい体には大きな弾力のある胸が押し付けられた。
袖のない大きく開いたノースリーブの服の脇からも、豊かな肉がはみ出して見える。
談話室にいた冒険者は、ティルシーが俺に抱きついたことよりも胸に目が釘付けになっているので、ティルシーを抱く腕を少しずらして、胸が見えないように腕で隠した。
冒険者の俺を見る視線がさらに鋭く突き刺さっているように感じる。
この娘はマーガレットの妹、次女のティルシーだ。アナベルと違い、活発で元気がある。
どこかサリーに雰囲気が似ているのは、はっきりとした物言いと鍛えられた肉体だからだろう。
勇者ベルの血を濃く引き継いだのはティルシーだと、もっぱらの噂だが俺も同意見だ。
「そろそろ降りてくれないか、ほかの冒険者が見ているぞ」
「あはは、いいの、いいの……ああん……セイヤ、どさくさに紛れて私のお尻触ってるのぉ~」
冒険者が、バッと一斉に振り向き、俺に白い視線を浴びせてくる。
「お前の筋肉でカチコチの尻も悪くはないが、俺はもう少し女性らしい丸みを帯びた尻が好みだ」
ティルシーは、ぷぅっと頬を膨らませて俺から離れた。
「こんなセクシーな、お尻にタダで触れるんだから、もう少し褒めて欲しいの~。でも、セイヤはお姉ちゃん一筋だもんねー」
そう言うと、ティルシーは自分の自慢の胸を寄せてから、前かがみになる。
何を思ったのか、無駄に豊満な谷間を見せつけて言う。
「どう、セイヤ。おねえちゃんよりも大きくなったと思わない? ねぇ、ねぇ」
おお~! と場の空気が盛り上がった。
ティルシーを見ていた冒険者たちがティルシーの胸に釘付けになっている。
あの男、羨ましいぞ! と言う声まで聞こえて来た。
「これこれ。ティルシー、はしたないことをしてはいけない」
受付の爺さんの一人が、ティルシーをたしなめた。
ハイハイと返事をしてティルシーも渋々とふざけるのをやめる。
おてんばのティルシーが素直に従うのは、この老人がティルシーの剣術の稽古をつけているからだろう。
超一流の冒険者から小さな時から剣術を習っているティルシーは、ダンジョン地下二階までは攻略済みだった。
「勝手に上がらせてもらうぞ」
俺は、そう言うと受付裏の扉を開け、階段を上がった。
階段を上ると両脇にドアがいくつも並ぶ長い廊下がある。
それぞれ三姉妹の部屋と客間、その他寝室などがある。
客間は広く、家族団欒の場にも使われている。それ以外に食事をする部屋があった。
どの部屋も広くて清潔にされているのは、この家の使用人が丁寧に仕事をしているからだろう。
カールストン国の勇者ベルの邸宅で働けることは名誉だと、以前使用人が胸を張って言っていたのを思い出す。
通路の一番奥の突き当たりがマーガレットの部屋だ。
俺は、ドアを素早くノックし、返事を待たずドアを開けて中に入った。
「あっ……!」
お互いに、驚きの声をあげた。
マーガレットは上半身は裸で、下はドロワーズだけの姿だった。
「セイヤさん、そ、そんなノックの返事、まだしていないのに……いきなり、困りますわ」
左手で胸を押さえて隠し、右手でとっさにベッド上にあるワンピースを手にとった。
「すまない。てっきり着替え終わっていると思い込んでいた。しかし、何故まだ服を着ていないんだ? 起きたばかりなのか?」
「なぜって……セイヤさんに会うのに何を着ようかと迷っていたら、時間がかかっちゃって……」
俺に会うために服をわざわざ着替えてくれる。いい女だ。
「服は何でもいいだろう。それに、すぐ脱ぐんだし」
「あ、あああ。そんな、すぐ脱ぐだなんて……恥ずかしいわ」
俺がデリカシーのないことを言うのは、わざとだ。
マーガレットはなぜか言葉で虐めると喜ぶ。
「お前の裸は誰よりも美しい。その無駄に大きな美しい胸と、男を誘うためにあるような大きな尻は上級の彫刻師が作っても真似ができない美しさだ」
多少、悪い言葉を入れておくだけで、マーガレットは嬉しそうに身をよじって恥ずかしがる。もちろん、嬉しそうな顔をしているのだが。
「ああん、そんな……私のおっぱいとお尻ばかり……。そんなに欲情に飢えた目で見られると……私、恥ずかしいですわ。ハアハア」
マーガレットは顔を真っ赤にして、身悶えしている。
「そんなに恥ずかしがることはない。美しい裸体だ。是非みんなにも見てもらいたいくらいだ」
「ん、んんーー!」
マーガレットが腰を捻って身悶える。
いつも思うが、恥ずかしがり方が尋常ではない。
「そんな、私のハダカを男の人たちに見せたいだなんて…… はあはあ……想像しただけで、こ、興奮する……あんんんー!」
とろんとした目をして、自分が多くの男たちに視姦されているところを想像しているのか、一人で喜んでいる。
いつも思うが、嫌なのか嬉しいのかどっちか分かりづらい。
恥ずかしいことが、この女にとって嬉しいってことか。
きちんと編み込んで後ろにまとめられた金髪は、艶やかでうなじのほつれ毛が男心をそそった。
マーガレットは、ドロワーズ一枚の姿で俺に倒れかかるように抱きついて来た。
「会いたかった、セイヤさん。今日、とても会いたかったわ」
「ずいぶん久しく来ていなかったからな。だが、急に来て迷惑だったか?」
「迷惑だなんて……突然でも来てくださるだけで私は嬉しいです」
潤んだ瞳が俺の顔を目に焼き付けるかのように、俺をまっすぐに見る。
俺は、マーガレットの顎を掴み、強引に上を向かせると唇を重ねた。
押し付けられた唇は、想像以上にやわらかい。俺にとっては何でもないキスだが、マーガレットにとっては待ちかねたキスだ。
会いたい気持ちが昂ぶって、毎日一人で慰めていたのだろう。
だからこそ、キスだけでも心が熱くなったようで、頬を一筋の涙が流れた。
「ああ、セイヤさん…… あ、ああああぁぁぁぁ……」
その後、かなりの時間ベッドで俺たちは話をしたが、マーガレットは満足したのか、そのまま眠ってしまった。
寝顔を見ながら、頭を撫でてやると幸せそうな顔をしていた。
いい夢でも見ているのだろう。
紅潮した頬、涙で湿ったまつ毛、何度もキスを交わした柔らかな唇。見ているだけで満足だった。
マーガレットは勇者の長女として毎日大変だったはずだ。
勇者であり、父親であるベルはすでに老人となり、今では病気がちで言葉も発せられないくらい衰弱しているらしい。
それでも、三人姉妹は元気にこの家とダンジョンを守っていた。
だから、この三姉妹は俺が守ってやりたいと思っている。
俺は、そっとベッドから抜け出すと服を整え、一階に降りた。
既に、何組かの冒険者はダンジョンでの狩りを終え、受付に今日の成果を報告しに来ている。受付の爺さんたちも、忙しそうだった。
俺は、屋敷から出ようと入口まで行くと、一人の少年が入口の外でウロウロしていた。
入ろうか、入るまいか悩んでいるように見える。
見たところ、まだ少年だが背中には両手使いの大きな剣を背負っていた。
防具は、簡易的な肩と胸、腹を守るだけのセパレート型の皮鎧のみ。
道具を入れているだろう布袋はボロボロだった。
こんな袋では、ダンジョンでドロップした品物を入れることはできないのではないか。
「どうしたんだ、入らないのか? 待ち合わせなら中の談話室で待てばいい」
俺は、まだ駆け出しの冒険者だろう少年に向かって言った。
すると、少年は俺の顔を見るとまっすぐと俺に向かって頭を下げた。
「キッドと言います。冒険者になりたくて来ました。ぜひ僕とパーティを組んでください!」
<登場人物>
セイヤ・・・・・・・・氷竜殺しの元勇者。マーガレットのヒモ。
ベル・オーガスト・・・炎竜を攻略したカールトン国の勇者。当家がダンジョンの管理をしている
マーガレット・・・・・勇者ベルの長女。18歳。セイヤに恋している。
ティルシー・・・・・・勇者ベルの次女。16歳。血気盛んで冒険者を目指す赤髪の女性
アナベル・・・・・・・勇者ベルの三女。12歳。人見知りだが、二人きりになると積極的になる
お楽しみいただけたら幸いです。
少しでも面白いって思っていただけたら、次も書く原動力になるので感想をお待ちしています。





