二章一節
村を後にしてどれくらいだろう?、10日は経っただろうか。
ギルは足を止めることなく、歩き続けていた。
早く王都へ着く、ただその一心だった。
歩き続けること2時間程度、見覚えのある道が見えてきた。
「この道は王都へ続く街道だ、やっと着いたか・・・」
その場に座り、一息つくことにした。
風が頬を撫でる。
「涼しいな、もう秋か。そしてすぐに冬になるんだな」
野晒しになったままの仲間のことを考えると心が痛んだ。
だが、立ち止まるわけには行かない。
仲間の為、友の為にここまで来たのだ。
(後少しだ、頑張れ俺!)
自分を奮い立たせると、王都へと再び歩き始めた。
〈王都リーゼルマイン〉この大陸において、最も活気溢れる広大な都市であり、ギルの故郷である。
また、美しい街並みから〈宝石の花畑〉とも呼ばれている。
ギルは戻ってこれた嬉しさを噛み締めつつ、すぐに行動に移ることにした。
ラズニールのことだ、恐らく簡単にわかる場所に証拠は隠していないだろう。
(とりあえず、あいつの家に行ってみようか。家族はどうしているだろうか・・・)
とはいえ、表だって行動することは出来ない。
どこにガルバルドの手の者がいるかわからない以上、安易な行動は危険だからだ。
(夜になるのを待つとするか。我が家には戻れない以上、宿に泊まるしかないな)
先ずは泊まる宿を探すことにした。
飛び込みだったため、少しばかり高い宿代ではあったが、なんとか泊まる場所を確保することが出来た。
「風呂に入って綺麗にしないとな。この汚い風貌では人には会えないな」
ギルがぼやいた。
確かに、風呂に入る機会がなかった以上汚いのは当然である。
鎧や兜で隠れていたため、周りには見えなかったが、髭は伸び、髪はフケだらけ、体は垢まみれであった。
その姿からは到底、騎士には見えなかった。
「風呂に入ったらラズニールの家に行こう。家族がどうしているか心配だ」
ギルはそう言って浴場へと歩いて行った。
風呂を終え部屋に戻ると、新しい服に着替え、身なりを整えた。
己の姿にギルはため息を吐いた。
「深い傷だな、顔に腕、足もか。前のように体が動けばいいが・・・」
いざ戦いになった時、思い通りに体は動くだろうか。
(いや、考えても仕方ないな、なるようにしかならない)
ギルは首を横に振ると、立上がり、鎧を身に着け始めた。
「先ずはラズニールの家だ。家族の様子を見に行こう」
鎧を着け終わると剣を携え、宿を後にした。
ラズニールの家は住宅街の端にあり、よく遊びに行ったものだった。
(元気だろうか?いや、元気な訳がないか、ラズニールが戻っていないのだから・・・)
悲しみに暮れつつ、ギルはラズニールの家に向かった。
・・・?家に灯りがない、留守か?
隣の家の扉を叩く。
「誰だい?こんな夜更けに」
老婆が眠たそうに扉を開けた。
「夜分に済まない。隣の者を訪ねてきたのだが、留守なのだろうか?」
「あんた、この街の人じゃないのかい?」
「ああ、ここの家族に用事があって他の街から来たんだ」
ギルがそう言うと、老婆は悲しそうに話始めた。
「ここの家族はね10日ほど前に、盗みに入った賊に殺されてしまったんだよ・・・」
「え・・・」
「ひどいもんだったよ。奥さんも両親も子供さえも殺していったんだ、人間のすることじゃないよ・・・」
老婆の言葉にギルは途方にくれるしかなかった。
みんな殺された、盗賊に?そんな都合よく殺されるわけがない!
ガルバルド・・・間違いなく、奴の命令だ。
ラズニールが家族に話すとは思えない。
なら、なぜだ?なぜ殺されなければならない?
家に証拠が隠してあると思ったからか?そのために、盗賊を装った?そして口封じに?
・・・もっと早く戻っていれば助けられたのだろうか。
ギルに後悔だけがのし掛かる。
「でも、貴重品は残っていたんだと。なにを盗んだのかわからなかったようだよ。なにか特別な物を持っていったのか、ただ殺すためにきたのか、結局わからずじまいさ」
老婆は、自分の知る限りのことを伝えると、扉を閉め家の中に戻っていった。
(すまないラズニール、俺はお前の家族を守れなかった。全てが終わったら詫びさせてくれ)
ギルはラズニールの家に頭を下げると、宿へと戻っていった。
宿へと戻ったギルは考えていた。
(わかりやすい場所にはまず隠さないはずだ。なのに家を狙うということは、どこに証拠を隠しているかわかっていないということだろう。しかし、何処に隠してあるのだろうか・・・)
ふと、ギルはラズニールと任務に行く前に、共に夕食を食べたことを思い出した。
「そういえば、珍しく俺の家で夕食を食べたっけ。いつもならラズニールの家に呼んでくれて、みんなで食べるのに」
・・・もしかして、俺の家に隠してあるのだろうか?
その可能性はあるな。ならやることは一つ。
明日、我が家に行って探してみるだけだ。
どんな証拠でどこに隠してあるかわからない以上、探してみるしかない。
どのような証拠が出てくるか不安の中、ギルは眠りに就いた。