Festa della Donna
第二十七回開催は3月10日(土)
お題「いつもありがとう」/甘党
3月9日はありがとうの日、3月10日は砂糖の日、3月14日はホワイトデーです。
皆様の参加をお待ちしております。
作業時間
3/10(土)
23:34〜0:10
春の訪れを告げる黄色の花が咲き誇っている。祖母が昔から大切にしている庭には、小さな白いベンチブランコと、春に咲くミモザが植えられていた。
私はその小さなベンチブランコに揺られながらのんびりと庭を眺めていた。家の中では夫のバッティスタがキッチンを占領してケーキを焼いている。オーブンの温度は大丈夫かしら、と心配になるけれど、イタリアの男たちは手慣れたものだ。
私は趣味であるレース編みを膝の上に広げて作業を始める。円くて、掌の大きさに仕上がったそれはコースター。家族や来客用にいくつも編んで、喜んで貰おう。
「ルアーナ」
バッティスタが玄関の窓を引き上げて、顔を覗かせた。私は手を止め、何? と首を傾げた。
「夜は食事に行こう、三つ星のリストランテ」
「本当?」
「と、行きたい所だったけど、トラットリア。でもコース料理だから、満足行くと思うよ」
「それは楽しみね」
バッティスタはもちろんさと片目を瞑る。
「ああ、いけない、君に見蕩れていたらケーキが焦げてしまうよ」
私はまあ、と言ってベンチブランコから立ち上がると窓から顔を出すバッティスタの頬にキスをした。
「私好みの味付けになっているのかしら」
「今日の主役の言う事は絶対だよ、ルアーナ」
バッティスタはそう言うと、窓から出ていた首を引っ込めた。
春の暖かな風が吹き抜けていた。
トラットリアでバッティスタがミモザの花束をくれた。私は根明なイタリアの男が好きだし、何より私自身、恋多き女なのだ。とろけたカラメルのように甘いささやきに、私の頬も思わず緩む。
「君のような女性に出逢えたことに、神様に感謝しなくちゃね」
バッティスタはシャンパングラスを重ね、乾杯、と言った。
二人の時間はこれから。
家に着いてから、彼は「まだお腹に余裕はある?」と聞いてきた。
「私を肥らせる気かしら?」
と、意地悪い視線を向けると、彼は私の腰を引き寄せて軽くキスする。
「痩せてても、肥ったとしても、十分魅力的だよ」
そうしてキッチンへ向かうと、満開の花のようなミモザケーキ。甘党の私の為に、彼はとびきり甘いケーキを用意してくれたのだろう。
「いつもありがとう」、その意味を花とケーキに乗せて。
言葉で言えないことは花で言う。だって今日はミモザの日。女を砂糖菓子のようにとろかして、甘やかす日。
23:00開催なのに大幅に遅刻したため、大変短い作品になっています。