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未定  作者: アジツケノリ
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 死後の世界というものを知らないので、これがそうかと早合点してしまいそうになった。そうか、俺は死んだか。けれどどうしてだろう、としばらく闇の中で呆けているうち、次第に意識がはっきりとしていく。仰向けになった背中が痛い。後頭部にゴツゴツした床が当たっている。手で床に触れると、硬くひんやりとした石の感触が感じられる。地面と重力があるということは、まだ地上にいるらしい。しかし、この暗いのは一体どうしたことだろう。


 目を慣らそうと、しばらくじっとしていることにした。そうする間に、また少しずつ意識は覚醒していき、記憶の糸が一つにより上がっていく。「学校」――そのことが頭を過った瞬間に少しハッとしたが、すぐに自分が非日常の中に投げ込まれているのだと思い出す。非日常――そうだ、俺は二日前に突然知らぬ場所にやってきた。どうやって?それが問題だ。一番厄介なのは、訳の分からぬことが起こり始めたその瞬間、つまり普段通りの生活からこの非日常の世界へと「移動」したその瞬間に、俺が(そして並木ゆりも同じように)意識を失っていたということだ。いつもと同じ学校の昼休み、おれは普段通り昼食をとり、屋上のベンチに横になって目を閉じた。そこまでは何ら普段と変わらない。そうして、30分ほどして目が覚めるのもいつも通りだった。ただ、再び瞼を開いた俺の周りには草木が生い茂っていた。


 だが……そうだ、森の中を並木とあてもなく彷徨うという絶望的な状況から、俺は運よく逃れ出たところではなかったか?俺と並木を見つけてくれたあいつ……ハクアについていくことで。だが、それが何でこんな暗闇のなかにいる?


 そこから先はどうしても分からなかった。俺は仕方なく考えるのをやめ、暗闇の中床に手をついて状態を起こした。背中がズキズキする。特に肩甲骨と首筋が痛い。長いことこの硬い床の上に横たわっていたのだろう。首筋をさすりながらあたりを見回す。周囲は相変わらずの闇である。


 とりあえず闇の向こうのどこかにある壁を目指してみることにした。闇の中で四つん這いになり、慎重に這って進む。壁はすぐに見つかった。手触りからして、壁もまた床と同じ石でできているらしい。そのまま壁を伝って移動してゆく。すぐに、そこが小さな四角い部屋であることが分かった。 しかし、出口は見つからない。四つん這いのまま片手を壁に沿わせ、扉か何かないかとけんめいに探すが、手に触れるのは全く変わらぬ感触だけである。そんなはずはない、出口がなければそれは入り口もないということだ。入り口がなければどうやってここに俺がいる?。いや……。ふと、頭に浮かんだ絶望的な考えに、心臓が急にバクン、と跳ねる。ハクアなら、彼が昨日俺に見せたものがもし本当に「魔法」であれば、入り口のない部屋に俺を入れることだってできるかもしれない。彼は、もしそうなら、ここに俺を閉じ込めたか、もっと悪ければ、生き埋めにしてしまったということになる。


 焦燥がすこしずつ背中をせりあがってくるのが分かった。この暗闇の中で、一人閉じ込められたまま、飢え死にするのを待つのか?冗談じゃない!俺は半分気が狂いそうになりながら、闇の中をよろよろと立ち上がり、再び、今度はほんの些細な感触の違いも見逃すまいと壁を調べ始めた。


 扉はあっけなく見つかった。壁の一か所にちょうど床の間のように奥に引っ込んでいる場所があったのである。ただ、そのへこみ――というより段差――は腰より上ぐらいの高さにあり、四つん這いのままでは手が届かない位置にあったため、気づかなかったのだ。俺は早くも半ばほっとして、その段差の上に這い上がり、奥を調べた。すると思った通り、おそらくは木製の板に手が触れた。板の下のほうには取っ手のようなものが付いている。取っ手を自分側に引っ張ると、板の上方が固定されているらしく、そこを支点に回転し、外からほのかな光が差した。まったく……たったこれだけのことに何をあれほど焦っていたのかと馬鹿馬鹿しくなりながら、俺は部屋からはい出した。


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