五話 妖怪襲来
和也「今回は進展なしの回だなこれ」
クロ「そうとも限らないですよ?」
和也「そうか?ならどうぞご覧下さい!」
「さて、ここが人里か。何か賑やかな場所だな」
俺はようやく人里についた。ここに来るまでずっとトラブルしか起きてなかったけど…。
それにしても人里というのはなんと華やかな場所なのだろう。人には笑顔が溢れて、動物達が生き生きと走り回っている。俺は一種の感動さえ覚えた。
「ちょっとここで、休憩という名の情報収集と行きますか。俺はここら辺のこと何も知らないからな」
辺りを見渡し、適当に休める場所を探す。
「近くに良さそうな店は…………あそこかな」
俺は適度に人がおらず、空いていたお団子屋に入った。失礼だけど、第一印象的には店自体ボロい。ここの店主はそこそこのご老人と若い女の子が経営してるようだった。
「おじいさん、おじいさん」
俺は手招きでお爺さんを呼んだ。だけど、耳が遠いのか全く声が届いていない。そして、それを見ていたのか若い女の人がこちらへきた。
「ごめんなさい。おじいちゃん最近耳が遠くなってきてるの。だから許してあげて?」
「いえいえ、こちらこそ気付かず、すいませんでした」
「所でお客さん……ここら辺の人じゃないでしょ?」
そう女の人は聞いてきた。なんて答えようかちょっと迷ったけど今更嘘をついても仕方ないからな。少し濁して答えよう。
「そうですよ。ちょっと遠いところから来ました。」
「そうなんですか?なら楽しんで下さいね!何か食べたいものはありますか?」
「それじゃあ普通の団子で」
女の人は笑顔のまま、奥の部屋に戻っていった。和也はその女性から出されたお茶を一口飲む。そして、何故か突然さっきのお爺さんが話しかけてきた。
「何かお困りですかな?この老人で良ければお話をお聞かせ下さい」
和也はお茶を置き、一息ついてからその老人と目を合わせた。この人生経験豊富そうなお爺さんに聞けば色々とわかるかもしれない。
「お言葉に甘えて何個か質問をよろしいですか?」
どうぞどうぞ、頷く老人。俺はそのお言葉に甘えて聞くことにした。
「まずは博麗神社について分かる事だけでいいので教えて下さい」
その言葉を聞いて、いきなりドヤつく老人。なんだろう……長くなりそうと感覚的に思った。そうして、先程まで俺の横に立っていたご老人が俺の目の前の席に座った。
「そうですね。博麗神社とは何百年も昔に初代博麗の巫女『博麗霊花』によって作られた結界を維持するために作られた神社なのです。この場合の結界とは、賢者が作られた幻と実体の境界。そして、博麗霊花が作られた博麗大結界。その二つのことを指します。ちなみに博麗霊花の能力は創造する程度の能力だと言われています」
老人が話す情報量の多さに思わず苦笑。しかし、この人のおかげで幻想郷の成り立ちについてのことはそれなりに分かった。でも、俺が一番聞きたいのは……。
「幻想郷についてのことはわかりました。次に今代博麗の巫女について教えて下さい」
その瞬間、老人の表情が暗くなるように見えた。そして、老人は先程までの調子のいい声とは違い、少し声のトーンを落としながら答えた。
「儂はかなりの博麗マニアなのですが、どうもこの事を話すとなると胸が痛みますな。……『博麗麗奈』今までの博麗の巫女の中で群を抜いてずば抜けた戦闘センスを持っており、その強さは博麗の巫女随一。そして、悲しい事に博麗の巫女の中で最も恐れられている巫女なのです……」
「博麗の巫女最強で、博麗の巫女で最も恐れられている巫女……」
和也は何故か他人事ではない気がした。その考えはどこから来るのかも分からないが、ただそんな気がした。そして、老人は少し涙を浮かべながら話した。
「人里の皆はみんな博麗麗奈を恐れて近づこうとしないが儂はこの目で彼女を見てきたが全然恐れることもない可愛げな少女じゃった!それに忌み嫌われている妖怪を退治してくれる彼女を何故ワシらが遠ざけようとする!言語道断じゃ!儂は悲しい!」
そう言ってついにおいおい泣き始めたご老人。感情豊かなご老人の対処に困っていた時、タイミングがいいのか。さっき頼んでおいたお団子が運ばれてきた。
「おじいちゃん!何泣いてるの!お客様に失礼でしょ。ごめんなさい」
「いや、僕が質問していただけなんでお爺さんは悪くないですよ」
「そうなんですか?でも長々とお話してしまってたでしょ。取り敢えず、お団子食べて落ち着いてください」
そして、テーブルにお団子が置かれる。お団子は何も変な事は無い、基本的で美味しそうな三色団子だった。
和也はそれを一個食べようとした時、近くで大きな足音が聞こえた。それと同時に外がざわめきだした。急いで外に出てみると、妖怪が来たぞと、里中が阿鼻叫喚の嵐だった。
「これはマズイな!お爺さん、お姉さん、早く逃げて!妖怪が来る!早く!」
「でも荷物が……」
「荷物なんて後でいいから!お嬢ちゃん、お爺さんを頼んだよ」
そう言って、和也は背中に指していた自分の愛刀を抜く。これを戦闘の為に抜いたのはこれが初めてだ。
「あなたはどうするんですか?」
「取り敢えず当たって砕けてみるよ。じゃよろしく」
和也はそう言い残すと、事が起きている里の表門に向かって走り出した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
走り出して、数分。逃げている里の人たちを誘導しながら、ようやくその妖怪の姿が見える位置まで来た。妖怪は里の道を堂々と歩いている。俺はその大きさに驚いた。
「で、デカッ!あれ本当に妖怪か!?普通の建物より大きいじゃん!」
その妖怪の大きさは大体5〜6mちょいぐらいの大きさで肌は言わのように形がバラバラで岩の一つ一つがくっついて出来ているような妖怪だった。そして、妖怪はこちらを視認したのか真っ直ぐこちらに向かって来ていた。どうやら、ルーミアのような平和的な妖怪ではないらしい。
「さてさて、どうしよっかな。こちらから正面切って突撃しても勝てそうにないし。逆に守備に回っても、パワーではあっちの方が有利だからその内守り切れなくなるのは見えている。うーん、どしよ?」
そう考えている間にも妖怪は確実に家屋を蹴り飛ばしながら近ずいてきている。そんな中で和也はある事を思いついた。
「そうだ!こうゆう時は博麗の巫女に任せればいいじゃん!ということは俺のやれる事は一つ、博麗の巫女が来るまでの間こいつをここで足止めすることだ!」
和也は剣を構える。大きな足音を立ててゆっくりと近づいてくる妖怪。そして、妖怪は俺の目の前まで来ると睨み合ったまま一歩も動かない。
「このままでいい。このまま攻撃してこなければ結構な時間稼ぎにはなるだろう。でも何かおかしいな。さっきまであんなに暴れまくってたのに……」
そうすると、何やら和也の真下で砂をかき割るような音がした。だが地面には何ら変化はない。
「まさか!?」
その瞬間、和也の真下から岩の針が勢いよく飛び出してきた。それを和也は間一髪の所気づいて躱し、不意打ちで崩れた体勢を立て直そうとする。
ーーだが妖怪もその隙を見逃さない。
和也が体勢を立て直す前にその巨大な体からは予想だにしたい速さで拳を大きく振りかぶり、和也に一撃を食らわせた。
「クッ!……あぶねぇ〜!剣が無かったら確実に死んでたぜ」
和也はその攻撃を正面で食らったが、咄嗟に剣を盾にしていたお陰で建物に背中を叩きつけられるだけで済んだ。和也は崩れた家屋の瓦礫をどかし、また妖怪の正面に立った。
「すまないが、ここから先は通せないな。じゃあ次はこっちの番だな!」
和也は妖怪に向かって突撃。
その足に斬り掛かる。
だが、頑丈過ぎて刃が通らない。
和也は一旦距離を取り、もう一度飛躍し、今度は大きく太い腕を狙いにいく。そして当然だが、その刃は簡単に弾き返されてしまう。
「硬すぎだろお前。一体何食ったらこんなに硬くなれんだ?」
「グワァァァァッ!!!」
妖怪が唸りを上げる。
和也の剣による攻撃は全く歯が立たず、完全に防がれている。というより、あの岩のような皮膚が硬すぎて剣で切りようがない。
「.....これはちょっとまずいな」
そこからは、一方的だ。
和也が攻撃しないと見るや妖怪が一気に攻め立ててくる。
和也はそれをギリギリの所で躱す。
それの繰り返し。
だが、妖怪も馬鹿ではない、和也の動きを読んで確実に当たりが近くなっている。その動きに和也は段々ついて来れなくなってくる。
そして、攻撃を躱した時、一瞬だけ体勢が崩れた。それを妖怪は見逃さなかった。
「しまったッ!」
和也は剣で防ぐ事も出来ずに、そのまま脇腹を腕ごと吹き飛ばされてしまう。そして、妖怪はこれを好機に追撃態勢に入っている。腕を打たて痺れ剣が持てない。
もうダメだとそう思った時、大きな衝撃音と共にいつの間にか妖怪が煙をあげて仰け反っていた。
えっ?と困惑した表情を浮かべる和也。
瓦礫に埋もれながらも上空の方を見るとそこには紅白の服にみを包んだ少女が飛んでいた。
「あなたは引っ込みなさい。後は私がやる」
「博麗の……巫女」
そう。その少女こそが博麗の巫女【博麗麗奈】だった。
スパッとした短い髪、見ていると飲み込まれそうになる凛々しい瞳。どこを取っても常人とはまた違う魅力を持った少女だった。
こんな状況だが、和也はますます彼女に興味が湧いた。
でも、今はそれどころじゃない。
博麗の巫女と妖怪の一騎打ちだ。そんな物をこんな特等席で見れる俺って運がいいな。
そんな事を思っていると、早速始まった。
序盤は妖怪が積極的に仕掛けている。だけど、博麗の巫女はスルスルと軽い動きでで避けていく。まるでそこに攻撃が来ると分かってるようだ。これが力の差なのか、妖怪の方は疲れてきたのか見る見るうちに攻撃速度が落ちていく。
「そろそろ気が済んだかしら?じゃあこっちも気が済むまでやらせてもらうわ」
そう言うと博麗の巫女は素手で岩の妖怪に対して向かっていく。妖怪は必死にガード、だけどそんなものは通用しなかった。
ガードを打ち破り、攻撃が炸裂した。妖怪の岩のような腕は素手の博麗の巫女の一撃によってバラバラに崩れていく。
「もう暴れられたら迷惑なの。今回は誰か知らないけど助けられたお陰で被害は少なく済んだけど、今後こんな事があったら容赦しないわ」
妖怪はそれを聞いて、急に恐怖に駆られたのか、そのまま逃げるかのように森の方へと帰っていった。
和也は口を開けてただただ状況が飲み込めず、取り敢えずお礼を言おうと彼女がいた上空を見上げる。だけどそこにはもう誰の姿もなく、ただ破壊された家屋から出る煙がモクモクと立ち上っているだけだった。
「君!大丈夫か!」
瓦礫に埋もれたまま何もせずボーッとしていたらとある女性が話しかけてきた。
「ほら、立てるか?」
「あ、あぁ大丈夫。ありがとう」
「困った時はお互い様だ。ところで君は……」
「和也って言います。外の世界から来ました」
「そうか、君があの……私は人里長の一人上白沢慧音だ。気軽に慧音って呼んでくれ」
完全に崩れ去った家屋から出ると、慧音の後ろにいた複数人が早速瓦礫の撤去を始めている。俺が、その早業に感心していると。
「まず礼を言わせてくれ。君のおかげで人里の被害は表門の何軒かで済んだ。ありがとう」
「それだったら、俺じゃなく博麗の巫女に言ってください。あいつ倒したのは博麗の巫女なんだから」
「あぁ、勿論麗奈にも言うさ。でも、被害が拡大しなかったのは君が頑張ってくれたおかげだ」
固い握手をする。あまり自分の功績を感じられない和也は少し謙遜する。
「ところで、君はこの人里に何をしに?賢者の愛人と聞いたが?」
「あんな捏造記事信じないでください!?全く関係ありません!」
(まさか人里まで記事が出回っているとは……まさか人里の全員がこの噂を信じているのか?それだとしたらめんどくさいな)
和也は、腕を組んでこの誤解をどう解こうか考えていると。
「えーと……」
「あ!すいません!ここに来た理由はですね……まぁ、来たというか通り道というか……」
「通り道ということは、博麗神社に用事かな?」
「はい!そこにいる巫女に」
俺がそう言うと、慧音は突然疑うような目で鋭く俺を睨む。あまりの圧に何もしていない俺も気を張る。彼女の瞳にはそれぐらいの威圧が含まれていた。
「彼女に近づく理由は?」
俺は……答えられずに黙っている。今の俺にはあの子に近づくだけの理由はない。取り敢えずなんて答えをしたら殺されそうだ。
俺が黙っているのを見て、慧音は口を開く。
「あの子に近づく理由は幾らでもある。妖怪であれば、『殺意』。人間であれば、『憧れ』『興味』。色々な理由がある。異世界の住人である君は、彼女に会って何を望む?」
「俺は………」
そこで言葉に詰まる。だが、答えは出ている。だけど、その考えに至る過程を俺は説明出来ない。何故その考えに至ったのかそれは俺にも分からない。だけど、直感的にそう思ったんだ。だから、俺は間を空けて答えた。
「………彼女の『幸福』を」
思い悩んだ末、俺はその答えを口にした。まだ、最終的な考えはまとまっていない。だけど、これが今の自分が出来る最大の答えだ。
慧音のただならぬ雰囲気に覚悟し、身を構える。俺と慧音は見つめあった後………慧音が大きな溜め息を吐いた。そして、俺の肩を軽く叩いた。
「良かったよ。君が思ったよりいい人で」
「えっ?そんなの分かるんですか?」
慧音は先程までの表情とは違って、柔らかな笑顔をこちらに向けてきた。
「分かるさ。これまで色んな人を見てきたからね?私の目に狂いはない!」
「は、はぁー?」
あまりのテンションの違いに俺が戸惑っていると、慧音が俺の背中を思い切り叩いた。
「痛っ!?」
「男の子がうじうじ考えるな!麗奈の事は任せたぞ!幸福にするんだぞ?言質取ったからな?もし、泣かせたら……分かるよな?」
「は、はい!」
「じゃあ、行ってこい!」
俺は慧音の勢いに押されるまま、博麗神社に向かった。
「あの子には、幸せになってもらわなきゃ困るんだよ。任せたよ和也くん」
慧音「…………/////」
和也「慧音は何故か照れて喋れない」
麗奈「…………フッ!」
和也あいつはなんか怒ってるし」
和也「じゃあ終わるか。それでは」
慧・麗「さようなら!」和也「元気じゃん……」