十七話 紅魔珍事
長い割に全然進みません。物語にあまり関係なかったと思うけど、まぁ番外編みたいな感じてみてください
〜紅魔館〜
「昨日も入ったけど風呂でか!? 何人は入れるだろ?」
この館は何でも大きいから昨日から驚いてばっかりだ。紅魔館のお風呂は舘内に三つある。一つ目はここ、大浴場誰でも入れる。ここが一番この屋敷で大きいお風呂になる。
あと二つは客人用と主人様用だ。俺は客人として一応招かれてるから客人用でも良かったんだけど、ここが一番大きいって聞いてどのくらい大きいのか気になって入ってみた。
プール二個分はあるかな?
昨日入ってからというもの、気に入ってしまって朝も入ることにした。
「いい湯だな!風呂でこんなにゆっくり出来るのは初めてだ!」
俺がのんびりしていると、立ちこめる湯気から人影が見える。湯気でしっかりと見えないけど、すごく大きい。
「そこにいるのは和也か?」
人影のある方向から声がした。どうやら自分に喋りかけてきたらしい。というか、自分以外に和也という名前の人物はいない。
人影はどんどんこちらに近づいてくる。湯気の先から顔が視認できるまでに近付いた。
「お前がソフィアが言っていた人間だな?」
浴槽に現れた男が言葉を放った瞬間、急激な空気の重さに和也は驚愕する。
湯船が微かに揺れている……いや、違う。
自分自身が震えていることに和也は気づいた。
(...何て威圧なんだッ!)
その男の声音に敵対心は感じない。多分普通に話しかけてるだけなんだろう。だが、この体の中からふつふつと湧き上がる奇妙な感じ、その人が只者じゃないのが嫌でもわかる。
彼の身体を見ても納得する。二メートルをも超えそうな身長、体には無数の傷跡、優雅に大きく広がった羽が彼の力強さを物語っている。
なんか喋るのも臆してしまいそうだ。
「いやー、レミリアが気に入った人間がどんな人かと思ったら案外良さそうじゃないか!安心したー!」
そう言って男は和也の肩を叩く。
(……アレ?なんかイメージとすごく違和感があるんだけど?)
「なんかフランも懐いてしまってるし.....は! このままでは家族が奪われてしまうかも!? 」
(なんかすごい家族思いなんですけど!?全くイメージと合ってないんですけど!?)
「レミリアはともかく、フランは渡さんぞ。レミリアはもう大人だがフランはまだ何も知らない子供なのだ。だから、フランは私がこれからもっと愛してあげないといけないのだ」
「.........」
自分に言っているのか自身と自問自答しているのか分からない独り言をぶつぶつと言っているの大男。その様子を見た和也は拍子抜けして、呆気にとられていた。
「レミリアを頼んだぞ!あの子は少し不器用な所があるがそこが魅力なのだ! 料理をしては不味く作るし、掃除をしては逆に汚してしまうし、フランの世話を頼んだらどっちが姉かわからないくらいだ...……」
それは少し不器用という度を超えているのでは?というツッコミは入れないでおく。まだまだレミリアの事を語っていたが。これ以上はレミリアに悪いので聞き流すことにした。だが、レミリアのドジっ子ぶりはこの耳に焼き付けて覚えておくことにしよう。
後で楽しむために...…。
そして、和也は永遠にレミリアの話をしている彼に聞いた。
「あの? あなたは? 」
「おっと、紹介が遅れたな?俺はお前のお義父さんになるモルス・スカーレットだ」
そう言うと、手を差し出してくるモルス。和也はそれに応えて、がっちりと握手を交わす。
(スカーレット……ということはつまりこの人がレミリア達のお父さんか)
そして、和也はモレスというレミリア達のお父さんであろう人にここに来てから気になっていたことを聞いた。
「一体レミリア達含めここの人達ってなんなんだ?人間ではないことは分かる。けど、妖力が他の妖怪と違う気がするんだが...…」
「ほぉ...…力を見定めるだけの技量はあるらしいな?確かに私達は人間ではない。だが、普通の妖怪とも少し違うな。そうだな.....言うならば種族『吸血鬼』ってところか」
吸血鬼..…そういう妖怪がヨーロッパにいた事は知ってる。他にも人間の血を好むとか、ニンニクが嫌いとか。
「まぁ、恐れることは無い。我々は吸血鬼の中でも比較的穏やかな方だ」
「そうかもしれないけど、あのメイドは血の気がありすぎるんですが.....」
「アハハ! そうかもしれんな。でも、それは我が娘達を愛する気持ちゆえだ。彼女らはそれだけ主人に対して忠義を誓っている証拠だ」
「あれはもう忠義って言えない気がする...」
そんな雑談をモレスとしていたら、急にモレスが立ち上がった。
「入ってからそろそろ二時間経つ。私はそろそろ上がるとしよう」
「二時間!? そんな時間入っていたのか!? 」
「いつもの事だが? 何かおかしいか? 」
いつもの事って...…妖怪って誰でもそんなに長く入れるのか?
モレスはゲラゲラと笑いながら立ち去った。
(なんというか不思議な人だな。...人ではないけど)
モレスが風呂場を出て行ってしばらく経った。モレスが二時間も入っていたと言っていたから自分も少し耐久してみようと出来心で長く湯に浸かっていた。
だが、三十分も経たない内に限界が来てしまった。
「俺もそろそろ上がろうかな? 」
和也は湯船から上がろうとして立ち上がる。だが、それと同時にお風呂と脱衣所を繋ぐドアが唸りをあげた。
それを聞いた和也は慌てて湯船に顔まで浸かり隠れた。幸いにも湯気の力でここまで潜っていれば、殆ど自分の姿は周りから見えていない。その代わり和也も周囲を視認することは出来ていないでいた。
そして、ドアの方からどんどんと大きくなっていく声が聞こえてきた。
「フラン、私が洗ってあげるからこっちにおいで? 」
「嫌だ!お姉様洗うの下手で痛いんだもん」
「イイからイイから……それ! 」
「ひゃあ! 何すんの!? 」
(あぁー!!! やばい!!! これはヤバイやつだ!!!フランとレミリアが入ってきた!? 嘘だろ! ?ここの風呂って男女分けられてないのか?)
思い返してみよう。
風呂場は三つ。和也は一応初日にこの屋敷を一通り案内されている。勿論、この場所当然の事ながら訪れている。その際に案内をしてくれたメイドの説明も受けたのだが、和也はこの風呂の大きさに圧倒されてあんまり話を聞いていなかった。
でも、その時にメイドは大切なことを言っていた。
「混浴だわこれ...」
(混浴だわこれ...大事なことなので二回言いました! 大変だ! もし見つかってみろ! その時は最後レミリアかフランが口を滑らせてソフィアさんに言ったら.....考えたくもない)
風呂に入っているにも関わらず冷や汗をかく。
(どうする? このままこの風呂に隠れるか、それとも湯気に紛れて脱衣所に向かうか)
――選択肢一
レミリア達が出るまで湯船に隠れてやり過ごす。
この風呂場はとにかく広いのでバレる可能性は低い。和也もモレスが入っているのに気付かなかったぐらいだ。だが、リスクは同じ湯船に入ってることで色々と諸々と見えてしまうことだ。
ん?そんなの見なきゃいいって?それは無理だ。なぜなら俺が男だからだ!
――選択肢二
一か八か、レミリア達が身体を洗っている最中にダッシュでこの場から立ち去る。
これも現実的では無い。そもそもダッシュなんてしたら音でバレてしまう。たとえゆっくり進んだとしても湯気が少しでも晴れたら終わりだ。
結局のところ選べる選択肢は残ってはいない。
和也は最も安全策であろう選択肢一をとった。レミリア達が上がるのを待とう。
そう決意し、湯船の中で身を潜める。レミリア達が体を洗い終わり湯船に入った音がする。微かに水面が波打つのが分かる。
こんなに神経つかってるの久しぶりだ。
「お姉様...痛い」
「ごめんねフラン。でも二人で入れて嬉しいわ」
「私は全然嬉しくない...」
「.....ッ!? そう、またあなたは私を攻撃するのね。そんな子にはお仕置きよ! 」
「ちょっとお姉様ッ!? なんで手をワキワキしながら近寄ってくるの!? 本当にそれ以上近付いたらレーヴァテインだからね! 」
「私はそんなの関係ないわ。妹に対する愛情は炎より熱いわ! 」
「キャ!? や、やめてってお姉様! 」
フランの笑い声が風呂場に反響する。俺はそれを黙って聞いていた。おれの気持ちがわかるか?分からんだろう?このなんとも言えない甘い雰囲気を俺はいつバレるか分からないこの地獄でヒヤヒヤしながら聞いているのだ。
そして、俺は気づいた。湯船の波が少し変化している。バシャバシャと水しぶきの音がする。どうやらフランはレミリアから逃げて動き回っているらしい。
俺はどこにフランがいるか確認するため水面を凝視する。
.......波がどんどん大きくなっている...…音がだんだん近づいてくる...…そして今完全にフランを視認した。
レミリアから逃げているフランが近づいてくる.....ようやく視認出来た距離.....僅か三十センチ。
……逃げられるわけないよ。
俺は派手にフランぶつかった。
「きゃあ!? だ、誰? 」
「.....やぁフラン」
「和也? なんでここにいる? 」
「...まぁなんというか不幸な事故で...ねっ? 」
フランはタオルを巻いておらず...うん、まぁそうなんだよ。
俺はお姉様の方を確認する。眩しいニッコリ笑顔……やっぱりタオルを巻いていない……手に深紫のスピアを握っている。、
「待てッ!? お姉様待ってください!? 俺は別にやましい気持ちがあって隠れていたわけじゃないんですよ! 」
「ふーん、それで感想は? 」
「いやー、まだそんなに成長してないけどやっぱりなんかエロいと思います」
「ありがとう……じゃあ、死のうか? 」
レミリアがスピアを俺に投げてこようとする。俺は死を覚悟する。俺以外に女子の風呂を隠れて見ていて死を覚悟する男がいただろうか。
俺は目を閉じる。だがその時、ギィィとドアが開いた音がした。レミリアはそれを聞いてスピアを止める。
助かった! わーい、みんな助かったよ! 生きているよ!
「あらあら、和也さんこんな所で何してるんですか? 少しお話しましょうか」
俺はドアの向こう、笑顔で手招きをしているソフィアさんの元へ、とぼとぼと歩き出す。そして、俺は不意に二人を見る。フランは別れを惜しむ恋人のように、レミリアは親友が死んだ時のような様子で涙を流してくれていた。
あぁ、可愛い二人よ。俺が死んだら骨の一本でも拾ってくれ。
俺は二人との別れを惜しみながらソフィアさんの元へとゆっくり向かっていく。
紅魔編まだまだ続きます