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東方剣録伝 〜幻想郷最強剣士の物語〜   作者: 黒井黒
第二章 小さな異変と恋心
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十五話 紅魔館1日目



「あ〜、えっと.....」


「早く!早く!」


俺は今両手に(レミリアとフラン)を抱えている。抱えてるというより持たれているという方があってるかも。それも強烈に......。今にも手が引きちぎられそうだ。


「お姉様! 私が最初でしょ!」


「フラン、それだけは譲れないわ!和也はこのあと私とお茶を飲むのだから!」


わーい、美少女たちに取り合いされてる.....。まぁ、本当にそうだったら嬉しいだけどね。


「お姉様のバカ!」


「っ!?いえ、いくら妹に罵られようが譲れないわ.....」


「お姉様のバカ!お姉様のあんぽんたん!お姉様のおたんこなす!お姉様大嫌い! 」


フランがレミリアを罵倒するとその度にレミリアの手の力がだんだん抜けていく。そうして、フランが大嫌いと叫んだことで完全に堕ちた。


「フランに嫌われた...フランに嫌われた...フランに嫌われた...フランに嫌われた...フランに嫌われた...フランに嫌われた」


うずくまって部屋の端っこで何かを呟いている。レミリアが手を引いたことによって俺の所有権は完全にフランになった。そもそも俺の所有権は俺のものなんだけど........。


「おい、いいのか?」


「いいって何が?」


「.....っん」


俺は隅っこでその小さな背中を震わせている。フランの姉を指差す。


「あ〜、大丈夫大丈夫そのうち機嫌よくなるから。それよりフランと遊ぼう!」


「それならいいけど.....」


「じゃあついてきて! 」


フランに腕をとられて長い廊下を移動している。移動している最中に廊下ですれ違うメイドたちからの殺意漂う視線を向けられながら、ある場所に到着した。


「なんだ.....ここ...? 」


「ん? 図書館だけど何かあった? 」


「いや図書館にしては広すぎだろ! この館の半分近くの広さあるだろ!」


そこは図書館と言うにはあまり似つかわしくない。見渡す限りの本棚と、鼻腔を強く刺激する紙の匂い。

ふと上を見ると、やはり本棚が均等に並べられたフロアが五層と連なっている。


「いやいや、半分どころか紅魔館の二倍はあるよ」


「.......は?それってどういう」


俺がフランに詳しく話を聞こうとすると.....。


「全く騒がしいわね」


その言葉とともに本棚の影から出てきたのは、見ていると吸い込まれそうになる艶のある深紫の長髪で、一見寝巻きのような薄紫と深紫のラインが入った服着た少女だった。

少女は頭に被っている帽子の特徴的な三日月のシンボルを揺らしながら俺たちの方に歩いてくる。そして、少し悟ったように指をパチンと鳴らした。


「はい、結界張っといたわよ」


「ありがと!パチュリー!」


周りの景色が目に見えるぐらい一変する。辺りの壁や本棚に防護壁のような薄紫色の膜に覆われて、落ち着いていた図書館が不気味な空間に早変わりした。


(え?もしかして噂に聞く無詠唱魔法?カッコイイ!!俺もやってみたい!!)


あまりのかっこよさに歳に見合わず、内なる子供の自分が出てきてしまう。


俺がヒーローを見るような目でパチュリーと呼ばれた少女を見つめていると、彼女は煩わしそうに俺を見つめ返してくる。


「憧れるのはいいけど無理よ。私が言うのもなんだけど、そう簡単に出来るものじゃないわ」


「あっそう?」


「それじゃあ、私は自室で本を読んでるから」


そして、紫色の髪をした少女は大量の本を腕に抱え、息を切らしながら歩いていき本を落としそうになるもドアノブを回し、部屋に入っていった。

俺達はそれを見送った後、お互いの顔を見る。だが、俺の視線は固定化されず左右を行き来することになる。


「フラン........?これは一体どういう事ですか?」


自分自身誰に聞いているか分からなくなるが、一応『フラン』に話しかけていることには変わりはない。


何故か複数人いるフランドール・スカーレットは一人一人に個性があるのか互いに顔を見合わせて不思議そうにこちらを見てくる。それだけならいいのだが........合計四人もなるフランには炎を纏った剣が握られている。


話し合いが終わったのか四人のフランが、俺の方をじっと見つめてくる。


「「「「改めて私はフラン。フランドール・スカーレット。ヨロシクね! 」」」」


「うん.....質問には答えてないけどよろしく。それより、どれが本物のフラン? 」


「全員本物だけど? 」


真ん中のフランがブンブン剣を振り回しながら言う。


「一応聞くけど何して遊ぶの.....?」


「見てわからないのお兄様? 殺し合い()()()だよ」


「デスよね.....」


剣という殺傷武器が出てきた時点で大体予想はしていたけど、殺し合いにごっこをつける時点で本当に遊びにしか思っていないんだろうな〜。


(ていうか、あれまともに受けたら絶対に死ぬよね? )


多分、フランと俺との間は五メートル以上離れている。


(だけどね?すごく熱いの!今にも肌がこんがり焼けてしまいそうなんだけど!?)


「それじゃ、お兄様殺りましょう! 」


「ちょっと待った!? 君もまだ子供なんだし、もっと平和な遊びにしない?うん!そうだよ、そうした方が楽しいよ! 」


「いーやーだー! これがいい! この遊びがいいの! これじゃなきゃいやだ! 」


ブンブンと剣を振りながら地団駄を踏むフラン。


「駄々こねるなよ...なぁお姉様」


「...えぇそうね」


図書館二階のテラスでさりげなく優雅に紅茶を啜っていたお姉様こと、レミリア。どうやらフランを止める気もないみたいだ。高みの見物を決め込んでいる。その姿は優雅でソフィアさんのような気品さを感じられる。


フランはレミリアを認知すると、敵対心を剥き出しにして食いかかっていく。レミリアはそれに冷静に諭していく。さっきまでの妹に罵られ、項垂れていた姉の姿はなかった。


その光景を見て、俺は思考する。


(レミリア・スカーレットだっけ?フランもお姉様って呼んでるし姉妹って事であってるんだよな。それで、ソフィアさんはこの姉妹のお母さん........。レミリアはお母さんに似たコウモリのような羽が生えていて、フランは.....羽というより細い枝木に宝石に近い鉱石がぶら下がっていて、太陽に反射して綺麗に光っている。ソフィアさんがお母さんでレミリアが姉、フランが妹........この三人とも全員美女、美少女。世界が世界ならモテるだろうな.......)


それを思うと、今この可愛い女の子に引っ張りだこな俺はだいぶ幸せな気がしてきた。


「フラン、それ以上駄々こねるなら私に和也を譲りなさい!」


「お姉様、それだけはダメ! .....譲れない」


目がバチバチしてますよ〜?でも、やっぱりモテモテだ〜嬉しいな〜.....。

は〜い、二人が剣構えちゃったよ...。魔法陣が上に展開したよ...。あー、やり始めちゃった。

とりあえず、レミリアが紅茶を啜っていた席に座って二人を観戦しよう。


「お姉様! 和也は私と遊ぶの! だから邪魔しないで! 」


「あら、和也が来たのは私のおかげでしょ? 」


「そうかもしれないけど...。お姉様大嫌い! 」


「.....私はもう騙されないわ。和也は私のものよ」


(いや俺は俺のものなんだけど、誰のものでもないんだけど...)


図書館で鳴るとは思えない爆音が鳴り響く中、レミリアの紅茶を啜っていた俺はその戦闘を見ていた。普通に会話しながら高レベルの戦闘してる事に、俺は驚きを隠せない。


同時に複数の攻撃をこなしてる。フランは四人いるけど、やっぱり一人一人が複製とは思えない本当に意識があるような動きをしている。

レミリアは規則性がないフランの攻撃を完全に避けきっている。そして、もっとすごいのはこの激しい戦闘で図書館が壊れてないことだ。


......どうやら結界の効果らしい。


(ここの人達スゴすぎるんだけど...)


フランの一発でも食らったら昇天しそうな濃厚度の弾幕をレミリアは未来でも観てるかのような身体運びで避けていく。それをフランはもどかしそうな表情でそれを当然かのように対応する。


フランは長距離戦から剣での闘いに切り替えた。フランは四人に対してレミリアはたった一人、数的に有利な状況のフランは四人一斉に斬りかかっている。だが、レミリアは苦しい顔ひとつせずに余裕で避けている。

でも、レミリアは反撃を一切しない。避けるばかりで顕現させているスピアを使おうとしない、全て防御のための道具にしている。


そして、突然に呆気なく決着はつく。


フランの攻撃で体勢を崩したレミリアを追撃するように、フランの踵落としが轟音を立ててレミリアの頭に直撃した。レミリアはその勢いで地面に叩き伏せられる。俺とフランが見つめる中、レミリアはフラフラと立ち上がって、落ちている帽子を拾った。


「フラン、強くなったわね。私の負けよ」


「.........」


フランはその言葉に何も反応しない。そして、レベルが高すぎて全く着いて来れなかった俺もその一瞬だけは感じ取れた。レミリアは最後の瞬間だけ手を抜いてフランの攻撃にわざと当たったのだ。どうやら、フランもそれに気づいているようだ。


「お姉様なんて大ッ嫌い...」


「え? フランどうしてそんな事言うの、ねぇこっち向いてよ!? フラン何で怒ってるの!? 」


「和也......後で私の部屋に来て。少しお話しよ」


「フラン...私は呼んでくれないの? ねぇ、どうして無視するの? 」


「じゃあ、待ってるから」


「分かった」


フランはその後一切の言葉を話さず、図書館をあとにした。俺とレミリアはそれを見ていた。


「フランは何で怒っていたの? 」


「それはレミリアが一番分かってるだろ? 」


「私はフランに実力で負けた.....ただそれだけよ」


「そうかよ.....。でも、フランはそう思ってないかもな」


「まぁ...それはさておき。私とお茶でもしない? フランには負けたけど、別にあなたとお喋りしちゃダメってことは無いでしょ? 」


「でも、フランに呼ばれてるし........」


それを聞くとレミリアは、明らかに退屈そうしたような表情で椅子に座る。そして、ティーポットを持ち上げてティーカップに紅茶を注ぐ。湯気とともに温かな茶葉の香りが俺の欲をそそる。


「貴方は頭が硬いわよ?フランは後で、って言ったじゃない」


「それは、ただの屁理屈なのでは?」


「妹との話は出来て私とは出来ないっていうの?まぁ、とりあえず座りなさい。次期、当主命令よ」


レミリアは、ハイティスタンドに乗っているマカロンを一個頬張る。そして、紅茶を一口啜る。レミリアの恍惚に満ちた顔を見て、ゴクリと喉が鳴る。


「でも........やっぱり」


「この館の中に当主命令と言われて断る人なんていないわよ?極東の国の言葉で郷に入っては郷に従えという言葉があるのように、大人しく従っておきなさい」


流石に根負けした和也は、罪悪感を一緒に吐き出すように大きなため息をついた。


「ハイハイお嬢様の仰せのままに...」


「よろしい」と可愛らしい笑顔を魅せるレミリアに和也はどことなく懐かしさを感じていた。その理由は分からないが、レミリアとの会話を和也を楽しんでいた。


そのあと、俺たちは雑談をかわした。レミリアが話したいと言った割に大した内容でもなかった。というからほとんどフランの話しかしていなかった。


「楽しかったわ。また一緒にお茶しましょうね」


「分かった。また今度な」


レミリアも図書館から出ていった。そのあと俺は、少し急ぎながらフランの部屋に向かった。広い館の中で、場所を知っていたのはレミリアが話の中で詳しく言っていたからだ。


「さて、ここかな? 」


二回ノックをする。


「フランいるか? 」


俺が声を掛けると、ドアがゆっくりと半分だけ開く。


「フラン何してるんだ? 早くって....うわぁぁ!!? 」


フランに無理やり部屋に引きずり込まれた。


「フランどうしたんだ? 」


「少し座って...」


「何? 声が小さくて聞こえないよ? 」


「座って! 」


フランが座っている布団を強く叩く。あまりの剣幕に飛び上がる猫のように素早く座った。


「はい! .....何で怒ってるの? 」


「お姉様」


その一言で俺は納得した。まぁ、大体予想をついていたからあまり驚きもなかったけど。そして、その後「遅い!」とフランに怒られた。


怒るフランを宥めながら訳を聞く。


「何が気に食わないんだ? 」


「全部」


「というと? 」


「お姉様は私より何でも出来て、頭もよくて、強くて、可愛くて、なんでも揃ってる」


「それで...」


「それなのにお姉様は全部私に譲ってくれる! 勉強だって出来る問題も私と一緒だとわざと間違えてくれるし! 勝負だって最後に私が勝つようにするし! 優しさってことは分かってるけど!........でも私はなんか分からないけど面白くない」


冷たいかもしれないけど、フランの事は正直他人事だ。会って間もないし、レミリアのこともフランのことも何も知らない。でも、それを分かっていて彼女は俺に話した。この館には大勢の使用人もいるし、両親もいる。


だけど、それでも俺に話したんだ。他人である俺に........。


フランにとって俺は愚痴を吐き出すだけの人形みたいな扱いなのかもしれない。実際、そうなのだろう。それでも、俺は人間で感情があって、言葉も話せる。もし、フランが俺を人形ではなく一人の人間としてこの話をしているのだとしたら........。


俺がここで掛ける言葉は........。


「フラン」


俺はフランの頭に手を置いて優しい撫でる。


「........頑張ったな」


「.......和也! 」


「うぉぉ!?」


フランは俺の胸に飛び込んできた。手加減が無いもので、体が宙に浮いた気がしたが........。

フランは俺の腹に顔をうずめている。泣いているみたいだ。


「和也.....私お姉様に追いつけないのかな? 」


「別に無理に追いつかなくてもいいんじゃないか? 」


「どうして? 」


「レミリアに追いつくってことはレミリアと同じ道を走るってことだろ?だから、追いつかなくたっていいんだよ。フランはフランの道でレミリアを越せばいいんだ。それも、レミリアより困難な道で」


「じゃあ、私はどうすればいいの?」


「........分からん!」


「........は?」


フランは意味が分からないと言わんばかりの表情を浮かべている。


「つまりだ!フランはフランにしか出来ない道に進めってことだよ」


「なんなのそれ!」


そう言って二人は笑う。フランは涙を拭きながら、和也はフランを抱きながら笑い続けた。

そして、笑い笑い笑い続けて笑い疲れたら互いに顔を見合わせた。


「俺は君達の過去もこれからの目標も知らない。だけど、レミリアはレミリアでフランはフランだ。レミリアの道はレミリアにしか歩めないし、フランが追いつけるものじゃない。だから、フランはフランの道を探して歩き出そう?それの過程も君の道になるんだからさ!」


「お兄ちゃんの話は要領を得ないなぁ........。でも、言いたいことは分かるよ。そうだね、私はお姉様にはなれないんだ......。うん、見つけるよ。自分の道を......」


フランの顔にはもう不安そう気配は見えない。


「あぁ!フランが自分の道を歩き出せるように俺も手伝うよ」


「......ありがとうお兄ちゃん。でも、お兄ちゃんのせいでこれから大変なんだからちゃんと責任取ってよね!」


「まぁ、取れるように頑張るよ」


そうして、また俺達は笑った。今のフランの笑みに涙はない。覚悟が決まったフランドール・スカーレットの笑顔がそこにはあった。


俺らはそのあと夕食に二人でいった。その時に、何故か手を握ってくるフラン。でも、彼女の笑顔を見たら無理に離せなかった。既にテーブルにはレミリアとソフィアさんがいた。二人のお父さんは出かけていて今日は帰ってこないらしい。俺はフランとレミリアに挟まれている席に座った。


「ねぇ、和也?」


隣のレミリアが耳元で話しかけてきた。


「フランに何かしたの?」


「何かって何が?」


「機嫌よくなってるじゃない。何かしたんでしょ? 」


「別に何もしてないよ」


「.....そう」


レミリアはそのあと何も聞かずに黙々と夕食を食べていた。フランはニコニコしながら食べていた。


斯く言う俺は.....。


「何笑っているの? 」


「別に何でもないよ」


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