九話 恐妻
ツッコミどころ満載だと思う。自信なし!
よし、頑張ろう
〜和也side〜
慧音率いる人里親衛隊から任務を言い渡されてから早数時間特に何も無く俺は人里から少し離れた場所にある櫓門の上から妖怪の山を見つめていた。
和也は大きな溜め息を吐いた。
「こんな事なら神社で剣振ってた方が良かったかもな」
そう言ってもう一回溜め息を吐く。
ここでも剣を振りたいけど、慧音いわく"君の力を見たらみんな驚いてしまうだろう♡"だそうだ。今日の慧音は本気でとち狂っている。何か変な物でも食ったんじゃないかとさっき会った寺子屋の子供たちも心配していた。
「はぁ〜、本当に暇だ。暇すぎて死ぬ」
俯き顔を上げて遠くに見える山にまた目を向ける。何も変わりがない。また溜め息が出る。この数分で何回溜め息を吐いただろう。
もう一回里を見て回ろうかと思い始めた頃、不意に肩を叩かれた。
「アンタ何してん?」
そこには麗奈がいた。
「お前こそ何してんだよ」
「私はここでちょっと仕事があったのよ。それでアンタは?」
「俺は……」
そこで今まであった事を話した。ついでに慧音が狂ってる事も教えた。
「あ〜、それ霧雨の所にやられたのよ」
「霧雨?」
「この里で魔法具店をやっている所の店主の苗字よ。何処で見つけてくるのか変なキノコを見つけては慧音や里の人に食べさせているのよ。それで何度私が解毒作業をしたことか」
「それは災難だな」
寺子屋の子供たちの言っていたことはズバリ当たっていたらしい。
そして、麗奈は急な仕事が入ったと言ってまた飛び立とうとする。新しい仕事というのはきっとこれから慧音の解毒をしに行くんだろう。
「麗奈、行く前に聞いていいか?」
麗奈がサッとこちらを振り向く。
「その霧雨さんとか言う人に会っていいと思う?」
「そんなのアンタの勝手じゃない?私が決めることじゃないわ。でも行くとしたら絶ッ対キノコ食べちゃダメよ!また仕事が増えるから」
そう言うと麗奈はまた人里の方に飛んでいってしまう。
「さて、俺も行くか」
俺は門の警備を他の親衛隊員に任せて足早に霧雨さん家に向かった。でも俺は飛べないので人里に着くまでに30分は掛かった気がする。時計が無いから分からないけど。
「さてと、霧雨さん家は……あった?」
なぜ疑問形なのかと言うとそこが家か空き地か分からないぐらいのボロ屋で看板も崩れかけてきている。
でも一応扉はあるみたいでそこから入ってくださいと書き置きもある。イスに紙が置いてあるだけだけど。
「まぁ、とりあえずお邪魔…………え?」
状況を整理すると俺は扉を開けている。いや、違う。扉を"持っている"の方が正しい。そう俺は片手で扉を持っている。別に俺の力が強いとかって言う理由じゃない。触った瞬間に扉を持ち上げる事が出来た。
「うん、これはよくある事だよ。きっとそうだ」
持ち上げている扉を玄関横の所に放り投げて、玄関から入ろうとする。
そこには……
「神様、仏様、お客様………………」
と土下座しながら永遠に言っている黒髪の男性がいた。自分が言うのも何だが少し冴えない顔をしている。でもとりあえず話しかけてみる。
「あのー、ここ霧雨さん家であってますか?」
うんうんと頭を床にぶつかる勢いで振る霧雨さん。どうやら泣いていようだ。涙がポツポツと床に落ちているのが分かる。
「何泣いてるんですか?!顔を上げてください!」
上げさせないと周りの視線が痛い。ドアが壊れているせいかこの玄関の光景が周りの人に丸見えなのである。周りの人から見れば霧雨さんに土下座させている悪いヤツという風に見られてしまう。人里で悪名を広めるのは親衛隊的にも俺的にも不味い。
「ありがとうございます!ここにお客様が来るのは何年ぶりか!本当にありがとうございます!」
聞き間違いだろうか。今この人お客が来るのが何年ぶりとか言ってたよ!?どうやってこの店切り盛りしてるの!?
疑問は落ちてくる雨のように湧いてくるのだが、それを何とか押し殺して、質問した。
「この店の従業員はあなただけですか?」
「いえ、もう1人家内がいます」
家内つまりは奥さんだろうか?この男に奥さんがいる事が驚きだが良くこんな所に住んでるなと褒めてあげたい。悪い意味じゃないよ?
そして、奥からカタカタと音を立ててこちらに近づいてくる人がいた。
「こんにちは。私が妻の魔璃です」
その人はハッキリ言って息を飲むほどに美しかった。身長は旦那さんより少し小さい、大体170cmぐらい?すらっと長い足、綺麗に整った顔、そして、抜群のプロポーション。どれを取っても隙がない。極めつけはその髪だ。金髪ロングできめ細かく鮮やかな金髪が出で立ちの良さを十分に表している。まさに絵画に描かれた聖女のような女性だ。
でも、何故かどこかで見たことがある。記憶の中を探り出す。
「あっ!親衛隊の副団ちょ…………ちょっとなんですか?」
そう言いかけると、いきなり魔璃さんが近寄ってくる。しかも笑顔のままで……。物凄く優しい顔なのに物凄く怖い。そして、そのまま顔を俺の耳元まで近づけた。貴女の旦那さんが凄く反応してるんですけど大丈夫ですかと俺は思うがそんな事お構い無しに魔璃さんは小さな声で言った。
「その事言ったら、ぶっ飛ばしますよ?」
そんな怖い言葉が優しい声音で聞こえてくるので、俺はビクッんと肩を震わせた。それを言って当の本人は旦那さんの横でまた優しい笑顔を浮かべたままこちらを見つめている。いつでも準備は出来ているという感じだ。
旦那さんはその状況に右往左往している。
「まぁ、とりあえず上がってください。"和也"さん」
和也という部分を強調されまた肩が震える俺だが、お言葉に甘えて上がる事にした。
旦那さんもそれに応じて居間へと誘導してくれた。
居間に案内されて驚いたことは家の天井に見事に穴が空いている事だ。この事を魔璃さんに聞いたら
「その穴は最近妖怪が来た時の被害ですよ。前まではこんなにボロボロではなかったんですけどね。だから今建て直すための資金を貯めているんですけどねぇ〜」
そう言うと魔璃さんは旦那さんの方を見る。旦那さんはしゅんと下を向いた。
「この人が変な物しか作らないもので全く売れないんですよ。だから私が少しでも稼いでるんですけど……」
そうしてまた旦那さんの方を次は睨んだ。旦那さんは今度はその場で土下座をしている。稼いでいるとは親衛隊の事だろう。
「それをこの人は変な物を作る研究費に費やして、全くたまらないんですよね」
その顔は笑っているが目が鬼のようにギラギラ燃えているように見える。旦那さんは頭を床に擦り付けている。
恐妻とはまさにこの人のことだ、なんて事を思いつつ、あの事をきいてみた。
「最近、人里の人にキノコを食べてもらってると言う事を聞いたんですけど?」
そうすると、今まで床に擦り付けていた旦那さんがパッと顔を上げ、俺の肩を掴んだ。肩を掴まれるのは今日で二度目だ。
「キミはキノコに興味があるのか?そうか、そうか。興味があるんだな。良いだろう。話してあげよう。キノコの全てを!そして、今やっているキノコ研究の事も!それではまずキノコの生態から〜〜〜〜〜」
永遠とキノコの話を聞かせられた。キノコの生態からキノコの種類。キノコの形。キノコの鳴き声。まぁ他には覚えきれないほど何もかも教えて貰った。
途中魔璃さんに助けを求めたが流石の魔璃さんでもこの状態の旦那さんは止められないらしい。それから俺は1〜2時間キノコの話を聞かせられた。
「〜〜〜〜だからキノコは素晴らしいものなのである。何か質問は?……よし!今日覚えた事をしっかり家に帰って復習するように!……次に今やってる研究について教えよう!今やっている研究の大前提として〜〜〜〜」
まだまだキノコ攻めは続きそうだ。
それからまた三時間ぐらいキノコの研究の話を聞かせられた。もうこの時は意識が朦朧としてて覚えてないがどうやら見かねた魔璃さんが俺の口にキノコを押し込もうとしている旦那さんを気絶させて俺を救ってくれたらしい。魔璃さんは恐妻ではなく天使様だったらしい。
俺は魔璃さんと別れた後親衛隊本部に向かっていた。
「本当に今日は最悪の日だった。ハァー」
思わず溜め息が漏れる。これで427回目だ。一応暇だから数えておいた。
そうこうしているうちに本部についた。当然合言葉が必要なのである。
「合言葉を」
「妖怪を一匹残らず駆逐してやる」
そして、扉の鍵が開いた。
そこには慧音さんがいた。どうやら魔璃さんから俺がここに来ると言われていたらしい。
すると、突然慧音が頭を下げた。
「今日は本当にすまなかった。私とした事が君にひどい事を」
「気にしなくていいですよ。今日貴重な瞬間が見れたので許してあげます」
「それなら有難い。和也くん、はいこれ」
渡されたのは一枚の封筒だった。
「なんですか、これ?」
「今日の給料さ。少し多めに入れてある。何故か魔璃が多めに入れてくれと言ってきたのでな」
ありがとうございます、魔璃さん!と心の中でガッツポーズをする。
これならずっと旦那さんのキノコの話聞いててもいいかも何て思い始めていると慧音が手を出してきた。
「これで君も親衛隊の仲間だな」
「嫌です。勘弁してください」
「何故だ?きっちりと仕事をしてくれたじゃないか」
「僕はただの傭兵でいいんですよ。正式隊員なんてならなくていい」
「君がそう言うなら。残念だ」
そう言って、手を下げる慧音。それに少し罪悪感を覚えたが、仕方ない。
「ではまた明日も頼む。"傭兵"くん」
「分かりました。"団長"」
そうして任務を終え、博麗神社に帰った。
次は戦闘あるかなぁ〜?