プロローグ
あまりにも前が変だったのでリメイクさせました。お願いします……見てください
人というのはどこまでも愚かしい。思考の違い、生れ、性別などで互いの尊厳を穢しあう。それでも人は自身の愚かしさに気づく知能を持っている。
だが、改めようとしない。それが、人という生物の一番おかしい所だ。
そして、人間の上位種……と言っても人間から見たら下位になるんでしょうけど。
妖怪という穢れは人間と形は一緒。四肢に対して胴があり、頭がある。種族によって特別付与される部位はあるものの、さほど変わりはない。
だが、ここからが一番の違い。妖怪が人間の上位にあたる理由。
それは………力、知能、寿命。
ほとんどの妖怪は人間よりも身体能力が圧倒的に優れている。特別に訓練されていない一般的な人間がレンガを割るのに道具を用いるのに対して、戦闘に向いていない妖怪でもレンガぐらい拳一発で粉砕してしまう。
そして、知能。
………その説明をする前に妖怪の寿命について説明しよう。
人間五十年というと歌があるように、人間が生きられる時間は長くて約百年弱。
だけど、妖怪はその十倍。種族によって、違いはあるけれど千年は生き永らえる。
そして、時間があればそれだけの歴史をこの目で見て、経験し、その過程で当然知性も養われる。
生きる時間と知識は相互関係にあると言っていい。
妖怪という存在が認知されてつつあった頃は、まだ人間と妖怪の間では知識の差というのが存在した。
それもそうだ。
妖怪というのは人間の負の意識によって生まれるのだから、姿形を真似ていてもおおよそ理性が吹っ飛んでいるか本能的に動くばかりで言ってしまえば馬鹿な有象無象に過ぎなかった。
だが、その立場が変わった理由........それは。
ずばり、人間自体の数が増えすぎたのが主な原因である。
人間はロボットでは無い。生きて、考え、行動する。
十人の人がいて十人全員が同じ思考をしている訳では無い。だが、それが百、千、万と増えていったらどうだ?十の意識が束なって、百となる。それが千となって、人々に伝承され続ける。
それが人間のいう伝説や昔話というやつだ。
人間の間違いはその中に妖怪という悪意の塊があった事だ。
塊になった思考は、その者の力を高め、覚醒させる。いわば、妖怪は人間の想像で作られた想像の化け物という訳だ。
例で挙げるとしたら、『河童』という妖怪は単なる川に住む猿だった。だが、それを見た人間が想像で人に話し始め、それを聞いた人がまた別の人に話す。一人の人間から百人の人まで伝わるに伝わる頃には自分の悪意と恐怖の思考が混じり合い簡単に、名前を持った河童という妖怪の出来上がり。
その河童が力と知性をつけ、繁殖し続け、人間と同じように個性を持ち始めるのに時間はかからなかった。
しかし、人間も指を咥えて妖怪にやられる訳ではなかった。妖怪を認知し、退治しようとするものも現れ始めた。
だが、時すでに遅し。
妖怪は進化し元の種族の能力を持ちながら、人間と瓜二つの姿になったことにより人間と妖怪の区別がつきづらくなってしまった。人間の伝承に時々、妖怪を退治したという伝説があるがそれは一部の理性欠けた妖怪が倒されただけで、上位の妖怪は既に人間の中心部に根を張り、裏から人間を操っていたというのが正しい歴史だ。
人間は人間の手によって、憎き妖怪を進化させ、自身の立場を逆転せしめてしまった。人間と妖怪の優位は完全に覆ったのだ。
この物語を読む人がいるのなら、私がこれまで語ってきたことを含めて見てもらいたい。
これからの物語は、妖怪と人間が暮らす世界で綴られる物語。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ここはどこだ?」
そこは見たことのない世界。
周辺には薄気味悪い霧が立ち込め、歪な異臭を放つ木が生い茂っている。そして、周囲の木々の間から謎の視線を感じ取れる。
地面に寝ていた俺はゆっくりと周りを警戒しながら立ち上がる。
ここは何処だ?
一体どうなってるんだ?
そして、俺は誰だ?
俺にはここに来る以前の記憶がなくなっているらしい。
らしいという表現をする理由は、それさえもよく分かっていなかったからだ。だけど、この状況は一種の記憶喪失というやつになったのかもしれない。
今の俺には過去に自分自身に起こったことの記憶はなく、代わりにあるのは簡単な常識程度の記憶だけだ。例えば、そこに生えているキノコがどす黒くうねっていることに対して異常を感じ取れるぐらいには知識と理性がある。
もちろん、記憶喪失という症状にも一応の理解はある。唯一感謝するなら、理性が無くなり全くの無知ではなかったということか……。
(取り敢えず、これは記憶喪失で間違いないだろうな.....)
記憶喪失が理解出来る記憶喪失なんて馬鹿げていると思う。状況が整理できずに頭の中で考察していると、ひとつの声が聞こえてきた。
「ようやく起きたのね?」
その透き通った綺麗な声はどこからか聞こえてくる。周りを見渡しても人影は見えない。
「ここよ、ここ」
再び、声が聞こえた。だが、先程と同じで声の主らしき人の影はない。俺はこの異質な感覚に顔を歪ませるが、それと同時に妙な懐かしさを感じることに気づく。
頭で整理する暇もなく自然と答えが出てきた。
「テレパシーか……」
「ご名答」
頭の中に直接語りかけてくる女性の声。俺の答えに対してくすくすと嘲笑じみた笑い声が漏れ聞こえてくる。自分の中に残る記憶の欠片だろうか?俺は…この声を前に一度だけ聞いたことがある………そんな気がする?
そんなあやふやな感覚を覚えるだけで、どこでこの声を聞いたのか全く思い出せない。出かかっている答えが出てこず、何だかあまりいい気分ではない。
「お前は誰だ?」
そう問い返しても響くのは俺の声のみ。辺りを見回しても、やはりどこにも居ない。だけど、俺は声の主が今の俺の状況に一枚噛んでいると推測だがそう思った。というより、それ以外情報が無い訳だが……。
「……ちょっと場所を変えましょうか?」
彼女が言ったその瞬間だ。
俺の立っている真下に謎の空間が現れて、俺の体重を支えていた地面が消えた。そして、自然の原理に逆らうことも出来ずにその先の見えない暗い空間に誘われ...…落ちた。
そして、少しの浮遊感を感じたのち地面らしきものに叩きつけられた。その時に、尻を強打する。
「痛ッ!なんなんだよ……あれ、ここどこ?」
そこはまたもや見たことも無く、ただ何も無い黒い空間。唯一の頼りは自分の足元に光る謎の光源のみで、それ以外は暗闇で先は見えなくなっていた。
俺が困惑して動けずにいると、
「ん?」
何やら人魂のような浮遊体が現れた。それは列を成すように少しづつ増えていき、俺の直線を道を作るように照らしていった。
そして、最後の人魂が現れるとそこには……。
――人がいたのだ。
位置は遠く、薄暗いここでは顔は見えない。だが、その人は人魂で照らされた道を甲高い靴の音を鳴らしながらゆっくりと近づいていてきて、ようやく俺が顔を視認できるほどの距離に近づいた。
そして、彼女は俺の顔を見て言った。
「……ようこそ幻想郷へ」
その声音を聞いて、俺はこの前に立っている女性はさっき頭に語りかけてきた声の主ということに気づいた。
こいつが俺を連れてきた張本人だ。
そして、俺は彼女を訝しげに睨みつける。
「言っている意味がわからないな。一体ここはどこだ?そして、あんたは一体何者で誰なのか。そこら辺のとこ説明してくれ」
「もちろん、私もそのつもりでここに呼んだもの」
彼女はうっすら笑みを浮かべて、日も出てない真っ暗な空間で日傘を差した。
「私は幻想郷の管理者八雲紫そして……」
紫という人は間を置いてこう言った。
「……貴方をここに呼んだ張本人よ」
俺は薄々気づいてはいたが、やはりそうだった。俺を連れてきた犯人【八雲紫】。彼女が何を考えて俺を連れてきたか分からない。
だが、こいつが主犯なら色々と聞きたいことがある。
「何故俺をここに呼んだ?……そして、どうするつもりだ」
その質問をすると紫はひどく動揺した表情で固まっていた。
「あれ?私、貴方をここに呼ぶ前に説明しなかったかしら?ほら!私が変な奴に絡まれてたら助けてくれて……」
「記憶が無いもんでね。覚えてない」
俺がそう言うと紫は事態が飲み込めたのか、動揺した顔をキリッと細めて突然現れた座椅子に日傘を畳んで座り、ため息をつく。
俺にはそれが、なんだか胡散臭く感じた。
「まさか…副作用が効くなんてね。貴方が初めてよ?」
「副作用?」
紫は持っていた扇をばっと広げて自分を扇いでくつろぐ。
「幻想郷に転移する時、稀に起こる一つの障害の事よ。普通の人は幻想郷に来る時、その障害のほとんどを受けないんだけど.....貴方は能力が能力だからね」
「能力?能力ってなんだ?」
「貴方さっきから質問ばかりね?自分で考えたりはしないの?まぁ、それも仕方ないことなのだけれど……」
紫は先程まで扇いでいた扇を畳み、見た事のある隙間に扇を投げ入れた。
「さっきの!あれはあんたがやったのか?」
「そうよ。これが私の能力なの。能力の詳しい事は後々分かると思うから説明はしないわ」
「説明してくれないのかよ...。それより……」
俺はそう言葉を置いて聞いた。
「俺は何でこんな世界にいるんだ?確かじゃないけど、俺は元は違う世界にいたと思うけど?」
そう確かじゃないのだ。俺は記憶をなくしているし、俺の元いた場所を示すのはこの微かに残った常識だけだ。だが、俺の一般的常識にはあの森らしき所に生えていた動くキノコというのは存在しない。
「それは……あれよ!気まぐれ?っていうやつ.....」
俺はそれを聞いた瞬間、拳を強く握りしめた。こいつの気まぐれで人生変えられてたまるか。1回殴ってやりたい。
「それは冗・談・で!色々と理由があるわ」
「それなら最初から言ってくれよ……」
ごめんなさい、と謝る紫。そして、俺が何故こんな事をしたのかを問うと紫は少し顔を顰めた。
「ごめんなさい。まだ貴方には全てを話すわけには行かないの。だから、ほんの少しだけなら話してあげる。
まず、何故貴方がここにいるのかと言うと、私は貴方が元いた世界の路地裏で変なヤツらに絡まれているところを貴方に助けられたそのお礼……と言いたいけど。でもそれは私たちの出会いに過ぎない。一番に大きな理由があるの」
「それは何だ?」
俺は今の話を聞いて色々と腑に落ちないことがあるにはあるが記憶がない分余計なことは言えない。だから一旦置いといて紫の話を黙って聞く事にした。
「最後に病で死ぬ予定だった貴方を、助けられたそのお礼として救ってあげた。その時はあと余命二日……寝たきりになっていた貴方を私が可哀想に思って助けたの…………これは貴方も承認済みよ」
俺は驚いた。
まさか自分がそんな状態に鳴っていたなんて。でも、そう言われると何となくだがそんな気もしてくる。もちろん、記憶は戻ってない。だけど、それだけ重大な病だ。残像的にその事は無意識に覚えていたのだろうか?
それが今の表情である。
結構な重大発言に内心驚いているが、表情に出さない俺を紫は冷たく冷静な顔で見つめてくる。
しかし、ここで新たな疑問が浮かんでくる。
「なんで……俺は立てている?」
おかしかったのだ。紫の話を信じるのだったら、俺の余命はあと二日、そして寝たきりだった。稀にそこまでの病を抱え、余命を過ぎても生きれるやつがいるがだとしてもおかしい。
……直前まで寝たきりだった奴が、こうして元気に立っていられるわけがない。でも、俺の体は正常そのもの。どこを痛くもない?それが逆におかしいのだ。あと二日しか生きられないやつが立ってる?そんな事を天地がひっくり返ってありえない。
だから俺はこのことについて聞いた。
「紫……なんで俺は立てている?余命二日のこの俺が」
俺の表情が段々と強ばっていく中、紫は表情を変えず冷淡に言った。
「あっちの世界での貴方はもう死んでいるわ……」
俺はもう体は死んでいるということに今さらながら恐怖を感じた。そして、表情もそれ相応のものになって行くことも分かる。だけど、そうなっていく俺を見て紫は言った
「難しい話になるんだけど。確かに「貴方は死んだ」。だけどそれは貴方の【体】が死んだだけで、死ぬ前に私が貴方の心だけを取り出して、能力で貴方の体の身体的ステータスや顔、体型や知力、貴方に関係するものを調べあげて外の世界とほとんど変わらない体を作ってあげて今貴方はここに立っている。その体は元の体と変わらない第二の体よ。大体わかった?」
つまりは、元の体が死んでこの体は死んだ体をベースに紫が作った本物と全く変わらない偽物の第二の体。悪く言ってしまったらそうだ。
今、俺の感情は揺れている。偽物の体への複雑な気持ちもあるけど、救ってもらった紫への感謝は絶えない。
体は偽物でも心は本物なんだ。
そう思うと俺の恐怖は取り除かれて、少し気持ちが落ち着いた。
その顔を見て、紫も安堵の表情を浮かべると、またあの穴から何かを取り出して、俺にそれを投げてきた
「何だよこれ?」
「餞別よ........一本は貴方が愛用していた剣。そっちの短刀はあっちの世界では妖刀村正なんて呼ばれていたわね。あっ、それ本物の妖刀だからね、気を付けて」
「あ、ありがとう。でも、ひとつ聞いていいか?」
「どうぞ?」
「俺の記憶が無いのって、幻想郷に来る時の副作用じゃなくて、お前が俺の脳からその類の情報を出すのを忘れたからじゃないのか?」
紫は固まった。そして、誤魔化すように笑い始めた。
「……図星か、まぁいいけどな、多分そのうち思い出すと思うし」
「そう言ってもらえると有難いわ。でも、これ以上の事は何も無いから、これで説明終わりっと」
これで済まそうとする紫にこれからどうしたらいいか聞こうと思った矢先、感じたことのある浮遊感。咄嗟に下を見たら、あの穴が広がっている。
そして、俺はまた重力に従い落ちていく。
「これから辛いと思うけど、精精楽しんでね。【和也君】」
そして、和也という少年はこうして幻想郷へ落ちていった。
「紫様はそれで良かったのですね?」
「えぇ、これでいいのよ」
ベースは東方剣録伝をして考えます。多少ストーリー変更はあると思いますが、頑張ります。