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家の前に着いた。
「……もう、誰もいないんだよな」
ぽつりと一人寂しく鈴は呟いた。
家の周りの塀があり、門をこえ。
一応ポストを確認。
当然、郵便物はあるわけもなく。
玄関の前に立つ。
スマホを起動した。
時刻はAM.10:37。
あれから。
あの、AM.10:13からの悲劇からはまだ24分しか経っていなかった。
あの短時間で失ったものは多すぎた。
世界的にも。彼的にも。
多すぎたのだ。
「まあ、悔いてもしゃーないわな。いつまでも悔やんでいられるかよ」
少し、立ち直りが早いと自分でも思う。
本当は泣き叫びたい。狂いたい。
どうしてだと、問い詰めたい。
しかし誰に問い詰めるのだろうか。
運転手?
その相手はもういない。
多くの犠牲を出した、問い詰めるべきであろう者も犠牲の1人になっているといってもおかしくはないのだから。
『AM.10:35を過ぎました!
そろそろ入場は済みましたか?
これから様々なアトラクションを
紹介していきたいと思いますが、
ナビを開始しますか?』
ハルはいつも通りだ。
その懸命な姿に鈴は口元を緩めてマイクに向かって声を放つ。
「もういいよ。遊園地は行けなくなった」
『そうですか。
それでは、ナビを中止します!
お疲れ様でした!!』
「お疲れ様。ありがとよ」
同時にスマホの電源を切る。
「……ふう」
鈴はゆっくりと、玄関の把手へと手を向けた。
把手に手が触れる。
刹那―
鈴の周りの景色、風、音。
全てが止まった。
世界が、時間が止まった。
「…!?」
それを把握したのは僅かな間。
その間に、鈴の背後には何かがいた。
何かが彼の背後に在るのだ。
「―っ!」
振り向けない。
彼が感じたのは恐怖。そのあまり、振り向けないのだ。
ガタガタと彼は震える。
そうだ!手を離せばいいんじゃあないか!
そう思った。
しかしそんな考えも無意味に終わる。
手を離そうとした時だ。彼の手に、右手に黒い何かが付いていた。
べっとりとした何か。
取れない取れない取れない取れない取れない取れない取れない取れない取れない取れない!!
なんだこの気持ち悪い液体?いや固体はっ…なんだコレ!!?
左手で払いのけようとした。
すると。上からその黒い何かが落ちてきた。
上だ。
上から何かが滴り落ちてきているのだ。
上。上をみて。確認をとろう。
この正体は?正体を把握しなければ―!
「っうっ―!?っ…」
上にいたのは。
「うぐあああっ……あああ……」
得体の知れないものだった。
「いああ……やめてくれぇ……っ」
ただ一つ分かるのは。
「うううああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
殺意が向けられているのだ、という事だ。
黒い塊はにんまりと、黒いからわからないが、口であろう部分の端っこが上がる。にんまりと、だろう。
そして鈴を包み込もうとする。
優しくともとれるし、怖くともとれる包み方。
ゆっくりと。包み込もうとする。
ああ、えんちゃん。本当にごめん。
俺、死ぬかもしれない。アンタにさっき救ってもらったばっかりのこの命。
俺の魂、そっち行ったらごめんな…。
「絶句丸ッッ!!」
黒い塊のど真ん中に、一線。
微かな光が刺した。
絶句丸、と。
一筋の風のように響いて来た声と共に。
黒い塊はど真ん中の一線から崩れ落ちていった。
世界は、時間は動き出す。
鈴の視界の中では、だ。
当然本当は世界も時間もずっと時を刻んでいたのだ。
ぺたんと鈴はその場に座り込む。
目の前にはどこかのファンタジーのゲームの中から出てきたような服装をした後ろ姿の少女。
白が特徴的な少女。
雪のような真っ白のカールがかかった髪がふわりふわりと風に揺られている。
「大丈夫?」
少女は振り向いた。
真っ白な肌。少しグレーのかかった、やはり白い瞳。
そして白だらけの世界にぽつりと、またもや綺麗なピンク混じりのあかい唇。
美人だ。絶世の美女だ。
そう思わせた。
スタイルも抜群で。出るところ、引き締まるところが少女の身長にあっている。
「…うん、大丈夫、ありがとう」
お礼を言った。
「あなたが、サスケリン?」
「…そうだけど」
少女は鈴の確認をとると満面の笑みで
「よかった!」
と言った。
その笑みはずぎゅんと心がイチコロになるほどの威力。
大体こういうキャラは「ツンデレ」「生意気」「偉そう」というようなイメージだったが少女にはそんなものとても合わない。「素直」「純粋」「美」だ。
「ええっと。私はエフィー」
エフィーは満面の笑みのまま、手元にあった刀を地面に刺した。
げ。
怖い。
密かな清楚系のイメージが鈴の心の中で音を立てて崩れ落ちた。
「閻魔大王にあなたをよろしくと頼まれたの!」
しかしエフィーはやはりイチコロの笑みでそう言った。
「閻魔大王……えんちゃんの知り合い……だと?」
唇の皮がよくむげます。
ありがとうございました。
このお話は、よく予約投稿でしてます。ストックはざっと6話くらいあります(*`ω´*)ドヤッ