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!、?等の後に空白を付け足しました 2016/10/28
「ちょ、ちょちょちょっと待てえんちゃん…」
閻魔は床に座る。
「俺が『神』様になったって? どういう事だよ」
「文字通りさ、『神』になったんだよ、というか、『神』の能力を持っちゃったってわけだよ」
普通のことのように閻魔は言う。
「いや待て待て……なんで俺が『神』になったんだ?」
「いつまで私を待たせるんだい鈴ちゃん」
「鈴ちゃんんん!?」
変な呼び方になってしまった。
「まあ、疑問が出るのも当たり前だよねぇ、うんいいよ。教えてあげます」
閻魔は微笑んだ。
「まあまず、どうして鈴ちゃんが『神』になったか、だけど。これは単純で私が願ったからだよ」
「願った?」
「そう。願った」
閻魔は続ける。
「時に『神』は守護だったり、創造だったり恐れられたりとか、不安定な存在だよね。でもさ、あくまで『神』は人々に『信仰』されているでしょう?信じるじゃない。人はよく神頼みするじゃない。『ああ神様、どうかお助けを』ってさ。それ。それなんだよ。『神』ってそれだけで生まれてしまうんだ。本当にあっけなく、それだけで神は生まれてしまう。実は人間って毎日神様生んじゃってるんだよ。創造神とかだって、人間が創造した神じゃない。ほらね?分かりにくいかもしれないけれど。『神』ってのは、人間の『思い』や『願い』で生まれるんだ。ぽこぽことね。例えば、そうだな……『神様、どうかこの子の病気を治してください』って願うじゃない。するとね、その場にはすっごい小さくて、微かな『神』が生まれてるんだ。でもそれは『神』。まあ『神』ってなんでもできるとか思われがちだから、その『神』が生まれたことによってその願われた子の病気は回復するとか、そんな好都合はないんだけれどもね。でもさ、その時のその生まれた『神』はたった一人によって『信仰』された。『治してください』ってお『願い』されたでしょ?そこから『神』が生まれた。それを利用しただけで、人間だった私、つまり『九嶺恵翔』が『佐介鈴が生きる事』を願ったんだ。故に君は生きている。普通に。ただし、人間『九嶺恵翔』の『願い』によって『神』として、ね」
いや、長い文言った、と閻魔は言い終わる。
「ちなみに、私が『閻魔』の時に願ってたら君は死んでいたよ、だって『人間』の『願い』ではないからね」
付け加えられた。
鈴は予想以上の長文説明の解読にものすごく時間を要した。
しばらくして口を開く。
「ん、なんとなく分かった。つまり俺は人間えんちゃんに生きろと願われたから『神』になったってことな」
「まあそんな感じかな」
「ふうん」
「あらま?意外とあっさりしてるんだね?」
鈴は閻魔のその問いかけに何も答えなかった。
しかし、
「じゃあ」
口を開いた。
死んだ父さんや母さんや吟、朧に葵やらの奏都家の人々、いや、何より事故で死んだ人々が
「『生き返る』って願えば、『神』が出てきて、生き返るのか?」
その質問を閻魔は馬鹿にするようにわらった。
鈴はそんな閻魔を見てきょとんとした。
「何が、おかしいんだよ…だって俺は死にかけていて、でもあんたが『生き返る』ように願って、それで俺は生き返ったじゃないか。じゃあその」
「もういいよ! そんな事。あはは、やっぱり面白いなぁ。いいさ、教えてあげますよ」
閻魔は笑いをこらえて再び話し始めた。
「君は本当に話を聞かないんだねぇ。『神』ってなんでもできるとか思われがちだから、その『神』が生まれたことによってその願われた子の病気は回復するとか、そんな好都合はないんだ、とさっき言ったじゃないか」
「じゃあ俺が生き返った事は好都合って事かよ?」
「それはねぇ…ちょっと違うんだな、実は。君は少し特殊なんだよ。まあそこから説明しよう。私が君に、生き返ってほしいと願った時、小さな神が生まれたよ。まあ、酸素原子位のね」
「ちっちゃ!! 俺への願いの神ちっちゃ!!」
「まあ最初はそんなもんだよ。だって私1人にしか『信仰』されていなかったからね」
「じゃあそのなんだ。有名な神様はたくさん『信仰』されてっからその分でかいってことかよ」
「いやまあそれは違うけど、少なくとも有名な神、うーん、例えば天照大御神様とかは少なくとも原子以上はあるからね」
「分子サイズってことかそれは?」
「名高き神を馬鹿にしすぎじゃないかな君は」
天照大御神にもいつかは会うことになるであろう。
あの方も『死霊保護委員会』入会者だ。というか会長だ。
「えんちゃんは副会長だよ!」
「どうしたえんちゃん、一人で喋り出して」
「いや、説明に加わってみただけだよ」
ま、話を戻して。
「ここからが君の特殊例だよ。そのいちー」
閻魔がいつの間にかホワイトボードを用意していた。
その面に大きく黒い丸い字で「其ノ壱」と書いていた。さすが閻魔大王だ。丸字だというのは意外性だが、さすが閻魔大王だ。
「『神』の能力を持っちゃった、と私は君に言った。まあ意味はそのまんまでね。考えてごらん?」
閻魔は問いかける。
鈴は考え込んだ。
考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて―
「……持っただけか」
と言った。
「俺はあくまでも『神』様の能力を持った人間か」
「そうだね、せーいかい」
丸字の『其ノ壱』に赤いマーカーで答え合わせの〇を付けた。
「じゃあそのにー」
やっぱり黒い丸字で『其の弐』と書いた。
「じゃあどうして君は『神』の能力を持ってしまったのでしょうか?」
再び鈴は考える。しかし、さすがにまともな答えは出なかった。
「…俺が実は凄いチート野郎だから」
「違うわボケ」
ボケと言われ。
大きなばってんを付けられた。『其の弐』の上にぴん、ではなく、ばってん。九州で使われる方言ではなく大きいばつ。
閻魔大王にボケって、多分なかなかない体験だよなぁ。
「近年はどうも異世界と関わるとなんか能力に目覚めるとか思われがちだけどそんなの無いからね? 君能力には目覚めてるけどチートにはなってないからね?」
「俺的に『神』になったってなかなかのチートだと思うぜ」
「じゃ君は今日から『チータロウ』だねぇ」
「俺は『鈴太郎』という名前ではないんだぜ」
ふう、と閻魔はため息をついた。
「九嶺恵翔が願って生まれた『神』は生まれた後どうしたと思う?」
「わかんね」
即答。
その即答ぶりにも閻魔は笑い流した。
「答えは、その『神』が君の魂と一体化したからです」
「……」
鈴は少し考える。
考えた後にゆっくり息を吸って
「なんか俺、いろいろすごくない?」
と言った。
「うん、君結構すごい」
閻魔はちゃんと答えてくれた。
「でも、九嶺恵翔は『佐介鈴が生きる事』って願ったんだよね。あくまで『生き返る』とは願っていないわけだ」
つまり!ぱちん、と指を鳴らしながら続ける。
「九嶺恵翔の『願い』の対象は生きている人間だ。まだ『佐介鈴』は死んでいない。だから君は生き続けることが出来たんだよ?」
「……???」
閻魔が全くわけのわからんことをおっしゃっている。
「だあー私説明嫌いなんだよなぁ」
……。
説明苦手な閻魔大王って苦労しないかなあ。
「…えとね……『神』と『魂』ってまあ切っても切り離せない感じの縁なんだよね?だからその、たまたま『願い』の対象の『魂』が近くにいた、つまり、『佐介鈴』の『魂』が生まれた『神』のそばに在った。お『願い』された『神』なんだからそれに応えようと『神』は私……九嶺恵翔の『願い』に応えようと、『神』自らが君の消えかけていた『魂』を、ここの死界に向かう寸前だった『魂』を君の肉体と繋ぎとめてくれた。というか、『神』自身も『魂』になった、みたいな…うーん……要するに九嶺恵翔の『願い』から生まれた『神』、いや、九嶺恵翔に『信仰』された『神』は九嶺恵翔の『願い』に応えてくれたんだよ。それが、今の君。応えてくれた末路、っていうのかな」
この、よく分からん長い説明。さすが、自称説明下手、と言うべきか。
「…つまり俺は、人間えんちゃんに『信仰』された『神』ってことか?」
「…………そんな感じかな?」
最後はなんか、無理矢理まとめた感のあるぜ、閻魔様。
部活動の先輩達がついに引退してしまいました。
…やっぱり少し寂しいものですねぇ