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!、?などの後の空白を付け足しました。2016/10/27
『Rin様、着替え終えましたか?
只今の時刻はAM.9:32です!
少し着替えに時間を取りすぎたようですね!』
少女がニコニコしながら音声を発する。
「余計なお世話だクソッタレ」
鈴は鏡の前で髪の毛を気にしている。
『クソッタレとは失礼な!
私にはきちんと名前がございますよ?
アプリ名ではなく、私の固有名詞がございましょう?』
少女は発する。
「あーそうだったな悪かった、余計なお世話だ、ハル」
鈴のスマホの人工知能アプリ『AI Ver.4』の少女の名前『ハル』。それは鈴の妹、吟が名付けた彼女の固有名詞だ。
『それは大変失礼いたしました!
まあそんな会話をしていると現在時刻はAM.9:33になりまして!
さあお急ぎください、まずはご家族に朝のご挨拶を!』
「わかったもう黙ろうか、充電が早く消耗しちまうからな、今日は外に出るから俺はお前を緊急事態でもない限り開かねぇと誓うからな!」
と同時にスマホの電源を落とした。
ちなみに、ほんの数分のハルとの会話で85%から72%にまで残量が減っていた。
「ふう…朝から疲れたぜ全く」
「にいちゃん急いでー早くー行くよー? 置いていくよー!?」
吟が下でうるさくしつこく叫んでいる。
「だあっ、うるせえな、置いていきたいなら置いていきやがれ」
「やだーっ、にいちゃん置いていかないからね!」
「じゃ置いていくとか言うなぁ!」
まあ、外出支度をしたから出ていかないというわけにもいかず。
鈴はゆっくりと階段を降りた。
「まあまあまあ〜、鈴君も久しぶりやねぇ」
鈴がリビングに入ると佐介家のいとこにあたる奏都家夫妻とその子供、朧と葵がいた。
「鈴くん、久しぶりやな」
鈴より二個下である高校一年の朧が鈴に話しかけた。
「はは、久しぶり。お前ももう高校生だな」
ちなみに、佐介家と奏都家は実に1年ぶりの再会である。
「去年は朧が大変やったから、会えんかったからね」
と、朧の妹、小学六年生の葵が吟と手を繋いでいて話に入ってくる。
「葵も久しぶり」
「うん。りんくん、久しぶり」
葵はにこにこしていた。
今日、秋子遊園地に行くのは佐介家と奏都家、そして―
「ええと、はじめまして」
葵よりもさらに歳が下であろう黒髪ツインテールの少女が鈴に話しかけた。
「九嶺恵翔です。今日は本当にご迷惑をおかけしますが、よろしくおねがいします…」
と、名乗った少女はぺこりとお辞儀をした。
「あのね、今日あたし、遊園地行くこと忘れててん。遊ぶ約束してほんで昨日遊園地行くこと知ってさ。母さんにゆーたら、えんちゃんも一緒に行くことになってん」
と、葵が付け足した。
「えんちゃんも一緒に遊んだってな」
朧と葵の母が言った。
「わかった!」
吟が嬉しそうに承諾した。
「じゃ、行こうか。今日はめいいっぱい遊びまくるんだぞ?」
鈴と吟の父が言った。
時刻はAM.9:43だった。
『予定より7分早く出発いたしましたね!
おそらく、到着時間は
AM.10:21くらいになるでしょう!』
車の中でスマホを開くとすぐハルが出て、わざわざ伝えてくれた。
「あ、ハル、おはよっ!」
隣にいた吟が鈴のスマホを覗き込み、ハル、いやスマホのマイクに向かって言葉を放つ。
少し時間が経ち、
『おはようございます!』
と。
ハル、いや、アプリ『AI Ver.4』の脳内には『佐介吟』という人物は認識していない。あくまで彼女は、端末のオーナー『佐介鈴』即ち『Rin』のみを認識しており、鈴とのみ会話が成立できるのだ。
その他の人との会話は言葉を聞き取り、それ相応の答え(音声)を流しているだけである。
これが、『AI』というアプリなのだ。
「あんまり今日は開きたくねぇんだがな?」
『あら、それは失礼いたしました!
しかし、私は自動的に開いてしまうアプリですので!
あまり端末の電源を付けないことをオススメしますよ?』
「ああ、まあわざわざ1から電源落とすっつーのも起動に時間かかってめんどくせぇからな、ロックを解除した後から出てくるようにしてくれ」
『はい、かしこまりました!』
ハルは笑顔で鈴の頼みを承諾した。
「ハル可愛いねぇ」
「そうか?」
あくまで意思を持たない機械だけどな、と言いたかったが言わないことにした。
「車の中でそういうのあまりいじらないの〜、酔うよ?」
鈴と吟の母が呆れるようにして言った。
「ごめんって」
鈴は苦笑しながら謝る。
時間は9:49だった。
「まだつかないかなぁ」
『わくわく』という言葉がぴったりの雰囲気を醸し出している吟は窓の外の流れゆく外の世界を見ながら言った。
「ハルの予想だと21分に着くらしいよ」
そんな吟を見て少し微笑みながら鈴はハルの教えてくれた事を伝えた。
「葵とえんちゃんと一緒にジェットコースターに乗るって約束したんだ〜」
既に吟は恵翔と仲良くなっているらしい。
「そうか、よかったな」
「にいちゃんも朧とコーヒーカップ乗るんでしょ?」
「なんで俺とアイツでそんな家族かカップルが行きそうなとこで遊ばなきゃいけねぇんだよ」
「えぇー?乗らないのー?絶対楽しいと思うんだけどなぁ」
「…誤解してるようだけど俺と朧はそんなに仲良しキャッキャウフフじゃないからな?」
ため息を付きながら鈴も外の景色を見た。
酔いそうになったのですぐに辞めた。
後ろを見ると奏都父が運転している奏都号がある。
前席、まあ父が運転、母が助手席なのだがその間から葵が顔を出して、後ろを見ている鈴に気づいたのか手を振ってきた。
鈴は少し微笑んで吟に葵が手を振ってるよと伝える。
吟も後ろを見て大きく手を振りまくった。
それに葵も対抗しようとしたがなんにせ危ないものなので助手席に座っている母に頭を軽く叩かれていた。そのあと葵はしぶしぶ席の間から顔を抜いた。
その時の葵はなかなか面白かった。
…危ないから葵みたいなことは真似しないでね!
そんなこんなで気がつけば時間は10:04。意外と時間って経つの早いよね。
「あーもうすぐ着くね!楽しみ楽しみ!」
吟は足をパタパタしながらルンルン気分のご様子。
「落ち着けって、足パタパタしても飛べないから落ち着けって」
「うるさいなぁ、にいちゃんはもっと楽しみにしないとだよ?」
「受験生はもっと勉強したほうがだよ?」
「ウッ…」
吟は中3。まあ、人生を大きく変えるたくさんの道から一本を選び抜かなければならない、大イベントの歳だ。
「……今日は忘れるの!今日はいっぱい楽しむんだからね!それに……にいちゃんだって高3じゃんか!大学行くんでしょ?同じ道を歩むよ!」
「はいはいそうでしたー」
と、会話していると外には秋子遊園地が見えてきた。
「うおー、見えてきたな、なんか、絶景だな」
遊園地定番の観覧車が見える。ジェットコースターのレールもちらりと覗く。
その周りには夏ならではの木の緑の色で覆っている。
なんというか、とてもグッとくる光景だ。
「公共施設と自然の絡みって案外いいもんだ。写真撮ろ」
と、スマホのロックを解除。
カメラを起動しようとした瞬間、ハルが顔どアップで画面に映った。
「うわあ! びびった…」
『この先まっすぐ80mは渋滞です。
車が大変混み合っております。
このままでは予定着時間
AM.10:21がAM.11:32
となります
今から別ルートで行かれた方が
AM.10:35
が予定着時間になりますのでオススメします』
と、伝えてくれた。
「だってよ父さん、聞いた?」
鈴は運転している父に向かって聞いた。
「あー、聞いたけど……今更Uターンってのもなぁ」
「でも、そしたら着くの遅くなるんでしょー?」
「でも別ルートよりこっちの道が安全らしいしな」
「でも早く着くほうがいいよ!」
「でもな、父さんはお前らの安全を第一にしたいからな」
「でも!……」
吟が必死に父を説得しようとするが無意味だった。
「ぎんちゃん、我慢して?ぎんちゃんには我慢できるでしょ?」
母が助手席から振り向いて吟の様子を見ながらなだめるように言う。
「……わかった」
吟はため息をつくとかなりテンションが下がったのか、ふてくされた顔をして座り直した。
無言の佐介号と愉快な奏都号、2台の車は渋滞にあった。
時刻は10:13。
『お兄さん、渋滞?』
佐介家の父の妹である奏都家の母がスマホの電話を通して聞いた。
ちなみに、『AI』のアプリは入っていない。
「うん、そこそこ長い」
『まじか…ちょっと遅くなるんな』
「そうだな、結構遅くなるかも」
『結構!? はあー…』
現状報告ありがとうな、とがっかりしながら言っていた。同時に通話も終了した。
「はぁ…長いな」
鈴がぽつりと呟いた。吟はふてくされたままだ。
「……」
気まずい空気。
どうにかならないものかと思っていた。
思っていたら。
鈴のスマホから激しい着信音が流れた。
『緊急速報です!!
170km/hのスピードの大型トラックが突っ込んできます!
避難を!避難をしてください!!』
ハルの音声がやや高めだ。
ガチなやつらしい。
「嘘だろ…」
なんにせ後ろから確かに大型トラックが来ていたからだ。
『逃げてください!!!』
ハルが、『AI』が音声を発している。
「とっ、お父さん!!」
吟が父を呼ぶ。
「うわあああっ!! 嫌だっ!!」
父はベルトを外して今にでも逃げようとしていた。
家族を置いて……?
ガチャガチャと、まだロックのかかっているドアをいじくっていた。
「お父さん!?」
後ろも前も、車のドアから人が逃げていく。
その光景はまるで、巨大怪獣が襲ってきたようだった。
我第一と考えるたくさんの人間達が。
次々と逃げていた。
しかしその中で、鈴は何故か平然を保てていた。
慌てもせず焦りもせず恐怖にも潰れずに。
彼は、冷静なままでいれた。
ガチャッ。
車のロックが解除した音だ。
父も母も妹も、ドアを開けて逃げていく。
「にいちゃん!! 早く逃げないと!!!」
吟が鈴を呼ぶ。
鈴はゆっくりと吟に向かって振り返った。
そしてこう言った。
「無理だよ」
ありがとうございました。誤字脱字あれば一声お願いします。
まだまだ、序盤だぜ……