2
閻魔の知り合いであろう謎の美女エフィー。
佐介鈴の中のエフィーの第一印象は『天然最強キャラ』だ。
事実エフィーは強い。だろう。
鈴が死にそうな時、助けてくれたのだから。
一発で、ヤツを殺したのだから。
鈴とエフィーは、佐介家、つまり鈴の家のリビングの食卓に向かい合って座っている。
正確には、鈴はエフィーの分と自分の分のお茶を出している最中だから向かい合って座っているというのは間違いだろうが。
お茶を置きおえ、エフィーの向かいに鈴は座る。
こうして見ると正面エフィーは不思議だ。
左側の方の前髪を長いピン2つで止めていて。
横髪は流しているのだが左側は短く顎くらいまで、しかし右側は肩の少し上くらいまで伸ばされている。
何より、後ろ髪のようにカールがかかっていない。横髪は真っ直ぐだった。
「ありがとう。いただきます」
エフィーは行儀よく出されたお茶を一口。
「美味しい」
と呟き、行儀よく置いた。
とりあえず何から何まで行儀がよろしい。
「お口にあって何より、です」
なんとなく敬語(?)を使おうとする。
「いいよ。もっと気楽に話そう。私も気を使っちゃって、少しぎこちなくなってしまうの」
エフィーが苦笑しながら、固まる鈴に言う。
「…じゃ、お言葉に甘えて」
くいっとお茶を飲んでからそう返した。
「……で、エフィーさんは「エフィーでいいよ。気持ち悪い。私も君のことリンって呼ぶから」
「……ハイ」
えんちゃんと会話していた時もこんな感じ、なかったっけなぁ。
というか、さり気なくサラッと毒っぽい発言したよね。エフィー。
「で。えんちゃんの知り合いだと聞いたんだが?」
「えんちゃん?」
「閻魔大王。閻魔大王によろしくって頼まれたんだろ?」
どうやら彼女には『えんちゃん』が通用しないらしい。
「ああ。そう。そうね。本題本題っと」
エフィーは笑いながらそう言う。
「私は……私もあなたと同じなの」
と、本題に入ったようだ。
「…つまり、『神』の能力を持った人間ってことだな」
「そう。……驚かないのね」
「ははっ、これまでにもう大変びっくりしすぎて慣れちゃった」
まあ、特に閻魔も「君みたいなのははじめてだぁーっ!」とか言ってなかったし。いてもおかしくはないと思っていた。
まあ、こんな予測できんのは正直ラノベやらゲームやら様様ですよ。
エフィーの格好を見ても特に「コスプレイヤーか!?」とか思わなかったし…。
…案外人間ってある程度の知識があったらすぐ慣れるもんだぜ?多分。(俺は何を言ってんだろう……)
「さっき、あなたを襲った怪物がいたじゃない?」
「……黒い塊か」
あの、恐ろしい液体、間違えた。怪物だ。
「あれは―」
妖怪。と。
エフィーは言った。
「……はあ、妖怪ねぇ」
「ええ。妖怪よ」
エフィーはまた一口お茶を飲む。
「それにしても、美味しい。このお茶は?」
普通に業務スーパーで売っている麦茶を絶賛するエフィー。
「…普通の麦茶だよ」
「そうなの?…じゃあ私は今日からこれを『鈴茶』と呼ぶことにする」
「『はーいお茶』だよ!」
「……はーい」
鈴もぐいっと飲んでみる。
おや、意外と美味しいじゃん。
「…で。お茶は美味しいから話題を戻しましょう」
逸らしたのはお前だけれども。
「まあ、私というかあなたもなのだけれども。私達はその妖怪達をやっつけなければならないの」
「ちょっと!話飛びすぎ!!」
いきなり本題かい!
ちょ、ちょっと前ぶりみたいなさ…。
妖怪の説明して欲しかったなぁ。個人的に。
「妖怪の説明が欲しいな?」
「ん?あっ私忘れてた…」
忘れてたんかーい。
「えっと。まずは妖怪。妖怪はこの世界ではどうやら死霊が邪悪に転がっちゃったものたちよ」
「なるほど。つまり悪に心を売ったクソ野郎ってことだな」
「うーん。良く分からないけどそんな気がする」
上品なお嬢様、(っぽい)エフィーにそんな単語教えていいのか。
「正直妖怪になっちゃった死霊は転生できないらしいから倒すしかないんだって。だから私達がやっつけるの」
「ふうん。生前がそこそこ善くないと、転生できないっつーわけね」
「そうみたいね」
父や母、吟。朧に葵。奏都夫妻は、どうだろうか。
あの犠牲者達は、どうなのだろうか。
ふと思った。
「それで?その妖怪退治はどうすりゃ出来るんだ?」
何気なく、鈴は質問した。
「……ふっふっふ。それを待っていたの!リン!いい質問よ!」
エフィーのテンションが急に上がった。
読めないやつだ。
「…ごめんなさい。熱くなってしまったわ」
読めないやつだ。
「それで。妖怪退治…というか、実際は退治ってわけじゃないんだけどもね」
地獄が。やはりあるそうで。
退治された妖怪はそこに堕ちるらしい。
転生することもなく。こっちに来られることもなく。
永久に、幽閉されるといってもおかしくはない。
「…地獄ってそんなやべえ場所なんだな」
「そうね…やべえって何?」
「なんでもない」
エフィーにはどうやら『やべえ』とか『うけるw』とかは通用しないらしい。
今後、彼女との会話は言動には気をつけよう。意味を理解してもらえないほど悲しい会話などない。多分。
「それで。そのー、地獄行きの死霊はどうやって地獄へ送るんだ?」
エフィーへ質問すると、いろいろ話がそれる。もうそれないでくれよ。
「それね、えっと。まあ死霊を使うの」
よかった。それなかった。
って―
「ええーー!?」
半分棒読み状態で驚きの声をあげてしまった。
死霊を倒すのに死霊を使う。
「つまり…地獄行きと連携プレイするってことかよ」
「えっそうじゃなくて…連携プレイ?」
「だあああ、協力」
そんなことも知らんのかお主は……。
「違うのよ。死霊には当然善霊がいるの!そのものたちと契約するのよ」
「は」
はあ?と。
全く、訳分からん。
「閻魔大王に聞かなかったかしら?『死霊保護委員会』って」
「ああ、聞いたぜ。なんか俺と出会った時はその、パトロール中だったらしい」
「?おかしいわね。閻魔大王は月曜日にパトロールするはず」
「…ああ」
やっぱりあいつ。サボりか。
っと、話それた。
今回は鈴のせいだ。
「まあ『死霊保護委員会』で全ての死霊を保護するなんてこと出来るはずもないでしょう。所謂、私達……つまり『神』が死霊の保護を協力しているわけ」
「???」
わからないか、とエフィーは言う。
「普通に見た方が早いわね」
ぽつりと呟いたかと思うとどこからか彼女は剣を取り出した。
というか、既に剣は机の上にあった。
黒い塊、妖怪をぶった斬ったあの剣。
「ああ、これ…『絶叫丸』だっけか」
「勝手に絶叫させないで欲しいな」
苦笑しながらエフィーは刀に触れる。
「絶句丸。この刀はそう呼んでいるの」
斬った相手は斬られたと気づいた時にはもう死んでいる。
痛みなんて感じさせない。
痛みに耐えきれない叫びをあげさせない。
斬られた相手は斬られる前に言葉を発していたとしても斬られた瞬間に絶句し、すぐ死ぬ。
そんな意味でそう名付けたらしい。
「…俺が最初に斬られてたら多分『絶叫丸』って名前だったと思うぜ」
「リンが斬られたら絶叫するってこと?」
「多分絶叫するわ」
「試してみる?」
「……遠慮します」
鈴は苦笑い。
そしてお茶を飲もうとコップを掴もうとすると。
「?」
置いていたであろう場にコップが無かった。
「?、? 」
きょろきょろと机の上を見るが見当たらない。
代わりに、何かが座っている気がした。
机の上に。
「ぷはぁ。なかなか美味ですなあ」
と、聞き慣れない声がした。
その方を見ると、机の上に幼児が座っていた。
物凄く小さい小人の幼児が。
やけに古風な服装。平安時代の子供か、というような。
頭はうないで、真っ黒な髪。綺麗。つやつや。てかてか。
「ふぉ」
その子供、いや、小人と目が合った。
「うおっ!?」
思わず声を上げる。
だって、見たことない小人、生き物がそこにいるのだ。
びびるだろう。そりゃあ。
同時に気づいた。
絶句丸が机の上にないということを。
そしてさらに気づいた。
その小人が鈴のコップを持っているということを。
そしてさらに知った。
そのコップにはもうお茶がないということを。
「絶句丸は…?……俺のお茶…」
「絶句丸は私です」
小人が言う。
「私は虎緒」
そう名乗った。
「そう。虎緒」
エフィーも紹介する。遅い。
「虎緒…」
ってお前何者だ、と。
「私は虎緒。本名は忘れた。平安時代くらいに死んだのです」
虎緒はそう言った。
「虎緒は私の契霊なの」
「けいりょう?」
そのまんま。と。
エフィーは言った。
「契まれた霊」
虎緒が自身の左手の手の甲を見せた。
『Effy』と筆記体でかっこよく刻まれていた。
「私は彼女にこうして、契まれている。だから、絶句丸にもなれるのです」
虎緒は左手の『Effy』をなぞる。
「それにしても。読めませんな」
「え?『エフィー』って読むわよ?」
「……初耳ですなぁ…」
例えるならばテレビのリモコンくらいのサイズである虎緒。
こいつ何ものなんだよ。
「虎緒は元は死霊なのよ」
「え」
そこからやっとエフィーによる虎緒の説明否、今後の説明みたいなのが始まる。
「死霊を使う、と言ったのはそのまま。こういう風ね」
エフィーが虎緒に触れる。
「『絶句丸』」
呟いた刹那、虎緒は光に包まれ、眩しく目を思わず瞑る。
そして開けるとそこには絶句丸が。
「……わーお」
「こうして。武器にして使うの」
「ふうん」
『ちなみに刀剣でも意識はあるのですよ』
「うわーお。刀が喋ったぜ」
エフィーが「虎」と呟いて再び絶句丸が光に包まれる。そこからはお分かりだろう。先ほどと全く同じ現象が起きて、目を開くとちっこい死霊の虎緒たんがいた。
「虎緒たん?」
「なんでもねぇや」
虎緒は机の上でとてとてと走り回っていた。
「で、死霊ってどいつもこいつもこんな2頭身っぽいのか?」
「私は小さな3頭身くらいはありますぞ」
「あ、はいはい。で、どうなんだ」
エフィーは笑う。
「契霊だけよ、こんな姿になるのは」
と。
「私達死霊にとっては契霊の証となるちびキャラは恥なのですよ」
虎緒がくるくると回る。
ちょっと可愛い。
「しかし、それでも私は彼女について行くと決めたのです。故に契霊は、契んだ主、私の場合はエフィーを認めた、ということになるのです」
故に契まれた証とこの恥の姿。と、虎緒は言った。
「そして契む為にその死霊に名を付けなければならないの。『虎緒』は私が名付けたのよ」
と、今度はエフィーが左手の甲を見せる。
『虎』の字が篆書体でかかれている。きざまれている。
「主と契霊。互いの名の契みがあればいい、ってことか」
「リンは飲み込みが早いのね。その通りよ」
美女に褒められて嬉しかった鈴。少し照れくさそうに笑う。
わーい。
「……で、どうやって契霊を探すんだ?」
その問いにエフィーは外を見る。
「実戦あるのみ、よ」
10月って3連休フィーバーなんです。
ありがとうございました




