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Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
皐月-『憎いほど愛おしい』
99/164

1.

 五月…と言ったら、ゴールデンウィークなのだろう。無論自分もそのイメージだ。

 特にこれといった楽しみのようなものは、去年までは無かったのだが、今年は違う。なんだかんだ言って、こうも異性に囲まれている自分は幸せ者なのかもしれない。

 そんな周りから異端な目で見られているのを気が付かないフリをしながら、俺たちは店内へと入った。

「へーいらっしゃいらっしゃーい!よく来たねぇ君たちぃ!」

 八百屋の叔父さんばりに声を張る、いつもの彼女が出迎えた。

「香苗、お疲れ様」

「おーう!あ、今月から新作のパフェが二種類追加されたんだよぉ!因みに、私の案!どっちも美味しいから、是非食べてって!」

「へぇ、凄いじゃん。じゃあ、私それ頼もうかなぁ」

「おうおう!どんどん頼んで!あ、席はいつも通り空いてるとこどうぞー。四名様ご来店ー!」

 相変わらず元気で適当すぎる香苗が厨房に呼びかけると、俺たちは四人、向かい合って座った。

「あ、新作のパフェってこれかぁ。あ!リンゴパフェだってよ!?」

 隣に座った心奈が早速メニューを開く。

「嘘ぉ!?これは私を陥れようとしているなー?よし、その罠乗った!」

 案の定、美帆がそのメニューに乗っかる。

「ふぅん。じゃあ、私はこっちのメロンパフェで」

 対に座る西村が、机に身を乗り出してメニューを見ながら言った。

「じゃあ、私もリーンゴ。ヒロは?」

「んあ?」

 女性陣三人から目線を浴びる。何故だろう。不思議とこの目線が痛い。

「あ、んーと。どうすっかな」

「…優柔不断の男の子は嫌われるよー?」

 美帆が白い目でこちらを見ている。いや、きっと早くパフェを食べたいだけなのだろうが。

「…じゃあ、メロンでいいよ。二、二でいいだろ」

「決まりだね!すみませーん!」

 心奈が厨房へと呼びかける。そこから香苗の母が出てきては、四人分、それぞれのパフェを注文した。

「で、俺が呼ばれたのはいいんだが。君たち女性三人に囲まれてすっごく視線が痛いんですけど」

 キョロキョロと周りを見渡す。運悪く一人の女性客と目が合い、彼女はすぐさま視線を逸らした。

「気にしない気にしない。堂々としていればいいんだよ、堂々と」

 そんな心配する俺をよそに、何やら心奈が嬉しそうにニコニコしている。

 ―なんだ?周りに羨ましがられて嬉しいのかこいつは?

「だって、久しぶりに裕人君と会えて嬉しいんだもんねー、心奈」

 すると、前に座る美帆が、可笑しそうに言った。

「なっ!?み、美帆!そんなことないから!」

「えー?『部活部活ーって言って、寂しいなぁ…』ってこの間言ってたのは、どこの誰だっけー?」

「ああ、そういうことか」

「ヒロ!!もう、知らない!」

 顔をリンゴのように真っ赤にして、ぷいっとそっぽを向いてしまった。久しぶりに見る彼女が恥ずかしがる姿は、やはりいつ見ても愛らしい。

「それで、ヒロ君。部活のほうはどうなの?」

 隣でやり取りを聞いていた、西村が問うた。

「ああ、なんとか二人は最初の頃に集まったんだけど、あと一人が全然でさ」

「宇佐美君は?」

 心奈が問うた。

「あいつもまだ。このままあいつが戻ってくれないと、かなり厳しいんだけどな。入ってくれた後輩二人も、友達とかに呼びかけてくれてるみたいだけど、全然で」

「ふぅん、大変だねぇ裕人君」

 美帆が髪をクルクルと指に巻き付けながら言った。

「ホント。でもまぁ、三人だけでやってた時よりは楽しいんだよね。それなりに毎日が充実してきてると思ってる。…まぁ、誰かさんに会えたっていうのももちろんあるけどね」

「…バカ」

 その誰かさんは、恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「今の俺たちがあるのは二人のおかげだし、ホント感謝してるよ。ありがとな」

「もう、そんな改まらなくてもいいのに。私達はただ、手助けしただけだよ」

「そ、そうだよ!そんなこと今更言われても、ちょっと恥ずかしいっていうか…」

 二人は嬉しそうに笑った。特に西村は、顔を赤らめて視線を落としていた。まだ、あの事を引きずっているのかと思うと、こちらも少し気が重くなる。

「…あれ?西村。そのネックレスって、あれか?」

 ふと、俺は彼女の胸元で鈍く光っている銀色のそれを見つけた。

「あー!ようやく気づいてくれた!そうだよ、あの時ヒロ君にもらったキーホルダー。っていうか!前久しぶりに会ったときも付けてたのに、全然気づいてくれないんだもん!」

「え、そうだったか?」

「もう、ヒロ君ったら。そういうところは見る目ないんだもん」

「も、申し訳ない…」

「ふふ、裕人君らしいや」

「まぁ…何はともあれ、大切にしてくれてるみたいで嬉しいよ」

「もう…」

 西村がふぅっと息を吐く。

 気が付かなかったことには申し訳なかったが、大事にしてくれていたみたいでよかった。あの時の事があったからこそ、俺と彼女はこうして、恋人でなくとも繋がっていられる。それだけで俺は嬉しかった。

「っていうかヒロさ。私には何か無いの?」

 ふと、隣に座っている誰かさん、心奈が口を開いた。

「ああ?何かってなんだ?」

「だから、その…ぷ、プレゼント…みたいなもの」

「…そういえば、何にも渡したこと無かったな」

 以前に、七夕祭りで猫のぬいぐるみを彼女に渡したことはあるが、ちゃんと用意されたものを彼女に渡したことは一度もない。思い返せば、そうだった。

「そうだよっ!思えば私、ヒロに何にも貰ったことない!」

 こちらを向きながら、手を後ろに突き出して心奈が叫ぶ。ヤバい、これはいつか、絶対に渡さねば。

「…あっ」

 ふと、自然に声がこぼれた。

「どうしたの?」

 美帆が問う。

 ―そうだよな。俺、一番大切な日を知らないんだよな。ああ、なんでこう他人がいる時にこうなるかな…。

 心の中で落ち込みながらも、俺はその言葉を口から吐き出した。

「…心奈さ。誕生日…いつだ?」

「…へ?」

 前に座る二人から、聞いたことのない素っ頓狂な声が聞こえた。そりゃあそうだ、今の今まで知らないほうがおかしかったのだから。

「…あーーっ!!私、ヒロの誕生日も知らないっ!!なんで今まで教えてくれなかったの!?」

 どうやらそっちの誰かさんも知らなかったようだ。お互い様だが、なんでこれまで知ろうとしなかったのかが不思議だ。

「い、いや!それはこっちのセリフでもあるだろっ!?」

「はぁ!?自分の彼女の誕生日くらい、先に知っておきなさいよ!」

「いやいやいやいや!お前が言わなかったんだろうが!」

「ヒロが聞かなかったっ!!」

「じゃあ俺も心奈に聞かれなかった!」

「何よそれっ!?私が悪いみたいじゃないっ!?」

「あ、あの…二人とも?」

 横で美帆の声が聞こえた気がするが、今はそんな余裕は無かった。

「実際に言わなかったんだから仕方ないだろ!?」

「ヒロだって言わなかったじゃない!」

「だからそれはお前が言わなかったからで…」

「…ねぇ、なんか前もこんなこと無かった?」

 ふと、心奈が問うた。

「…そういえば小学生の時も、こんなつまらないこと言い合ったな」

「ふふっ、懐かしい」

 何だかよく分からないが、心奈の一言で、喧嘩になりかけた言い合いは収まったみたいだ。こう、昔を思い返してみると懐かしい。とても不思議な感覚に陥る。

 向かいに座る取り残された二人が、どう言えば分からない様子でこちらを見ていた。

「っていうか、さっさと言いなさいよ!」

「あ、何をだよ!?」

「…誕生日」

 不機嫌そうに、彼女はポツリと呟いた。

「あ?ああ。十月二十日だけど」

「…へぇ、そうなんだ。私は、九月十八日。意外と近いんだね」

「そうだな」

「絶対忘れないでよね?約束だよ?」

「へいへい、分かってますよ。っていうか、おとめ座か?心奈らしいな」

「なっ!?怒るよ!?」

「さっき怒ったばかりだろ」

「むぅ!ほっといて!!」

 再びぷいっとそっぽを向いてしまったが、なんとか落ち着きを取り戻したらしい。俺もつい取り乱したようで、申し訳なく思った。

「…ちょっとカッとなった。悪い」

「あ、うん…私もごめん」

 俺は彼女と向かうと、えへへっと笑いあった。

「もう…終わった?」

 横で言い合いを聞いていた、西村が苦笑いを浮かべながら問うた。

「ああ、悪い」

「二人とも、負けず嫌いなのはいいけど、もうちょっと場所も考えてね?」

 美帆がいつになく真面目に俺たちを叱った。今回ばかりは、その通りだと思う。

「そーそー!二人の喧嘩、中まで聞こえてたよー?」

 ふと、トレイに四つ、出来上がったらしいパフェを乗せて香苗がこちらに向かってきていた。

「申し訳ない…」

「ごめんね、香苗」

「もう。ま、二人が仲良しっていうのは身に染みて分かったよ」

 彼女はテーブルにそれぞれパフェを置くと、キラリとウィンクを決めて逃げるように去っていった。

「さーて!それはそれ!これはこれ!いっただっきまーす!!」

 相変わらずオンオフの切り替えが早い美帆が、早速スプーンを手に取りリンゴパフェを一口入れた。その瞬間、表情がとろける。

「うーん…!このソフトクリームの中に入ってる小さいリンゴの触感。そしてほのかに香るハチミツ。美味ですなぁ」

 一言、美食家のようなセリフを告げると、もう一口運ぶ。流石、リンゴ愛好家の彼女である。

「それじゃ、食べよ?ヒロ」

「ん、おう。そうだな」

 何だかんだ言いながらも、結局は許し合えてしまう。そんな不思議な関係。俺は微笑む彼女に笑顔を返すと、パフェを一口運んだ。

 甘酸っぱいメロンの甘みが、口の中に広がった。

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