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Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
卯月-『十字架のプレゼント』
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Another.1

二千×八年 四月下旬


「それで?なんで俺があなたに呼ばれたんです?言っておきますけど、迷惑なガキ捜しはやってませんよ?」

 青年は椅子にふんぞり返りながら答えた。

「おいおい、まだ用件は言っていないぞ?そういうものは、ちゃんと最後まで聞くものだ」

 白髪交じりの髪に、白髭交じりの髭を生やした、五、六十代くらいの宇佐美と呼ばれる警視正の男が、青年に呆れている。

「残念ながら、俺はそういうマナーとかは疎いんで。昔っから先生さん達に怒られていましたよ」

「そりゃあそうだろうな。警視正である私を前にして、そんな態度を取ったのは君が初めてだ」

「警視正っていう階級を武器にして、人をこき使ってるあんたはあまり好かないんでね」

「こき使っているとは弊害だな。みなを動かして、事件解決へと導けるよう指示していると言ってくれ」

「へっ、どっちでも同じじゃないすか。人使ってるんだし」

 そう返事した青年は、眠たそうに大きな欠伸をした。

「…まぁいい。本題に入ろう」

 宇佐美は椅子から立ち上がると、青年の前の机に、一つのファイルを置いた。

「これは?」

「去年までの、コードネーム『ヘル』と呼ばれる少女が率いていた暴力団による事件だ。ここらの地域では、特にこの勢力が強いことは、お前も知っているだろう?」

 資料をパラパラとめくりながら、青年が苦笑いをする。

「そうっすね。身に染みてますよ。で?こいつらがどうしたんです?」

「いやな?今年に入ってから今日まで、こいつらの被害が一件も届いていないんだ」

 宇佐美は新たに紙を三枚、青年に手渡した。

「そうなんすか?よかったじゃないすか」

「違う。おかしいとは思わないか?去年まで、あれほどまで逮捕に手こずっていた連中が、急に活動をしなくなったんだ。きっと、何かがあったに違いない」

「どこかの違う勢力に食われたか、解散したかじゃないんすか?」

「そんなはずはない。他の勢力に食われたのなら、もっと別の場所で新たに被害が出始めるはずだし、こんなにも強まっていた勢力が、急に解散にまで追い込まれるはずがない」

 宇佐美は窓際の前に立ち、下に見える下界を眺めた。

「で?俺にその原因を調べてほしいと?」

「そうだ。それに加えて、君にもこの件を担当するチームに加わってもらいたい」

 振り向きながら宇佐美は青年に問うた。

「お断りですね。どうしてわざわざ、そんなことに関わらなきゃいけないんです?」

「…そうか」

 宇佐美は一呼吸間を置くと、再び口を開いた。

「君は、ご両親の仇を取りたくはないのかな?」

「なっ…!?」

「君はご両親の死には、宝木グループが関わっていると思っている。違うか?」

「おいテメェ、今なんつった!?」

 とっさに青年が椅子から立ち上がり、宇佐美の前まで詰め寄る。それでも宇佐美は怯むことなく、冷めた視線を彼に向けていた。

「言葉の通りだよ。どうなんだい?」

「…ああ。そうだよ。あのグループには、何か裏がある。俺はそう考えてる」

「ふむ。もし君がこの件のチームに加わってくれたら、良い情報を教えよう。きっと、役に立つはずだ」

 再び彼は窓の外を向いた。窓には、俯いて何かを考えている様子の青年の姿が、薄らと映りこんでいた。

「…もし成功した場合、それなりの代償はあるんだろうな?」

「もちろん。なんだったら、私が直々に支払おう」

「…分かった。それなら協力してやる」

 そう呟くと、先程の席まで戻った青年はガタっと音を鳴らしながら椅子に座った。

「感謝する。それで、その情報なんだが。部下の一人が掴んだ情報なんだ」

「誰だっていい。さっさと教えろ」

「そうだな。前田まえだ勘三郎かんざぶろうは知っているかね?」

「ああ?あの次男坊か?あの顔が気持ち悪い奴」

「気持ち悪いかは知らないが、その通りだ」

 そう返事をすると、宇佐美は前の机まで歩み、向かい合うように椅子に座った。

「これを見てくれ。彼には一人、娘がいる。妻は既に他界しているが、それなりにいい暮らしはしているだろう」

 宇佐美はファイルに入っていた、彼の戸籍を青年に見せた。

「…で?それが何か関係が?」

「この写真だ」

 宇佐美はファイルの中に入っている、二枚の写真を取り出した。

「こっちが、前田の娘の写真。そしてこっちが、暴力団のリーダーと思われる少女の写真だ。こっちは暗い上に、フードを深く被っていてマスクをしているから、確証はできないんだが…」

 青年は二枚の写真を手に取ると、それぞれを順々に見比べた。

「確かに、似ている気もするな。…にしてもこいつ、なんだか憎たらしい顔してんなぁ」

 いつかのパーティーだろうか?父と二人で、正装姿で楽しそうに写っている、娘の顔を見て青年が言った。

「なかなかの美人さんだろう?これが娘さんかと思うと、何かの間違いだと願いたいくらいだよ」

「へ、そうかよ。で、この二人をまず洗っていけと?」

「そうだ」

「でも、万が一こいつの娘がリーダーだったとしても、父親は何か関係あんのか?」

「まったく…。本当に君は探偵か?少しは自分で想像してみたらどうだ」

 宇佐美は呆れた様子で、腕を組み背もたれに寄りかかった。

「そうかよ。うんと…娘がリーダーだった場合、この父親が何かを仕組んでいる可能性が高い、ってことか?」

「そうだな。そしてそうなってくると、彼、もしくはグループの裏で、何かマズいことが行われているということだ」

「確か、前田は子会社の貿易会社の社長だったよな?貿易となると、やっぱり麻薬密売とかそういう類か?」

「恐らくな。グループが巨大化している分、セキュリティもそれなりだ。調べにくいとは思うが、どうかよろしく頼む」

「…ったく、面倒なことに関わっちまったな」

「そう言うな。君のご両親の為だと思えばどうってことないだろう」

 宇佐美は立ち上がると、ファイルを手に取り、机の引き出しへと仕舞った。

「なぁ、どうしてそこまで俺を手伝ってくれるんだ?」

 青年は問うた。

「うん?君も知っているだろうが、君のお父さんとは古い友人だったんだ。ただ、それだけだよ。私だって、彼が亡くなったと聞いたときショックだった。もっとちゃんと、彼を止めておけばよかったと思っているんだ」

「…そうかよ」

「それに、君には期待しているんだ。あの十七人連続殺人事件を解いた君なら、この事件も解決できるとね。流石、ひらめきは父親譲りだな」

「ふん」

「応援しているぞ」

 宇佐美は青年の隣に歩み寄った。ポンッと、右手を彼の肩に乗せる。

「真田君」

 青年は小さく舌打ちをすると、その手を嫌そうに突っぱねた。

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