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Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
卯月-『十字架のプレゼント』
93/164

Memory.5

「コウスケ!」

「あ!ママだ!ママ―!」

 三十分程、三人で座って色々と話していると、ようやく彼の母親らしい女性が登場しては、彼の名を呼んだ。彼は嬉しそうに、その場から立ち上がった。

「いてっ!」

「あっ!コウスケ君!」

 彼女に呼ばれるまま、彼は足の怪我を忘れて走り出した。そのせいか、痛むであろう右足から、再びコンクリートの上で転んでしまった。思わず西村は、彼の元へと駆け寄る。

「大丈夫?」

「いてて」起き上がる彼に、西村は問いかける。すると彼は、ニッと笑ってこう言った。

「大丈夫だよ!僕、強いもん!」

 小さい男の子の強がりなのか、それとも本当に平気なのかは定かではなかったが、どうやら無事のようだ。西村は一安心して、駆け寄る彼の母に一礼する。

「ごめんなさい。この子が、ご迷惑をおかけしました。…って、どうしたのその傷!?」

 こちらに一礼を返し、彼を見た途端に、彼女が声をあげる。

「あっ、怪我をして一人でいるところを見つけて、手当てしました。コウスケ君、強いんですよ?傷口を水で流しても、泣かなかったですし。ね?」

「うんっ!」

 彼がニコニコしながら頷く。

「そうですか…もう、勝手にいなくなっちゃダメでしょ?ちゃんと、ママの傍にいてね?」

「はぁい」

「それじゃあ、私達はこれで。ほら、コウスケもバイバイって」

「またね!お姉ちゃん!」

「うん、またね」

 彼女と手を握りながら、彼は楽しそうに去っていった。

 ―自分にもいつか、あんな子が出来たらいいな…なんて、まだまだ先の話だよね。

 二人を見送り、西村は待ちくたびれている様子の裕人の傍に戻った。

「大丈夫だった?」

「うん、ちゃんとお母さんに受け渡したし、安心だね。じゃあ、私達もいこっか」

「オッケー」

 ようやく肩の荷が下りた西村達は、二人で本来の目的地である、肉屋へと向かった。


「ふぅ、美味しかった」

「でしょ?あそこのお店のメンチカツは、私のお気に入りなんだよ?」

 商店街を歩き出ながら、メンチカツを食べ終わった裕人が幸せそうに呟いた。

 ふと、不意に彼が寂しそうに呟く。

「西村は、この町が好きなんだね」

「へっ?…うん、大好きだよ。私が生まれ育った町だもん。優しい人が沢山いて、良い場所が沢山ある。確かに、次に引っ越す町だって、いいところだと思うけれど…。それでもやっぱり私は、この町でもっと暮らしたかった、かな…」

 ―それも、みんなと…ヒロ君と、一緒に。

 …ダメ、こんなこと考えてたら、また泣いちゃう。我慢、我慢。

「そっか。…ごめん、この話はやめよっか。もっと楽しい話しよう」

「ヒロ君…。うん、だね」

「ところで、この野菜とお肉。そろそろ俺、分かっちゃったんだけど、言ってもいい?」

 彼が手に持っている、二つの袋を掲げながら言った。

「ん?うん、言ってみて?」

「もしかしてだけど、これから昼ご飯作ってくれるつもり?しかもこの材料だと、肉じゃがかな?」

「おー、分かっちゃった?正解」

「やっぱり?」

 彼が嬉しそうに微笑む。

「でも西村、料理できるの?」

「何よ、小学生だからって、甘く見ないでよね?こう見えて、家族の晩御飯作ってるの、私なんだから」

「え、そうなの?凄いね」

「…まぁ、お父さんとお母さんが仕事でいないから、なんだけどね」

「あぁ…。えっと、お姉さんの為?」

「うん。特に最近は、少しでも貯金ができるようにって、二人とも毎日遅くまで仕事してるんだ。お兄ちゃんも部活で帰りが遅いから、大体家には、私一人かな」

「そうなんだ…」

 二人の間に、再び重い空気が漂い始める。

 ―ああもう、どうして暗い話になっちゃうんだろう。ダメ、もっと話題変えないと。

「と、とにかくさ!今から私の家に行くから、ついてきて!」

「え?西村の家に行くの?」

 西村が叫ぶ。すると何故か彼が驚く。

「…何で?」

「いやぁ…女の子の家に行った事なんてなかったから、ちょっと緊張するなぁって」

「もう、そんなに変に緊張しなくても、普通の家だよ?」

「あはは、そうだね」

「もう…」

 苦笑いを浮かべている彼に呆れながらも、西村は彼を、自身の自宅へと招いた。十分程二人で歩いた先に、ようやく自身の家が見えてくる。住宅地によく見る、二階建てで灰色の一戸建てだ。

 家の鍵で玄関を開けると、彼をリビングへと連れた。壁にかかる時計を見ると、お昼の十二時半を過ぎていた。

「ごめんね、引っ越しの準備してるから、ダンボールが多くて。気にしないで?」

「ああ、大丈夫だよ。それより、何か手伝う?」

 カウンターキッチンに西村が入ると、袋をテーブルに下ろしながら彼が問うた。

「んー。気持ちはありがたいんだけど、今回は私一人で作りたいんだ。ヒロ君は、椅子に座って待っててよ」

「そう?なら、お願いしようかな」

「ありがと。頑張るよ」

 彼に微笑む。彼は嬉しそうに笑ってくれた。

 なんだか、同棲カップルのような感じで気恥ずかしいが、我慢しよう。西村は予め用意してあった白滝を冷蔵庫から取り出し、袋の中から材料を取り出すと、「よしっ」と一言気合を入れてから、料理を開始した。


 彼と談笑しながら料理に打ち込むこと四十分程。予算の都合上、おかずは肉じゃがだけだが、お椀に二人分のご飯をよそい、テーブルに並べた。

「おぉー、結構本格的だね」

「本格的も何も、ちゃんとした肉じゃがです。ちゃーんと昨日練習して、美味しく作れるようにしたんだからね?」

「へぇ、そうなんだ…ん、練習?」

「…あっ」

 思わず口が滑ってしまった。椅子に座るがまま、恥ずかしさで顔を熱くなる。

「えっと、その…ヒロ君を悪く言う訳じゃないんだけど。ヒロ君の事だから、どこに行くとか、予定は全く立ててないんだろうなぁって思って。だからどうせだし、私の料理を食べてもらえたら嬉しいなぁ…なんて」

 えへへ、と西村は笑った。

「そっか、なーんだ。そういうところも全部お見通しかぁ。ま、いいけどね」

「もう、これからもし心奈とデートするときは、ちゃんと考えてあげないとダメだからね?ヒロ君から誘ったのに、それじゃあイメージダウンしちゃうよ」

「なっ!?べ、別にまだ明月とデートするかは分からないけど…まぁ、覚えておくよ。そ、それより!早く食べよう?」

「ふふっ、そうだね。食べようか」

 二人でしっかりと「いただきます」と告げると、裕人は早速、西村が作った肉じゃがを口にした。

「お!美味しい!」

「ホント?よかったぁ」

 彼の笑顔を見て、ようやく緊張がほぐれる。少し濃い目に味付けしてみたのだが、果たして彼の好みに合うかが心配だったのだ。気に入ってくれたようで、こちらも大満足だ。

「まだもう少し残ってるから、食べたかったら言ってね?」

「オッケー!」

 ―もう…そんなに喜ばれたら、もっと別れるのが辛くなっちゃうじゃん…。

 彼がご飯を頬張る姿を見て、西村は思わず目を擦り、悟られないように笑った。


 午後五時過ぎ

「なぁに?こんなところまで?」

「いいから、ついてきなって」

「うん…?」

 昼食後、しばらく雑談にふけっていると、裕人が「最後くらい、俺が行きたい場所に行ってもいい?」と告げ、ここまで連れてこられた。

 一体こんなところまで来て、何があるというのか?西村には、彼の向かう場所が、全く想像つかなかった。

「よいしょ。ちょっと辛いけど、ここを登ろうと思うんだ。行ける?」

「え?ここ…登るの?」

「うん。ちょっとキツいけど、上まで行けば分かるから。頑張ろう?」

「えぇ…分かったよ…」

 しぶしぶ彼についていくこと数分。予想通りすぐに息を切らしてしまい、立ち止まってしまった。そんな西村に彼は、微笑みながら手を差し伸べてくれた。彼の手に連られながら、やっとの思いで一番上まで登り終える。疲れ果てた西村は、芝生の上にへばり込んだ。

「はぁ、はぁ…疲れた…」

「ごめんね、こんなところに連れてきて。でも、どうしても見せたかったんだ」

「えぇ?何を…?」

 呼吸を落ち着かせながら、正面を向く。

「っ…!綺麗…」

 その景色を見た瞬間、西村はその風景の虜となった。彼は満足したように微笑むと、西村の隣に座る。

「でしょ?ここの裏山、誰も来ないんだ。一人でいたい時とか、何か嫌なことがあった時はいつも、一人でここに来てたんだよ」

「そうなんだ…」

 目の前に広がる、オレンジ色の夕焼け。まるで自分たちの街を侵食していくようで、ほんのり薄暗いバックが、より美しさを際立てていた。

「ここ…心奈は、知ってるの?」

「ううん。明月どころか、和樹君も知らないよ。多分、俺しか知らない秘密の場所。本当は、誰にも教えたくなかったんだけど、西村にはいいかなって」

「ヒロ君…」

 彼は寂しそうに微笑むと、夕日を覗いた。少しの間、周囲に静けさが走る。

「…西村はさ。少し怒りっぽいところはあるけど、マジメだし、話しやすいし、向こうに行ってもすぐ打ち解けられると思うよ。友達も、すぐにできると思う。それに、もう一生会えない訳じゃないんだしさ。そんなに悲しまなくても、大丈夫だよ」

 彼が夕日を見ながら呟く。

「…うん」

 ―ダメ…そんなこと今言われたら、私…。

「それに、明月や南口、和樹君だってそう思ってると思う。引っ越すのは仕方ないことだし、今はお姉さんのほうが大事だと思うから」

「…うん」

「西村と別れるのは辛いけど…でも、どこにいても俺たちは友達だから。それだけは、忘れないでほしい…かな」

「うん。…っ!」

「え、西村?」

 裕人が驚く。

「やっぱりやだ!ヒロ君や心奈と別れるなんてやだよ!」

 隣に座る彼に寄り添うと、彼の肩に腕を回す。

 許されるのなら少しだけ、ほんの少しでもいいから、彼をこの手で感じたかった。

「なんでお姉ちゃんはガンになったの!?どうして引っ越さなきゃいけないの!?やだよ!!私、引っ越したくない!でも、お姉ちゃんにも、いなくなってほしくない…!」

「西村…」

「っ!」

 不意に、彼が腕を回して、自身を抱きしめた。彼の優しさに、再び涙があふれ出る。

「…ごめん、ヒロ君。少しだけ、こうしてていい?」

「うん…」

 結局、こうなってしまった。また今回の件を悔やみ、泣いてしまった。

 でも、今回は一人じゃない、彼がいる。彼がいてくれている。自分の大好きな、彼がいてくれている。それだけで少しだけ、気持ちが楽な気がした。

 どのくらい、彼に触れていたのだろうか?すっかり日の入りしてしまい、辺りは暗くなってしまった。

 鼻を啜ると、西村は口を開いた。

「ごめん…もう平気。なんか、スッキリした」

「そう?なら、よかった」

 彼が微笑む。やはり、大好きな人の笑顔を見ると、こちらも安心できるのは何故だろう。

「そうだ。最後に、これ渡しとくよ」

 ふと、彼がポケットから財布を取り出した。彼は財布をいじりながら、何かをしている。

「よしっ」と声をあげて彼は、こちらに何かを差し出した。

「…これ、キーホルダー?」

 彼の手のひらに乗るそれを受け取る。薄暗い中、キラリと鈍い輝きを放つ、十字架のキーホルダーだった。見る限り、まんま男物である。

「うん。少しでもそれで思い出してくれたらいいなぁって」

 ―だからって、女の子にこんな男物渡さなくてもいいのに…。

「…もうっ、本当に…バカなんだから」

「え、なんか言った?」

「何でもない!!でも…ありがとう」

 彼に肩を寄せる。本当に、彼の不器用な優しさにはつくづく元気づけられる。

 驚いたのもつかの間、彼は笑って、西村に寄り添ってくれた。

「…向こうに行っても、頑張ってみる。ヒロ君が大丈夫って言ってくれたから、なんか勇気出たよ」

「そう?なら、よかったよ」

 この時間が、いつまでも続けばいいのに。そんなことを思っていた時間は、あっという間に過ぎ去っていく。

 西村と裕人の最初で最後のデートは、こうして一日を終えたのだった。

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