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Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
卯月-『十字架のプレゼント』
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11.

「はぁ、はぁ」

 コートの上に大の字で寝る。体が無性に暑くて、随分と火照っていた。

「はぁ、ああー、楽しかったぁ。だいぶ動き、よくなったんじゃない?」

 中田の隣に座った夏樹が、タオルで汗を拭きながら言った。

「そうか?」

「うん!点も入るようになったし、いい感じだと思う」

「つってもなぁ。入ったのたった四本だぜ?何試合やった?」

「うーん。五十試合くらいやってたのかな?楽しかったから、よく覚えてないや」

 へへっと夏樹は笑った。

「まぁ、急がなくてもしっかり練習すれば平気だよ。さて、暗くなってきたし。今日は終わろっか」

「お、そうだな」

 二人は軽いクールダウンを終わらせると、夏樹の家の中へと入った。

 中は広々としていて、玄関に入るとすぐリビングだった。部屋の区切りが無い分、一つの部屋が大きいという、あまり見ない間取りだった。

 リビングの脇にある、よくリビング階段とも呼ばれる階段を上る。四部屋ほどあるうちの、一番奥にある部屋に招き入れられた。

「この部屋、自由に使って?あぁ、昔お兄ちゃんの部屋だったんだけど、今は荷物置きになってて。ちょっと荷物が置いてあるけど気にしないで?適当にどかしちゃって構わないから」

「りょーかい」

「それじゃあ私は、先にお風呂沸かしてくるよ。少しのんびりして待ってて」

「なんか手伝うか?」

「ああ、いいよいいよ。和樹はお客さんなんだし、ここは私におもてなしさせて」

「ん…そうか?」

 彼女はニコッと笑うと、部屋のドアを閉めて出ていった。

 一人になった中田は、部屋の隅に綺麗に畳んである布団に気が付いた。きっと、彼女が自分が来るために用意してくれていたのだろう。それに、荷物置きという割に部屋が綺麗だ。ちゃんと掃除もしてくれたようだ。

 ここまで歓迎ムードだと、なんだかとても申し訳なくなる。それに、女性の家にお邪魔することなんてほとんどなかったが為に、改めて考えてみると少し気恥ずかしい。

 長い付き合いである南口の家にでさえ、中田は片手で数えるほどしかお邪魔したことが無い。彼女自身もあまり呼べないとも言っているし、その理由も中田は知っている。それは仕方がないことだ。

 汗だくのジャージを脱ぎ、シャツとズボンに着替える。ふぅっと一息を吐くと、中田は床にごろんと寝ころんだ。

 二十分程部屋でのんびりしていると、下の階から夏樹に呼ばれた。危うくそのまま寝てしまいそうだったので、呼ばれてハッと眠気が引いた。立ち上がり体を伸ばすと、一階のリビングへと降りた。

「なんだ?」

「一応、お風呂沸かせたよ。先に入っちゃって。その間に、私はご飯作るから」

 いつの間にか先程のジャージ姿から、白黒ボーダーのTシャツに水色のパンツ姿に着替えていた夏樹が、キッチンでエプロンを装着していた。

「ああ?別にそこまでやろうとしなくていいのに」

「いいんだよ。和樹の為だから」

「そうか…なら」

 夏樹の隣に立つ。「えっ?」と、彼女が驚いた。

「俺は夏樹の為に手伝うわ。こう見えて、料理は得意なんだぜ?」

「でも…」

「気にすんな。いつも世話になっているお礼だよ。色々、迷惑もかけてるしな」

「そう…?じゃあ、手伝ってもらおうかな」

 彼女が嬉しそうに微笑む。二人は一緒に、夕飯を作り始めた。

 キッチンで作業すること四十分。今晩のメニューは、鶏肉とキャベツの野菜炒め。キュウリの辛子漬け。玉ねぎとジャガイモの味噌汁。そしてご飯。何とも夏樹らしいチョイスだ。

「でも、和樹が料理って意外だなぁ。がさつなくせに変なとこ器用なんだね」

「うるせぇな、いいだろ?別に」

「ふふっ、そうだね」

 出来上がった料理を、夏樹がテーブルに置いていく。何だか新婚夫婦みたいで、ちょっと恥ずかしい。

「それじゃ、食べよ?」

「おう」

 椅子に向かい合って座る。しっかりと「いただきます」と口にすると、二人は楽しい夕食の時間を過ごした。


 夜十一時過ぎ

「あー、また負けたぁ」

 苛立ちでトランプをテーブルの上にポイッと投げ捨てる。

「ははっ、惜しかったな。やっぱりお前、頭使う勝負は苦手なんだな」

「ぶぅ…昔から脳筋って呼ばれるけどさぁ。どうしてみんな、そんなに考えられるの?」

「あぁ?んなこと聞かれてもなぁ…。普通にやってるだけだし」

「えー…。あー、悔しい。あと一回だけ!」

「へいへい。わぁったよ」

 二人は夏樹の部屋で、トランプを使い遊んでいた。気が付けば二時間くらい、やっている気がする。最初は神経衰弱をやっていたのだが、別の遊びはないかと調べ、セブンブリッジというカード遊びをやってみた。最初は二人とも、インターネットの記事を見ながらやっていたが、覚えてくるといつの間にかどっぷりハマっていた。

「…ところでさぁ、和樹」

 カードを分けながら夏樹が呟いた。

「何?」

「…彼女と、上手くやってるの?」

「あ?…どうした突然」

「いや、その…思えば私、和樹の彼女の事知らないなぁって思って」

「そういえば、言った事なかったな」

 お互いの手札が完成する。セブンブリッジは、三枚の同じ数字が手札にあれば、メルドと呼ばれる行為をできる。これは、その三枚をメルドゾーンという場に捨てることができる。自分のターンに山札から一枚カードを引き、メルドが出来なくても一枚ずつ手札から捨てていくことができる。最終的に、手札が無くなれば勝利だ。

「うん…。うわぁ手札酷い。これでいいか」

 先攻の夏樹が一枚を手札から捨てる。

「いつから付き合ってるの?」

「小学五年の時からだな。向こうから告白してきたんだ」

「え!?そんなに付き合ってるの!?凄いなぁ」

 夏樹が驚いた。

「じゃあもう、だいぶ家族みたいなものなんだ?」

「まぁ…そうだなぁ。あいつのこともほとんど知ってると思うし、最近は何というか…冷めてきてしまっているというか」

「え?」

 手札を見ていた夏樹が、こちらに視線を向ける。

「だ、ダメだよ!ちゃんと仲良くしてあげないと!和樹だって、一緒にいて嫌なわけじゃないんでしょ?」

「まぁ、そうなんだが…。でも何かが違うんだよな。つっかかりがあるというか」

 山札から一枚カードを引く。数字の八のカードが三枚揃い、メルドゾーンへカードを置いた。

「それって…その…やっぱり、私?」

 夏樹が俯く。

「あ、いや!そうじゃねぇんだ!違うんだけど…何かが足りないんだよな」

「…和樹ってその…キスしたことある?」

「っ!?な、何言ってんだおめぇ?」

「キスってね?色々良い効果があるんだよ。例えば、幸せホルモンっていうホルモンが分泌されるの。ストレス解消とか、他にも色々効果があるの」

 彼女は、カードを捨てながら不器用に笑った。

 ―こいつは何言ってやがるんだ。自分が一番辛いくせに。

「そうか。…したことねぇんだよな、そういえば」

「え、そこまで一緒にいて?」

「ああ」

「じゃあ、その…エッチとかも?」

「あ、当たり前だろ!逆に、なんでそういうことがみんな平気でできるのかが謎だわ!」

「そうなんだ…意外と、和樹って奥手なんだね」

 ふふっと夏樹が笑った。先ほどの不器用な笑みではなく、ちゃんとしたいつもの笑みだった。

「…で?しろって言ってるのか?」

「ああいや!別にそうじゃないよ!ただ…そういうのも、一つの『好き』ってことなんじゃないかなぁって」

「はぁ…?そうですか。…あっ?」

 夏樹が手札のカードを捨てる。いつの間にか、彼女の手には一枚もカードが残っていなかった。

「私の勝ち」

 へへへっと彼女は笑った。

「ちっ、なんか変な話してたら疲れたな。今日はもう寝るか」

「そうだね。もうすぐ日付も変わるし、明日も朝から練習するから。しっかり休んでおいてね」

 トランプをカードケースに仕舞いながら、夏樹が言った。

「へいへい。じゃあ、お休み」

「お休みなさーい」

 不器用に笑顔で微笑む彼女に見送られながら、中田は夏樹の部屋を出た。

 寝床に指定された物置部屋に戻る。用意してくれた布団を広げると、そのままそこに寝転んだ。

「はぁ…」

 ―俺は、そういうやり方であいつと仲良くなりたくねぇ。もっと、別のやり方で。また昔みたいに仲良くなりたいだけなんだ。

 だけど、それをどうすればいいのか…それが分からねぇ。

 スマートフォンを開き、フォトアルバムを開く。だいぶ昔、高校一年生の文化祭の時に撮った、二人での写真を開いた。

 中田はバスケのユニフォーム姿で、彼女は真っ白なフリルの付いたブラウスに、薄ピンク色のスカートを履いている。いかにも彼女らしい清楚な感じが、いつ見ても美しい。

 この時以来、二人一緒に写った写真は無い。彼女は写真部でカメラ好きだが、人物画よりも風景画のほうが好きらしく、あまり自身が写真に写るのは嫌いらしい。この時初めて、その場の雰囲気とノリで一緒に写ってくれた。友人に撮ってもらったのだが、彼が半分強引に撮ろうと言ったせいでもあるのかもしれないが。

「どうしてこう、なっちまったかなぁ?」

 画面を切り、枕元に投げ捨てると、ゆっくりと目をつむった。

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