表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
卯月-『十字架のプレゼント』
83/164

7.

「なぁ、頼むよ。今まで一緒にやってきただろう?」

「だから、何度も言わせるなよ。俺たちはあいつとはやらねぇ」

 宇佐美がこちらを睨みつけて否定した。

 次の日。遅からず俺は彼らに話を持ち掛けてみたものの、やはり彼らの答えは変わってなどいなかった。

「お前はいいのかよ?あんなやつが監督で?」

 机に座っている石明が問うた。

「確かに、監督としての知識は無いし、直接的に俺たちを鍛えてくれるわけではないかもしれないけど…それでも昨日、あの先生と一緒に練習して、なんとなくやっていけそうな気がしたんだ」

「その根拠は?」

「根拠…。まず、安村先生のあの性格かな。なんとなくだけど、あの人に付いていけば、なんとかなるような気がするんだ」

「へっ、そんなマンガみたいな話…」

 宇佐美が鼻で笑う。

「それだけじゃない。あの人の観察力とか分析力は、ただモノじゃない。俺のドリブルを一度見ただけで、自分が気がつかなかった弱点も見つけてくれたし。それにあの人、これからの練習メニューを考える為に、メモ帳にいちいちメモしてたんだ。やる気がない人が、そこまですると思うか?」

「ふん、どうだか…」

 宇佐美が椅子にふんぞり返る。これだけ言っても、彼らの心は微動だにしていないようだ。

 他に何か、かける言葉は無いか。俺は必死に考えを巡らせていた。

「お、いたいた。おーい、裕人」

「安村先生?」

 ふと振り向くと、青のジャージ姿をした安村先生が、教室の前で俺に手を振っていた。呼ばれるまま、急いで彼の元へと向かう。

「今日の放課後。多分、六時過ぎくらいになっちゃうかもしれないんだけど、空いてるか?」

「え?えぇ。まぁ、平気ですけど」

「じゃあ、ちょっくら車で、河川敷のほうまで行かないか?晩飯、奢るからさ」

「そ、そんな。っていうか、先生も新任なんですから、色々大変なんじゃないんですか?」

「ああ、もちろん。でも、それはそれ。確かに授業も大切だけど、今一番俺がやりたいことは、お前たちとのフットサルなんだ」

「ほら」小さく彼は呟くと、俺だけに見えるように、自分の手に持っている物を見せた。彼は「フットサル入門」という分厚い本を一冊、手に持っていた。

「お、おお。そこまでですか…分かりました、じゃあ、どこかで暇でも潰して待ってます」

「サンキュー。…よかったら、お前たちもどうだ?晩飯奢るぞ?」

 教室の奥で、こちらの様子をまじまじと伺っている宇佐美と石明に、安村が声をかけた。

「ご遠慮します。目障りなんで帰ってください」

 石明が何かを言いたそうにしていたが、それよりも早く宇佐美が、きっぱりと言い張った。

「…そうか。なら、いいんだ。それじゃあ、また後でな」

「あ、はい」

 彼は少し悲しそうな目をすると、廊下を歩いて行った。


 午後七時前

「いやぁ、悪いな。だいぶ待たせちゃって」

 だいぶ外は暗くなり、街灯の明かりがまぶしく見える時間帯。彼はようやく校舎から、姿を現した。

「平気ですよ。暇つぶしは、慣れてるんで」

 スマートフォンの画面を切ると、俺は彼を向いた。

「誰かと、喋ってたのか?」

「えぇ。一応…彼女と」

「お、そうか。仲良いんだな、羨ましい」

「まぁ、それなりにやってます」

「いいことじゃないか。さて、じゃあ行くか」

「はい!」

 四人乗りの青いスポーツカーに俺たちは乗り込むと、十数分程かけて、河川敷へと向かった。

「裕人たち三人は、どこで知り合ったんだ?」

 彼が問うた。

「宇佐美とは、中学からの仲なんです。といっても、ちょっと訳ありで仲良くなったんですけど。石明は、高校で知り合いました」

「へぇ。訳ありとは気になるね」

「まぁ…話せばだいぶ長くなるんですけど」

「そっか。じゃあ、時間がある時にでも聞かせてよ。今はまだ、話づらいとも思うし」

「そう、ですね。そのうち話します」

 ようやく河川敷へとたどり着いた。車の中でジャージに着替えると、街頭だけが頼りの暗い夜の中、俺たちの練習はスタートした。

「さて、それじゃあまずは…ドリブルかな」

 彼は小さいコーンを、適当にクネクネとした形で置いていく。

「とりあえず、これをなるべく素早くできるように。芝生の上だから、思いっきりやっていいぞ?俺も一緒にやるからさ」

「分かりました!」

 彼と順番ずつ、コーンを避けるようにドリブルをしていく。やはりコンクリートであるテニスコートと違い、全くボールを蹴る感覚が違う。やっていくうちに足が狂うことへの恐怖心は徐々に薄れ、楽しくなってきた。

「いいね、その調子だ」

「先生もだいぶ上手くなってるじゃないですか」

「はは、そうかい?やっぱり、スポーツはどれをやってても楽しいね」

 二十分程ドリブルの練習をしたのち、彼が最後のコーンを抜け終えて、ボールを手に持った。

「さて、少し休憩しよう。五分後に再開だ。今度は少し、コースを複雑にしてみようか」

「分かりました!」

 ふぅっと一息をつき、買っておいたペットボトルのスポーツ飲料水を飲む。熱くなった体に、冷たい水が体の中に入る感覚が気持ちいい。

「…で、そろそろ出てきたらどうだ?」

 ふと、安村がコーンを並べながらぼやいた。

「ん?どうしたんですか?」

「いや?ずっと俺たちを見ている人がいてね。裕人は、気がつかなかった?」

「へ?ぜ、全然」

 奥の低木のほうで、ガサゴソと音がする。そこから黒い影が出てくると、それはこちらへと向かってきた。

「よう、真。一緒にやるか?」

「石明!」

 そこには、石明が少し照れ臭そうに、眼鏡を直しながら立っていた。

「まぁ、なんだ。やっぱりなんだかんだ、見てみたくなってさ。チャリで来てみたんだ。そしたらなんか、楽しそうに練習してるからよ…」

 もじもじと話す石明を見て安村はニヤッと笑うと、彼にボールをポイッと投げた。

「お前もやろうぜ。そして一緒に大会を目指そう。な?」

 石明はジッとボールを見つめると、そのまま地面に置き、足で踏んだ。

「…ま、まぁ。暇つぶしくらいになら、やってもいいけどさ」

「はは、それでもいいよ。よぅし!じゃあ、真も加わったし、一緒に頑張っていこう!」

「はいっ!」

 俺は彼の掛け声に、力いっぱいの返事をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ