表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/164

エイプリルフールデート 前編

四月一日


「ごめんね!急におばあちゃんの調子が悪くなっちゃって、行けなくなっちゃったの!」

 その一報が入ったのは、俺が待ち合わせ場所に着いてすぐの頃だった。

「え、マジかよ…」

 楽しみにしていたせいもあり、聞いた途端に気持ちがとても落胆する。まぁでも、そういうことならば仕方がないだろう。

「そうか…分かったわ。じゃあ…」

「はい、ざんねーん!」

「ぬあ!?」

 突然、背中を思い切り平手打ちされた。イラッときて、誰だよと思わず振り向くと、そこには今まで電話していた明月心奈の姿があった。

 真っ白のパンツに、白黒のTシャツを着て、その上にGジャンを羽織っていた。とてもカジュアルに仕上げており、彼女にとても似合っていた。

「な、お前、いつの間に?っていうか、おばあちゃんはどうした!」

「えー?ヒロ、本当に信じてたの?今日は、エイプリルフールだよ?」

「…あっ」

 しまった。俺としたことが、彼女とのデートということが楽しみすぎて、すっかりそのことを忘れてしまっていた。

「もう。ま、ヒロらしいけどね」

 心奈が笑った。

「それは褒めてるのか、貶してるのか?」

「どっちも!そんなことより、さっさと行くよ!」

 彼女は俺の背中をパンと叩くと、先に歩いて行ってしまった。

「はいはい、分かりましたよ」

 しぶしぶぼやきながら、俺は彼女の後を追いかけた。

 最初に向かった先は、もうすぐ美帆の誕生日だということで、彼女への誕生日プレゼント選びを手伝わされた。

 駅前の北ビルに入ると、俺たちはアクセサリーショップへと入った。普段はこんな店は入らないために、少し緊張する。

「さて、まさかヒロも多少は奮発して出してくれるんだよね?だって、美帆の誕生日プレゼントだもんね?」

 横目で不気味な笑みを浮かべながら彼女が言った。その目は半分、笑っていない。実質脅迫である。

「ぬぅ…出せばいいんだろ、出せば。まぁ、宝木には色々お礼もしたいしな」

「よし!決定!じゃあこれね」

「はやっ!ってか、たか!」

 俺が仕方なく了承すると、心奈は即座に一つのネックレスを指差した。リンゴに女の子の天使が抱き着いている、可愛らしいネックレスだった。そのお値段、税込み二万幾ら。

「もう、いちいちうるさいなぁ。これでも一応、私のほうがお金出すんだからね?」

「わぁってるけどよ。俺、半分もだせねぇからな?」

「そんな事だろうと思った。まぁ、一応お小遣い我慢して、ずっと貯めてきたからそれなりに余裕はあるんだけどね」

「一番美帆に感謝してるのは私だし。あ、お金は後でちょうだいね」心奈はそう言うと、一人の女性店員を呼びかけ、レジへと向かっていった。

 ―女子の誕プレ、えぐいなぁ…。単にあいつが凄いだけか…?

 心中そんな事を考えながら、彼女の買い物を見守った。

 結局、彼女との話し合いで俺が出した額は七千円に収まった。これでもお財布の中身はだいぶ減り、今月の半ばまで、残り約三千円で過ごさなくてはならない。

「あれー?裕人君だっけ?」

 ふと、彼女がトイレに行っているタイミングで、どこかで聞いたような声が聞こえた。

「ん?…ああ、カフェの」

 確か彼女は、西村の友人である香苗といったはずだ。今日はもちろんパティシエ姿ではなく、黒のデニムシャツに白Tシャツ、ピンクのデニムスカートといった大人っぽいコーデだ。雰囲気だけ見ると、やけに美少女である。

「うんうん、そうだよ。今日はどうしたの?」

「ああ、今日は…」

「あれ?香苗じゃん。やっほー、久しぶり」

 ふと、帰ってきた心奈が香苗に声をかけた。すると香苗は、驚いた表情をして体を退ける。

「え、あんたホントになっち?何か変なものでも食べたんじゃないの?」

「へ?…ああ、そっか!香苗には、まだこっちの私見せてなかった!」

 同じくして、思い出したように心奈が声を大きく荒げた。

「訳わかんないよ!確かに今日はエイプリルフールだけど、そんなのは通じないよ!っていうか、今までずっとエイプリルフールってのも無しだからね!」

「おいおい?どういうことだよ」

 訳も分からない俺は、思わず二人に問うた。

「っていうか、二人とも知り合いだったの!?え、もしかしてカレカノ?」

 何も知らない香苗が、次々と質問攻めしてくる。そういえば、一番彼女のカフェでのやり取りが多かった割に、一番彼女とのコミュニケーションは取っていない。

「えっと…どこから説明する?」

 俺は、心奈に問うた。

「そ、そうだなぁ…とりあえず、私の喋り方から話そっか」

「ここじゃ迷惑だから、移動しよっか」そう言う訳で、俺たちは一つ下の階にある、世界でも超有名なカフェ、スタービッグズへと入った。

「さぁて。私に話すからには、あなたたちの関係隅々まで聞かせてもらうよ?覚悟してね!」

 香苗が口元を吊り上げて笑った。


「へぇ。なるほどね」

 香苗が、コーヒープラなんちゃら(名前がいちいち難しくて覚えられない)を飲み干すと、はて?と呟いた。

「で、結局二人は付き合ってるの?」

「え?えと、その…」

 心奈が何と答えればいいかと、視線でこちらに助け舟を要求した。

 ―えぇ…俺かよ。

「…ああ、そうだよ。俺の彼女だ」

 しぶしぶ思いながらも、俺は言い切ってやった。なんだか、彼女と言うと少しだけ優越感に浸れるのは気のせいだろうか?

「ふぇえ、やっぱりかぁ。いいなぁなっち…」

 羨ましそうに机に顔を付けて、香苗がぼやいた。

「香苗だって、普通に可愛いんだからさ。頑張れば彼氏くらいできると思うよ?」

「うぅ…ありがとうなっち…。可愛いって言ってくれると、ちょっとだけ勇気出るよぉ…」

 香苗が心奈の手を握る。一方の心奈は、半分苦笑いである。

「…ところでお前。なんでここに来てたんだ?」

 俺は香苗に問うた。

「…ああ!忘れてた!美帆の誕プレ買いに来てたんだよ!」

 ―お前もか。

 香苗の叫びに、俺は心の中でツッコんだ。

「そうだったんだ。あ、一応私は、リンゴのネックレス買ったんだ。結構高いやつ」

「え?いくらの?」

「んーと、二万ちょっと」

 非情に言いづらそうに心奈が答える。

「ええ!凄いなぁ」

「まぁ、美帆には色々感謝してるからさ。ずっとお金貯めてたんだ」

「そっかぁ…分かった。じゃあ、私もいいモノ選ばないと!という訳で悪いんだけど、これ片づけといて!じゃあね!あ、またウチのカフェもよろしくね!」

 香苗は勝手に荷物をまとめると、ちゃっかり宣伝して勝手に店を出て行ってしまった。

「…すげぇな、あいつ」

 あまりの凄さに、思わず本音が口から出た。

「ははは…でも、あれでもなんだかんだいい子なんだよね。だから、嫌いになれないというか、憎めないというか」

「ふーん。ま、いいけど。っていうか、結構時間使っちまったな。俺たちも行くか」

「あ、そうだね。行こうか」

 俺たちも荷物をまとめると、揃って北ビルを後にした。

 続いて俺たちが向かったのは、俺の高校。江ノ星高校だ。どうしてここに来たのかというと、「普段ヒロがどんな学校で生活してるのか見たい」と彼女が言ったからである。特に比較的新しい訳でもなく、綺麗なわけでもない。見る価値は言ってしまえば、ほぼゼロである。

 一度電車を経由し、普段自転車で通る道を、バスで三十分程揺られながらようやくバス停へと着いた。そこから数分程歩くと、その高校は姿を現した。

「見えてきた、あれだよ」

「へぇ、至って普通の学校だね」

「…まぁ、そりゃあな」

 特にツッコミどころもないシンプルな感想に、俺は返答に戸惑った。

「あれ?裕人じゃん。あれ?なんでお前女連れてんの!?」

 ふと、校門前に来たところで、聞き慣れた声に声をかけられた。

「ん、おう。宇佐美。補習か?」

 相変わらずのツンツン頭。宇佐美悠介が、春休みのくせに制服姿で立っていた。

「あれ…?君、確か同じ中学の…」

 ふと、心奈が思い出したように言った。

「ん…ああ!お前、明月か!ということはお前、ついにやっちまったんだな!?」

 一体何をやったと勘違いしてるのかはさておき、嬉しそうにしている宇佐美に俺はしぶしぶと答えた。

「んまぁ、色々あってこの通りだ」

「おうおう、よかったじゃねぇか!あ、俺、宇佐美悠介な」

「え?あ、うん。よろしくね」

 さりげなく宇佐美が自己紹介する。すると同時に、「ふごぉ!」と体をくの字に曲げて叫んだ。

「ったく!レディを置いていくなんて、酷いったらありゃしないやんね!今日の補習は、一時間延長ってお願いするよ!?」

 手をパッパッと払いながら怒るのは、いつも通りの佐口璃子であった。

「…あれ?真田君。それと…?」

「あ、明月心奈です」

「ああ!あの真田君と色々あった?おぉー、ようやく仲直りできたんやね?よかったよかった。あ、ウチは佐口璃子。一応、このバカの彼女をやってるから、心奈ちゃんも何かあったら相談してね?」

「え、あ、うん。分かった」

 苦笑いをして心奈が答えた。

「で?お前らはいつものやつか?」

「そ。こいつがいつまで経っても補習に受からないから、先生から直々に勉強を扱いてやってくれって言われてね。こっちだって色々予定が溜まってるのに、しょうがないったりゃありゃしないね」

「つったってよ!お前の説明難しすぎるんだよ!be動詞だとか、形容詞だとか。意味分かんねぇっつうの!」

 単語から察するに、多分英語の話だろう。その単語に一瞬心奈が反応したが、話しかけづらいと察したのか、結局言葉は発さなかった。

「なんや、ウチの教え方が不満か?」

「もう少し分かりやすく教えろって言ってんだよ」

「はぁ!?こっちだってしぶしぶ一緒に学校に来てやってるんに、なんやねんその態度は!」

「え、えっと…?」

 突然始まった喧嘩に、思わず心奈が慌てる。急いで止めに入ろうとしたところを、俺は映画のワンシーンみたく手を掴んで止めた。

「やめとけ。あいつら、喧嘩始まったら誰も止められないから」

「え、えぇ…」

「いいか?見とけよ?」

 納得しない様子の心奈に、俺は体を張って実演してみせた。

「お、おい?お前ら、落ち着けって!」

 わざとらしく、それらしく声をかける。

「ああ?!今それどころじゃないね!あんたは黙っとき!」

 佐口が物凄い表情で俺を睨みつけた。おぉ、いつ見てもやはり恐ろしい…。

「う、うぃーっす…。ほらな?」

「あ、あはは…本当だ」

 流石の心奈も、今世紀最大の苦笑いである。

 ガミガミとうるさい口喧嘩を見守ること十数分。ようやく落ち着いた様子の二人が、こちらを振り向いた。

「ご、ごめんな!心奈ちゃん。ウチら、カッとなると喧嘩がやめられなくなるんよ…」

 佐口が頭を下げた。そのまま、右手を宇佐美の頭に乗せて、強引に彼の頭を下げる。

「あ、いや、大丈夫だよ。そ、そういう時もあるよね、私もあるもん」

「あ?本当かそれ?」

 思わず心奈に問いかける。

「もうっ!今は話に乗っといて!」

 すると、彼女が小声で俺を睨んだ。お、おう…まことに申し訳ない。

「本当だよ。まぁでも、お互い色々あるもんね。喧嘩もいいことだと思うよ」

「あ、ああ。そうかもな」

 それとなく彼女の話に乗っかると、佐口ははぁっとため息を吐いた。

「ホント、困るんよなぁ。色々と。でも、それでも嫌いになれないのが、彼氏ってもんやけどね」

「っ…お前、今日はやけに素直だな」

 宇佐美が驚く。すると佐口はそっぽを向きながら、宇佐美の首根っこを掴んだ。「え、ちょ?」と、宇佐美が小さく発する。

「はいはい!嬉しかったらさっさと教室向かうよ!それじゃあ二人とも!仲良くな!」

「あ、うん。ありがとう」

 心奈は苦笑いを浮かべてそれを見送った。

「…なんだろう、今日は疲れる奴とばっかと出会っている気がするぞ」

「あはは…そうだね。私もちょっと疲れちゃった」

「そうだな…少し、どこかで休むか」

 学校から徒歩数分。お昼時ということもあり、昼食がてら、近くのうどん屋に頭をくぐらせようとした。

「…あれ?裕人?」

 すると、またもや聞きたくもない声が聞こえた。後ろを振り向くと、いつもと変わらず眼鏡をかけて背が低い石明が、もう一人の男と立っていた。

 ―ああもう!どうしてこう大事な日に次から次へと!

「ああ、石明。奇遇だな」

 まるで棒読み感たっぷりで、俺は彼に言った。

「…女やん」

 石明は心奈を見ると、気持ち悪く一言呟いた。その目線を食らった心奈は、一瞬体をビクつかせる。

「…女だけど」

「…できたのか?」

「…幼馴染」

「…テメェ!いつの間に俺よりそんな先にぃぃぃぃ!」

 よっぽど悔しいのか。石明が俺の胸倉をつかみ上げた。

「ああぁぁぁあぁぁ、ちょぉぉおおぉいいぃぃやあぁぁめえぇぇてぇぇええぇぇ」

 もはや反抗する気力も無かった俺は、揺さぶられるままに声を発した。その横で、心奈と石明の友人であろう男が、苦笑いを浮かべている。

「ぐぅぅうう!…おっと。これは失礼。俺は石明真で、一応裕人の友達だ」

 思い出したようにパッと俺の事を離すと、態度を一変させて心奈に自己紹介をした。

「は、はぁ。どうも」

 またもや面倒な輩に、心奈はしぶしぶと頭を下げた。

「こんな奴が彼氏なんて、疲れるでしょう?バカで鈍感で。色々大変だと思うけど、こいつのこと、よろしくな」

「あ…うん。分かった」

「んじゃ、裕人。今度会った時、じっくり聞いてやるからな。覚悟しておけよ」

「おぉー、待ってないけど分かったわ」

 彼は心奈に手を振ると、店内に入っていった。

 一気に静まり返った俺たちは、顔を見合わせながら、実に五秒ほど、無言の時間が続いた。

「…別の店にするか」

「…うん」

 二言返事で意見が一致した俺たちは、そのまた近くのラーメン屋に入った。

 ようやく知り合いもおらず、二人きりでのんびりできる場所に来た。心奈も落ち着いた様子で、大きなため息を吐いていた。

「それにしても…ヒロも大変だね」

 到着した塩ラーメンを食べながら、心奈が言った。

「だろ?俺、ほぼ毎日あいつらの喧嘩ばっかり聞いてるんだぜ?ホント疲れるよ」

 味噌ラーメンを食べながら、思わず苦笑いを浮かべる。これからは、更に酷くなりそうで辛い。

「でも、個性的な人たちで、飽きはしなさそうだね」

「…それって、フォローか?」

「…一応」

「…伝えておくよ」

「え、いやいいよ!」

「冗談だよ」

「…エイプリルフールでしたーってのはナシね?」

「わぁってるよ」

 そんなこんなで大変な午前中を過ごし終えると、俺たちは地元へと戻るために、再びのんびりと歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ