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Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
第八針 やって良いこと悪いこと
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5.

二千×八年現在 三月


「それで、宇佐美君と佐口さんと仲良くなったの?」

 西村が問うた。

「ああ。あいつら、二学期になった途端に面倒くさくなるくらい話しかけてきてさ。本当は誰とも話したくなかったんだけど、気がついたら仲良くなっててさ」

「ふふ、なんかあるよね。そういうこと」

「おかげで面倒ごとが増えたよ。まぁその分、残りの中学生活もそれなりに過ごせたんだけどさ」

 俺はベンチから立ち上がると、大きく伸びをした。

「さて、すっかり話し込んじまった。そろそろ行くか」

「…本当だ。そうだね、行こうか」

 西村はスマートフォンで時間を確認すると、ヒョコヒョコと俺の後を付いてきた。

「そういえば心奈、中学生の間どうしてたんだろうね?一度も来てなかったんでしょ?」

「ああ。なんか中田が言ってたな。まぁ、高校に入れてるんだ。通信制の学校にでも通ってたんじゃねぇの?」

「言われてみれば。美帆の通ってる高校、偏差値が六十いくつか…そのくらい高いはずだよ。そこに通ってるってことは、それなりに勉強してたってことだよね」

「は?マジかよ。俺のとこ、四十ねぇよ…」

 知らない間に、学力面ではだいぶ差をつけられてしまっていたみたいだ。昔は英語以外できないそれなりの女の子だったくせに。

 まぁ、不登校になっている間に勉強ばかりしていたのだろう。彼女の性格を考えれば、なんとなく想像できる。

「嘘!?私でも五十ちょっとの高校だよ?ヒロ君って、その…そんなに頭悪かったっけ?」

「いやぁ…宇佐美達と仲良くなってから、勉強しなくなったと言いますか。バスケ部時代は、監督が監督だったから、勉強せざるを得なかったんだけど、やめた途端にこれだからさ」

「あぁ…なるほどね。ヒロ君なら納得」

「おい?それはどういう意味だ?」

「そのまんま」

 西村が苦笑いを浮かべた。

「そう考えると、心奈凄いね。だいぶ勉強頑張ってる」

「将来英語教師になるとか言ってたもんなぁ。きっとそのせいでもあるんだろ」

「え?英語教師?心奈が?」

「あれ?知らなかったのか?」

 意外という表情で、西村が首を振った。

 昔親友だった西村でさえ知らなかったとなると…多分、俺しか知らないのかもしれない。

「心奈が英語教師かぁ。でも、面倒見がいい心奈なら上手くやっていけそう」

「そうかぁ?生徒たちにいじられて、授業が進まなくなりそうだけど」

「でも心奈の事だから、テストは凄く難しく作りそうじゃない?」

「ああ、それはあり得るな」

 俺達は二人して笑い合った。

「西村は、何か将来やりたいことあるのか?」

「私?うーん…まだハッキリしないけど。でも、音楽には関わりたいなぁって思ってる」

「ああ。ジャズバンドやってるもんな。そういえば動画で見たよ、大会の様子。人数少なくても、いい演奏ってできるんだな」

「へぇ、見たんだ。ちょっと恥ずかしけど…そうだね。楽器のリズムを合わせれば、どんなに演奏者が少なくても音楽はできる。音楽は、聴く人を楽しませたり、リラックスさせたりもできるし、演奏してる本人たちも楽しい。そして何より音楽は、世界の人たちも共通して楽しむことができる。そう考えると、音楽って凄いよね」

 西村が楽しそうに微笑んだ。

「よっぽど好きなんだな、音楽」

「うん、好きだよ。私たちの音楽で、もっと沢山の人たちが楽しんでくれたらいいなって思ってる」

「そうか…」

「そういうヒロ君は、何かやりたいことあるの?」

「俺か?…いや、特にないんだよな。今までずっと、ただ遊びながら生きてきたから、特別得意なこともないし、好きなこともないし」

「バスケとか、フットサルはどうなの?」

「うーん。バスケも結局、中田とのコンビネーションがよかっただけだしな。フットサルだって、大会に出たことないから、実際の自分たちの実力は分からないしさ。上手いのか、下手なのか分からんし」

 正直なところ、遊び呆けて過ごせるのなら、それが一番だと考えてしまっている。その時点で特に夢もなく、やりたいことが無いと言っているのと同じであろう。

「ふーん…。まぁ、やりたいことが見つかればいいね」

「そうだなぁ…」

 それからすっかり会話も冷めきってしまったまま、俺たちは駅へとたどり着いた。

「それじゃあ、私は電車だから」

「おう、気をつけてな」

「また今度ね」

「あいよ」

 俺は改札口前で西村と別れると、駅の反対口に出た。

 駅前の公園の前に来る。夕方時になったこの時間は既に、遊んでいる子供たちはいなかった。

 ―ここは…色々思い出があるな。

 七夕の日に彼女と話したり。小さい頃は中田と遊んだり。…そういえば、ここで西村とも話したんだっけ。

 ある意味ここは、俺の思い出の場所の一つなのかもしれない。

「あれ?裕人君?」

 ふと、どこかで聞いたような声が聞こえた。

 声のほうを向くと、昼間にも見た美帆が手を振りながら立っていた。

「ん、宝木。どうした?」

「ちょっと病院に、知り合いのお見舞いに行ってたの。その帰り」

「そうか」

 美帆は裕人の前まで来ると、公園を見た。

「公園のこと見てたの?なんだかボーっと突っ立ってたから」

「ん、ああ。昔、色々ここであったなぁって思ってさ」

「ふーん。それって…心奈と?」

「えっ…まぁ」

「ふふっ、やっぱり。裕人君もなんだかんだ、心奈と会いたいんだね」

 彼女は楽しそうに微笑むと、公園の中に入った。

「ねぇ、裕人君。今から心奈と会う?」

「…は?お前、何言ってんだ?」

 心奈。その単語を聞くたびに、懐かしい感情が蘇る。

 胸が締め付けられるような。それでもなんだか温かくて、ちょっとだけ嬉しくなる。

「ふふ、冗談」

「なんだよ…ビックリした。てっきり近くにいるのかと思ったわ」

 彼女はブランコに座ると、子供のように漕ぎ始めた。その姿はまるで、動物の子供を見ているようで愛らしい。

「わぁ、ブランコって乗るのいつぶりだろう?凄く小さく感じるなぁ。裕人君も乗ってみる?」

「ああ?いや、俺はいいよ」

「そう?楽しいけどなぁ」

 彼女は大きく揺れるブランコに乗りながら、続けて言った。

「ねぇ裕人君」

「なんだ?」

「心奈を切ったこと…本気で謝りたいと思う?」

「そりゃあ…もちろん」

「そっか。…じゃあ、謝らなくてもいいと思うよ」

「は?どうして?」

「裕人君は、その分心奈を幸せにしてあげる義務があるから」

「はぁ。義務ね」

「ふふ、二人とも考えすぎなんだよ。ただ一緒にいられるだけで、昔は幸せだったんじゃないの?」

「うーん…そうかね」

「…まぁ、会えばわかるよ。よっと」

 美帆はブランコから降りると、公園を出た。

「それじゃあ、私は行くね」

「ん。おう、分かった」

「また連絡するね。バイバイ」

 彼女は楽しそうに手を振ると、駅のほうへと向かっていった。

 ―ただ一緒にいられるだけ、か。

 俺はその姿を見送ると、ゆっくりと自宅へ向かった。

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