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1.

二千×八年現在 少し前、中田と久々に電話を通じての会話にて


 俺が喋り終わると同時に、長い沈黙が走った。

 時計の針は、既に深夜の一時を越えた。説明ベタなため、色々と時間がかかってしまった。

 中田はふぅっと息と吐くと、次にこう答えた。

≪まぁ…今から言ったら、それで正解だったのかもな≫

「そう、かな…?」

≪要するに、前田が率いてたのはここらの暴力団だろ?そいつら全員に明月が被害を食らうよりはマシだ。最悪、集団で…≫

 中田が言葉を止めた。言われなくても、その後の言葉の意味は分かった。

「ああ。そして、万が一俺が前田と付き合うとなっても、恐らく結果的にその結末になると思う。あの時、縁を切っておいて正解だった」

 その後は言葉通り、彼女との縁は途絶えた。というか、彼女は夏休みに入ってから、転校してしまったのだ。要するに、やり逃げだ。どこの中学校に行ったのかも定かではない。

≪警察…いや、中学生だし、先生にまずは連絡が行くか≫

「ああ。そしてそれも多分同じだ。結局どうしようもなかったんだよ。俺は」

≪…なんか、悪かったな。お前ばかり責めて≫

 静かに中田は謝った。

「過ぎたことだよ。別にいい。それよりも、その後の心奈について、俺は全く知らないんだが、何か知らないか?」

 俺は中田に問うた。

≪ああ。あいつ、その次の週から一度も学校来てなかったらしい。玲奈がそう聞いたらしいぞ≫

「は?マジかよ」

≪きっと、精神的に嫌になっちまったんだろ。仕方ねぇよ≫

「…ああ」

 俺が、あいつの人生を狂わせた。それは紛れもない事実だ。

≪…まぁ、今色々言っててももう昔の事だ。仕方ねぇよ≫

 中田が慰めるように言った。

≪とりあえず、話てくれてありがとな。久々に話して、楽しかったわ≫

「ん、ああ…」

≪そうそう、嫌じゃなかったら、俺の連絡先は西村から貰っといてくれ。時間もいいし、俺はそろそろ寝るわ≫

「おう、分かった。後で貰っとく。それじゃあな」

≪あいよ、また≫

 彼との通話を切り、受話器の画面を確認すると、およそ四時間半も話していたらしい。とてつもない長電話だ。

 俺は受話器をリビングへ戻すために、自分の部屋のドアを開けた。

「うわぁ!危ないなぁ」

 突然大きな声でドアの目の前にいたらしい母が言った。

「あ、悪い」

「もう。あ、終わったの?電話。随分長く喋ってたんじゃない?」

「まぁ。久々だったし」

「そう。ちゃんと歯磨いて、早めに寝るのよ。それじゃ、お休み」

 そう言うと母は部屋へと入っていった。

 ―久々、か。あいつとも、久々に会いたいな。

 彼女の顔を思い返す。その表情は、楽しそうに微笑む彼女の笑顔だった。

 …会えるなら、な。


 20×7年現代 3月初週の日曜日


「…ねぇ、ヒロ君」

「何…?」

「会ってみない?」

 西村は、決心を決めた表情でそう確かに言った。

「…心奈に」

「お前…本気で言ってるのか?」

 俺は彼女に改めて聞き返した。

「本気だよ。私、心奈と会ったから」

「本当か!?元気にしてたか?」

 すると彼女は、悲しそうに俯き加減で答えた。

「元気に…まぁ、それなりだったけど」

「そうか…」

 ひとまず、何事もなく生活できているようで安心した。万が一彼女の身に何かがあったら、それは多分、全部俺のせいになるからだ。

「ただ…」

 西村が呟いた。

「ただ?」

「…心奈、人が変わったみたいだった。何だろう。まるで、人を遠ざけてるみたいな話し方だった」

「それって…どんな?」

「うんと…。例えば、最初会った時『ごめんなさい、陽子。今はまだ、私にはあなたに合わせる顔がないの』って、結構堅苦しかったかな」

「な、なんだそれ?」

 昔の彼女と比べたら、想像がつかない。あの無邪気で優しかった彼女が、どうしてそのようになってしまったのか。

 色々考えていると、俺は一人のとある人物が脳裏に引っかかった。

「…もしかして、前田の真似してるのか?」

「前田さんの?」

「ああ。前田もちょうど、そんな感じの話し方だった。上品で、上目遣いで、他の奴を見下してるみたいな。…もしかしたらあいつ、人に嫌われるようにしてるんじゃねぇのか?」

「あっ…」

 西村がハッとする。確かに、俺との騒動の後だと考えれば、それとなく辻褄は合う。

「…まぁひとまずそれはいい。それで、俺の事は話したのか?」

「あ、うん。でも…」

 西村は不安げな表情で、その時の様子を語り始めた。

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