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Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
第六針 七夕のタイムリミット
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Memory.15

 二時間ほど博物館で時間を費やすと、二人は近くのレストランで昼食を取った。

 食べ終わってお店を出ると、「少し歩こうか」と言う心奈のもと、二人は適当に周りを散策し始めた。

 クリスマスという事もあるのか、すれ違う人々は若い男女が多かった。

「そういえばさ」

 心奈は言った。

「去年の今頃、私達全然話してなかったよね。私がヒロに怒っちゃって」

「ああ、そういえばそうだったね」

 去年の今頃に、裕人が心奈に父親の愚痴を言って、機嫌を悪くさせてしまったことをきっかけに、全く口を聞かなくなってしまった時期があった。今思えば、とても懐かしく感じる。

「今だから聞くけど、あの時のヒロって、本気で私を怒らせちゃったと思ったの?」

「そうだよ。男ならまだしも、初めて女の子の機嫌を悪くさせちゃったから、どうしようってずっと思っててさ。冬休み中も、ずっとそのことが気がかりで、バカみたいに悩んでたんだよね」

「ふふ、ヒロらしいね。私もあの時、怒っちゃったことを謝ろうってずっと思ってたんだけど、結局ヒロに先に言われちゃった」

 彼女は微笑んだ。

「懐かしいな。父さん、か。最近話してないな」

「そうなの?」

「っていうかさ、最近仕事で家にいなくてさ。帰ってきても、翌朝にはいなくなってたりとかよくあるんだよね」

 現に昨日も、一昨日の夜に帰ってきたと思うと、翌朝には家にいなかった。

「お仕事好きなんだね。いいなぁ。今度機会があったら、お父さんに英語教えてもらいたいなぁ」

「まぁ、機会があったらね」

 のんびり歩いているうちに、河川敷にたどり着いた。下の広場では、子供達がサッカーをして楽しそうな声が聞こえてくる。

「そういえば思ったんだけど、明月って姉弟とかいるの?」

「えっ?」

 ハッと、心奈の表情が強張った。

「だって、そういえば俺、明月の家族の事は、お父さんがいないってこと以外、ほとんど知らないなぁって思ってさ。話してくれたことあったっけ?…あれ、どうしかした?」

 心奈は、何故か思い悩んだように俯いている。

 しまった。またいけないことを聞いてしまっただろうか?裕人は口にしてから後悔をした。

 心奈は、はぁっとため息を吐くと、口を開いた。

「…いたよ。弟が」

「いた?」

「うん、いた。でも今はもう、亡くなってる。私が小学四年生の時にね」

「あ…そう、なんだ。ごめん、こんなこと聞いて」

「ううん、私も話してなかったから。ヒロは悪くないよ」

 涼しげに彼女は笑うと、再び俯いて、悲しそうに口を閉じてしまった。

 ―もう、何やってんだ俺は。

「悪いこと思い出させちゃったね…ホントごめん…」

「違うの」

 彼女が裕人の言葉を遮った。

「私が、いつまで経ってもあの子を忘れられないから。どれだけ考えても、あの子はもういないのに。守ってあげられなかったから…」

「守る…?」

「あ、いや…なんでもないよ」

 心奈が首を振った。

「ごめん、悪い空気になっちゃったね。もうこの話は終わり!気持ち切り替えて、どこ行こうか?」

「え、あ、どこ?うーん」

「あ!ちょっとあそこのアクセサリーショップ寄っていい?」

 彼女は先の階段下にある、一つの洋風なお店を指差した。

「いいけ…ってちょっと!まだ返事して…ああもう!明月!」

 いつもの笑顔に戻り、さっさと走り出して先を行く心奈に呆れながら、裕人はその後を追った。

 本当は、その時に気づいていた。理由は分からずとも、彼女が、弟の死に執着していることを。そして、守れなかったというあの意味深な発言も気がかりだった。

 それでも裕人は、過去の彼女にとらわれずに、今の彼女と向き合おうと決め、触れ合った。

 だがその選択が正解だったかと問われると、答えはノーだ。

 もっと彼女の過去に向き合い、慰めてやるべきだった。共に執着心に立ち向かってやるべきだった。強がってばかりで、彼女のか弱い心のそばにいてやるべきだった。

 今更後悔しても遅い。

 当時の裕人には、想像もできない未来が待っていたのだ。


「もーう、なぁに?こんなところまで来て」

 夕方時。二人で地元に戻ってくると、裕人はとある場所に心奈を連れ出した。

「小学校の裏山はちょっと懐かしいけど、なんかあるの?」

「まぁいいからいいから。悪いけど、ちょっと急がないと」

「えー、坂道辛いなぁ」

「おんぶしてやってもいいぜ?」

「はぁっ、バカ!そんなことされなくたっていけるもん!」

 声を荒げて裕人を追い抜きながら、心奈が言った。

 裕人が彼女を連れたのは、見慣れた小学校の裏山だ。ここは小学生時代に、学校では登るのを禁止されていたのだが、人目を避けて、裕人は偶に登っていたのだ。これから向かう場所は、裕人にとっては秘密基地のような場所だった。

「おいおい、へばるの早くない?」

 心奈は急にペースアップしたと思うと、急速にペースダウンして、結局裕人が心奈を追い抜いてしまった。

 呼吸を乱しながら、ゆっくりと心奈は歩いていた。

「はぁ、仕方ないでしょ…はぁ。あんたと違って、あんまり体力ないんだから…はぁ」

 確かにバスケ部である裕人と違い、文化部の心奈にはきつかったかもしっれない。

「ったく、ほら。もうすぐだから頑張れよ」

 裕人は、彼女に向かって手を差し伸べた。

 心奈は驚いたような表情を見せると、そっぽを向いて無言で手を握った。

 数分程登ると、ようやく頂上が見えた。木々の隙間から見える夕日が眩しい。

「着いたぞ。お、ちょうどいい時間かな」

「はぁ、えぇ?いい時間って何よ…」

 深呼吸をしながら、ゆっくりと顔を上げた彼女は、今までの疲れが吹っ飛んだかのように、ぱぁっと明るい表情を見せた。

「うわぁ、夕日が綺麗」

「だろ?小学生の時、放課後の暇な時とかよく来てたんだ」

 そこからは、自分達の町が一望できた。今にも顔を引っ込めてしまいそうな夕陽が、ひょっこりと町を覗いていた。

「へぇ。…ってちょっと。だったらなんで私も誘わなかったの?」

「え?いや、俺だけの秘密にしたくて…」

「もう。まぁいいけど。でも、凄い。建物の上から見る夕日って、こんなに綺麗なんだ」

「邪魔するものがないからね。ここなら思いっきり、綺麗な景色を楽しめるんだよ。来たことないけど、夜の綺麗な星空を見にも来てみたいな」

「いいね!じゃあ、その時はまた、一緒に来よう?」

「お、そうだね。約束だね!」

「うん!約束!」

 もうすっかり頭を隠しきってしまった夕陽を背に、未だに手を握り合っていることも忘れて、二人は微笑み合った。


 その星が綺麗な夜がその後、悪夢を呼び起こすとは知らずに。

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