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Smile again ~また逢えるなら、その笑顔をもう一度~  作者: たいちょー
第六針 七夕のタイムリミット
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Memory.12

「バカか、お前は。告白前に機嫌悪くさせたら意味ねぇだろ」

 心奈を南口に任せ、二人でリンゴ飴を食べながらベンチに座り、談笑していることを確認すると、中田は裕人を一喝した。

「いやぁ、まさかああなるとは思わなかったね、うん。…どうしよう」

「はぁ。なら、作戦変更だ。これから、俺は玲奈といなくなるから、そこからはお前一人でどうにかする。これでどうだ?」

「えぇ、それ本気で言ってる?」

「何言ってんだ。玲奈だって、一人で俺に告白してきたんだ。お前だってやれるだろうよ」

 まるで自分がしたかのように中田が語る。イマイチ説得力がない。

「まぁ、やれるとこまではやってみるけどさぁ」

「よし、決まりだな。おーい二人とも!そろそろ行こうぜ!」

 中田が二人を呼び寄せると、心奈に気づかれないようにそっと、南口に耳打ちした。

 軽く南口が頷くと、一行は再び歩き始めた。

 さっきよりも人混みが多い。腕時計を見ると、午後の七時を回った頃だ。ちょうど、お客もピークの時間だろう。

 あえて人通りが多い道を中田は進んでいくと、心奈が目を離している隙に、中田と南口が、一気にダッシュして離れていく姿が見えた。

 ―おいおい、結構強引だな。

 呆れながらも、全く気が付いていない心奈の後ろを歩きながら、裕人は彼女が気づくのを待った。

「あれ?玲奈?中田君もいない…」

 しばらくして、ようやく二人がいなくなったことに気が付くと、心奈は周りをキョロキョロと見渡した。

「ん、どうした?」

「ねぇ、二人がいないよ。どこ行っちゃったのかなぁ?」

「あれ、聞いてなかったの?あいつら、二人で行きたいところがあるからって、さっき別れたよ」

「え、それっていつ?」

「出発したあたりかな。人混みが多くて、結構分かんなかったのも無理ないね」

「ふーん…そうなんだ」

 さっきのことを気にしているのか、不服そうに心奈が言った。

「ま、適当に回ろうよ。せっかくだし、二人きりで」

「…うん」

 それから、二人は二人なりに、お祭りを堪能した。結局心奈も、最初の出来事は忘れてしまったみたいで、いつも通りの彼女に戻っていた。

「あ!」

 ふと、突然心奈が一つの射的の屋台に走り出した。

「ん、どうした?」

「あれ!可愛いなぁ。ねぇヒロ、取れる?」

 彼女が指差す先には、二十センチ程の大きさの、ごろんと寝ころんだ猫のぬいぐるみだった。眠たそうな目をしている猫を見ると、こっちまで眠くなってしまいそうだ。

「うーん、射的はあんまりやったことないけどなぁ。やってみるよ」

 屋台のおじさんに小銭を渡すと、裕人は射的銃を構える。

「…なにその構え」

「え?いやぁ、兄貴が結構銃好きでさ。構え方とか、結構教わったりしたんだよね」

 銃の後方、ストックと呼ばれる部分を右肩に置き、標準を合わせると、裕人は引き金を引いた。

 パチンっ!といい音を出して飛んだコルクは、見事猫のぬいぐるみに命中した。

「おぉー」

 後ろで見ている小さい子供たちから、歓声が沸いた。

「すごーい!やるじゃんヒロ!」

「へへ、まぁね」

「兄ちゃんやるね。はい、お嬢ちゃんにプレゼント」

「わーい!ありがとう!」

「大切にするね!」と、嬉しそうにはしゃぐ心奈を見て、裕人は胸が高鳴った。

 あっという間に時は過ぎて、人気も段々と少なくなってきた頃。時計の針は、間もなく九の字を指そうとしていた。

「あーあ、楽しかったぁ。まさかヒロにあんな特技があるとは思わなかったなぁ」

 先程の猫のぬいぐるみをニコニコして見つめながら、心奈が言った。

「まぁでも、あの時結構手が震えてたんだよ?気づいた?」

「あれ?そうだった?ヒロ、本番に弱いもんねぇ。でも、それでもなんとかなっちゃうから凄いよね」

「いやまぁ、それは偶々なんだけど…」

 お祭りの通りを抜けて、いつもの見慣れた風景が見え始める。楽しかった時間が終わってしまうのだと思うと、少し寂しい気持ちになる。

 だが、裕人にはこれからやることがある。あまり気は乗らないが、とりあえずやれるところまではやろう。

 決意を固めると、駅前の踏切を渡ったところで、裕人は口を開いた。

「ねぇ。この後、もう少しだけ付き合ってもらってもいいかな?」

「ん、なぁに?」

「いいからいいから」

 裕人は、駅前の公園に彼女を連れ出すと、揃ってベンチに座った。

「なぁに、急に」

 隣を座る心奈が、不思議そうにこちらを見た。

「いや、あのさ…一つ、聞きたいことがあるんだ」

「聞きたいこと?」

「ああ」

 大きく息を吸い込むと、裕人は予め考えていた、その言葉を口にした。

「…もし、彼氏ができたとしたら、どうしたい?」

「ふぇ?」

 彼女の動きが止まる。口をポカンと開けたまま動かなかった。

 少しの間、夜の静寂が耳をついた。

「あ、いや、その。できたらだよ?俺は、その…好きとか、彼女とか彼氏とか、まだよく分かんないし。和樹君と南口みたいに、仲良くなれたらなぁとは思うけど、でも、全然分かんないしさ…」

 そう裕人が言うと、心奈は目線を下に落とし、しばらく口を閉ざしてしまった。

 その静寂に耐えられずに、裕人は思わず笑ってしまった。

「…なんか、ごめん。変なこと聞いたよね。やっぱり、なんでもないよ」

 いつまで経っても口を開かない心奈を見て、裕人は諦めて苦笑いを浮かべた。

「あのね、ヒロ」

 すると、彼女が一言、そっと呟いた。まだ、目線は下に落としたままだ。

「…私もね。実は、そういう気持ち、よく分からないんだ。どんな気持ちが好きって気持ちなのか、ハッキリとは分かんないの。でもね、これだけは言わせて」

 そこまで言うと、彼女は顔を上げ、笑顔で言った。

「私はね、ヒロと一緒にいられて、楽しいよ。幸せだと思ってる。だから、これからも一緒にいたいなって、それだけは思うんだ」

「明月…」

「だから、これからもよろしくね」

「…うん、こちらこそ」

 二人はお互いに、微笑み合った。

 結局、告白は成功したのか否か、それは定かではなかったが、二人の距離が少し縮まったということだけは、裕人は実感することができたのであった。


「あらあら、楽しそうにしちゃって。ちょっと後を付けてみたら、やっぱりあの二人…」

 それは、舌でチロリと下唇を舐めた。

 木陰から二人は監視されているということに、当時は全く知る由もなかった。

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