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Memory.3

 二千×二年 五月


 裕人達は、修学旅行の話し合いをしていた。

「まぁ、俺らは二人でいいんだけど…」

「問題は、女子だよねぇ…」

 中田と裕人は教室を見回しながら言った。

 班構成として、男子が二人の班は、必然的に女子が二人の班になるよう先生から指示された。

 それぞれが決まっても、男女で決まらなければ意味はない。

 どうしたものかと、二人で悩んでいた時であった。

「ねぇ、真田君!」

 ふと、誰かに呼ばれて振り向くと、そこにはいつものあの二人、西村と心奈であった。

「よかったらさ、班一緒になろうよ。二人同士だし」

 西村がニコニコしながら言った。

「おう、ちょうどいいや。なろうぜ」

 中田が言った。

「でも中田君、南口さんとはいいの?」

 ふと、疑問に思った裕人は中田に問うた。

「え、ああ。あ、あいつとはいいんだよ。というか、恥ずかしいしな。そこは、あいつと話して、別になろうってことになってる」

「ふーん。そうなんだ」

 いまいち裕人には理解できなかったが、とりあえずこの四人組で、修学旅行の班は決定した。

 ふと、いつも通り西村の後ろにピッタリくっ付いている心奈と目が合った。

 彼女は一瞬固まると、すぐさま西村の背中に隠れてしまった。これもいつも通りだ。

 当時の裕人には、彼女の真意など知る由もなかった。


 6月 修学旅行当日初日


「遅いぞ裕人!」

「ごめんなさぁぁい!」

 寝坊癖がある裕人は、中田との集合時間に十五分遅れて到着した。彼は苛立ちを隠せない様子だったが、遅れてでも待っていてくれたことに、裕人は感謝していた。

「やっべぇ、集合時間まであと五分だ!間に合うか?これ」

「とにかく、急いで行こう!」

「と言ってもな!今日荷物が多いんだぞ!?超走りずれぇ!」

 そうして、五分遅れでクラス全員が待っている、駅へとたどり着いた。

「遅いぞ二人とも!」

 ガッチリとした体格で、鬼の形相をした担任の加倉井先生に怒られた。

 どうやら他の児童たちはもう新幹線に乗っているらしく、加倉井先生と教頭先生だけが改札口前に立っていた。

 加倉井先生は、元々中学教師で、野球部のコーチをしていたらしいが、大人の事情で一年間だけ、ウチの小学校に赴任してきたらしい。つまり、来年中学生の時にまた担任になる可能性もあるってことだ。

「すみません!このバカ野郎が寝坊して…」

 中田が裕人を指差した。

「って、中田君のほうが走るの遅かったじゃん!」

「はぁ!?お前のほうが荷物軽いんだから当たり前だろ!」

「でもいつもは中田君のほうが足速いじゃん!」

「それは荷物持ってないからだろ!だいたいな…」

「五十歩百歩って言葉を知ってるか?少年ども」

 愚痴を言い合っていた二人だったが、恐ろしい加倉井先生の一言に、二人とも共凍り付いた。

「え、えーっと。子供だから知りませぇん…」

「そ、そうだね…子供だから…」

 顔を見合わせながら、二人は苦笑いだ。

「はぁ。とにかく、駅員さんも他のお客さんも待たせてんだから、早く行け!」

 加倉井先生は、切符をそれぞれに切符を手渡すと、二人の背中を押した。

「はぁい!」

 二人揃って返事をすると、足早にホームへと向かった。

 裕人達の修学旅行は、奈良県と京都府を跨ぐ、三泊四日の日程であった。

 初日と二日目を奈良。二日目の途中で奈良から京都に行き、三、四日目に京都を散策という日程だ。

 出発から五時間。電車からバスに乗って、まず奈良に着いた一行は、社会の教科書にも載っている東大寺にやってきた。

「でけぇ」

 中田が大仏を見上げながら言った。

「昔の人は、よくこんなの作ったよね。何のために作ったんだろう?」

「さぁ?偉い人が作らせたとかじゃないの?」

「え、えっと…」

 ふと、中田ではない声が聞こえて、二人が振り向くと、そこには西村と心奈がいた。

「え?心奈?」

 どうやら今の声は西村でもないらしい。彼女も驚いた表情をしている。

「ここのお寺は、昔病気が流行ってて、良いことがありますようにって、作られたんだよ」

 心奈はそう言い終わると、ハッと顔を赤くして、西村の背中に隠れた。

「へ、へぇ。詳しいんだね」

 裕人は大仏を見ながら言った。

「でも、なんで病気が流行ってるのに寺作るんだ?昔の人は分かんねぇな」

 中田が腑に落ちないようで、首を傾げた。

「む、昔の人は、神様とかを信じてて、神様へのありがとうって気持ちが足りないんじゃないかって思って、作ったみたいだよ」

 顔を隠しながら、心奈が言った。

「ふーん。よく分かんねぇけど、昔の人もすげぇってことは分かった。っていうか、鹿見に行こうぜ!鹿!」

 結局自分なりに結論付けると、中田は一人で歩き始めてしまう。

「え、ちょっと待ってよ!あ、ありがとね!明月さん!」

 咄嗟に礼を告げると、裕人は中田を追いかけて走った。


「心奈、意外に物知りなんだね」

 西村が言った。

「…調べてきちゃった。裕人君と、話せたらいいなって」

 心奈が、顔を赤くしながら言った。

「ふーん。よかったね、お礼言われて」

「うん…」

「さ、私達も行こ!」

 西村は彼女に微笑みかけたが、少しねっとりとした感情が湧いていた。


 その後、裕人達は修学旅行を存分に楽しんでいた。

 二日目の奈良散策は、「ならまち」と呼ばれる奈良町での自由行動であった。

 昔ならではの街並みの風景が残るこの町は、タイムスリップしたかのような感覚で、面白かった。まぁ、半分中田の強引な誘導で、一同は動いていたのも事実であるが。

 その後、一行は京都府へ移動し、バスに乗って約一時間を経て、旅館へとたどり着いた。どうやら、山の高い場所にあるようで、窓からは綺麗な夜空が一望できた。

 奈良でのホテルと違い、旅館ということもあり、広い一室に男子全員が同じ部屋であった。

 当然、枕を投げ合っている者もいれば、隅で話をしている者もいる。そんな中、裕人は一人、ゆったりと窓から夜空を見上げていた。

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