2.
俺は昼休み、話がしたいと言って、佐口を学校裏の小さい中庭のスペースに連れ込んだ。
「珍しいね、真田君がウチと話がしたいだなんて」
「まぁ、ちょっとね」
「で、何?恋愛相談ならあんまり気が向かないけど」
佐口は、自分より大きい木を背に任せながら言った。
俺は、小さい切り株に胡座をかいて座った。
「…あいつとの、一件の事なんだけど」
「えっ?」
佐口が、小さく息を漏らした。
彼女は、真実を知っている数少ない一人だ。唯一の女子ということでもあり、今回彼女に話を持ち掛けた。
「前に、小学生の時。あいつと仲がよかった奴がいるって言ったよな?西村って奴なんだけど」
「うん…」
「この間さ、偶然会ったんだ。それで土曜日にも、もう一度会ったんだけど。…あいつのこと、聞かれてさ。一応、誤魔化したんだけど、やっぱり本当のこと、言ったほうがいいのかなって」
俺は言葉を言い終えると、ゆっくりと空を見上げた。昨日違って、今日は青空が綺麗だ。
「その子、あいつのことはもちろん知らないのよね?」
「…だろうな」
あいつ…名前すらも思い出したくない、あいつのことだ。
「西村はさ、俺のことが好きだったんだって。でも、引っ越して会えなくなるから、後のことはあいつに任せる。ヒロ君も、あいつのことよろしくねって…」
「…相当、辛かっただろうね。彼女」
「西村は、強い奴だよ。少しの間だったけど、凄く分かってる」
二人の間に、心地よい風が通った。暫くの間、どちらも口を開くことなく、校舎から響く生徒たちの声が聞こえてくるだけだった。
「…羨ましい」
「は?」
意外な言葉に驚き彼女を見ると、佐口は肩を震わせて笑っていた。
俺は彼女を、しばらく呆然と見ていた。
「いやー、いいねぇ真田君は。そういう波乱な恋路で。ウチなんて、特にそんなこともなくて、いつもあのバカと喧嘩してるだけ。ちょっと刺激が欲しかったりするのよね、案外」
佐口はそう言うと、俺のほうに歩み寄りこう言った。
「いいんじゃない?別に言わなくても。今は今なんだし。彼女が気になるなら、どうせ今にも調べてるんじゃない?必死になってね」
「それは、何だ?西村が、俺のことを調べてるってか?」
「うん。だって、やりそうじゃない?彼女なら」
「根拠は?」
「…女の勘」
それだけ言うと、佐口は手を振りながら背中を向けて去っていった。
―調べるって、どうやってだよ…。
確かにこのご時世、インターネット社会になって、手段を択ばなければ簡単に個人の情報など容易いものだ。だが、彼女はそんな術を持っているはずがない。というか、頑固持っていないことを祈るが。
「調べる、ねぇ」
俺は、とうとう地面に背を預けて、天を仰いだ。




