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4.

 ―しっかしあいつ。あんなヤンキー風味のくせに、いいとこの息子だから困ったもんだ。将来、借金の保証人にでもなってくれと言われたらどうしようか。

 俺はベッドに仰向けになりながら、ズシッと重みのあるまだ開けていないモバイルバッテリーのパッケージを眺めていた。

 数時間前、二人でモバイルバッテリーを買いに行った際、宇佐美は問答無用で一番値段が高く、容量の多いやつを手に取った。その額、福沢さんが一枚飛んでいくような額だ。

 そんなものはもらえないと、すかさず抗議をしたものの、彼はスマイルで「いいっていいって、ダチへの礼だからな」とレジに直行し、強引に俺に手渡した。

 ここは素直に受け取っておけばいいのだろうか?それとも何か返したほうが…いや、彼の事だから、きっと何かを返したところで倍返しされるだろう。それじゃあ終わりが見えてこない。

 ここは一応、ありがたく使わせていただこう。覚悟を決めてパッケージを開くと、俺は本体を充電するために、机の前に移動してノートパソコンの電源を起動した。モバイルバッテリーは、パソコンからの電源供給で充電できるから便利だ。これを開発した人に、是非ともお礼を言いたいところである。

 画面を下げてスリープモードにしてモバイルバッテリーを接続したところで、俺のスマートフォンが短いベルの音を鳴らした。どうやら、トークアプリに誰かから送られてきたようだ。

 ロックを解除してアプリを起動する。すると、俺のスマホ画面には見慣れない「陽子」という名が表示されていた。

 ―陽子?…ああ、西村か。そういえばあいつ、そんな下の名前だったっけ。

 しみじみと懐かしく思いながら、トーク画面に移動すると、そこには一言≪やっほー、今大丈夫?≫と書かれていた。

「ああ、ちょうど今暇してたところ」と、俺は返事を送信する。

 すると、数十秒でその返事は帰ってきた。やはり女子とは、こういった類の返事は早い。

≪よかった。じゃあさ、今度の土曜日って空いてる?一緒にどこか行きたいなぁって思って≫

「土曜日?いいよ。時間はどうする?」

≪んー。まぁ、ヒロ君の事だし、午後からのほうが色々気が楽でしょ?≫

 久々のくせに、なかなか分かってくれてるじゃないか。バカにされてはいるのだろうけれど、逆にそれはありがたかった。何せ、その通りであるからだ。

「おいおい、バカにしてるのか?…まぁ、その通りですけど」

≪やっぱり相変わらずだなぁ。まぁいいけどさ。どうせだし、今から通話してもいい?≫

「ん、いいよ」

 俺が返事を送信すると、早速彼女から電話がかかってきた。

「はい、こちら自宅警備員本部」

≪ぷっ!あはははは!ちょっと、急に笑わせないでよ!≫

 スピーカーから、彼女の楽しそうな声が聞こえてきた。このネタは偶に宇佐美や石明やらと話すときに使っていたのだが、まさか女子ウケもいいとは嬉しい効果だ。

「はは、よかったウケて。それで、土曜日の時間どうする?」

≪んー、ふふ。えっとねぇ。午後の三時くらいで、駅前集合でどう?≫

「オッケー、じゃあそれで。で、集まるのはいいんだけど、どこ行くの?」

≪場所?…そうだなぁ、ヒロ君にもあのお店紹介しておこうかな。私の友達の家族が営業してる、スイーツカフェがあるんだ≫

「ふーん、じゃあそこでもいいよ」

≪ただ、そこの私の友達なんだけど、もしかしたらちょっとうるさいだろうなぁ、私が男の子と一緒に行ったら≫

「あー、そういうのに敏感な子?」

≪うん。普段は元気…というか、元気すぎる子でね。面倒見はいいんだけど、ちょっとオーバーなところがあって、偶に傷なんだよねぇ。大人しかったら、普通に可愛いパティシエなんだけど≫

「ん、何?手伝いでもしてるの?」

≪うん。将来お店を継ぐために、いつもお手伝いしてるの。腕は、いいんだよ?≫

「へぇ、楽しみだな」

≪でもさぁ、聞いてよ。この間さ…≫

 こうやって、同い年の異性と電話で話すのは初めてかもしれない。

 気が付けば日が変わるまで、俺は彼女と話していたのだった。

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