童(わらし)橋、渡る?
雪:『お父さん!』
『制限速度、守って走って!』
『センターライン越えてる!』
父:『お前が、寝坊なんかするもんだから、しかたないだろう!』
『あと、十五分しかない!』
『お前のせいで、俺も会社に遅刻しちまう!』
見通しの悪い山道の急カーブを走るワゴン車。
雪:『危ない!』
パパーーーーーン
けたたましい、ダンプカーのクラクション。
雪:『もう、死ぬかと思った!』
父『ごめん!ごめん!』
ワゴン車は、下り坂を降り広い平坦な道路に出た。
遠くの方に雪の通う高校が見えてきた。
父『なんとか、間に合いそうだなぁ……』
雪『お父さん!』
『あれ見て!』
父『おー!』
二人の視線の先には、川向こうへ架かる石橋があった。
父『あの橋を渡るとかなり近道できそうだなぁ♪』
雪『昨日まで、あんな橋なかったよ?』
父『そういや~?……だな。』
『まぁ、いいじゃねーか!』
『取り敢えず、近道でゴォーッ!』
ピピーーーツ!
一人の小さな男の子が笛を鳴らして行く手を遮った。
男の子『この道、渡る?』
父『ああ…坊や、急いでるんだ。』
『通してくれるか。』
男の子『わかった!』
『行きはよいよい、帰りは……』
『アハハハハ……』
雪『変な子?』
『お父さん!』
『遅刻!遅刻する!』
『急いで!』
父『わかった!』
ブブブーーーン
再び動き出すワゴン車。
バックミラーで、男の子を探すが、もう姿が見えなくなった。
父『雪!』
『あの、坊やはどこへいった?』
雪『知らないわよ!』
『そんなこと!』
ワゴン車スピード時速40kで三分かかり橋を渡り終えた。
父『えー!?』
再び道を遮る、さきほどの男の子。
男の子『おじちゃん、この橋渡るのに三日もかかったね(笑)』
父『ハハハ、坊や、悪い冗談はやめよう!』
『でも、子供の足で、どうやって三分でここまで来たのかな?』
雪『お父さん!』
『無駄話し、してる場合じゃないよ!』
父『あ!』
『そうだった!』
『ごめん!ごめん!』
『いゃ、あんまりビックリしたもんで、つい話しこんでしまったよ!』
雪『どうせ、子供のいたずら半分よ!』
『誰かに車へ乗せてもらって先回りしたのよ…きっと』
父『雪、高校の正門に着いたぞ!』
『じゃな!、俺も会社へ急ぐわ!』
ブブブーーーン
雪『授業が始まるまで、あと5分、
なんとか間に合った!』
父に手を振る雪。
雪は教室へ急いだ。
教室へ入った途端、クラスメイトが皆、駆け寄って来た。
クラスメイトA子『雪!……三日間も学校休んでどうしたの?』
クラスメイトB子『担任の先生も何度かお家に訪問したけど不在だったって心配してた!』
雪『今日は何月何日?』
クラスメイトC『9月25日、金曜日だよ…』
『雪……大丈夫?』
雪『私がお家を出たのは、9月22日、火曜日……』
雪は、今までの経緯をクラスメイトに話して聞かせた。
授業開始のbellが鳴った。
4階の窓際、一番後ろ席が雪の机。
朝の挨拶を交わして着席し、ふと窓から校庭の先にある正門に目を移す雪。
あの男の子だ……笑ってこっちを見てる。
雪は視線を黒板に向けた。
『さぁ、勉強、進学も近いし、がんばらなくちゃ!』
先生『今日は、この町の、童橋が戦争で焼け落ち逃げ遅れた
多くの小さな命が犠牲になった日です。』
『授業。始める前に、亡くなった幼い子供たちのために黙祷を捧げしましょう……』
『黙祷ー!』