第一夜 リーン=ロイロ 始動
過去の戦争による星の半分を失った
進化の極みの果てに復興を象徴する
眠らない街【ネセサリー】
残る大地【アリューシャン】の中心的大都市である
そのネセサリーで最近暗躍する盗賊が存在する
世界中から集約された、能力を保有する宝石をことごとく奪取している
そんな・・・ジュエルハンターを名乗る、やさ男【ライク=オパール】
国家の警察機構は、彼を確保するための刺客を別の地より招集した
漆黒の剣士と呼ばれ
容姿端麗な美女【リーン=ロイロ】
彼女の入国から、物語は始まる・・・
港街を併用しているネセサリー
高速艇で海上を10時間ほどの船旅だった
登録している組織の知り合いから
能力を見込まれて、1人の盗賊を捕まえる依頼を受けることになった
『リーン、船旅お疲れ様でした・・・ようこそネセサリーへ』
『わざわざ船旅をさせてくれるとはな、余程の緊急ってことか??』
下船してすぐに依頼をしてきた知り合いが待っていた
彼女は、元同僚で数多くの戦場を一緒に駆け抜けてきた
闇属性の特性を発揮して
無数に敵を撃破してきた
傭兵のような雇われだったが
その時の技量を買われて、今の組織に所属することになった
『警備をしている関係で、旅費は免除されるから・・・特に緊急ということではないわよ』
『・・・そうですか、急ぎではないわけだ』
曖昧な言い方だな
しかし、私は早く狩りをしたいと思っている
だから・・・
『詳しい情報をお願いする・・・転送準備は出来ています』
『相変わらずだなリーンは、でもそこを求めていたから・・・こちらとしては、助かるわ~』
少し合わない間に性格が変わったか??
こんなノリな方ではなかった気がしますが
比較的平和な世界では、これが本当の彼女なのだろうか
まあ、私的にはどちらでも構わないから
別にいいのですが・・・
右耳に装着しているデバイスを操作してこちらのデバイスに情報を伝達してくれました
このデバイス利き腕の方に装着するのだが
私は左利きなので左側に装着している
デバイスの余談はいいとして
早速、受けた情報を閲覧することにした
標的となるのは
名前:ライク=オパール
性別:男性
年齢:22
ふ~ん・・・22の男か
写真まであるのに、何で確保出来ていないのか??
変装とかしているのだろうか・・・
少し不可解な部分もある
保有:オパール
属性:光・闇
なっ!?
神のような属性じゃないか!!
光と闇を同時に・・・
これが簡単に捕まらない理由か
う~ん、私に依頼してきた理由もこれだろうな
でも、簡単にどうにかできる相手ではないぞ
『神相手に戦いをしているみたいだな・・・私でも勝てる見込みは低いが??』
『そうなんだけど・・・唯一の弱点を狙おうとリーンを含めた精鋭部隊を結成することになったの』
こんな神みたいな相手に唯一の弱点だけでどうにかなるのだろうか・・・
信ぴょう性を感じられない発言だったが
可能性が低い戦いに少なからずの勝機を求めた作戦があるに違いない
『弱点?? 女に弱いとか言うのではないだろうな・・・』
冗談的な発言をしたのだが
ニヤニヤしながら、こう返してきた
『ふふふ~、リーンも自覚あるのかしらね~♪ その通りよ、美人を集めた部隊が結成されるの』
正直、このまま船に戻ろうとした
勝手に足が向かおうとしていて
慌てて、手を掴まれ引き止められた
自分では冗談を言ったりするが、相手に言われるとどうしても反応してしまう
『あ~リーン、冗談じゃなくて本当の作戦なのよ・・・このライクって男は美人に弱いらしいって』
この慌てぶり
嘘を言っている感じではないか・・・
全く、私に戦力ではなくて
女としての魅力を武器にしろと言うのか
『武人に女としての美を求めるのは間違っているぞ・・・私は帰る!!』
『ダメ~!! リーンには闇属性の力も求めているから・・・そっちを優先でお願い~!!!』
泣きながらすがる彼女を振りほどこうとしたが
戦いの能力の部分も発揮の期待もと言われ
仕方なく、元戦友としての情けをかけた
『私も平和ボケをしているみたいだな・・・戦地で背中を預けた仲だ、ライク捕獲作戦に参加しよう』
『わ~ん><本気で帰ってしまうと思ったじゃない~(ノД`)シクシク』
泣き出すとか・・・びっくりしたじゃない
光と闇を併せ持つ属性の存在を私が対峙しないなんて
ありえないとわかっていると思っていたが
帰ろうとした際の反応がここまでだとは・・・
彼女の車を私が運転して、警察機構の本部庁舎へ走らせた
場所までのルートはデバイスからの情報で把握しているから
泣いている状態で運転させるわけにはいかない
怖いし、危ないから
登録されている車だったからか
庁舎入口のゲートは止められることなく入ることができた
これ、ザルなシステムじゃないのか??
少し心配だったが、駐車して車を降りた時点で
急にガードの集団に囲まれししまった
『私を試す感じですか・・・いいでしょう、闇の武人としてお相手しましょう』
バトルモードに転換して
メインウエポンである宝石の剣を召喚する
能力を発揮するための打撃剣
基本的に直接攻撃をする武器ではなくて
スキル発動を媒介とする
『速報値・・・ふっ、1万未満か・・・死にたくなければ、攻撃は仕掛けないことだ・・・私に触れることすらできないぞ・・・ターコイズ:リーンを聞けばわかるだろうか??』
戦闘力が単体で1万も満たない状態の相手をすることはできない
あまりにも弱すぎるために
私の発する聖域による覇気で消滅する可能性が高い
『皆さん・・・この方は、正式な要人です』
後ろから、優しい声がして
急に集団が去っていった
『マスタークレア・・・お久しぶりです、防衛システムはもう少し高めたほうがいいですよ』
『リーンさん・・・わざわざありがとうございます』
聖域を超えて握手を求めてきた
流石、女神クラスの存在
警察機構のトップである、アクエリアスの女神【クレア=ロム】
過去の戦争での数少ない生き残り
神と同等の力を得て
若い姿のまま、長い時間を生きてきている
『お使いの彼女、泣き疲れて寝てしまっています・・・私の冗談を真に受けて、しっかりとエスコートしてもらいましたから』
『そうですか・・・あなたと一番近い仲だと聞きましたから、ちゃんと介抱させましょうね』
水属性の治癒スキルは、優秀です
特に女神クラスの場合は死者も復元可能だと聞きます
そんなマスタークレアの治癒スキルですから
一瞬で完全回復なんでしょう
『・・・クレア様・・・申し訳ありません、リーンのエスコートがしっかりと出来ませんでした』
また、泣きそうな感じだったから
この話題を終わらせるために
私が会話に介入する
『マスタークレアには私から伝えました、あなたはしっかりと仕事をしてくれましたと』
『・・・そうですね、あなたへの評価を下げるつもりはありません』
マスタークレアも彼女への期待は高いみたいですね
部隊メンバーにも多分加入しているだろうし
クレアの娘も隊長として一緒に戦うことになるだろうし
今、落ち込まれても困る
『貴重な戦力を失うことは、損失として大きいだろうから・・・』
『ライク=オパールの捕獲は警察機構の最重要となりましたから、しっかりとお願いしますね』
マスタークレアは、自分の仕切る組織なのに
たまに他人行儀な発言をします
それには理由があり
その理由については・・・私からは、言いにくいです
『リーンさん、わかると思いますが・・・他言無用ですよ!!』
口に指を当てて
私の思惑を察して、いや・・・心を読んだのでしょう
女神は任意の相手の考えている事を読み取ることが可能で
今の私の思っている事を他では話すことはしないで欲しいとのことでしょうか
『話す必要もありませんから、問題はないと思います』
『あなたの所属する組織のメンバーには特にダメですからね・・・』
女神として、母親として・・・威厳を保つためでもあるからでしょう
組織の名前は、まだ言えません
いずれ・・・う~ん、どうだろうか
その内に話す機会があるかと思う・・・かな??
これに関しては、私の勝手な行動は出来ませんから
色々と制限された部分もあります
『いつも娘をサポートしてくれて、本当に助かっています・・・変な柵を絡めてしまって』
『命の恩人に対しての当然の行為ですから・・・私は一生マスタークレアについていきます』
性格的に私はこの手の忠誠みたいな事を当たり前に思うようで
他人からは、重いとよく言われてしまう
そんな私を本当の妹みたいな扱いをしてくれて
『個人的に警察機構で仕事をして欲しかったのですが・・・優先する事項がありますからね』
依頼主の思惑が壮大すぎて、私がそんな重大な関わりを参加できる事に
不思議な絆を感じています
失いかけた灯火を無数に救ったマスタークレアは
本当に女神たる存在でしょう
『そんな場所で機密を雑談するのは・・・どうかと思いますよ、お母様~♪』
・・・所属する組織のリーダーの登場
既にこちらへ移動されていたみたいですね
相変わらずの神出鬼没っぷり
マスタークレアを母と呼ぶ
見た目では似つかわないレーヴァティンの女神
水の母に火の娘と
まあ、父親に似たのだろう
ジオクロニクルという女神のみが閲覧できる記録が存在するらしい
その中で最も高い火属性として記載されている
【アダート=ロム】という男性がマスタークレアの夫だった
過去形となるのは、お察し下さい
『別に察してもらわなくても、完全に消えたわけではありませんよ』
『お父様には、毎日鍛えられています・・・リーンは面倒な言い方を控えてね』
気を使って、遠回しな表現をしたのに
私の無駄な苦労でした
『二人して、私の心を読むのはやめてもらえませんか・・・上司ですが、怒りますよ』
立場的に難しい位置ではありますが
ファミリーな関係でもあったりしますから
私も部下だとしても、言いたい事ははっきりと伝えます
『リーンさん、申し訳ありません・・・より近い関係でありたいだけなのです』
『ごめんなさい・・・あたしもリーンと離れるのは嫌だ~!!』
間違った方向性に愛情が偏った感じみたいですね
別に私はこの二人と離れるつもりも予定もないのですが・・・
女神だけがわかる何かがあるのでしょうか??
『色々あるとは思いますが、もう少し普通の人として接する努力をして下さい!!』
特殊な女神という存在ですから
ある程度の不都合などは考慮したいとは思いますが
それでも、突飛な発言や行動を控えるくらいは行ってもらいたいです
『リーン・・・女神に忠告するなんて、あなたくらいですよ』
『私は女神だと思っていませんから、お二人共』
苦笑いの二人
特にこの二人と接してみれば、私と同じ境遇となると思いますよ
これから少しだけでも女神がこんな感じだと、私から発信してみます
当事者では把握していない部分が多々あると
言っているそばから・・・
まあ、今に始まった事ではありませんが
どうしても、いや・・・もう、慣れましたからいいのですけどね
『私の苦労を無駄にする行為を平然と行えるのですね・・・流石としか言えません』
一体、何をしたのかと思っているでしょうか
それはですね・・・
女神の基本的なスキルの一つ【空間転移】
自在に瞬間的な移動を可能とする
特殊技能だったりするのですが
一応、人としてこの世界に居る設定なので
その摂理くらいは守って欲しいと、少なからず思っている私の思惑を真っ向から否定する行為
『喜怒哀楽をあまり表に出すことのない私ですが・・・今ここで号泣してもいいのですよ!!』
比較的、心は強いほうだと思います
今も意図的な発言だったりしますし
実際、心は折れていませんし
泣く必要もありませんから
しかし、この二人の女神には
普段ない行動を起こす私に対して
慌てるかを試す発言をしてみました
『・・・冗談を言っているようには思えませんね、少し号泣するリーンさんを見たい気持ちもありますが』
マスタークレアはサディスティックな部分がある
この方法は、逆効果かもしれませんね
『お母様!! ダメですよ、リーンが泣くなんて・・・あたしには耐えきれません』
一方、極端に効果的な感じとなっていますね
こちらは有効に使えそうです
『作戦を辞退する方法もあります・・・ストライキを行ってもいいのですよ』
ささやかな抵抗を少ししてみましょう
ライクという男に対して、私が無視するはずはないとわかっていると思いますが
一時的にという意味合いで、どう反応するか・・・ですかね
『リーンさん・・・こちらを試すような発言ですね、いいでしょう』
あ・・・急にマスタークレアが背後に陣取り私を羽交い締めにしてきました
実力行使に出るつもりですか・・・これ以上の試しは身の危険を感じてきましたから
素直に謝罪する方向を選択するべきでしょうか
『お母様、あたしもご一緒していいですか・・・リーンの身体に興味があるの~♥』
ううっ~、本気で貞操の危機です
これは・・・逆に試されているみたいですね
『・・・私に拷問は効きませんよ、死んでも構わないと思っていますから』
『リーン~!! 死なせませんからね・・・絶対ダメですから~』
生死すら認めない形ですか
神と呼ばれる存在だから、可能なのでしょうが
これは・・・自害も不可にされているみたいです
『自ら命を絶つなど、私も許しませんから!!』
『女神の加護がここまで強力だとは、正直驚きです』
水の女神と火の女神と
二人の女神に祝福された、私は幸せなんでしょうね
自覚はありませんが・・・
『改めて、女神の家族として全力で仕事を担う事・・・私は嬉しく思います』
本当にごめんなさい
試すような事をしてしまって
しかし、女神たる存在を簡単に説明するのは難しいから
もう少しだけ・・・二人には私のわがままに付き合ってもらいます
『リーンさんの戯れは、置いておいて・・そろそろ本題に進みましょうか??』
『私の事は本当に勝手にしますから、そのまま進めて下さい』
う~ん、私・・・痛い人みたいではないでしょうか??
心配そうに二人は見ているし
ある意味においては作戦は成功しているのだけれど
今後の事を考えると、大きな損失では・・・
深く思うのはやめておきましょう
自業自得な部分もあったりします
『リーン!? 泣くの本気だったの・・・どうしようお母様、リーンに謝った方がいいかな??』
何を言っているの??
私の事はいいと進めるように促したのを無視する形ですか・・・
そこまで心配してくれるのは、ありがたいことではありますが
『謝罪は無用です・・・ん?? あれ、私泣いているのですか・・・あ、すいません』
自分の意図しない涙を流していたみたいです
不意打ちな私の涙が一番の効果だったようです
『自分が気付かないくらいに私と娘の事を心配してくれているということですね・・・これは、こちらも本気で行動しなくてはなりません・・・対ライク誘惑部隊を全員招集して、すぐに作戦会議を~』
あまり見ないマスタークレアの真顔
思わぬ私の涙が奮起させたようですね
不可抗力だとは言え
思惑通りに進みそう
二人の女神が私を司令室に残し、忙しなく行動をする
ハンカチを手渡され、流れた涙と溜まる涙を拭いながら
少しだけの旅の疲れを休める感じとなった
『遠回りは、基本だから・・・比較的早い進行ですかね』
他に誰もいない部屋で、私の独り言だけ響く
始まりは静かに
とはいきませんが、終わりがしっかりと出来れば
そんな事は関係なく
素敵な思い出になるでしょう
結果が全てですから・・・