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花を摘み、

 切崎に連れて来られた中庭を見て。

「なっ……」

 俺は言葉を失った。

 一面のオレンジ。心なしか、俺が抜き取る前より増えているような気がする。

 陽光を照り返すその色が眩しい。

「ソラさんが貴方を見つけて、看病しつつ、僕を呼びました。話を聞いて、僕もすぐ、この花は危険だと感じ、ハルトさんが刈り取った分は処分したんです。

 ハルトさんが刈り取った花は綺麗に根もついていたので、大丈夫だと思っていたのですが……」

 そこまで確認した上で、この現状。

「花が怖いと思ったのは初めてだよ」

「同感です」

 頷く切崎の横から、ソラが更に付け加える。

「この花、細い根で全部繋がっているみたいなの。見えるか見えないかくらいの。……だから、上手く抜けたように見えても、根は全部抜かない限り、そこにあるから、また生えてくる」

 なんとたちの悪い突然変異だろう。

 全部を抜く? 冗談もほどほどにしてほしい。中庭全てを掘り返せということか。

 オレンジのカーネーションは成す術のない俺たちを嘲笑うかのように輝く。

「……僕に、提案があります」

 切崎が声を上げた。

 見やると、切崎は続けた。

「僕の知り合いに花の刈り取りを頼んでみませんか? 適任がいるんです」

 花を刈り取るのに適任も何もないと思うが……普段から胡散臭い切崎の笑みが輪をかけて胡散臭くーー意味深に見える。悔しいことにこういう顔のときの切崎は確実に頼りになる。胡散臭いがこいつの所属する組織のつては確かなのだ。

「ソラ、いいか?」

 俺は肚を括ったが、あの中庭の管理者はソラだ。赤の他人に自分の庭を踏み荒らされるのは嫌なんじゃないだろうか。……俺が言えた口じゃないが。

「うん、ハルトがいいならいいよ。だってあの花は、ハルトのだもの」

 その一言と浮かんだ笑みに俺は自らの過ちを再認識する。


 ソラにこんな寂しげな顔をさせたのは俺だ、と。


 俺は、それから俺の持てる技術を全て尽くして、あるものを作った。

 考えたことは単純だ。

 ーー罪から目をそらしたかった。

 だから、オレンジのカーネーションが見えなくなるように、俺は偽物の景色を映し出す光学迷彩プロジェクターを作った。

 オレンジを隠すために。

 罪と向き合わないためにーー


 ソラは俺のその行動に驚いていたが、何も言わずに手放しで褒めてくれた。すごいね、と。

 切崎は呆れたものです、といつもの笑みで肩を竦めた。

 俺は、そんないつもどおりの二人の反応に安堵しつつも気づいていた。


 俺だけが、違うんだ、と。


 切崎が依頼した[適任]というのは、[殺刃鬼《the edge of crow》]という、裏社会を少しでもかじったことがある者なら誰もが知るほどの殺し屋だった。

 ちなみに、俺も名前は知っていた。ソラを助けると決意したときに、俺は裏に片足を突っ込んでいたのだから。

「しかし、殺し屋が花の刈り取りなんてするのか?」

 その手の人間で知らない者はいないほどの手練れだ。裏には片足を突っ込んだだけだから、一般的な殺し屋連中がどんなものかなんて知らないけれど、人殺し以外のことをする殺し屋、というのはどうしても想像がつかなかった。

 俺の疑念に気づいたのだろう。切崎は説明した。

「彼は知る人ぞ知る殺し屋ですが、彼は次代の葬儀屋だという噂も流れていますから、毒花の刈り取りくらい、喜んでやってくれますよ」

 葬儀屋。殺し屋という括りに名を連ねているが、その仕事は普通の殺し屋とは違う。よくは知らないが、人以外のものを殺すのが葬儀屋の仕事らしい。

 なるほど、そういう人物なら、この役目を引き受けてくれるだろう。

 ほっと胸を撫で下ろす俺に切崎はそっと耳元で告げた。

「でも、気をつけてください。今回は彼の仕事に[情報屋]も同行するそうですから」

「[情報屋]……」

「ソラさんのことを知って、それを暗殺するのが目的かもしれません」

 俺は息を飲んだ。

 あまりにも自然に過ごしてきたが、ソラは人殺しのために作られた高性能知性体アンドロイドだ。本人はそれを知らないからいいが、ソラを失ったかの組織が[危険]だとして消そうとするかもしれない。

 でも。

「大丈夫だよ。ソラは俺が守る」

「ハルトさん、相手は……」

「それでも守る」

 幸い、作ったプロジェクターは人の姿も隠せる代物だ。

 超能力者だろうが殺し屋だろうが、俺にはもうそれくらいしかできないんだ。


 ソラを守るくらいしか……償いの方法を見つけられないんだ。



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