41.B【黒い影:17】
前回からの続きです。
▼▽ (17)
ある日の夜、
ここは日本の東京都の某所
とある病院の地下にある霊安室にて
ここには一珂院恭・一珂院撩・一珂院翔の一珂院三兄弟と、一部の警察関係者と一部の医療関係者と男性死神『ミドウリン』に、四豊院奏と七照院燕彦の二人がいる。
ちなみに例の謎の少女『暁恵』は、別室にて待機している。
この霊安室の中は、普段から薄暗くまた夜になって、さらに薄暗くなってる。 勿論、蛍光灯の明かりで、ある程度は明るいけど、それでもなかなか薄暗い室内になっている。
まさに何かが出そうな雰囲気。 よく怖い話の中には、病院の霊安室が取り上げられるけど、まさに何か怖さを感じる。
その室内の奥の方に、白いベッドがひとつだけあって、その上に仰向けで寝ているのが、警察庁長官の石橋氏の遺体である。
この奏の能力のお陰で、死んだハズの石橋氏の頭だけが動くことができた。
さらに目でモノを見ていて口で話すことができる。
「こ……ここは……どこだ……?」
その石橋氏が重い口を開けていて、石橋氏が見えた光景には、一珂院三兄弟や男性死神『ミドウリン』や奏や燕彦や警察関係者や医療関係者などが見えていた。
ここで撩が、石橋氏の眠るベッドのすぐ側まで近づき、死んだハズの石橋氏に話しかけた。
「やぁ、石橋さん。 調子はどうだい?」
「あ……あんたは……り……撩……さん……?」
「少しは話せるようだね。 石橋さん」
「わ……私は……一体……どうなって……?」
「石橋さん、あんたは既に死んでいる。 あんたが異世界転移する前の夜に、お風呂に入ってる時に心臓発作が起こり心臓麻痺で死亡した。 あんたは本来死ぬハズだった【運命の日】よりも一日早く死んでいる。」
「わ……私が……死んでる……? 今……私が……話…出来ているのは……?」
「四豊院奏……彼女のお陰で、あんたは約10分間だけ、頭だけが動けているけど、基本的にはもう死んでいる。 あんたの心臓ももう止まっている。」
「………」
「聞かせてほしい。 あの夜、あんたの身に何が起こったのか?」
「………」
「………」
「……解らない……正直……自分が何故……死んだのかさえ……よく覚えていない……」
「………」
「仕方ないわね、撩。 死んですぐ記憶の一部が欠如することは、残念だけどよくあることなのよ。」
「ちっ! ―――そうか……」
「私が……一日早く死ぬことが……そんなに……気に入らないのか……撩……さん……?」
「運命は誰にも変えられないと思っていたからだ。 いかなる者であっても運命や寿命を変更することは出来ないハズだからだ。 それが変わってしまったということだ」
「そ……それは……あんたの……決めたルールの中の出来事だよ……撩さん……一体誰が……運命や寿命はもう変えられないと決めた……いつだって変更できるハズじゃないのか……あんたは……いや……あんたたちは……ただ単に絶対に変えられないと……決めつけてるに……すぎない……きっと……変えられるんだ……運命も…寿命も……」
「バカな……では一体誰が変えたと言うんだ……?」
「そ……そうだな……例えば……『閻魔大王』とか……『冥王ハーディス』とか……」
「………」
「……っ!!?」
「……その顔……もしかして……心当たりが……あるのか……」
「まさか……いや……まさか……そんなバカな……?」
「ふふふ……どうやら……少しは……役に立てた……ようだな……」
「そんなバカな……では彼女がやったのか……?」
ここで撩が黙ってしまい、しばらく考え込んでしまったけど、今度は石橋氏が最期の力を振り絞って、すぐそこにいる警視庁の警視総監の里崎氏を呼んだ。
そこで里崎氏が、石橋氏の眠るベッドのすぐ側までやって来た。
「さ……とざき……さん……」
「おお、石橋さん」
「すまない、里崎さん……私は……もうすぐ……逝く……警察庁長官の選定は……?」
「ああ、おそらく現内閣の閣議決定で決まるだろう。 残念ながら政府の決めることに、我々警察がとやかく言うことは出来ない。」
「そうか……人事の決定権は……政府にあるからな……仕方がない……それでも……あとは頼む……警察を……里崎さん……」
「ああ、わかっている……石橋さん」
「石橋さん、最期に何か言うことはある?」
「奏さん……最後に……実は……私は……異世界に……行くことに最後まで抵抗があった……死にたくないから……異世界に行くしかない……でも……異世界には行きたくない……この大いなる矛盾が……神様には気づいていた。 そ……それで……運命である……あの惨い死に方ではなく……安楽死させてくれた……と……今でも思ってる……きっと……運命とは……そういうモノなのだろう……」
「………」
「……っ!!?」
この石橋氏の発言に、奏は無言で冷静に納得していて、撩は無言で驚愕して絶句している。
「最期の時だ……それでは……本当にさらば………だ………………」
そこで石橋氏が目を閉じて口も閉じて、もう頭もピクリとも動かないようだ。 今度こそ、本当に涅槃に入ったのだ。 その間……時間にして、約9分36秒の出来事だった。
その場にいた一般の警察関係者や医療関係者は、ただ立ち尽くして茫然自失となってた。 当然のことであろうけど、既に死んでる人間をたとえ短時間とはいえ、少しだけ生き返らすことに成功したのだから……。
だがしかし、この事は勿論、絶対に他言無用である。
それで撩が、男性死神『ミドウリン』に小さく話しかけた。
「ミドウリンよ。 冥界の女神ハーディスが……今回の石橋氏の死に干渉したと考えられるか……?」
「可能性がない訳ではないけど、まさか……異世界の女神が……こちらの世界の出来事に干渉したというのか……?」
「いや、違う。 おそらく冥界の女神ハーディスの独断ではないだろう。 先程の石橋氏の発言でピンと来たけど、『閻魔大王』……おそらくは『光の神王・女神イフレア』の指示ではないのか?」
「なるほど、それなら十分に可能性がある。 彼女ならあちこちの世界で干渉してきている。 今回の事も冥界の女神ハーディスに指示を出したのか? だが一体何故?」
そこに医療関係者が撩に話しかけた。
「あの、石橋氏のご遺体は……?」
「ああ、すまない。 もうこちらの用件は済んだ。 あとは警察関係者と相談してくれ」
「そうですか、判りました。」
そこで医療関係者が警察関係者と相談しに戻ると、また撩と男性死神『ミドウリン』が小さく話し始めた。
「その理由までは解らんけど、おそらく何か都合の悪い事でも起きているのかもしれないな……」
「いずれにしても注視していく必要があるようだな。 撩よ」
「そのようだな、しばらく様子見だな。 ミドウリンよ」
「ああ、わかってる」
(こちらの人間の異世界転移・転生は、むしろ彼女たちにとって歓迎するべきこと、それをあえて拒絶した。 一体何故……謎が深まるばかりだ)
この後も、今後の事も含めた撩と男性死神『ミドウリン』の小さな話し合いは続き、近くにいた恭や翔や奏や燕彦らは、その話を静かに聞いていた。
そして、撩・恭・翔・奏・燕彦・男性死神『ミドウリン』らは、別室で待機している『暁恵』を迎えに戻った。
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ここで今まで起きた出来事は、四豊院奏の最終報告書に静かにまとめられた。
なお、奏の『近距離短時間蘇生魔法能力』については、超極秘扱いにされてる為に、最終報告書には該当記載されてない。
これで最終回ではありません。
また少しだけ休みます。