36.B【黒い影:12】
▼▽ (12)
ここは日本の東京都の某所
ある出来事に困惑し絶望してしまい、進退窮まって一珂院三兄弟のところまでやって来て助けを乞う、警察庁の長官である石橋氏の背後から謎の声が聞こえていた。
「それは地球の護り神〈アクナディオス〉です。」
「っ!!?」
思わずビックリした石橋氏が後ろを振り向いてみると、そこにいたのが、不思議な存在・男性死神の『ミドウリン』だった。
「そう、彼らならば『異世界転移』が出来るから、別の違う世界に退避することができますよ。 もっとも、その後のことは一切関与しないそうですけどね。」
「な、なにっ!? い、異世界だとっ!?」
その石橋氏が後ろを振り向いて、男性死神『ミドウリン』の方を見るなり、すぐに質問で返してきた。
「ええ、その通りです。 異世界です。 こことは違う異なる世界のこと、少なくとも人間が暮らせるだけのモノは揃ってるはずです。 ですが、これまで築いた地位や名誉や生活などは、全部捨てることになりますけどね。」
「うぅっ、やっぱり生活や人生を一からやり直さないと駄目なのか?」
「ええ、その通りです。 しかし、そもそも『異世界転移』が出来る者が、あの地球の護り神〈アクナディオス〉だけなのです。 彼らが果たして、あなたを異世界に連れていってくれるかどうか、ですかね?」
「それで、その地球の護り神〈アクナディオス〉とやらとアポイントメントを取るには、一体どうすればいいのだっ!?」
「……」
「ちょっと待てっ!? あのバケモノに頼るつもりなのかっ!?」
切羽詰まった石橋氏が地球の護り神〈アクナディオス〉にコンタクトを取ろうとしていることに驚く一珂院翔が思わずビックリして大声でツッコミを入れた。
「ふざけるな! いつ何処で死ぬか、わからぬのだぞ! 方法や手段にこだわってる場合じゃない! 私はまだ死にたくないのだ! 使えるモノは何だって使うぞ!」
「……」
「別に俺たちは、あなたを止めるつもりはない。 ただ本当に地球の護り神〈アクナディオス〉との接点がないのだ。」
「ああ、奴らは神出鬼没なので、いつ何処でどうやって出てくるのか、我々にもよく解らないのだ。」
「そ、そうなのか……?」
「いえ、ひとつだけ方法があります。 それは○○月○○日の夜8時から9時までの間、都内某所にある某ビル建設途中の工事現場の下で待っていると、あの地球の護り神〈アクナディオス〉が何処からともなく突然現れるそうですよ。」
「そ、そうなのか……?」
「しかし、家族や妻子とか別れて暮らすなんて、本当に出来るのか?」
「その心配は必要ない。 両親は既に他界しており、兄弟も妻子や親友などもいない。 私一人いなくなっても最早誰も心配などしないはずだ。」
「そ、そうなのか……?」
「これで決まりですね。 まぁ、異世界に行っても頑張って下さいね。 まぁ、異世界にも化物はいますけどね。」
「……異世界ですか……? そこは一体どういうところなのか、今から楽しみでしょうか、ねぇ?」
「ふん、あまり訳のわからんところには行きたくないけどな。」
「まぁいい。 とにかく、その日、その時間に、その指定された場所まで行けばわかるはずだな。」
「これで問題解決ですね。 まぁ、異世界でも地位と権力を確立して下さいね。」
「……ぁあぁ、そうだな……」
「まぁ、異世界転移の時まで、まだ時間がある。 それまでせいぜい自分なりに考えることだな。 そのまま素直に異世界に行くか、そのまま素直にこの地球で死ぬか、それとも別の方法を自分で模索するか、自分なりにな」
「やっぱり、他人事だな。 あんたらの力でなんとかならんのかっ!?」
「ふっ、冗談ではない。 誰でも自分の運命と寿命は決定しており、たとえ誰であろうと、それに逆らうことはできない。 そう、誰も逃れることはできないのだ。」
「確かに、自分の運命や寿命に納得できずに逆らい、もがき苦しむことになるが、結局は運命や寿命によって、人間は支配され続けるのだ。 それを誰も逃れることはできない。」
「だけど、その呪縛から解き放ってくれるのが、あの地球の護り神でもある〈アクナディオス〉だけだとは、なんとも皮肉な運命だろうね? これは……」
「そ、そうなのか……?」
「はい、誠に残念ながら、その通りですね。」
「……そ、そうか……」
そう言うと、石橋氏がうつむき肩を落として、落ち込んだ状態で振り返り、そのまま部屋のドアまで向かって、力なく歩き始めた。
ガチャリ、バタン!
その石橋氏がこの部屋を出ていくと、撩たちやミドウリンが小声で静かに話し合った。
「ミドウリンよ、キミも例の指定された場所まで行くつもりなのか?」
「はい、その通りです。 地球の護り神〈アクナディオス〉の能力を見極めさせてもらいます。」
「しかし、遂に『異世界転移』とはな。 奴らはこの能力を手に入れたかったのか?」
「いいえ、おそらく異世界転移は "真の能力" の副次的、副産物だと思われます。 その "真の能力" を使いこなす為にも、異世界転移を進んで行っているのでしょうね。」
「なんで『異世界転生』じゃないんだろうね?」
「それはお前、『転生』だと一度死ななければならない。 絶対に死にたくないと言ってる奴に、そいつは無理な話だぜ。 翔よ」
「それに『異世界転生』だと死んだ人間を再度復活させねばならない。 "女神クラス" の力を持ってる者ならともかく、あの地球の護り神〈アクナディオス〉に、そんな力があると思うか? 翔よ」
「なるほど、確かに人間を蘇生させる力なんて、地球の護り神〈アクナディオス〉には必要ない能力か? だから『異世界転移』なのか?」
「ところで、撩たちも例の指定された場所に行かれますか?」
「ああ、勿論だよ。 一応依頼人だからな。 まだ死にはしないだろうけど、最期までしっかりと見届けないといけないからな。」
「一応は大事なお得意様の一人でな。 これから始まるであろう『異世界生活』の前途多難な日々に同情しないといけないからな。」
「それに本当に地球の護り神〈アクナディオス〉がやって来るのか、この目で確認しないといけないからね。」
「はい、判りました。 それではこのミドウリンと一緒に行きましょうか? 一珂院三兄弟の皆さん」
「ああ、そうだな」
「おお、了解した」
「はい、判りました。」
「では、そう言うことで、また後で―――」
そう言うと、ミドウリンの身体がスゥーと消えていった。
そして、一珂院三兄弟の恭、撩、翔の三人は、依頼人の石橋氏のお見送りの準備をしながら、地球の護り神〈アクナディオス〉から指定された日が来るのを待っていた。
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※地球の護り神〈アクナディオス〉が指定したポイント。
その○○月○○日の夜8時から9時までの間、都内某所にある某ビル建設途中の工事現場の下。
実はそれが石橋氏の命日と死場所である。
ちなみにこの事を知っている者は、死神であるミドウリンと地球の護り神〈アクナディオス〉だけである。
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