35.B【黒い影:11】
絶体絶命の窮地で苦悩する警察庁長官の石橋氏はある場所に来ていた。
▼▽ (11)
ここは地球の中心地にあるマグマが凄い勢いで、とても熱い場所である。
ここにはあの地球の護り神〈アクナディオス〉が大挙して存在している。
そこは地球の護り神〈アクナディオス〉の別荘みたいな場所であり、会議室みたいな場所でもある。
今日も地球の護り神〈アクナディオス〉たちが、なにやら騒ぎながら話し合っている。
「ヒヒヒ、また "あの悪夢" を見た人間が、不審で不可思議な死を遂げたそうだぞ。 ハハハ」
「ヒヒヒ、相変わらず脆いよな人間も……あの程度の事で、すぐ死ぬなんてな。 ハハハ」
「ヒヒヒ、まったくだな。 人間は脆い脆い……いとも簡単に死んでしまうとはな。 ハハハ」
「ヒヒヒ、だがしかし、人間は何故そんなに脆い生物なんだろうな? ハハハ」
「ヒヒヒ、それは仕方なかろう。 もともと、そういう風に出来ている。 今更、人間だけを責める訳にはいくまい。 ハハハ」
「ヒヒヒ、そうだな、ハハハ」
「ヒヒヒ、ではまた助けるか? 彼らも異世界に送ってやろうか? ハハハ」
「ヒヒヒ、まだ実験の途中だったな。 それではどいつから異世界に連れていくつもりなのだ? ハハハ」
「ヒヒヒ、そうだな。 取り敢えずは――― ハハハ」
「……っ!!」
「ヒヒヒ、そうか、ハハハ」
その後も地球の護り神〈アクナディオス〉たちは、なにやら話し合っていたが、あとはよく聞き取れなかった。
◆◇◆
ここは日本の東京都の某所
ある日の昼頃
警察庁長官の石橋氏は、とある高層ビルの最高階にあるこの階の一番奥にある広いフロアにいた。
そのフロアは「社長室」となっており、その広い部屋の一番奥にはガラス張りの大きな窓があって、その手前中央に大きな机と豪華な椅子があり、そこに腰掛けているのが、一珂院撩である。
大きな窓の手前右側にも、大きな机と豪華な椅子があり、そこに腰掛けているのが、一珂院恭である。
大きな窓の手前左側にも、大きな机と豪華な椅子があり、そこに腰掛けているのが、一珂院翔である。
つまり、この広い部屋の一番奥に座るのが、左側から三男の翔、次男の撩、長男の恭の順番である。
この広い部屋の中央には、細長く低いテーブルと、その左右と手前には長細いソファーがあって、そこに警察庁長官の石橋氏が座ってる。
この石橋氏が頭を抱えながら、すっかり青ざめており、足がガタガタ震えていて、撩たち三人がこの光景をのんびり眺めている。
それがこの広い部屋で起きてる現状である。
「わ……私はこれから……一体どうすればよいのか……?」
石橋氏が怯えた声でそっと呟く。
「わ……私はこのまま死んでしまうのか……? ようやく警察庁の長官まで登り詰めたところなのに、また私は……墜ちるのか……?」
「だ……誰か私を助けてくれないのか……? 私はこのまま死んでいい人間ではないはずだ……!」
「わ……私はこのまま国家公安委員会の委員長になって、さらに官房審議官の次官級になって、ゆくゆくは内閣官房副長官になっていけるはずなんだ……ぶつぶつ」
「……そうだ……私は……上級エリート国民なのだぁ……そう簡単に死ぬはずが……ないのだぁ……!」
「……私の……私の……将来は……約束されたはずなんだ……」
まったく滑稽である。
最早……石橋氏は小声で一人言を言ってるだけにすぎない。
「………」
撩たち三人は相変わらず無言のままである。
撩たち三人が、自分の席に着いて資料・書類に目を通したり、社長専用の捺印をしたりしている。 彼らは自分たちの仕事をしており、横から聞こえる石橋氏の独演会を聞いてる形になっている。 時々、仕事の途中で困惑した石橋氏の姿を少し覗き見したと思えば、また仕事に戻る。 それを繰り返している。
傍から見れば、横から小言を言ってくる石橋氏は、単なる邪魔でしかない。 だがしかし、石橋氏も撩たちにしてみれば、大切なお得意様の一人、無下にはできない訳で放っておくわけにもいかない。
だから、彼の一人言をずぅーと黙って聞いているのだ。
「………」
「撩くん、私は一体どうすればいいのだっ!?」
ここでようやく石橋氏が撩たちに話しかけてきて、質問してきた。
「……今、巷で流行ってる "その悪夢を見た者は必ず死ぬ!" ってヤツを見てしまったからかい?」
そこで撩が冷静にゆっくりと話しかけてきた。
「ああ、そうなんだよ! 遂に私にも来てしまったんだよ! 見てしまったんだよ! 私はこれから一体どうすれば―――」
「しかしなぁ、そんな悪夢なら俺たちもしょっちゅう見てるのだがなぁ。」
「―――えっ!?」
「ああ、その程度の悪夢ならば、以前から俺たちも結構な頻度で見てるぞ。 残念だがなぁ」
「ちょっと待って、それじゃあぁなんで君達はまだ生きているのだぁ!?」
「ははは、それは俺たちが地球よりも強いからだよぉ。 君達普通の一般人は拳銃の弾丸が身体に当たっただけで致命傷だろ? 俺たちは拳銃の弾丸どころか、仮に核爆発や核戦争が起きたとしても、生き延びられる自信がある。 それが真の超エリートってヤツなのさ。」
「………」
石橋氏は愕然としていた。
真のエリートならば、そんな悪夢ごときでは死なないのだ。 今、自分と彼らの格の違いを思い知らされる。 彼らこそが、真にエリートを名乗るにふさわしいからだ。
だがしかし、だからといって、このままおめおめと死ぬわけにはいかない。 自分もまだまだ生きていたいのだ。
「撩くん、何かいい方法はないのか? このままでは私は死んでも死にきれないぞ? もし私の命を助けてくれたら、私は君達にどんなことでもしようではないか。」
「………」
そこで撩が少しの間、考え込むと―――
「……方法がないわけでもない。 だが、それだけの覚悟が必要になる。」
「……覚悟……?」
「ああ、そうだ。 君が今まで歩んできた身分や地位や名誉や富などを全て捨てねばならない。」
「……なに……っ!?」
「……『異世界転移』だよ……『異世界転移』ならば、世界そのものが違うので、地球に殺害される心配は、まずないだろ?」
「……『異世界転移』……?? 『異世界転移』って……小説や漫画やアニメでよく出てくる……あの『異世界転移』のことなのか……??」
「ああ、そうだ」
「まさか君達にそんな能力があったのか……?」
「残念だが、俺たちにそんな能力はない。 だが最近になって、その魔法能力を得た者がいる。 これはまだ極秘情報なのだが、君は知りたいかい?」
「勿論だよ! ぜひ教えてくれ! そいつは一体誰なんだっ!?」
「………」
すると突然、石橋氏の背後から声が聞こえた。
「それは地球の護り神〈アクナディオス〉です。」
「……っ!!?」
石橋氏が思わずビックリして、後ろを振り向いてみると、そこにいたのが、あの男性死神の『ミドウリン』であった。
△▲
撩たち三兄弟は終始無表情のままだった。
まだまだ次回に続くけど、果たして石橋氏の運命やいかに!?