32.B【黒い影:08】
▼▽ (08)
ある日の朝のこと
日本のとある地域の某所にて
ここは都会の駅近に並んである高層ビルの上階のあるフロアで、オフィスに向かう途中の廊下を、一人の美女が漆黒の女性用スーツを着て、黒いハイヒールの音を立てながら歩いている。
この美女が漆黒のカバンと茶色い封筒を持っていて、その中には……何かの資料・書類が複数枚入っていて、彼女が先を急ぐように足早で歩いている。
その美女とは『弁護士』の『佐々崎理緒』 (その正体は〈アウターマウカー〉(ステージ4)である) であり、なにやらにやにや不敵な笑みを浮かべながら、その途中にある応接室の方に向かっている。
ちなみに彼女が〈アウターマウカー〉(ステージ4)であることは、ほとんど人間がまだ知らない。 ほとんどの人が、まだ彼女は普通の人間の美女だと思い込んでいるようだ。
その応接室に到着すると、すぐに中に入り、内側から鍵をかけて、外から入れないようにしていて、応接室の中には誰もいなかった。
そして、椅子に座り、机の上に漆黒のカバンや茶色い封筒を置いて、その茶色い封筒の中から、資料や書類を全部出している。
その資料や書類を手に取って見ながら、またにやにや不敵な笑みを浮かべている佐々崎理緒が、突然独り言を言い始めた。
「ふふふ、遂に日本の警視庁にも地球の護り神〈アクナディオス〉が出現したようね。」
「ふふふ、警察はこの事実を公表していないようだけど、まず公表できないでしょうね。」
「上手く隠し通すつもりらしいけど、そう簡単に隠し通せるものではないわ。 まったく日本のメディア・マスコミをあまく見てるわね。 日本の警察は……ふふふ」
「必ず突き止めて来るでしょうね。 日本のメディア・マスコミは、なかなか優秀だから、すぐに世界中に知れ渡るわよ。 ふふふ」
「しかし、驚いたわね。 まさか本当に日本にまで来るとは、地球の護り神〈アクナディオス〉は世界中に神出鬼没のようね。」
「これからが大変でしょうね。 何て言ったって、日本の警視庁にまで簡単に浸入されてしまうんだから、今さら何をやっても無駄でしょうね。」
するとそこで―――
「―――なんでだ?」
なんと佐々崎理緒の背後に、あのアルヴァロス・X・ラピッドマンが無音で、静かに突然出現してきて、彼女に質問してきた。
「簡単なことよ。 あの化物を止められる者など、この世にいないってことよ。」
佐々崎理緒は振り返ることなく、そのままアルヴァロスの質問に答えてきた。
「……」
まるで最初から、そこにいるのを知っていたかのように、そのまま続けている。
「まだ一般の人達は、この地球の護り神〈アクナディオス〉の事をあまり知られていないけど、もし知ったら大パニックでしょうね。」
「何故、大パニックになる?」
「それは都市伝説的な噂話に "悪夢を見た者は必ず死ぬ" というのがあるわ。 それをやってるのが、地球の護り神〈アクナディオス〉だと思い込んでるんでしょう?」
「……違うのか?」
「勘違いしてるようだけど、それをやってるのは、地球の護り神〈アクナディオス〉じゃないわよ。 彼らはあくまで死んだ者の魂・生命エネルギーを高純度エネルギーに変換して、地球の中心部に与えているだけにすぎないのよ。」
「では誰が、その "悪夢を見た者は必ず死ぬ" という力を使っているのだ?」
「―――地球よ。 地球が人間に "悪夢を見た者は必ず死ぬ" という力を使用して、それで人間をどんどん殺して、自分の力にしているのよ。」
「何っ!? では遂に地球が人間に反旗を翻したのか!?」
「それは違うわ。 むしろ逆よ。 人間が地球に反旗を翻したのよ。 その結果がこのざまなのよ。」
「―――何っ!?」
「さんざん人間が地球に牙を向けて壊してきたので、それで遂に地球が怒ったのよ。」
「そうか、遂に地球が怒ったのか? それは残念だったな。 人間たちよ」
「まぁ、男性死神No.019の『ミドウリン』からの情報だから、一体どんな原理・能力なのか知らないけど、とにかく地球には何か特殊な力があるそうね。」
「そうか、ところでお前はさっき、なんでにやにや笑ってたんだ?」
「ふふふ、この国の警察の対応があまりに滑稽だったので、それで少しおかしかったのよ。」
「そんなにおかしいのか?」
「ええ、かなりね。 あんなんで日本国民を欺けるほど、日本国民はバカじゃないわよ。 少しナメてるわね。」
「ほーう、なるほどな。 それでお前たち〈アウターマウカー〉は、これから一体どうするつもりなのだ?」
「そうね、私たちはとりあえず静観ってところね……今のところはね。 まぁ、人間がどうなろうと知ったことではないしね。」
「ほーう、なるほどな。 では私も、そのように認識しておこう。」
「あらあら、そうなの? でも大変よね、人間も。 何せ、今度の敵は地球そのものなんですからね。」
「それで男性死神No.019の『ミドウリン』が言うには、地球が何らかの力を使用して、 "悪夢を見た者は必ず死ぬ" 能力を作動させて、人間たちを殺害して、人間の数をどんどん減らしているのか?」
「ええ、そうね。 彼が言うにはね。 一体どこからそんな力があるのか、よく知らないけどね。」
「ほーう、なるほどな。 確かに気の毒だな、人間も。」
「ふふふ、それで日本の警察は一体どうするのかしらね? だから滑稽で楽しみなんですよ。」
「……さすがに逮捕できんからな……相手が地球では……な。」
「だからこれからの人間たちの言動が楽しみなのよね。 ふふふ」
「……楽しそうだな?」
「ええ、だってある惑星がそこに住む人類を滅亡させようなんて、まさに前代未聞よ。 今までのツケが返ってきたようね。」
「……」
「そうそう、あなたの方はどうするの? アルヴァロス」
「……そうだな。 私の方もしばらく様子見だろうな。 特に何もしないつもりだ。」
「あらあら、やっぱりそうよね。 だってこれは人間たちの因果応報・自業自得だものね。 ふふふ」
「……確かにその通りだな。 理緒よ」
「ふふふ♪」
そう言うと、アルヴァロス・X・ラピッドマンの姿が無音で、静かにスゥーと消えていった。
◆◇◆
ある日のこと、俺は非常に困っていた。
俺はラーメン屋でアルバイトをしている無職の成人男性だ。 将来の夢は、自分のラーメン屋を出店すること。
だが一方で、俺はあることを懸念している。 それが例の "悪夢を見た者は必ず死ぬ" という夢を、俺も見てしまったからである。
そう、つまり俺は必ず数日内に死んでしまうのだ。
このまま俺は自分の夢を実現できずに、何もできずに死んでしまう?
せっかく自分オリジナルの麺やスープなどが完成直前なのに、このまま何もできずに死んでしまう?
夢も希望もなく失望し絶望し、いっそ、自分で自分の命を断とうかと思い始めた頃に、俺の目の前にとんでもない奴らが現れたのだ。
これから俺は一体どうなっていくのか!?
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※『悪夢を見た者は必ず死ぬ』
その『悪夢』とは、夢の中で実際に自分が殺されることであり、見た者は数日以内の現実世界で地球に殺されることをいう。




