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それは異様な光景だった。王宮の庭園を歩く黒い髪をした小柄な女と、それに付き添う何人もの男達。護衛には多すぎるほどまとわりついている。
もしこれが一国の王女とか公爵令嬢なら納得がいくが、女の歩き方や話し方、立ち振る舞いからはそんな高貴な様子は感じられない。
「きゃっ…!」
「大丈夫ですか?!アカネ!怪我は?」
「こんな所に石を置いておくなんて危ないじゃないか!庭師を呼べ。オレの剣で手打ちにしてくれるわ!」
「いいや僕の禁術でバラバラに切り刻んであげる…」
「生温いな!私なら奴隷にしてやって生き地獄を味あわせてやろう。」
「ちょっと!みんなっ!私のためにそんな怖いこといわないで。私は無事だから。」
なんて優しいんだ、さすが聖女だな、といった茶番のような現実かくりひろがる中、私はぶるぶる震えている男-ーこの庭を管理している庭師ーーに声をかけた。
「大丈夫ですよ。彼らは終始あんな調子ですから。念のため明日から離宮の配属にします。よろしいですね。」
「は、はい!ありがとうございます。イリア次官様!」
持っていた書類の一部を千切り、ささっと簡単に概要を書いて庭師に渡す。きっと向こうの役人もすぐに理解してくれるはず。なんてったって日常茶飯事ですから。
チラリと例の一行を見るとまだ女を競い合うように誉めている。
こんな異常事態が始まったのはちょうど1ヶ月前のこと。
聖女とされる少女が異世界からやってきたのだ。こんな平和な国に、何故聖女が来るのか。理由はわからないが、聖女が国にいると女神の恩恵が授かるといった伝説を信じる男達が、聖女にアタックし始めたのが始まりだった。
いや、少女が聖女だからという理由だけでアタックしているのではないだろう。
聖女は目が覚めるような美少女だった。長いまっすぐな黒髪に白い肌赤い唇。ぱっちりとした下がりがちな目はキラキラと輝いている。
彼女とすれちがった同僚の男にいわせると、甘い香りがしてしばらく頭がボーッとした、といっていた。
催眠的なものだろうか、私にはわからなかったから男専用なのかもしれない。
そんなことを考えていると、そばに人がいるのを感じた。
「あらぁ。イリアさんじゃなくて?」
「…お久しぶりですね。リリカ伯爵令嬢。」
「なにを見ていらしたの?…ああ、御自分の恋人ですわね!今日もロシュバルト様は一段とお美しいですわねぇ。羨ましいですわ。あんな綺麗な殿方が恋人だなんて?それにしても最近はロシュバルト様も聖女様に夢中のご様子。大丈夫ですの?」
私がなにも言わないのをいいことに、伯爵令嬢はクスクス笑いながら一方的に話して去って行った。。
恋人ねぇ。うーん あの上司のことはどうでもいいんだけど。
てゆうか貴方の方がショックだったんじゃないんですか?ちょっと目が潤んでましたよ。
確かこの人はロシュバルト内務省長官の追っかけ集団のリーダー的存在だった。
私と犬猿の仲…と向こうは思っているんだろう…。
私はどうでもいいと思ってます。ごめんなさい。
私、イリア・ゲルマイツ内務省次長官は直属の上司であるロシュバルト・アーケード内務省長官と王家公認のカップルだったのは1ヶ月前の話。
自由になって思うこと。
いくら仕事だからって、やっぱりあの男はないわ。
はじめまして!ながやです。一話一話短いと思いますが、よろしくお願いします。