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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

力こそ正義――暗殺令嬢であるわたくしはそう信じておりました。

作者: マンムート
掲載日:2026/08/06


「アメリア様。あれを放っておいていいんですの?」



 友人の視線の先には、わたくしの婚約者と……男爵家の娘。


 婚約者である第4王子ジュール様は、あの平民あがり――マリアとか言ったかしら? まぁ駆除する獣の名前なんてどうでもいいですけど――にすっかり夢中。


 学園の中庭のベンチで、人目もはばからず密着しておりますわ。



 わたくしは、にっこりと笑って


「ええ。あの光景を見るのも、せいぜい数日間だと思えば、大したことではありませんわ」


 友人は、いぶかしげに、


「……数日で殿下が目をさますとは思えませんが」


「あれでも王族ですから」


「王族とはいっても……4番目ですよ」


「4番目でもですわ」



 目なんかさまさないでしょう。



 アレとの婚約は、王家の暗部であるわたくしの一族、モンド伯爵家を繋ぎとめるだけのため。


 ですがアレは、伯爵家と縁づけられたことにご不満だったらしく。


 ことあるごとに、他の女と肉体的な接触をしたがり……しようとしては、避けられていました。


 だって第4王子。しかも側室腹です。


 第4ではスペアですらありませんわ。せいぜい他にもう何もなくなった時の非常食程度。


 仮にわたくしから婚約者の座を奪ったところで、臣籍降下の運命は変わらず。


 しかも、大して美貌でもなく成績は最低で、素行もよろしくない。


 不良債権。



 そんなところへ現れた都合のよい獣を手放すわけがありませんわ。



 ですが、目を覚まさないのなら。


 覚まさせてやればいいのです。


 覚めたって大したことはないでしょうが、唯々諾々と従う操り人形程度にはなってくれるかもしれません。



 そしてわたくしは、表面上はアレと結婚しても、あんなのと結ばれるつもりはありません。



 わたくしは小さくつぶやきました。


「力は正義ですわ」





      ※      ※      ※




「……どうして?」


 中庭で、アレと処理されている筈の獣がいちゃいちゃしていました。



 なぜ、あそこにいるんですの?


 ありえませんわ。


 起こってはいけない事態ですわ。



 わたくしは、友人に言われる日の前日。


 タウンハウスの書斎で、御父様に言ったのです。


「アレを躾けるいいきっかけが現れましたわ」


 御父様には、それだけで判っていただけて。


「ああ、これで目を覚まさなければ……アレも処理するだけだな」



 御父様の考えとわたくしの考えは一緒でした。


 我が家の暗部の手で獣を殺す。


 その事実を、なんらかの形で……アレに気づかせる。


 それでアレがおとなしくなれば、形ばかりの婿にする。


 逆恨みなどしてくれば、処理する。



 だからあそこに、アレと獣が一緒にいるはずがないのです!



 放課後。


 わたくしは、急いでタウンハウス帰りました。



 執事のハンスが出迎えてくれました。


 彼は、御父様を除けば最強の暗部です。


 そして、わたくしと共に幼いころから鍛錬を重ねて来た人。



 わたくしが好きな人です。



「御父上がお待ちでございます」


 書斎に通されると、御父様は深刻な顔をしておりました。


「なにがあったのですか?」


「誰も帰って来ない」


「!」



 あの獣を襲わせた暗部は全員行方不明ということです。



「何人でしょうか?」


「見張り役を含めて3名」



 我が家は王国の暗部。


 あの獣を処理する程度ですから、見習いばかりだったとしても……それでも素人に後れをとるはずがありません。


 いえ、御父様が全員見習いで編成したはずがありません。少なくとも一人は熟練者を混ぜていたはず。



「……ありえません」


「ありえないはずだ。だが誰も帰って来ないのは事実だ」


「それ以上のことは?」


「判らない」


 つまり、死体すらないと言うことです。


「目標はかなりの手練れに守られていたということでしょうか?」


「いや。襲撃前に伝言が来ている。目標は一人で行動中だと」


 書斎に沈黙が落ちました。



 恐るべき事実が、脳裏に染みこんできます。


 そこから導かれる事実は、あの獣ひとりが、こちらの暗部3名を消したということです。



「現場は?」 


「裏路地だ。そして血痕だけが僅かに残っていた」



 僅かということは、現場から痕跡まで消去した何者か――おそらく複数――が存在するということ。


 その上、あの獣――いえ目標は、傷ひとつ負っていない。



 つまり、その血は。



「今回の件、王家から許可を得ている」


 それはつまり王命ということです。


「結果の報告は?」


「まだ、していない」



 我らは全ての王命を立派に果たしてきました。


 こんな事態は初めてです。



「時間の猶予は」


「一週間といったところだな」


 目標が学園に居続けているという事実そのものが、我が家の失態を満天下に宣伝しているのです。


 御父様の所には王家から既に『いつ実行するのだ』という問責が来ている可能性があります。



 ですが、失敗したことを公式に認めるわけにはいきません。なぜなら――



 御父様が低い声で呟きました。


「我が家は、王家の暗部。誇り高き暗部だ。失敗は許されない。ありえない」


「では」


「次は20名を動員する。指揮はハンスにとらせる」


「……順当かと」



 20名と言えば、我が家の見習いを除いた暗部の半数です。


 相手が素人でない可能性が高いとはいえ、ひとりの人間を処理するには過剰ともいえる戦力です。


 ですが、相手の力が判らない以上、当然の判断です。



「それと……次回の作戦前に、目標の身辺をもう一回精査する。アメリア。お前がその指揮をとれ……結果によっては作戦中止乃至は変更もありうる」



 他の処理の方法も検討する、ということですわね。



 暗部は訓練に十数年はかかる貴重な存在。この王国のどんな人間よりも価値ある存在なのです。


 その貴重な存在をすでに3名失っています。



 相手は吹けば飛ぶような弱小男爵家。


 これ以上貴重な血を流さずとも、経済的に締め上げる手、社会的に抹殺する手は幾らでもあるはずです。




      ※      ※      ※




 わたくしの提出した報告書を読んだ御父様は、思わず、といった風に顔をお上げになりました。


「これは……本当なのか?」


 わたくしはうなずきました。



 ターゲットを引き取った男爵家を調べさせたら……普通の家ではありませんでした。


 確かに、我が国の端っこにしがみつくようにある小さな小さな男爵領でした。


 領地にある村落はひとつきり。人口は211名。


 産業らしい産業は強いて言えば林業ですが、ほとんど外部に出荷してません。


 逆に、外部からの商人や荷の出入りも、ほぼ確認されておりません。


 険しい山に囲まれた小さな盆地にある領地は、余りにも小さすぎるが故に自給自足なのです。


 これでは経済的に締め上げるのは困難です。



 しかも、社会的に抹殺しようにも、社交界に全く出ていないのです。


 目標も、学園には通っているものの、社交界デビューはしておりません。



 御父様はわたくしに、


「アメリア。この調査結果を見て、どう思った?」


「……目標を学園に通わせるためだけに存在しているようだと思いました」


「……私もそう思う」



 貴族でなければ、学園には通えません。


 そして貴族であれば、どんな貴族であろうと、我が家の監視から逃れられない……はずでした。



 ですが、こんな形ばかりの男爵領に、誰が注目するでしょう。



 わたくしと一緒に呼ばれたハンスが口を開きました。


「ゾラリアとの国境に近いのが気になります」 


「男爵家が密偵だと? 乃至は草だと?」


 草とは何世代にも渡って、敵国に潜り込んで一部と化している諜報員のことです。


 御父様が目で問うてきたので、わたくしは調べた事実で否定しました。


「草、ということはありません。出自は確かです。代々の当主にもゾラリアとは何の繋がりも認められません」


 ハンスは、少し沈黙し、


「……乗っ取られ、足掛かりにされたのではないでしょうか?」


「目標がゾラリアの工作員であれば……我が家の暗部が不覚を取ったのもありえます」



 我が家の暗部達は相手が素人と侮っていたのでしょう。


 暗部の作戦では、その油断は命取りとなり得ます。特に相手も暗部であれば。



 御父様は、しばらく沈黙し。



「……いや、それはない」


「と申しますと?」


「ゾラリアの情報部の会計には、我が家の末端が潜り込ませてある。手練れの工作員を何人も動かすような動きであれば……金が動く」


 末端。


 暗部ではなく情報提供者がいる、ということです。


 それは未だわたくしが知らされていない事実でした。


「……」


 ですが、ここでの情報開示は、もっともな判断です。


「しかも、アレは第4王子だ。あんなものを篭絡してどうする?」


 ハンスが、可能性を提示します。


「アレを踏み台にして更に上へ行こうということではないでしょうか?」


「無理だ。アレには何の後ろ盾もない」



 わたくしも御父様に同意です。


 我が家はアレの後ろ盾にはならない。


 それに表面的にはただの伯爵家にすぎません。



「……ですけど、我が家の暗部3名を倒した相手が一人とは考えられません。少なくとも現場から痕跡を消した複数の人員がいるはずです」


「そうだな。目標の周囲には何人かがついているのだろう。目標本人は素人で、そいつらが手練れなのかもしれん」



 御父様にしては、あやふやな言葉です。


 ですが、敵の姿が見えない以上、何一つ断定はできません。



「……我が家の暗部と互角に戦える手練れが属する集団……一体なんなのでしょうか?」


「国に属する機関だろうな……だが、どこも我が国へ大規模な工作を仕掛けている兆候はない」



 書斎は重苦しい空気に包まれました。



「……王宮に話を通して、正式な査察官を派遣させる手はありますが」


 この男爵領が怪しげな領地であることは確かです。


 正式なルートを使って、官僚機構を動かし、査察官を送り込んでもらうことは、可能でしょう。


 嫌疑は密輸でも盗賊の根拠でも反王派の集会場でも何でもいいのです。



 御父様は小さく首を振りました。


「判って言っているのだろう? そんな余裕はない」


 わたくしは頷かざるをえませんでした。



 一つは、我が家が王宮に、大きな借りを作ってしまうということです。


 二つは、我が家が王命を失敗した、と認めるも同じということです。


 そうしたら、我が家の力を苦々しく思っている諸勢力が、力を削ごうと動き出すでしょう。


 三つは、時間がないという事です。


 王宮の官僚組織が動くのには時間がかかります。そして、我が家が王命を成功裏に完了したという事実を作るためには、時間がないのです。


 敵が逃げてしまう可能性もないとは言えません。



「! まさか」


 これが全て敵の計算通りであるなら……その可能性にわたくしは背筋が震えました。


 御父様はわたくしの表情を見て、


「我々は、油断からの失敗で、追い詰められたのかもしれない」



 ハンスが口を開きました。


「……でしたら。相手から直に聞くしかありませんね」


「そうだな……今度は総力をあげる」



 普通ならそこまで、と言うところです。


 ですが、相手は恐らく尋常ではありません。


 兵力を小出しにするのは愚です。


 正体が見えない敵がこれ以上仕掛けてくる前に、全力を挙げて一気に潰す。


 それが最善です。



「見習いも?」


「見習いも。だ。私も参加する。ハンスお前もだ」



 我が家の最強の暗部である御父様、その次に強いハンス。


 そして平常時は、奉公人として我が家に代々仕えている暗部たち。


 手練れ40名、見習い31名。計71名。



「わたくしも参加します」


 そして3番目に強いわたくし。



 やりすぎと思う方もいるでしょう。


 ですが違うのです。


 国を背負う我らは失敗するわけにはいかないのです。



「相手の精鋭に正面からぶつかるのは愚かです」



 目標の周囲には、相手の手練れが、おそらく複数隠れています。


 我が家の暗部達にさえ気づかれずに動ける手練れ達が。


 その人数すら判りません。



 であれば。



 御父様はうなずき、我が王国の地図の端を指さしました。


「作戦目標を変更する。次の新月の夜。男爵領を襲撃する。相手の根を断ち。情報を得る」



 王都の敵と違って、男爵領は小さいとはいえ隠れてはおりません。


 現地調査も終了済みで、地形の把握も出来ております。


 手練れを派遣している本拠地は、手薄な筈です。


 211名の住人を、我が家の暗部が制圧するのはたやすいでしょう。


 辺境ですから、自衛のため、素人といえどある程度は訓練を受けている可能性はあります。


 ですが、新月の夜に襲撃をすれば、特殊な訓練を受けていない彼らは夜目が効かず、何の抵抗も出来ません。



 何人か留守部隊が残っていたとしても、最精鋭は王都に送り込んでいるでしょうから、所詮は留守部隊。


 万一王都にいる敵と同じレベルだったとしても……数で圧倒できるでしょう。 



 ハンスは、テーブルの上に、男爵領のみを描いた地図を広げました。


「作戦目標はこの小盆地。出入りできる峠はふたつしかありません。封鎖は容易です」



 小規模な集落の制圧なら、ここ10年で3回行っております。


 どれも潜伏している逃亡犯を捕縛するのが目的でした。



 ですが、今回はその3回とは違う要素があります。


 王都に潜む敵の情報を得たら全員処理する必要があるのです。


「……」


 わたくしの胸が、少しだけ痛みました。


 事情すら知らない人々を殺すことに、罪悪感がないわけではありません。


 10歳の時から返り血を浴びておりますが、その相手は全て秩序を乱す者たちでした。


 無辜の人間を殺すのは初めてです。



 ですが、王都に残留する敵に情報が伝わる可能性は全て排除しなければなりません。



 我々は結果的に敵を侮り、一度は後れをとりました。


 二度目はありません。


 そのためには、例え冷酷に見えることでも、あえて行うのです。


 それが我がモンド家。



「力は正義ですね……」


 御父様はうなずきました。


「力なき正義は、正義ではない」


 ハンスがわたくしを見て、恭しく。


「お嬢様。もし地獄というものがあるならば、そこまでお供させていただきます」



 誰も、わたくしに残れとは言いません。


 当然です。


 わたくしは、モンド家の娘。


 王国の正しき剣なのですから。




      ※      ※      ※



 そして。


 わたくし達は全滅しました。



 新月の夜の始まりと共に、ふたつの峠に封鎖部隊それぞれ3名を残し、男爵領の中心である部落へ襲撃をかけました。



 部落の中心にあるちいさな領主館も部落の家々も灯りひとつなく静まり返っておりました。



 作戦は簡潔でした。


 まず領主館を制圧。領主一族を捕縛。


 その後は二班に別れ、


 一班は領主一族を尋問。手段は問わない。


 もう一班は、4人一組で行動し、部落を制圧。


 抵抗しようとした者はその場で出来れば無力化、それが無理であれば殺害。

 

 抵抗しない者は、部落の集会場に集め、監禁、尋問。



 情報を得たら処理。


 

 作戦の失敗を予期させるものは、何もありませんでした。



 ですが、我々が部落に突入した瞬間。


 待ち構えていたのは、我々の手練れと遜色ない腕を持つ相手でした。


 彼らは我らと同じく、昼間と変わりない動きで戦いを挑んで来たのです。


 新月の夜の優位さなど、なかったのです。


 それどころか、こちらが相手が素人と見て、新月の夜に襲撃してくることまで読まれていたのです。



 待ち伏せされていた上に、敵は数で圧倒的でした。



 御父様とハンスとわたくしの判断は完全に間違っておりました。


 確かに彼らは、日ごろは農民や平民として暮らしていました。


 ですがそれは我が家の暗部たちが、奉公人として生活しているのと同じことだったのです。



 200名強の住人全てが手練れ。


 そこへ少数のわたくし達は飛び込んでしまったのです。



 小盆地は封鎖しやすい。


 ですが逆に言えば、一度入れば撤退することも困難だったのです。


 閉じ込められたのは我々。



 我々70名は、地の利を熟知し、しかも腕は互角以上の200名を相手をする羽目になりました。


 しかも峠を封鎖していた2つの部隊は即座に全滅させられたようでしたから、兵力差は一層大きくなりました。



 兵力差だけではなく、戦術でも我々は敗北していました。


 部落そのものが、巨大な罠だったのです。


 路地や土塀、高低差といった地形、適切に配置されていた荷車等の障害物、さらに仕掛けられたトラップを巧みに使われて分断され。


 全ての局面で数的優位に立たれ圧倒され、殺されていきました。



 御父様は、絶望的な不利を悟った瞬間、わたくしに告げました。


「行け。お前が生き残れば我が家は続く」


 ハンスも


「先に地獄で待っております」と。



 闇の中、響くのは剣戟の音、肉を切り骨を断つ音、我が家の暗部たちの悲鳴や断末魔の叫びのみ。


 闇の底に濃厚に流れる血の香り。



 懸命に血路を開き部落から辛うじて脱出できたのは、わたくしが確認できた範囲で負傷者を含めて僅か5名。


 その中には御父様もハンスもおりませんでした。



 同行した4名は体を張って、わたくしを逃がそうとしてくれました。


 そうしてまた一人、また一人と討たれて。


 わたくしはいつしか一人になっていました。



 闇よりも黒い暗殺装束をあちこち切り裂かれ、白い肌を血に染めながらも、わたくしは闇の底を駆け続けました。


 血と汗の匂いと肌の白さを消すために、泥を全身に塗りたくり、手負いの獣の姿で走り続けました。



 なんとか敵を振り切り、部落を囲む深い森へ飛び込みましたが、それは罠。


 峠を封鎖していた味方を殲滅した敵が先回りしていたのです。



 わたくしは敵を振り切ったのではなく、獲物として追い立てられただけだったのです。



 前後を10名以上に囲まれたわたくしは必死に戦いました。


 自暴自棄になるのは簡単ですが、わたくしはモンド家の血を持つ女として生き残らなければなりません。


 今まで体験したどんな作戦よりも、身体が動き、敵の気配が判りました。


 それでも、囲みを破ることは叶わず。


 相手の2名ばかりに深手を負わせましたが、それが精一杯でした。



 わたくしは、両腕と脚を切り落とされて、仰向けに倒れていました。


 大量の出血で死へと向かっているわたくしを見下ろしたのは、あの最初の目標でした。



 最初の目標は、わたくしを冷ややかに見降ろし、


「跡取りのお嬢さんが死ねば殺し屋一族もおしまいってわけだ。あは。その傷なら絶対に死ぬね」


「あなたは……王都に」


「あの子はあたしの双子の姉妹。こういう荒事より、男をたらしこむほうが得意なんだよね」


 そっくりな顔の額には、親指ほどもある醜い傷が刻まれておりました。


 別人の証でした。


「そんな……うそ……」



 我が一族の暗部3名を、ほぼ跡形もなく抹殺した彼ら。


 それが、敵の中では腕が劣っていたほうだったなんて



「では……あなたがたの主力は……」


「こっちさ。王都に潜ってるのは4人だけ。あんたらは襲撃する時、素人相手だと判断すると4人しか割かないからな。一人は伝令だから実質は3人だろ?」


「!」


 相手は我が家のやり方を知っている!?


「そしてあんたらは損害を避ける。そのために敵の弱いと判断した方を狙う。ここをな」


 やり方どころか、思考の傾向まで……。



「あなたがたは……何者なの……?」


 わたくしを囲む、影のようなものたちの一人が呟きました。


「ジロップ家」


 呟きが続きます。


「フッガー家」「ボッカネグラ家」「チェンチ家」「バルカ家」



 次々とささやかれる名前は、全て、わたくしが知っている名前でした。


 我がモンド伯爵家が王家の影として300年余りに渡って処理して来た一族ばかりでした。



「……では、あなたたちの作戦目標は……」


「お嬢さんの家さ。そのためにここの人間を皆殺しにしてなり替わって舞台を整えた。喜べよ。大した歓迎っぷりだろ」


「ああ……」



 全てが腑に落ちました。



 相手は我が国などどうでもよかったのです。


 彼らは皆、我が家が暗殺や謀略で、処理して来た人々の末裔。


 我が一族に復讐するためだけに、この挙に出たのです。



 何代にも渡って、我が一族への恨みを伝え、徹底的に調べ上げ、更に自らを凶器と化し、この必殺の罠を構築したのです。



 第4王子がターゲットにされたのは、単にアレが、わたくしの婚約者だったからにすぎなかったのです……。



「今頃、王都のあんたのお屋敷は丸焼けになってるさ。華麗なる暗部一族はおしまいってわけだ」



 彼らの背後から、彼らの仲間が何かを持って現れました。


 御父様とハンスの首でした。



「モンド家の当主とその副官だ。73名処理済みだ。こいつは?」


「モンドの血統書付きのメス犬さ。これで猟犬の血は絶えた」


 女の仲間は、わたくしを見て、


「ああ、すぐ死ぬなこれは」


 女は笑って、


「それにしても、こいつら弱かったな」


「そりゃ、弱い相手ばかり殺していたんだろうからな」



 侮辱でした。



「! そんなことは……」


 ですが、わたくしの声は小さくなってしまいました。


 血が失われて、声がでなくなってきただけではありません。


 血の塊が喉を塞ぎかけていたからでもありません。



 薄れゆく意識を奮い立たせて思い出そうとしました。


 我が家が命をかけて戦ってきた歴史を。


 誇り高き歴史を。



 ですが、わたくしが物心がついてからの範囲で処理して来たのは、王家に対して陰謀をめぐらす貴族や、貴族同士の婚約を妨げる女や、危険思想を持っている人々ばかりでした。



 国家の正義を背にして国内で暗殺や諜報や謀略に従事していた我らは、いつしか、死を賭して向かってくるような相手とは戦わなくなっていたのです。


 王家に飼われた猟犬にすぎなかったのです。



「まぁこうして負けたんだから、お嬢さんたちは悪だったってことさ」



 わたくしは何か言おうとしました。


 ですが、もう口さえも動きません。


 血の味も痛みも感じなくなってきました。


 悪も正義も、全てがゆらめいて、わからなくなってきました。


 全てが闇に溶けていきます。



「力は正義なんだろ?」



 それがわたくしが聞いた最後の音になりました。





たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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― 新着の感想 ―
確かに暗殺請け負ってきた一族に復讐するのは分かるがあくまでも王家の指示でやって来たのである訳だから王家にはそれ以上の復讐しなければおかしいですね。 王家が指示さえしなければ起きなかった出来事にも関わ…
感想一覧
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