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予行演習

 極秘作戦の決行を数日後に控え、王城の地下訓練場には異様な光景が広がっていた。亡命者から聞き出した証言をもとに、石材や木箱を積み上げ、敵の地下牢を寸分違わず再現した実物大のセットが組まれている。


「配置につけ。これより、ユルゲン陛下救出作戦の模擬演習を開始する」


 アーサーの鋭い号令とともに、兵士たちが敵兵役に扮し、曲がり角や鉄格子の前に立った。松明の火が揺れる中、訓練場には冷たい緊張感が漂う。


「……始めるわよ」


 ウェンディが短く呟き、瞳を閉じた。彼女が編み上げた魔力が細い糸のように周囲へ広がり、アーサー、そして選抜された二人の騎士を包み込む。


 次の瞬間、空間が陽炎のように揺らぎ、彼らの姿が背景に溶け込んだ。 『不可視の結界』。 視覚だけでなく、足音や鎧が擦れ合う微かな音までもが、魔法の膜に吸収されていく。


「信じられない……。目の前にいるはずなのに、気配すら感じない」 配置された敵兵役の一人が困惑したように呟き、彼らのすぐ横を通り過ぎた。アーサーは息を殺し、ウェンディの歩調に合わせて慎重に歩を進める。


 セットの最深部、王が囚われているとされる「重罪人房」の前まで辿り着いた。ウェンディの額には、慣れない術式の維持による微かな汗が滲んでいる。


「ここで王を救出し、即座に離脱……。ウェンディ、いけるか?」 アーサーの声は結界の内側にだけ響く。 「ええ……今、この場所を記憶したわ。イメージは完璧よ」


 彼女が印を結び、魔力を一箇所に凝縮させる。刹那、空気がパチリと弾けるような衝撃波が走り、視界が真っ白に染まった。


 気がつくと、彼らは地下訓練場から遠く離れた、城の中庭に立っていた。 『転移魔法』――。 先ほどまでいた地下の湿った空気は消え、夜風が頬を撫でる。


「……成功だ。だが、ウェンディ、顔色が悪いぞ」 アーサーが彼女の肩を支える。 「大丈夫よ。ただ、本番は『王の重み』が加わるわ。人数が増えれば消費魔力も跳ね上がる……」


 ウェンディは荒い息を整えながら、先ほどまでいた地下のイメージを脳に焼き付けていた。失敗は許されない。次は、冷たい石壁のセットではなく、血の匂いのする本物の牢獄なのだから。


 予行演習を終えたばかりの静かな中庭で、四人は次なる課題に直面していた。ウェンディの疲弊は明らかで、本番で「王」という五人目を抱えて転移するのは、あまりにリスクが高い。


「騎士の同行は一人に絞りましょう。その代わり、私が魔力タンク(リザーバー)として同行するわ」


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