聖域の導き手
ユルゲン王からの親書を読み終えたアマンダは、窓の外に広がるダベンポートの豊かな領地を見つめた。隣国シュタインベックに芽吹き始めた「魔法の種」を育てることは、女神の慈悲を形にするための最後の大仕事に思えた。
「アーサー、私はシュタインベックへ行こうと思います。あの子たちのための、学び舎を作るために」
アマンダの言葉に、公爵となったアーサーは驚きを見せたものの、すぐに深く頷いた。彼女の瞳に宿る意志の強さを誰よりも理解していたからだ。 アマンダは一つ条件を付け加えた。 「もちろん、ずっとではありません。後任が育ち、学園が軌道に乗ったら、必ずあなたの待つこの領地へ戻りますわ」
こうして、アマンダはシュタインベックの王都へと赴任し、自らが初代校長として「シュタインベック王立魔法学園」を設立した。
王都の小高い丘に建てられた学園の校舎は、白亜の石造りで、かつての暗い動乱の影を微塵も感じさせない。
開校初日。アマンダは校長として、集まった子供たちの前に立った。 そこには、かつては疎まれていたはずの「魔力」を瞳に宿し、期待に胸を膨らませる幼い少年少女たちがいた。
「魔法は、誰かを傷つけるための力ではありません。自分を、そして愛する誰かを守り、未来を切り拓くための知恵なのです」
アマンダの凛とした声が講堂に響く。彼女は自ら教壇に立ち、基礎的な魔力操作から、魔法がもたらす倫理観に至るまで、丁寧に、かつ厳格に指導した。
アマンダが王都に滞在して数年、学園は目覚ましい発展を遂げた。 彼女の指導のもと、若き教師たちが次々と育ち、アマンダの右腕として学園を支えるようになっていた。
夕暮れ時、校長室で執務をこなすアマンダのもとへ、アーサーからの手紙が届く。 そこには、領地の近況と共に、彼女の帰りを待ちわびる一言が添えられていた。
『こちらの庭の薔薇が見頃を迎えた。君が育てた後継者たちが、立派に巣立つのを心待ちにしている。』
アマンダは微笑み、窓の外で魔法の練習に励む生徒たちの姿を眩しそうに見つめた。 かつてアイゼンベルグが金塊に執着して命を落としたその同じ大地で、今、何にも代えがたい「知恵」という財産が、次世代へと受け継がれようとしていた。




