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静寂の街道、逃げた軍靴
翌朝。
ユルゲン王、アーサー王子、キャリントン公爵、そして亡命兵たちを主とした小規模な部隊は、シュタインベックへ向けて静かに出立した。
本来ならば国境付近は緊張の渦中にあるはずだった。
しかし——。
「……おかしい。敵影が、どこにもありません」
偵察に出ていた亡命兵が戻り、困惑した声を上げた。
アーサーは遠くの丘陵を見つめた。
風が吹き抜けるのみで、軍の姿どころか、見張りの一人すら見当たらない。
「罠……なのか?」
公爵が眉を顰める。
しかし、進めば進むほど、それは確信に変わっていった。
「武器が……捨てられています」
「街の外れで、将校らしき者が縄で縛られていました……住民が取り押さえたようです」
報告は続々と入り、アーサーは息を呑んだ。
「……軍部は、もう統制を失っている」
民の怒り、軍の士気の崩壊、幹部たちの逃亡。
まるで国そのものが、自らの手で毒を吐き出すように、軍部は内側から崩れ落ちていた。
やがて、一行は王都を見下ろす丘にたどり着いた。
そこも、異様なほど静かだった。
「本当に……戦わずに済むのか?」
アーサーの声は期待と不安の狭間で揺れていた。
ユルゲン王は、寂しげな微笑を浮かべた。
「民はとっくに、軍部よりも平穏を選んでおったのだろう。あとは、わしが証を立てるだけだ」




