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『当宿は健全です(※だいたい誤解)』  作者: 白百合 静


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27/28

当宿は健全です(※擬音語が全部まずい)

 白百合亭では、ついに音そのものが疑われ始めた。


 意味ではない。

 動作でもない。

 擬音語である。


 「とろり」「ふわ」「きゅっ」。


 言った瞬間、

 空気が一拍、遅れて反応する。



「本日のスープは、とろりとしています」


 リネットが言った。


 言い切り。

 説明としては完璧。


 だが、食堂は一瞬、静かになった。


「……今の」


 壁越し客が、箸を止める。


「質感の話です」


 リネットは即答した。


 即答なのに、

 余計に想像が進む。



 女将がフォローに入る。


「野菜を丁寧に煮込んでね」


「ええ、ふわっと仕上がってます」


 ……。


 誰かが、小さく息を吸った。


「二語、重ねたわね」


 女将が言う。


「え?」


「とろり+ふわは、

 今日は使わない方がいい」


 使うなと言われても、料理だ。



 俺は、黙ってスープをすくう。


 すくって


 口に運ぶ。


 ……確かに、とろりとしている。


 だが言わない。

 言うと増える。



 パンが運ばれる。


「焼き立てです」


 リネットが言う。


「表面はさく、中は」


 止まる。


 全員が止まる。


 言葉の続きを、

 全員が勝手に補完し始めている。


「……中は?」


 若い女性客が、無邪気に聞いた。


 罠だ。


「……やわらかい」


 リネットは、慎重に選んだ。


 それでも。


「……ふわ?」


 誰かが、足した。


 足すな。



 女将が黒板を出した。


 もう驚かない。


《本日使用注意 擬音語》

・とろり

・ふわ

・きゅっ

・さく

・じんわり


「料理用語よ」


 知ってる。


「でも、音は想像を呼ぶ」


 呼ぶな。



 事件は、布巾で起きた。


 リネットが、テーブルを拭く。


 きゅっ。


 乾いた音。


 それだけだ。


 それだけなのに。


「……今の音」


 中年客が言う。


「拭いただけです」


「きゅっって」


 擬音を繰り返すな。



 リネットは、もう一度拭く。


 きゅっ。


 女将が、即。


「はい、今日はそこまで」


「え?」


「二回目は意味が増える」


 意味を増やすな。



 団体客が入ってくる。


 会話量が増える。


 擬音も増える。


「このデザート、とろっとしてる」


「このクリーム、ふわふわ」


「布巾、きゅって鳴るね」


 ……もう、だめだ。


 音が、

 単語として独り歩きしている。



 女将が手を叩いた。


「はい、擬音語禁止!」


「禁止!?」


「今日は説明を名詞で」


 縛りプレイみたいに言うな。



 結果。


 全員、ぎこちなくなる。


「……このスープは」


 若い女性客が言葉を探す。


「……状態が」


「……良好です」


 逆に怪しい。



 食後。


 張り紙が増えていた。


『擬音語は健全ですが、使いすぎに注意』

追記

『※音は意味を持ちません』


 俺は思った。


(音が意味を持たないなら、

 最初から問題にするな)



 白百合亭は、今日も健全だ。


 とろりとしていただけ。

 ふわっとしていただけ。

 きゅっと鳴っただけ。


 ……それだけなのに、

 一番うるさかったのは、想像だった。


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